2-10:どうやら異世界特区の通行証が万能らしい件について
教授コメント
『異世界特区の通行証は人間の町であればどこでも入れるようになっています。ですが、亜人の中には人間を嫌う種族も居るので気を付けてください』
森を抜けると開けた視界に青々とした畑が広がっていた。
そうか、フェルランは農業が盛んなんだったね。
「これは、小麦?」
「大麦」
「あ、そうなんだ」
「小麦は冬。今は春に撒いた大麦」
「へー」
あ、学校で習った気がするね。
三圃式だったかな?
「ナディアは物知りだね」
「そんなことない」
「わ、私だって知ってたわよ?」
「うん、アルメルも物知りだね」
褒めて欲しそうにアルメルも張り合う。
要求通り褒めたら満足そうにアルメルは胸を張った。
うーん、なだらか。
「門が見えるな。あそこから入るのだろうか」
「そ、そうです」
ナディアはぎこちなく答える。
憧れも相まってユニコーンの隣は緊張するみたいだね。
そうして門までやってくると、甲冑に身を包み、槍を持った門番がこちらに近づいて来た。
「おや、旅人さんですか?」
「あ、はいそうです」
「では、通行証を拝見します」
通行証?
町に入るにはそういうものが必要なのか。
「ええと、通行証……」
アルメルやナディアに視線を向けるも、首を振られる。
どうやら持ってないみたいだ。
「通行証を持っていない?」
「ああ、いや、そ、そんなわけないじゃないですかー」
疑うような目で僕を見てくる門番。
だって、異世界で通行証が必要だなんて知らなかったから用意なんてできないよね?
ううむ、でも、何か出さないと面倒なことになりそうだし……。
あ、そう言えば一つだけそれっぽいのがあるね。
「ええと、こ、これでどうですか⁉」
「これは?」
異世界特区に入るための通行証だけど、これしか持ってないんです!
門番はまじまじと表紙を眺め、中身を確認していく。
「こ、これは、イルド国王直筆の通行証⁉」
「イルド?」
「人間の国の王の名前」
「へー、そうなんだ」
イルド国王が異世界特区の通行証にサインしてるってことは、ここの代表を名乗っているのもイルド国王なんだろうね。
「こ、これをどうして貴方が持っているんですか?」
「ええと、僕は壁の向こうにある異世界から来たんですよ」
「異世界⁉」
兜から覗く目が見開いていた。
すごく驚いてるみたいだね。
「しょ、少々お待ちを!」
そう言って門番さんはガシャガシャと鎧を鳴らしながらどこかへ走っていく。
その騒がしさに町の人達の視線がどんどん僕らに集めってきていた。
「うっ。こういう視線、私、苦手なのよね」
「そうなの? まあ、僕も得意な方ではないけど」
アルメルは服の裾を握りながら僕の背中に隠れる。
あからさまな奇異の視線。
うーん、そんなに可笑しな集団かな?
余所から見るとエルフの少女にダークエルフの奴隷に白銀の髪の麗人。
そして、三人の女を引き連れてきた見慣れない衣装に身を包んだ男。
あ、駄目だ。
どう考えても僕が凄く奇妙な存在しか見えないね。
「あ、帰って来た」
「お、お待たせしました」
息を切らして戻ってきた門番さんは僕に通行証を返してくれる。
「ア、アルヴェル様がぜひともお会いしたいと申しております」
「アルヴェル様?」
「この町を治めておられる方です。町の中心にある屋敷に居られますので、どうかお尋ねください」
「分かりました」
そもそも長らしい人には挨拶しようと思ってたし、手間が省けて良かったね。
そうして僕らはフェルランの町にやって来た。
フェルランは農業が盛んでだということもあってか、町全体が穏やかな空気に包まれていた。
商店が立ち並ぶ大通りなんかでは新鮮な果物や、美味しそうなパンが売られたりしていて、見てるだけでお腹が空いて来る。
「あれはなんだろう」
「あれはデポル大聖堂……です」
ユニコーンが指を刺したのは黒い石材で作られた大きな建物であった。
大聖堂というと、ここを訪ねればこの世界の人間の宗教が分かるってことだね。
後で訪ねてみよう。
「しかし、よく見るとこの町の建物って全体的に黒いね」
「火山から切り出した建材を使ってるから」
「あ、なるほど。そう言えば、近くに火山があったんだよね」
そこから石を持ってきて使っているから黒いんだ。
なるほど、それはちょっと面白いね。
「着いたみたいよ」
「ほんとだ」
アルメルは正面の大きな屋敷を指さす。
お城みたいに大きな家だね。
塀に囲まれた屋敷の正面玄関にはさっきみたいな門番が二人立っている。
「貴方たちが異世界人一行でしょうか」
「あ、はい。アルヴェルさんに挨拶しに来たんですけど」
「ええ。どうぞこちらへ」
そう言って門番は僕らを屋敷に招き入れる。
しかし、僕とユニコーンが入ったところで、アルメルとナディアに待ったをかけた。
「奴隷はここで待っていろ」
「は、はあ⁉」
「あ、待ってください、二人は奴隷じゃないんです」
「そうなのですか? ですが、こっちのダークエルフは明らかに……」
門番はナディアの首輪を見てそう言う。
そこを突かれると否定しにくいんだけどね。
「いや、これは……そう! 趣味です!」
「そう言われましても、例え奴隷ではないとしても奴隷の格好をした者をアルヴェル様の屋敷に入れるわけにはいかないのです」
うーん、ド正論。
「別に構わない」
「ナディア……」
「私はここで待ってる」
そうは言っても、僕が嫌なんだよね。
一人だけ待遇が違うとか、格差があるとか、そう息苦しさを感じて欲しくないし、なによりそれをナディアに良しと思ってほしくないんだよね。
「よし、分かった!」
そして、僕は一つの結論に達する。
「僕も一緒に残るよ!」
「え?」
「僕とナディアが残って、二人が挨拶してきてよ」
「え、で、でも、セカイ……」
「いいからいいから。問題ないよね、門番さん?」
「あ、はあ。まあ、問題はないですけど、しかし」
「じゃあ、いってらっしゃい!」
そうして僕は押し切ると、腑に落ちない様子で皆屋敷に入っていく。
そうして残った僕をナディアは不思議そうに見つめてくる。
「どうして」
「だって、寂しいでしょ?」
「そんなことはない」
「でも、僕は寂しいよ」
ナディアは首を傾げる。
「だって、ナディアが一人でも平気そうな顔をするんだもん」
「関係ない」
「関係あるよ。だって、折角出会ったのに、ナディアの心に僕がいないんだもん」
「心に……」
「だから、僕は一緒にいたい」
ナディアの瞳を見つめる。
そこには確かに僕が映っているのに、意識されていないなんて悲しいじゃないか。
「ナディアが寂しがってくれるまで、一緒にいたいと思ったんだ」
「……」
ナディアは黙り込んでしまう。
もしかして、今の僕気持ち悪かった?
あ、気持ち悪かったかも。
何が心に僕がいないだよ。
自意識過剰にも程があるんじゃないの⁉
は、恥ずかしい!
そんな風に顔を両手で覆っていると、いきなり横から声が聞こえてきた。
「いや、あのさ」
「うわっ!」
屋敷の扉を少し開けて、着飾った男性が僕らに声をかけてくる。
び、びっくりした。
「あ、貴方は?」
「私はアルヴェル。この町を統治してる者だよ」
「ああ、どうも。あれ? 二人が挨拶に行ったと思うんですけど」
「いや、だってさ」
アルヴェルさんはなんだか呆れ顔で僕を見つめる。
「君が来ないと呼んだ意味なくない?」
「……確かに」
異世界人の訪問に期待していたら異世界人抜きで挨拶される。
そりゃ、呆れ顔にもなるよね。
「もう奴隷も一緒でいいから入ってきてくれる」
「はい」
そうして図らずも皆一緒に屋敷に入ることができたのであった。
エディルメモ
『三圃式では冬殻に小麦やライ麦、夏殻に大麦や豆、そして、休耕地と、農地を三つに区分し、ローテーションすることで農地の地力の低下を防ぐ農耕手法です』
今日の本編の更新はここまでです!
明日は三回更新する予定なのです!
あと、21時に人物紹介を更新します。
メインパーティのみになりますが、そちらもよろしくです!




