1-2:エルフの少女は小さい(ダブルミーニング)件について
教授コメント
『具体的な胸囲の数値がなく、また統計的な議論がなされていないので他のエルフの脅威も図ったグラフを追加してください』
異世界特区の第一村人が僕を指さし、『異世界人』だといい放つ。
「よかった。会えなかったらどうしようかと思ってたのよ」
「あ、そうなんだ」
やっぱり彼女は僕を探していたらしい。
だがしかし、待ってほしい。
果たして彼女の会いたがっていた人物は本当に僕だろうか?
なぜなら僕は断じて異世界人ではないからだ。
正真正銘、純粋な日本国籍を持つ、ハーフとかクオーターでもない、純血の日本男児なのだから!
「僕は異世界人じゃないよ。どっちかって言うと、異世界人はそっちじゃないの?」
「何言ってるのよ。ここは貴方たちの世界なんでしょ? だったら世界規模なのはそっちなんだから異『世界』人は貴方の方じゃない」
「……確かにそうかもしれない」
異世界特区とは言っても世界としては僕らの方が優位だもんね。
「そう考えたら異世界人はこっちだね」
「でしょ?」
あっさり論破されてしまった。
そうか、僕は異世界人だったのか。
「だとしたら、こっちはどういえばいいの? 一応、僕らは異世界特区って呼んでるけど」
「ええと、異なる場所だから、異場所ね!」
「なんだかしっくりくる語感だね」
同音の異義語があるとても言いやすいね。
「そうでしょ、そうでしょ」
僕が肯定すると、彼女は小さい体を大きく逸らして嬉しそうに胸を張る。
うん、小さいね(ダブルミーニング)。
彼女は背も低ければ胸も小さい。
手足も細く、すらりとしたシルエットを持つ。
金色の長い髪を胸の方に垂らし、整った顔立ちにぱっちりとした目で僕を見つめる。
突起と言う突起のない流線型の体に一つだけ飛び出た箇所があるとすれば、それは耳だけだ。
「君は……あっ、先に名乗っておくね。俺の名前は愛沢瀬海。異世界からこの異場所にやってきた異世界人だよ」
「アイザワセカイね。分かったわ。長い名前なのね」
「ああ、瀬海って呼んでくれていいよ」
「え?」
そう言うと彼女は不思議そうに首を傾げる。
あれ、やっぱり馴れ馴れしかったかな?
初対面の女の子に名前で呼んでもらおうなんておこがましいかな?
「アイザワセカイが名前じゃないの?」
「ん? そうだよ?」
「じゃあ、省略しちゃうのは失礼じゃない」
「いや、別に省略しているわけじゃ……」
何だか話が噛み合わない。
名前に対する認識のズレがあるのかな?
「あ、もしかして、ここだと個人の名前と家族の名前で分かれてないのかな?」
「名前が二つもあるの? 変なの」
どうやら異世界ではファーストネームしか持たないみたいだ。
「私はアルメルよ。ええと、エルフって言って貴方たちに伝わるのかしら」
「うん。伝わるよ」
「そうなの?」
やっぱりそのとんがった耳はファンタジーの代表的な種族、エルフの特徴だったんだね。
そう言われると見に纏うワンピースのような服もエルフの衣装っぽく見えてくるね。
「よろしく、アルメル」
「ええ。よろしく、異世界のセカイ」
「なんか、それ語呂がいいね」
「そうね。とっても言いやすいわ」
はにかんだ笑顔を浮かべる。
控えめに言って美少女であるアルメルの笑顔はとても眩しかった。
生まれてからこれまで、違う次元にしか彼女がいなかった僕には堪える眩しさだよ。
次来るときはサングラスが必要かもね。
そんな風に話しているとふと疑問が湧いてくる。
「というか、言葉が通じることに今更驚いてるんだけど」
「? 言葉は通じるものよ?」
「いや、そうじゃなくてね。同じ言語を使ってるってところが……」
「言語?」
アルメルは首を傾げる。
ひょっとして、同じ言語を使っているわけじゃないのかな?
都合よく聞こえてるだけで、アルメルは日本語を話しているという自覚はないのかも?
それがエルフの特徴なのか、この世界の特徴なのかは分からないけど、おそらく意思伝達が相手に依存して変化しているんだろうね。
一種の翻訳機のような効果がエルフか世界かに備わっているんだろうけど……。
「考えても仕方ないね」
「よく分からないけど、伝わってるならそれでいいじゃない」
「一理、いや、十理くらいあるね」
俺文系だし、その辺の理論分かんないし。
そう言うのは他の偉い人がやってくるだろう。
他力本願でいいじゃない。
人間だもの。
「そう言えば、アルメルは僕を探しているみたいだったけど、なにか用なのかな?」
「そうよ。エルフの代表として異世界人を案内する役になったの」
「え、そうなの? それはあり難いね」
「そう? えっへん。感謝してよね」
胸を張るのはアルメルの癖なのか?
「それで、この時間に来るって聞いたから迎えに行こうと思ったんだけど……」
「だいぶ門から遠くにいたよね」
「うっ。そ、その……道に迷っちゃって、異世界の門がどこにあるか分からなくなっちゃって」
「一本道だったと思うんだけど?」
まっすぐ歩いてたら会えたんだから迷う場所ないよね?
「違うの! エルフがエルフの森で迷うはずないじゃない? でも、急いでたし、異世界人の案内なんて大役任されたら緊張しちゃうじゃない? だから、森から出る場所を間違えちゃって、もうなんだかよく分からなくなって、で、でも、結局会えたからいいじゃない!」
「怒られた⁉」
なんて情緒の不安定な子なんだ。
というか、道の右側に見えてた森ってエルフの森だったんだね。
背の高い木が多くて、木漏れ日なんかが差してるとなんだか神聖な感じで近寄り難いなって思ってたんだよ。
「まあ、そういうわけだから。大船に乗ったつもりで任せてもらっていいわよ」
「大船がタイタニックじゃなきゃいいけどなあ」
「なにそれ?」
「豪華客船の名前だよ」
沈没するけど。
「豪華客船って、そんな大げさよ」
「といいつつ満更でもなさそうな笑顔だね」
「ええ、任せて! セカイをタイタニックに乗せてあげるわ!」
「遠慮したいなあ」
ノリノリだから水は差さないけどさ。
タイタニックだけに……タイタニックだけに!
教授コメントはこのレポートを読んだ教授の指摘だと思ってください。
読んでくださりありがとうございます。
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