2-16:絶唱、エンシェントドラゴン戦が激闘な件について
教授コメント
『魔法の制御までこなす人工知能とは、園崎博士の技術力に脱帽と言ったところですね』
ドラゴンは大きな翼を威嚇するように広げた。
そして、次の瞬間、大きく息を吸い込んだかと思えば火球を吐きだしてきた。
「散開するよ!」
僕はそう叫んで横っ飛びに火球を回避する。
地面を削りながら進む火球の跡には水分を失った乾いた地面が現れていた。
え、一瞬で蒸発したの?
もしかして、かすりでもしたら僕の身体も蒸発しちゃうの?
「まずいな」
エルが依然として落ち着いた様子で呟く。
うん、まずいのは肌で感じてるよ。
「あのエンシェントドラゴン、正気を失っているみたいだ」
「なんだって?」
「おかしいとは思っていたんだ。エンシェントドラゴンは調和を守る存在。こんなところで暴れるような性格ではないはずなんだ」
確かに見た目はどちらかというと争いを好まなさそうな高貴さがある。
けど、その中である部分だけはまるで異物の様に浮いた印象を僕に与える。
それは目。
赤黒く炎の様に燃える瞳は明らかに異質であった。
まるで、誰かに火を付けられたみたいな外付けの印象を受けた。
「じゃあ、操られてるってこと?」
「そうとは言い切れないが、少なくとも彼女の意志で暴れているわけではないみたいだ」
そうなると、あのドラゴンも被害者って言う事か。
助けたい、なんて余裕はないけど、できることなら殺さずに無力化したいね。
再び、ドラゴンは息を吸い込み、僕に向けてブレスを放つ。
まあ、僕が殺されなければの話だけどね!
「エディル、相殺させるよ!」
『了解。音域、中。倍音成分、低。属性付与、水。アクアブレス、起動』
“Aqua Breath”
声が響くとそこから水流が発生する。
それが、ドラゴンが放射状に吐きだした炎とぶつかり合う。
普通に考えたら僕の魔法がドラゴンのブレスと拮抗するはずはない。
けれど、未来さんが作ってくれたこの“Blessed Breath”の補助によって数倍にも威力が跳ね上がった僕の魔法は、なんとか打ち消し合う程度にはなっていた。
「よしっ!」
「す、すごいわ、セカイ!」
アルメルが僕を褒めてくれる。
いやあ、なんだか身に覚えのない力だけど、褒められるとやっぱり嬉しいものだね。
「油断はしない方が良いぞ」
「え?」
エルはいきなり僕を抱きかかえると飛び上がる。
そして次の瞬間、僕が立ってた場所から火柱が上がった。
「……は?」
「エンシェントドラゴンも魔法を使える。気を張っていないと危ないぞ」
「はい、気を付けます」
慢心駄目絶対。
着地すると、エルは僕を下ろす。
そうか、魔法って遠隔で発動でいるんだね。
気を付けなきゃ。
「こっちで気を引くわ。その間に、セカイはドラゴンを攻撃して!」
そう言ってアルメルはドラゴンの側面に回り込みながら弓を引き絞る。
「はぁっ!」
放たれた矢は鋭い軌道でドラゴンの喉元に迫る。
しかし、確かに捉えたはずの喉元はドラゴンの強固な鱗によって弾かれてしまう。
ドラゴンは矢の飛んできた方に視線を向ける。
アルメルは間髪入れず、2射目を放ち、ドラゴンの意識を釘付けにさせる。
「こっちよ!」
弾かれた矢が地面に刺さる。
ダメージはないんだろうけど、ドラゴンはアルメルの誘いに乗り、身体をアルメルの方に向けた。
「今だね!」
『音域、高。倍音成分、高。属性付与、水。アクアスピアーズ、起動』
“Aqua Spears”
鋭い水流が生まれ、槍の様に真っ直ぐドラゴンを穿とうと迫る。
しかし、それにドラゴンが気づくと、姿勢を低くし、ギリギリのところで直撃を避けられた。
水流はかすった首筋の鱗を削り、いくらか血を飛び散らせた。
その痛みにドラゴンが甲高い咆哮を響かせた。
「くっ、避けられた!」
ダメージは与えたけど、あんなに声を上げられるということはまだまだ元気だという証拠だ。
致命傷なら逃げてくれたかもしれないけど、こんな中途半端な傷なら怒らせるだけだ。
ドラゴンは怒りに任せて僕の方に突進してくる。
いや、脚速いね!
その巨体で迫られると、成す術がないんだけど。
「もう一度だ!」
『了解。アクアスピアーズ、起動』
“Aqua Spears”
そうして放たれた魔法を、ドラゴンはその巨体に似合わない機敏なステップで回避する。
「わおっ! 凄いね!」
「感心してる場合じゃないでしょ!」
アルメルに叱られる。
そうだね。
そんな暇はないよね!
「エディル!」
『アクアブレス、起動』
「押し返す!」
“Aqua Breath”
密度の高い水流がドラゴンの行く手を阻む。
しかし、それをドラゴンは広げた翼で打ち払った。
翼に触れたアクアブレスは瞬間、蒸発していく。
ん、あの翼、さっきまで白かったのに、今は真っ赤になってない?
『熱輻射による赤化を検出。推定温度、1500℃』
「1500⁉」
……と言われてもピンとこないけど、とりあえず水も僕も当たったらただじゃ済まないってことだけは分かったよ。
水の壁を突破し、ドラゴンが眼前に迫る。
翼を思い切り振りかぶり、ドラゴンは横に薙ぎ払ってきた。
しゃがむだけじゃ、熱でやられる。
受け止められる物は持ってない。
なら、やっぱり真っ向勝負しかない!
「肺活量全開だ!」
『音域、低。倍音成分、高。属性付与、水。アイスレガシー、起動』
“Ice Legacy”
迫る翼の正面に巨大な氷塊が出現する。
高密度の氷の塊は金属の如き硬度でドラゴンの前に立ちはだかる。
それは、翼に触れた瞬間、融解していくが、僕が声を出し続ける限り、再び凍り、その侵攻を阻み続ける。
溶けては凍り、溶けては凍る。
それは確かに永遠に続きそうなせめぎ合いにも見えたが、限界は近かった。
なんたって僕の肺活量に依存するんだからね。
確かに僕は週一回、一人でカラオケのフリータイムを歌いきる人間だ。
しかし、ドラゴンと力比べができるほどのロングトーンはしたことはこれまでのヒトカラ人生の中でもさすがにしたことがない。
だから、今、眩暈がしそうな程、辛いのは仕方ないのです。
「あ、無理」
「セカイっ!」
息切れと共に目の前の氷塊が砕け散る。
そうして眼前に広がった光景は、真っ赤に染まったドラゴンの翼と、庇う様に躍り出てきたナディアの背中だった。
エディルメモ
『Blessed Breathとの接続の際、ドライバーをインストールし使用可能な魔法一覧を取得しました』
戦闘シーンです。
気に入ってもらえると嬉しいです。




