2-8:ダークエルフの少女の価値観が歪みすぎてる件について
教授コメント
『種族が違えば価値観も違います。それを記録するのが君の仕事であり、否定することではないということを肝に銘じておきましょう』
揺れるユニコーンの背で僕は声を上げた。
「あ、何か見えてきたよ」
平原ばかりが広がっていた景色の向こうに木々が見えてくる。
あれがナディアの言っていたフェルラン近くの森なのかな?
『森についたみたいだ』
ユニコーンは森の近くで立ち止まり、しゃがんでくれる。
降りる時、少しナディアが名残惜しそうにしていたのは内緒。
「ここが、ナディアの住んでる森なんだね」
「そう」
エルフの森とは違って入り難い雰囲気はないんだね。
鬱蒼と茂ってるわけでもないし、どこにでもあるような森に見えるなあ。
「ここにダークエルフの集落があるの?」
「集落?」
「え?」
なぜかナディアは首を傾げる。
住んでるんじゃないの?
「私たちは留まらない。一時的に休息してただけ」
「あ、そうなんだ」
ロマみたいな感じかな?
ロマっていうのは昔ヨーロッパに居た移動型の民族で各地を転々としながら生活していたんだって。
「私たちが留まると、大地が穢れる」
「……そっかー」
否定したい感情はあるんだけど、実際どうかっていうのを僕は知らないからね。
森の穢れを一身に受けた種族だから、在り得る話なのかもしれない。
「あ、でも、休息してたならまだ他のダークエルフは残ってるよね」
「おそらく」
「じゃあ、その人たちにナディアの無事を早く見せて上げないとね」
「そうね。商人さらわれて奴隷にされてたなんて、みんな心配してるに決まってるわ」
「そう」
僕とアルメルの使命感とは対照的にナディアはなんだかどうでも良さそう。
え、なんで?
「行こう」
「あ、ちょっと待ってよ、ナディア!」
ナディアが一人で先に行こうとするので、僕はその手を掴んだ。
「……なに」
「いや、森に入る時は手を繋がないと」
「な、なんで?」
「え? だって、勝手に入ったら射殺されちゃうでしょ?」
ナディアがさらわれてさらに警戒してるだろうしね。
だから、こうしてナディアと手を繋ぐことで無害をアピールしなくちゃ。
「そ、そう」
ナディアは僕の言葉に納得してくれたんだろう。
握り返してはくれないけど、振りほどこうともしなかった。
ん、ダークエルフは汗っかきなのかな?
凄い手汗だね。
「早く行く」
「あ、うん。アルメルも繋ぐ?」
「セカイと繋いでも意味ないじゃない」
そんなこと言いつつもアルメルは僕の手を握る。
ツンデレなのかな?
『楽しそうで羨ましいな』
あ、ごめんね。
ユニコーンだけ仲間外れみたいになっちゃってるね。
『気にすることはない。私と君は心がつながっているだろう』
なんだかカッコいいことを言われた。
惚れちゃいそうだね。
「この先に、家がある」
ナディアが茂みをかき分ける。
そうして、視界が開けると、そこには木々がなぎ倒され、荒れた光景が広がっていた。
「な、なかなか開放的なお家だね」
「違う。これ、荒らされてる」
「え、荒らされてる?」
よく見ると、至る所に家にしていたのだろう木製の骨組みや引き裂かれた布が散らばっていた。
移動民族だから、拠点はテントみたいなものだったんだろう。
それが、辺りの木々ごとなぎ倒されている。
人間の仕業って規模でもないよね……。
「け、怪我してる人がいないか、私探してくるわ!」
「あ、僕も探すよ」
アルメルが走り出すので、僕も後を追う。
ナディアも無言で頷きながら周辺を見て回っていた。
それにしても酷い光景だ。
台風なんかが通りすぎた後みたいな荒れ方だよ。
所々に焦げているところがあったりして、その凄惨さが分かる。
「ん? 焦げてる?」
なぎ倒された木々の根元になにやら焼き切られたような跡が残っている。
燃えたというよりは、高温の何かで斬られたというのが正しい気がする。
「セカイ、こっちには誰もいなかったわ」
「こっちも見つからなかったよ。皆、無事に逃げれたのかもしれないね」
「よかったわね、ナディア」
「よかった?」
「だって、怪我した人はいなかったのよ? 喜ぶところじゃない」
アルメルが笑顔で言うも、ナディアは表情を変えない。
「別に喜ぶことじゃない」
「そうだよ、アルメル。見つからなかっただけで、逃げた人の中にはいるかもしれないよ?」
「あっ、そ、そうよね」
アルメルは自分の早合点を反省する。
「違う」
けど、ナディアはそんな僕らを否定する。
「怪我しても、死んでも、私には関係ない」
「え?」
「ダークエルフはいつも一人。木々の声も聞こえない。精霊も語りかけない。孤独が私たちで、いつか一人で消えていくのに、喪失に意味はない」
「それが、ダークエルフの価値観なのかな?」
「そう」
自虐的というか、自暴自棄というか……。
僕はナディアのことを達観した、大人びた性格だと思ってたけど、ちょっと違うみたいだ。
どうせ最後には消えてなくなるんだから、自分の身に何が起ころうとも取り立てて騒ぐことではないという気持ちで世界を見ていたんだろう。
だから、自分が奴隷になった時も、僕に買われた時も、最期を左右するものではない。
そういう風にして、ナディアは心を空っぽにしてこれまで生きてきたのだろう。
そう思うと僕は少し寂しかった。
エディルメモ
『ヨーロッパにおける移動型民族は国の政策によって定住化を謀られ数を減らし、消えてしまったそうです』
今日の本編更新はこれでおしまいです!
少なくて申し訳ないです……。
次の更新では要旨を上げたいと思います。




