1-22:僕のファンタジー小説が共有されていた件について
教授コメント
『情報の共有は研究をするうえでとても重要です。あくまで情報の共有です。君の黒歴史を拡散したいという思惑は介在していないことを主張しておきます。報告会には出てください』
とはいえ、旅に出るにしても準備が必要だよね。
だから、一度家に戻ろうと思うんだけど、問題はアルメルだよね。
「別に、また待っててもいいわよ?」
「いやいや、流石に女の子を野宿させるわけにはいかないし」
まあ、女の子を家に連れ込むのもどうかとは思うけどね。
また、昨日の夜みたいなハプニングが起きたらもう理性が蒸発しない保証はないからね?
「セカイの家かあ……」
「期待するようなところじゃないけどね」
「そんなことないわよ。だって、異世界の家よ? セカイが私の家に驚いてたみたいに、私だって見たことないんだもの」
「あー、そうかもしれないね」
高層マンションなんて見たら驚くだろうなあ。
だって、あのマナの大樹よりも高い場所に人が住んでるんだから、アルメルからしたら想像もつかないだろうね。
そんな風にして、門のところまで来た。
ユニコーンから降りて、扉を開ける。
「それじゃあ、行こうか」
「ふふ、なんだかドキドキするわね」
「だろうね」
アルメルが胸に手を当てて、目をキラキラと光らせる。
期待に胸が膨らんでいるんだろうね。
見事に膨らんでないけど。
「……今失礼なこと考えなかった?」
おっと、そんなジト目で見つめられるとなんだか照れちゃうよ。
「なんて察しが良いんだろう」
「考えてたの⁉」
「えへへ」
「えへへ、じゃないわよ!」
アルメルは頬を膨らます。
小動物みたいで可愛いからなんだか怒られてる感じがしないね。
そうして僕が門の脇にある通路をくぐろうとすると、後ろからアルメルに服を引っ張られる。
「どうしたの?」
「え、えっと、あのね。ちょ、ちょっと不安だから、あの……手を、繋いでほしいの」
「え、可愛い」
「ちょ、ちょっと茶化さないでよ」
「あ、ごめん」
茶化したつもりはないんだけど、思わず心の声が漏れてしまったみたいだ。
「はい、アルメル」
手を差し出すと、赤い顔をしたアルメルの冷たい指先が添えられた。
手を繋ぐのも慣れてきたけど、やっぱり気恥ずかしさは残るね。
「それじゃあ、改めて行こうか」
「ええ。セカイの世界、楽しみね」
「あ、そのフレーズ懐かしいね」
「そうね。出会った時にも言ってたわね」
たった二日前なのか。
なんだか密度の濃い二日間だったような気がするよ。
もしかすると、異世界の時間は流れがゆっくりなのかもしれないね。
薄暗い通路を抜け、隣町へと抜ける。
「こ、ここが、セカイの世界なのね」
アルメルは目を丸くしてビルや住宅が立ち並ぶ街並みを眺める。
「わあ……」
感嘆の声を漏らすアルメル。
こんなに驚いてくれるなら見せ甲斐があるってもんだね。
「ちょ、ちょっと!」
「お?」
そんな風にしていると、警備していた自衛隊の人が駆け寄ってくる。
あ、昨日、僕を見送ってくれた女性の人だね。
「朝からお疲れ様です」
「あ、これはどうも。そちらも調査、お疲れ様でした……ではなく!」
「え?」
「な、なにしてるんですか!」
え、帰って来ただけで怒られてる?
「異世界特区の女の子を連れ出すなんて、それも、こんな幼気な少女を!」
「100歳越えですけどね」
「え、100歳?」
ポカンとした表情を浮かべる。
まあ、驚くよね。
エルフの寿命もだけど、アルメルは特に小さくて可愛いから年相応には全く見えないもん。
「アルメルはエルフなんで寿命が違うんですよ」
「あ、なるほど。そういうことだったんですね。確かに、耳が尖ってますね」
そうして、女性はまじまじとアルメルの耳を眺める。
その視線に気づいたアルメルはなんだか恥ずかしそうに手で耳を隠した。
「って、そうじゃなくて!」
「そうじゃないんですか?」
「問題は年じゃないんです。異世界特区の住人を外に連れ出すことが問題なんです!」
「あ、そっちかー」
その問題は考えてなかったよ。
どうしよう。
全く解決法が見当たらないんだけど……。
強行突破するか?
「おっ、瀬海くんじゃないか。おかえり、帰って来たんだね」
「あ、未来さん。ただいま」
プレハブでできた仮設の事務所から顔を覗かせたのは調査団の未来さんだった。
「ああ、そっちが噂のアルメルちゃんだね。うんうん、描写通り、小さくて可愛らしい子だね」
未来さんまでまじまじとアルメルを見始める。
それにアルメルは居た堪れなくなったのか、僕の背中に隠れてしまった。
「あらら。嫌われちゃったかな」
「いやあ、恥ずかしがってるだけだと思いますよ」
……あれ?
「というか、噂とか、描写通りって、なんで未来さんが?」
「え? そりゃあ、君の面白いファンタジー小説を読んだからに決まってるじゃないか」
「え、読んだ?」
教授に提出したレポートを?
「当然、君の貴重なレポートは調査団内で共有されているよ?」
「共有されてるの⁉」
「皆読んでるよ」
「うわあ、黒歴史!」
「ファンもいるらしいよ?」
「やめてっ!」
僕は手で顔を覆い隠す。
もう僕は、どの面下げても調査団の報告会には出られそうにないよ……。
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