2-20:エンシェントドラゴンの入浴シーンを覗いてしまった件について
教授コメント
『朝風呂に興じるドラゴンの生態も面白いですが、おそらく傷を癒すために浸かっていたのでしょう』
周囲が仄かに明るくなっていく。
どうやら朝になったみたいだね。
「すー、すー」
ナディアの寝息が真横から聞こえる。
あの後も、ナディアは一緒に見張りをしてくれてた。
でも、疲れてたんだろうね、最終的には僕の肩に頭を預けて寝ちゃっていたんだ。
そんな寝顔をチラ見しながら夜を明かしたのは役得かもしれないね。
まあ、微動だにできなかったから体が凄く痛いんだけど。
主に腰が。
「いやー、しかし、平和な夜だったなあ」
ドラゴンが襲撃してくる気配もなかったし、これは案外許されたんじゃないかな?
「まあ、僕は許してないけどね」
だって、ナディアを傷つけられたわけだからね。
これは然るべき報復をするしかないでしょう。
え、昨日は自分のせいだって言ってたって?
……何のことでしょう?
「ん、んん……」
悩まし気な声が隣から聞こえてくる。
どうやらナディアが起きたみたいだね。
「おはよう、ナディア」
「……おはよう、セカイ」
ナディアは寝ぼけ眼を擦りながら僕を見つめる。
というか、起きるの早いね、ナディア。
「日向……」
「え?」
「日向に、行きたい」
「ああ、太陽からマナを取り込むんだったね」
「うん」
僕はナディアに肩を貸しながら立ち上がる。
うーん、木々が生い茂っていて木漏れ日くらいしか見当たらないね。
「ああ、そうだ。温泉の方に行こうか」
「温泉?」
「向こうに温泉が湧いてるんだ。そこなら、遮られてないと思うよ」
そうして、僕らは温泉の方へと向かう。
茂みをかき分け、湯煙が朝日に煌めく方へと歩いていけば、そこには……。
「あ、ドラゴン」
「……」
「……」
朝風呂に興じるエンシェントドラゴンの姿があった。
キョトンとした瞳で僕らを捉えるドラゴン。
いや、僕らもそうだけど、向こうもこんなところで出会うとは思ってなかったみたい。
「あー、えーと、お、おはようございます?」
「……」
「あ、朝風呂っていいですよね! 一日の始まりを爽やかにしてくれるというか、なんというか」
「……」
「えーと……」
ん、そう言えば、エルはこのドラゴンのことを彼女って言ってなかったっけ?
もしかして、これは女の子の入浴シーンを覗いてしまったラッキースケベ展開なのでは?
「あ、入浴の邪魔してごめんなさい。大丈夫、煙で大事なところは見えてないから」
ドラゴンの大事な所ってどこだろう?
逆鱗?
そんな僕らを見て、ドラゴンの瞳はいきなり赤黒く燃え始める。
あ、これはまずいんじゃないかな?
なんか、臨戦態勢を取ってる空気がひしひしと伝わってくるんだけど?
ドラゴンは温泉に沈めていた翼を大きく開き、咆哮する。
なるほど、まさに竜の逆鱗に触れたってことかな。
森中の大気が震えるその圧力に、僕はナディアの手を引き、一目散に来た道を戻る。
「逃げるよ、ナディア!」
「わ、分かった」
僕らが駆けだすと、後ろの方でドラゴンが温泉から上がる音が聞こえてくる。
これは、僕らを追いかけて来る気だね。
バキバキと木々をへし折る音が背後から迫る。
僕らの方が速いけど、火を噴かれたら一巻の終わりだね!
「アルメル、エル! 起きて、ドラゴンが来る!」
僕は二人に声をかけながらBlessed Breathを装着する。
「ナディアは二人を起こして町に逃げて」
「……セカイは?」
「僕はドラゴンを火山の方に誘導する。そこで時間を稼ぐから」
「無謀」
「大丈夫だよ。期を見て僕も逃げるから。だから、任せたよ!」
「せ、セカイ……!」
僕は迫るドラゴンの方へと走り出す。
「エディル、行くよ!」
『了解。バトルオペレーションサポートモードへ移行』
正面から戻ってくるとは思わなかったのか、ドラゴンは僕の登場に少し怯み、立ち止まる。
「全力で引き離す!」
『了解、音域、低。倍音成分、低。属性付与、土。クエイクインパクト、起動』
「飛んでけっ!」
“Quake Impact”
声が響き、震えた大地が隆起する。
それは巨大な手を形成し、ドラゴンを火山の方へと突き飛ばした。
「よしっ!」
木々をなぎ倒し離れていくドラゴンを追いかけ、僕は昨日戦った湿原へと出る。
ドラゴンは泥まみれになりながら立ち上がると、どこまでも深いそうに咆哮を轟かせる。
ああ、お風呂に入るほどの綺麗好きだもんね。
そりゃ、怒るよね。
「正面から戦ったら勝てないっぽいから、搦め手多めで行くよ!」
『了解』
それに応える様にドラゴンは咆哮する。
そうして、僕のドラゴンへの再戦が始まったのだった。
エディルメモ
『ドラゴンの喉元に一枚だけ逆さに生える鱗があり、その一枚を逆鱗といいます。逆鱗を触るとドラゴンは激昂し、触れた者を殺してしまうので、人を怒らせることを「逆鱗に触れる」と形容します』
今日の更新はこれでおしまいです。
また明日も二回更新したいと思っているので、よろしくお願いします。




