1-23:マッドサイエンティストに言質を取られてモルモットにされる件について
教授コメント
『異世界特区の調査には直接関係はないかもしれませんが、君も大概人外みたいなので亜人としてレポートに記載できるかもしれませんね』
恥部を晒しあげられていた事実を知った僕はもうお嫁に行けないくらい汚された気持ちになっていた。
あ、そもそもお嫁には行けなかったよ。
失敬失敬。
「それで、大体は理解しているけど、君は彼女をエルフの森から連れ出すという選択を取ったんだね」
「うん。だって、あのままアルメルを放ってはおけないからね」
「オッケー。把握したから彼女を連れ出すのを許可するよ」
「ほんとに?」
「ほんとほんと」
未来さんは親指を突き立てる。
おお、話の分かる人で助かったよ。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「んん?」
けれど、それに待ったをかけたのは自衛官の女性であった。
「許可証を持たない異世界の住人の通行は異世界交流条例によって禁止されているはずですよ」
「そうなの?」
「そうだよ。この壁を作るときに制定されたんだ。外来種のペットを野に放っちゃいけない、みたいな理屈だよ」
いや、それはなんだかアルメルたちに失礼だと思うんだけど。
というか、その例えだと僕ら異世界の人たちに駆逐されるってことになるよね?
そんな野蛮なわけ……あり得るわ。エルフの一件で身に染みてたよ。
「それを、どうして貴方の一存で許可できるんですか」
「どうしてもこうしても、この私が特権階級を与えられているから以外の理由があるのかな?」
「特権階級って……」
女性は唖然とする。
そんなものが、あるはずないと言いたげな顔だ。
「異世界特区調査研究団体、通称『アナザーワールドフィリア』。私は、そこの副団長なんだ。だから、許される」
「アナザーワールドフィリア?」
え、僕の所属してる調査団ってそんな名前だったんだ。
初めて知ったよ。
異世界愛者って意味かな。
とにかく異世界に焦がれている団体ってことになるけど、どうしてそんな名前を教授は付けたんだろう。
「そ、そんな特権、あるはずが……」
「疑うなら聞いてごらんよ、君の上司に。それで納得してくれると思うよ」
未来さんにそう言い切られ、女性は事務所の方へと走っていった。
少しして戻ってきた女性はそれでも納得いかなそうにしていたが、未来さんの言っていたことが正しかったと認めた。
「許可は出たということだ。じゃあ、君は下がってていいよ」
女性は大人しく引き下がった。
多分、上司に何か言われたんだろうね。
「本当に特権持ってるんですね」
「まあ、僕は優秀だからね」
未来さんが胸を張る。
うん、大きいね。
揺れるそれには多分夢とか希望とか、あと脂肪とかが詰まっているんだろうね。
「さて、ここで取引なんだけど」
「なんですか、取引って」
嫌な予感がビンビンなんですけど。
「今、僕は君を手助けしたわけだけど、それに対して何かあるよね」
「え、あ、ありがとう、未来さん」
「うん。そんな言葉とか全くもって要らないから」
「要らないんですか」
「質量のない物に興味はないんだ」
なんてバッサリ。
感情で動くとか言っちゃった僕とは正反対だね。
「あ、磁場とかは別だからね。ニュートリノは質量がないとされてた頃から好きだったけど、結局質量はあったから例外じゃないよ」
「何のことだか、さっぱりわからないよ」
だって、文系だもん。
「単刀直入に言うと、明日、僕の研究所に来て被検体になって欲しいんだ」
「……いやです」
「じゃあ、その子の通行は許可しないよ?」
「くっ、権力を振りかざしてきやがるぜ!」
「あるモノは最大限利用する。それが研究者魂なのだよ」
探求心に良心を殺されたんじゃないのかな、この人。
けど、助かったのは確かだし、仕方ないか。
「分かったよ。明日、研究所に行けばいいんだよね」
「お、言質が取れた。録音してるから逃げちゃだめだよ?」
絶対的に回したくないタイプの人間だ!
まあ、でも、僕自身、僕の身体に気に成る点がいっぱいある。
ユニコーンが言ってた真なる力とか、ユニコーンを呼んだ時の喉の熱さとか。
僕の知らない僕がどこかに潜んでいる気がしているんだよね。
「ああ、それとアルメルちゃんにはこれを」
「これは?」
「パーカーだよ。フード被らないとその耳は目立っちゃうからね」
「それもそうだね」
そうして受け取ると、未来さんは事務所の方へと踵を返した。
「明日、楽しみにしてるよー」
手を振りながら未来さんは事務所の中へと消えていくのだった。
全く僕の方は楽しみじゃないんだけどなあ。
次回更新で第一節は終わりです。
次の節はダークエルフ編ですが、その前に異世界特区に行かない閑話を挟みたいと思います。
あと、論文みたいにアブストや目次も作りたいですね。




