表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/69

2-6:ダークエルフの少女がユニコーンに乗りたがらない件について

教授コメント

『私でも君の手を取るのは躊躇われます』


「奴隷に服を着せたいなんて、お兄さんも好きものですねぇ」


 そんなことを言いつつ商人はにこやかな笑みを浮かべながら去っていく。


 結局、鞍は売っていなかった。

 まあ、行商人が鞍を扱っても普通は売れないよね。

 裸馬で町を出る酔狂な人はいないだろうし。


 そんなわけで僕が買ったものは神話の本とこの世界の地図。


「ええと……」

「……」


 そして、奴隷の少女だけだった。


 黒い肌にショートカットの白い髪。

 背は僕よりも低いけど、アルメルよりは高い。

 さすがに可愛い洋服なんかは扱っていなかったよ。 

 だから、着ているのは奴隷用の一枚布で作られた安っぽいワンピースだ。


 奴隷用の服あるんじゃん! って思ったけど、商人が言いたいのは人扱いすることに対して、『好きもの』だと言ったんだろう。


「貴方が、私のご主人様」

「え?」


 ダークエルフの少女の瞳に射抜かれ、僕は動揺する。

 いや、可愛い女の子にご主人様って呼ばれるのは気恥ずかしさがあるね。


「ご主人様呼びはちょっと……」

「奴隷として私を買った。なら、貴方はご主人様」

「いや、奴隷として買ったわけじゃないんだけど」


 首に嵌められた金属の首輪が痛々しい。

 なんか、魔法によって嵌められてるらしくて商人や僕らじゃ外せないらしい。


「? 娼婦?」

「いやいやいや、それじゃあ奴隷と変わらないじゃないか」

「? 奴隷と娼婦は違う」


 え、あ、そうなの?

 僕の中での偏った知識だとてっきりそういうものだとばかり思ってたよ。


「望むなら、する」

「え、ほんと?」

「セカイっ⁉」


 あ、嘘々。

 ちょっといいなって思ったけど、そんなの卑怯だよね。


「と、とにかく、僕は何かを君に要求したくて買ったんじゃないんだ」

「それはおかしい。利がない」

「いや、確かに可笑しいのかもしれないけど、僕は君が奴隷にされているのを見過ごせなかっただけなんだ。だから、僕の自己満足が利益になるのかな」

「共感はできない。けど、理解はした」


 よかった。

 さすがに異世界特区とは言え、僕が奴隷を買ったとなれば人権団体が黙ってないからね。


「よいしょっと」


 僕は地面に置いていた鞄を背負う。


「ご主人様」

「うふっ」


 あまりの気恥ずかしさに僕は思わず笑ってしまう。

 それを少女は不思議そうな顔で見つめてくる。


「えっと、その呼び方はやめて欲しいな」

「どう呼べばいい?」


 そういえば、自己紹介してなかったね。


「僕の名前は愛沢瀬海。セカイって呼んでくれればいいよ」

「セカイ……。分かった」


 少し首を傾げるも、少女は頷いてくれる。


「私はアルメルよ。よろしくね」

「エルフの奴隷もいるのか」

「奴隷じゃないわよ!」


 また奴隷扱いされてアルメルはお怒りだね。


「私はナディア」

「ナディアだね。うん、よろしく、ナディア」

「よろしく」


 ナディアは僕が差し出した手に応じて握手をしてくれる。

 ん、アルメルと違って指は冷たくないんだね。


「セカイは旅をしている?」

「うん。まだ始まったばかりだけどね」

「セカイは異世界人なのよ」

「異世界人?」


 アルメルの言葉にナディアは首を傾げた。


「そうよ。それで、こっちの世界の調査を任されてここに来てるのよ」

「噂は聞いたことがある。異世界人……本当だったのか」

「まあ、実際に見ないと信じられないよね」


 僕だって初日は異世界を信じてなかったし。


「それで、この世界に住んでる亜人に関する情報を探してたんだけど……」

「亜人……私のこと」

「図らずも見つかったんだよね」


 まさかこんなに早く新しい種族に出会えるなんて思ってなかったけど、幸先いいね。

 出会い方はあまり幸があるとは思わないけど。


「よかったら、ダークエルフのことが知りたいんだけど、どこに住んでたの?」

「フェルラン近くの森。そこで、あの男に捕まった」

「あ、そうだったんだ」

「私たち、元々フェルランに向かってたのよ」

「そう」


 なんだか関心なさ気なナディア。

 まあ、僕らの行き先なんて興味ないよね。


「よし、じゃあ、目的地をナディアの森に変更だ!」

「どうして?」

「そりゃ、ナディアを家に送り届けるためだよ」


 そう言うも、ナディアは納得いかなさそうに首を傾げた。


「送り届ける? 私はもう貴方の所有物」

「いやいやいや、だからそう言うつもりはないんだって」

「……与えられるだけは、困る」


 こ、困られちゃった。


「あ、だったら案内してくれないかな?」

「案内?」

「ほら、僕らフェルランに行こうとしてたでしょ? でも、道が分からないんだよ」


 地図を買ったはいいけど、現在地が分からないから役に立ちそうもないんだよね。


「分かった」

「ありがとう、フェルラン」


 いやあ、よかった。

 実際、食料との兼ね合いで迷子は心配だったんだよね。


「出発する?」

「あ、ちょっと待って。もう一人、いや、もう一頭仲間がいるから」

「一頭?」


 ナディアが首を傾げていると、出番を察したユニコーンが茂みからさっそうと現れた。


『呼んだかな』

「うん、呼んだとも。紹介するよ、ナディア。僕のもう一頭の仲間、ユニコーンだよ」

「幻獣、ユニコーン……」


 あれ、あんまり驚いてないのかな。


 ナディアはじっと見つめるだけで、特別騒いだりはしなかった。

 アルメルとは正反対だね。


「な、なによ、セカイ。そんなに見つめられたら照れるじゃない」

「うん、可愛いね」

「な、なんか投げやりじゃない?」

「そんなことないと思うけど」


 言い慣れてきた感じはするね。


「それじゃあ、出発しようか」


 僕とアルメルは荷物を持ってユニコーンの背にまたがる。

 そして、僕がナディアの方にも手を伸ばすも、どうしてかナディアはその手を取ってくれない。

 え、なんで?


「もしかして僕の手、汚い?」

「違う」


 否定はしてくれたんだけど、ナディアは一向に僕の手を取る気配がなかった。


 あ、やっぱり汚いんだね、これは。

 アルコールティッシュ持ってきててよかったよ。


「よし、拭いた。これでいいよね?」

「良くない」

「ええっ⁉ 除菌率99%だよ⁉」

「関係ない」


 ナディアは首を振り、伏し目がちに口を開いた。


「神聖な幻獣の背に、穢れた私は乗れない」


 それはダークエルフの特徴を端的に語る言葉であった。


エディルメモ

『除菌率100%表記ができない理由は「家庭用合成洗剤・石けんの表示に関する公正競争規約」にて禁じられているからです』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ