1-1:隣町が異世界になった件について
教授コメント
『理論的な説明が欠如しているので参考論文を探してください』
ある日、隣町が異世界になった。
何を言ってるか分からないと思うけど僕にも分からなかった。
頭がどうにかなりそうだっていうのは、僕が朝に弱いって言うのが理由だと思う。
低血圧なんだよね。
まあ、確かになんだか外が騒がしいなとは思ったんだけど、まさか異世界が召喚されてたなんてね。
だって、道路工事とかあるじゃない?
ガガガガガって重機がうるさい朝ってあるじゃない?
だから、その日も『ああ、公共事業お疲れ様です』って思ってたんだけどなんか違ったみたいで、カーテンを開けたら空をドラゴンが飛んでいたわけなんですよ。
わー、すごーいって小学生並みの感想を思わず呟いちゃったよ。
不肖愛沢瀬海、今年で大学4回生になりました。
まあ、寝ぼけてたから仕方ない仕方ない。
でも、普通そんなの見たら驚きのあまり卒倒しちゃうよね。
実際、家の前では近所のおっちゃんが泡吹いて倒れてたらしいし、アパートの隣に住む子供は異世界だ異世界だってはしゃいでたみたいだしね。
でも、その時の僕は
『いやいや、そんなわけないでしょ。異世界なんてあり得ないよ』
って二度寝しちゃいました。
だって、その日は午前の講義がなかったから起きる理由もなかったからね。
それからなんやかんやとあって、政府が隣町を囲むように壁を作り始めたんだ。
あれだよ、巨人の進撃を阻むような大きな壁だったよ。
こんどこそ公共事業お疲れ様って感じだね。
そのおかげで日当りのよかったはずの僕の部屋に朝陽が差し込まなくなったんだよね。
いや、違法建築じゃないの?
どこに訴えたらいいんだろう。
国?
それとも異世界?
そんな洗濯物が乾きにくい日々を送っていたらニュースで僕の町が映っていたんだ。
おー、近所だーって思ってたら隣町には本当に異世界が召喚されてたんだってさ。
魔法とか魔物とかが存在するファンタジックな世界が異世界の住人ごと隣町に引っ越してきたってわけだ。
すごいね、心が躍るね!
それで、そこの代表者と政府の人たちが話し合って色々と取り決めをしたみたい。
詳しいことは知らないけど、一応日本にその異世界は帰属することになったらしい。
そこで隣町の異世界に付けられた新たな名称が『異世界特区』であった。
けれど、一般人には関わり合いのない場所なんだよね。
関係者以外は立ち入り禁止。
そりゃそうだよ。
安全面とかを考慮したら一般人なんて入れない方が良いに決まってるよね。
川を挟んで隣の異世界。
橋を渡ればファンタジー。
なんだか近所が面倒なことになってしまったなあと思いつつも、僕の意識はどちらかと言うと不足している大学の単位の方に向いていた。
卒論もまだ手つかずだからね……。
テーマ何にしようか……。
どうしたものかととりあえず大学に行くと、何故か教授に呼び出される。
「なんでしょうか」
何か怒られることをしたかな?
あ、まさか読んでもいない論文を参考文献に載せたのばれたのかな?
「君、ちょっと異世界行って来て」
「は?」
そんなお使い行ってきてみたいに言われても。
確かに隣町だけど、コー○ンに養生テープ買いに行くのとはわけが違うんですよ?
「いや、関係者じゃないと入れませんよね」
「それがうちの大学に政府から要請があってね。異世界特区の調査団に学生を出せって言われてね。君、ファンタジー小説とか好きでしょ?」
「まあ、多少は」
「じゃ、行って来て。はい。これ通行証ね」
「え」
「卒論は免除してあげるから」
「よっしゃ」
そうして僕は一般人から関係者に格上げ……上がったのかは疑問だけど、まあ、異世界特区に入れるようになってしまったのだ。
とりあえず調査団に連絡を取ってみたら僕のやることは異世界の住人との交流なんだってさ。
え、それだけ?
なんて簡単に思ったけど、交流して各種族の特徴をレポートにまとめるのが目的みたいだ。
なるほど異種族との交流を円滑にするためにはまず第一に情報というわけだ。
まあ、目的は分かったけど、なんとも漠然とした仕事を言い渡されてもね。
さてどうしたもんかと思いながらも後日、僕は自衛官によって管理される異世界特区の入場門へと足を運ぶのでした。
「こんにちは」
「はい、こんにちは。通行証はお持ちでしょうか」
「あ、はい。これです」
「……なるほど。調査団の方ですね。どうぞ、お通りください」
「ありがとうございます」
おお、本当に通れた。
「お気を付けて」
そんな言葉に送られて、僕は大きな門の脇にある小さな扉から中へと入っていく。
多分、大きい方の扉は車両用なんだろう。
人が通るのに一々十数メートルある門を開閉してたら馬鹿らしいからね。
「おお、ほんとにファンタジーっぽい景色だなあ」
トンネルを抜けると異世界だった。
生い茂る木々、踏み固めただけの土の道、透き通るような青い空。
見当たす限り人工物の見えない景色に興奮せざるを得ないね。
高層ビルとかに遮られない視界って、こんなに開放的だったんだね!
「ここが異世界かー。興奮してきたな」
とはいっても、こうも何もないとどこに行けばいいやら。
南には森、北には草原。
うん、何もないや。
とりあえず歩いて第一村人でも探してみるべきなのかな。
「お、あれは……」
しばらく歩いていると、きょろきょろと何かを探すように首を振る人影を見つけた。
背丈とか髪の長さからしておそらく女の子だと思う。
「あっ!」
「え?」
彼女も俺を見つけたようで、指を指すと同時に声を上げる。
え、なに?
僕に何か用なのかな?
いやでも、異世界に知り合いはいないしなあ。
もしかすると知らないうちに知り合いが異世界に転生してたのかもしれない。
トラックに轢かれた友人なんていたかな?
そんなことを考えているうちに、彼女は細い手足をパタパタと忙しなく動かし、金色に光る長髪を棚引かせながらこちらにやってきた。
「貴方、異世界人ね!」
「ええっ⁉」
駆け寄ってきた女の子は僕を指さしそう言い放つ。
その衝撃的な言葉に、僕は一瞬呆気にとられるのだった。
異世界召喚されました。
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