1-21:エルフの少女と森を旅立つ件について
教授コメント
『長期探索に向けた装備の開発を園崎副調査団長に依頼しています。もう受け取りましたか? それとレポートを書く人間が理屈や理論を考えていないのは問題ですよ』
「はあ、はあ。何だってんだ」
ファビオは木に背中を預ける様に座り込む。
よかった、諦めてくれたみたいだね。
「お前は、どうしてそんな無茶ができんだよ!」
「無茶?」
どこか悔しそうな顔でファビオは僕を睨む。
「クイーンに楯突くのだってそうだ。裁定の間から逃げ出したのだって、そいつを森から連れ出そうとすることだって、全部、俺がしたくてもできなかった無茶だ!」
「ファビオ……」
どうやらイケメンはイケメンでイケメンなりにアルメルの扱いに思う所があったみたいだ。
それでも動けなかったから、僕の行動が無茶に見えたんだろう。
「僕は文系だからさ、理屈とか理論とかはあんまり考えないんだ。だから、それが無茶なことだったなんて気付かなかっただけなんだよ」
「ぶ、ぶんけい?」
「だから、どうしてできたって聞かれたら、簡単な答えしか返せないよ」
僕は剣を下ろす。
「それは僕がそうしたいと思ったから。理性に勝る感情が、僕の中にあったからなんじゃないかな」
「感情……」
「そう。僕はアルメルの扱いが許せなかった。ただそれだけなんだよ」
「セカイ……」
後ろから聞こえるアルメルの声。
僕はただこうして名前を呼んでくれるのが嬉しいから、それを守りたかっただけなんだよね。
「ふっ、そうか。そんな単純なことだったのか」
どこか悔いるような乾いた笑い声が響く。
なんか負けたのに様になるのはファビオがイケメンだからかな?
顔が良いってずるいね!
「行けよ。ここの見張りは俺だけだ。この先、真っ直ぐいけば誰にも見つからずに森を抜けられるだろうさ」
「性悪イケメン……」
「まだ、性悪なのかよ」
ちょっとひがみが入ってます。
「冗談だよ、ファビオ」
そう笑って見せると、ファビオが手を差し出してくる。
「ファビオ?」
「握手だ。こういう文化、異世界にもあるだろ?」
「あ、うん」
それに応じると、強く引き寄せられる。
な、なんだ?
不意打ちか⁉
「アルメルのこと、好きなんだろ?」
ファビオが耳打ちする。
アルメルのことが好きかどうかだって?
そんなこと、もう悩むまでもないかもね。
「まあね」
「頼んだぜ、あいつのこと」
「言われなくても」
あ、なんか今のやり取りカッコいいね。
しかもあっちがイケメンだからさらに絵になる。
お、これはまさか、釣られて僕までイケメンに見えるんじゃなかろうか?
『そんなことはないですね』
心を読めることを言いことに野暮すぎるツッコミをありがとう。
『どういたしまして』
余裕のある対応。
くっ、あっちの心は読めないから一方的にマウントを取られてる。
僕はユニコーンに再び乗ると、アルメルが心配そうに抱きついてくる。
「アルメル?」
「……心配させないでよね」
「うん。もうこんな無茶はしないよ」
そうしてユニコーンはゆっくりと歩き始める。
ファビオの横を通るとき、アルメルはどこか寂しそうな視線を彼に向けていた。
「あいつね。私と同い年なの」
「そうなんだ」
「小さい頃は一緒に遊んだし、一緒に訓練もしてたのよ」
「そっか」
昔なじみだったんだね。
あんな風に突き放されても、やっぱり別れるとなるとアルメルは寂しさを覚えるんだろうね。
「あんまり好きじゃなかったけど、こうして通りすぎるとちょっぴり寂しいのね」
「別れって、そういうものだよ」
「そうかもね」
それっきり、アルメルは振り返らなかった。
代わりに、アルメルは寂しさを紛らわすように僕に強く抱きついてくる。
アルメルは故郷を捨てる。
その空白を、僕は埋めることができるだろうか。
不安はある。
けれど、僕が選んだこの未来が間違っているとは微塵も思わなかった。
「そろそろね」
アルメルがそう呟く。
陽の光を遮る木々を抜け、視界が明るくなる。
「ああ、抜けたんだね」
「ええ。もう、エルフの森には戻れないのね」
アルメルは少し寂しげな声を漏らす。
「戻りたい?」
「戻りたくないっていうのは、嘘になるわね。でも」
「でも?」
背中にこつんと重みが加わる。
後ろを見ると、アルメルが頭を僕の背中に預けてた。
「セカイと一緒に旅に出るんだって思うと、ワクワクの方が大きいの」
「そっかー」
それは僕も同じだね。
これからの二人旅――
『私もいますよ』
……三人旅、楽しくならないわけがないという確信が、僕の中にはあったのだった。
今日の更新はこれでおしまいです。
三連休もフルスロットルで更新していくので、よかったらブクマしてくれてもいいんだからね!




