1-7:別れ際のエルフが可愛すぎる件について
教授コメント
『普遍的なエルフの特徴ではないのでこの議論は削除した方が良いでしょう。彼女の笑顔は貴方が独り占めしておくべきです』
それからは他愛のない話をしていた。
普段どんな生活をしているのかとか、どんな食事をしているのかとか。
そんな中で分かったのはエルフが狩猟民族らしいということだった。
森にいる動物を狩ったり、森に自生する植物の木の実を取って、生活してるらしい。
「だから、エルフがまず覚えるのは動物の捌き方なの」
「捌き方? 狩りの仕方じゃなくて?」
「そうよ。先に捌き方から。だって、狩りができてもちゃんと獲物を捌けなかったら無駄が出てくるでしょ? 死んだ動物は精霊になって森を見守ってくれるから、ちゃんと捌かないと祟られちゃうわ」
「死んだ動物は精霊になるんだね。なるほど」
エルフは森と共に生きる種族だから、その死生観も森の中に納まっているんだね。
「じゃあ、アルメルは鹿とか猪とか捌けるんだね」
「当り前よ。弓の腕前だって、100歳代の中じゃ右に出る者はいないんだから」
「え、それはすごいね」
主に年齢の幅がね。
僕らで言う10代みたいな感覚で言ってるんだろうけど、100年って相当な時間だからね?
国が一つ衰退していくレベルのタイムスケールだからね?
「けど、それならますますアルメルが認められない理由が分からないんだけど……」
「うっ。そうなのよ。私、これでも真面目にやってたのに……。どうして森は認めてくれないのかしら……」
二人でうーんと首を傾げてみる。
まあ、アルメルが10年間悩んでも解決しなかった問題だからね
異世界からやってきたばかりの僕に分かるはずもないよね。
そうして、気付けば外は暗くなりはじめていた。
名残惜しいけど、帰らないといけない時間だね。
「そろそろ帰るよ」
「え、もう帰っちゃうの?」
アルメルが残念そうな顔をする。
「日も傾き始めてるしね」
「そう……。分かったわ。じゃあ、森の外まで送るわね!」
「ありがとう」
「いいのよ。これが私の務めだもの」
アルメルは厄介事を押し付けられただけなのにこうして機嫌良く僕に対応してくれる。
年上に対する評価じゃないかもしれないけど、アルメルはほんとに良い子だね。
こんなに可愛くて良い子のどこが森は不満なんですかね?
胸か?
おっぱいか?
大きいのが好みか、エルフの森は!
貧乳はステータスなんだぞ。
偉い人もエロい人もそう言ってるさ!
「ほら、セカイ。行くわよ」
「はーい」
そうして立ち上がるとアルメルは手を差し出してくる。
え、もしかして、案内料?
労働には対価が必要ってことかな。
確かにその通りだね。
タダでここまで案内してもらえるなんて厚かましいにも程があるよ。
あ、でも、僕、何にも持ってきてないや。
スマホと財布のコンビニ行ってきます状態で来ちゃってた。
あ、あと通行証くらいかな。
スマホは上げられないよね。
日本のお金を渡してもここじゃ価値はないだろうし、通行証は渡したら家に帰れないし……。
「ごめん、今は金目の物を持ってないんです、許してください」
「どうしてそういう発想になるのよ……」
「あ、違うの?」
「違うわよ。ほら、手、出して」
「はい」
差し出した手をアルメルが握る。
冷たい指先に包まれ、アルメルの顔を見ると、耳まで赤くしながらそっぽを向いていた。
「は、はぐれたら大変でしょ。だからよ!」
「ああ、そっか。うん、ありがとう、アルメル」
「い、いいのよ。だって、セカイは私のお客様だもの。当然よ」
はにかむように笑うアルメル。
うーん、この笑顔に対価を払わないのはなんだか申し訳ないというか、駄目だよね。
ブラック企業が問題になってる昨今で無賃労働は僕自身が許せない。
夕日に赤く染まっていくエルフの森を歩きながら、どうしたものかと思案する。
「何考えてるの?」
「ん? ああ、アルメルに何をプレゼントしようかを考えてたんだ」
「ぷ、プレゼント⁉」
「うん。だって、今日一日お世話になったわけじゃない? それなのに、アルメルに何も渡さないのはどうかと思ってさ」
「べ、別に気にしなくていいのに」
そう言いながらアルメルは嬉しいのか、隠しきれない緩んだ笑顔を浮かべていた。
「えへへ。えへへ」
「くっ、こんな嬉しそうな顔を見てしまったら半端なものは渡せないなあ」
「あ、ちがっ、嬉しくない。別に嬉しくなんてないから!」
「え……。それはそれでショックだね。そうだよね。やっぱり僕なんかからもらっても嬉しかないよね」
「そ、そんなことないから! 嬉しい。嬉しいから!」
アルメルはあわあわと慌てた様子を見せる。
からかい甲斐があるなあって、馬鹿!
これじゃあ、好きな子にちょっかいかける小学生みたいじゃないか。
そんなことしたって実らないことをどうしてあの頃は分からなかったんだろう。
いやでも、別にまだ好きじゃないし。
可愛いなって言う感情と恋愛感情はイコールじゃないからね?
ニアリイコールくらいのものだからね。
そんなにちょろい男じゃないんだからね!
「あっ、着いちゃったわね」
「ほんとだ」
ごちゃごちゃ考えてたら森の外の道に出てきていた。
右を向けば壁と門が見え、日常が夜空をこれでもかと明るく照らしていた。
「異世界の夜は明るいのね」
「そうだね。むしろ、これからが遊び時みたいな感じあるからね」
仕事や学校が終わってようやく自由が確保できる時間たいだからね。
夜の暗さに負けてる暇は現代人にはないのかもしれないね。
「また、明日も来てくれる?」
「もちろん」
美少女に上目遣いで懇願されて『ノー』といえる人間はこの世に何人存在しているのだろうか。
いや、何人いたってかまわないけどね、僕には無理だということですよ。
「ほんと?」
アルメルは嬉しそうに表情を明るくする。
あ、僕こんなに他人に求められたの初めてかもしれない。
泣きそう。
「じゃあ、また明日な」
「うん! 約束よ? また明日!」
そう言って手を振りながらアルメルは門に向かう僕を見送ってくれた。
なんだか、小さい頃友達の家から帰る時の名残惜しさを思い出したよ。
明日も会えるのに、なんであんなに寂しいんだろうね。
小さくなるアルメルに手を振り返し、僕は元の世界へと戻る。
……と言っても隣町なんだけどね。
正義の逆はまた別の正義。
つまり小さいのが正義ならば、大きいのもまた正義なのだ。
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