2-4:裸の馬だとお尻が痛い件について
教授コメント
『私も乗馬をたしなみますが、それでも一日乗っていると腰が砕けそうになります』
空気が美味しいという表現って、なんだか納得いかないんだよね。
大部分が窒素と酸素なのに、味があるわけないじゃないか。
もし味がするならそれは不純物が混ざりまくってるからだよ?
だから、綺麗な空気を吸った時の表現としては変だと思うわけです。
「んー、空気がおいしいね!」
『君はおかしな人間だね』
ユニコーンの指摘はもっともだけど、本当に美味しいんだから仕方がないよ。
同じ水でもぬるいのより、冷たい方が美味しいでしょ?
それと同じ理論だよ。
「空気がおいしいの? セカイは変わってるわね」
「あ、はい」
久しぶりにアルメルの本質突きが炸裂したような気がする。
「しかし、フェルランってここからどれくらいかかるんだろう」
アルメルの方を見ると、なんだか申し訳なさそうに肩を竦めた。
「森から出たことがないから知らないのよ」
「そうだよね。いや、気にすることないよ」
「役に立たなくてごめんね」
「いやいや、そんなつもりで一緒に行こうって言ったわけじゃないからね」
それじゃあ、ただのガイドさんじゃないか。
まあ、最初はそうだったけどさ。
「エディル、分かる?」
『該当なし。異世界特区の地図はインストールされていません』
「あ、それもそうか」
『私の知識は全てこれまでの履歴によって構成されているので、解答できるものはマスターが以前検索したものに限ります』
「え、そうだったんだ」
あれ、音の柔らかさとかって検索したっけ?
あ、そういえば、ヒトカラの練習で検索したんだった。
あの歌手の声に似せたいなあって頑張ったっけ。
結局できなかったけど。
「でも、真っ直ぐいけば着くことは確かよ」
「そうなの?」
「ええ。だって、道っていうのはどこかに繋がってるから道なんだもの」
「おお、それっぽい」
「それっぽいって何よ」
確かに踏み固めただけの簡単な道だけど、整備されているってことは誰かが使ってるってことだもんね。
その先には絶対に町があるはずだよね。
「それに、急ぐ旅じゃないんでしょ?」
「だね」
「だったら、正しいかどうかなんて気にすることないじゃない」
うーん、論破されてしまった。
フェルランに行く目的だって、ただの情報収集なわけだし、拘る必要ないしね。
「よし、じゃあ、気ままに進んでいこうか。ユニコーン、任せたよ」
『任されよう』
軽快に歩みを進めるユニコーンの背中で僕は焦る心を抑え、のんびりとした旅を楽しむことにしたのだった。
◇ ◇ ◇
抑えるべきだったのはお尻だったようだ。
裸馬に揺られ続けるのは臀部への負担が物凄いよ。
一旦僕とアルメルはユニコーンから降りて休憩することにした。
『すまなかった』
いや、ユニコーンは悪くないよ。
悪いのは……なんだろう、鞍を用意しなかった僕かな。
少なくともユニコーンとお尻は悪くないよね。
街道の脇の草原でお尻をさすりながら空を仰ぐ。
ユニコーンには荷物だけ乗せてもらうことにしようかな。
荷物も僕らも乗せてたら疲れちゃうだろうし。
『そんなことはないが』
……ごめんなさい。
実はもうお尻が痛すぎて乗りたくないんです。
『そうか。それはかなしいな』
「うわあ、ごめんよ、ユニコーン!」
「わわっ! びっくりさせないでよ、セカイ!」
「あ、ごめん、アルメル」
「落としそうになったじゃない。もう……」
アルメルは両手で大事そうに缶に入ったココアを飲んでいた。
なんだか昨日の研究所で飲んで以来、お気に入りみたいだ。
「アルメルはお尻大丈夫?」
「……まだ、ちょっと痛いわ」
「さすってあげようか?」
「お願いしたら、やってくれるの?」
「あ、ごめんなさい。嘘です」
からかったつもりがアルメルにカウンターを喰らう。
くっ、僕は清純派で売ってるからそういうことはできないんだ。
そんなことをしていたら道の向こうから何やらガラガラと騒がしい音が聞こえてきた。
なんだろう、車輪が回る音みたいに聞こえるけど……。
『どうやら馬車が近づいてきているみたいだ』
「馬車?」
『私は一旦隠れることにするよ』
そうしてユニコーンは近くの茂みの奥へと消えていく。
あ、そうか。
ユニコーンが居たら驚かせちゃうもんね。
「おやおや、こんなところでどうかしたんですかい?」
目の前で馬車が止まると、恰幅の良い中年の男が声をかけてきた。
「ああ、いや、ちょっと休憩中なんですよ」
「はあ、そうなんですかい。おや、そちらのエルフは、お兄さんの奴隷ですかい?」
「ど、奴隷⁉」
アルメルは驚きのあまり声を上げる。
その反応に、男は首を傾げてみせる。
「奴隷じゃないんですか?」
「違うわよ! 私はセカイの仲間よ!」
「おや、そうですかい。エルフが人間と望んで旅するなんて珍しいですね」
男はなんだか嫌らしい笑みを浮かべる。
むう、なんだかあまり良い人ではなさそうだね。
「貴方はどうしてここに?」
「いや、なに。私は行商をしてましてね。この先に異世界の門があるんでしょう? そこで一儲けできないかと、珍しい商品をかき集めて向かってる途中なんですよ」
「商人の方だったんですか」
むむ。
これはもしや渡りに船では?
ここで馬の鞍なんかが売ってたらこの先の旅路も楽になるよね。
あと、金貨もどこかで崩しておきたかったから一石二鳥じゃないか?
「あの、その異世界なんですけどね」
「はいはい」
「僕、そこから来たんですよ」
「はいはい。……はい?」
男は驚くよりも先にニヤリと笑みを浮かべた。
「でしたら、この世界の珍しい品々の数々を見たことありませんよね。よかったら、どうぞ見て言ってください。全国各地から独自のルートで集めた良品、いや絶品ばかりですよ!」
わお、商魂たくましい人だね。
まさに商人って感じの喰い付きだ。
絶対、鴨だと思ってる目だね。
「ささ、どうぞどうぞ」
「お邪魔しまーす」
そうして僕は招かれるまま荷台へと入っていくのだった。
エディルメモ
『マスターはヒトカラで歌った曲を録音し、データを管理しています』
今日も三回更新です、よろしくお願いしますね!
次回はダークエルフ登場します!




