第9話 魔法
魔法は今から1億年ほど前、とある人間の女性が生み出した技法だった。魔法と一般的に呼ばれるようになったのは戦争で使用されてからである。投石機や石弓など、遠距離の攻撃を超えるモノがなかったから、魔法の出現は画期的だったのだ。使える者に制限はなかったが、特に優れた魔法を扱う者には女性が多かった。理由については今でも分かっていないが、女性を超える魔法使いが男性に居なかった訳でもない。特に詳しく調べようとした人が少なかったのも事実だ。
それから500年が経過したころ、科学と技術の衰退と魔法の存在を危険視した国王が、魔法使いの多くいる国を滅ぼそうと始まったのが魔女狩り戦争である。魔女とは特に魔法に優れた女性達が自称した名称で、女性の力が強くなっただけでなく、男性を格下として扱い、魔法の素質のない者を奴隷として扱っていた。魔法使い達は抵抗力も強く、たった1人の魔女を斃すのに魔法の素質が全くない兵士10人でやっとである。そのため、素質がない者たちを少しでも戦えるように考案されたのが魔法の力を宿した武具で、これも魔女達によって作られたものを流用したものだ。戦争はなかなか終わらなかった。魔法の出現は世界を混沌とさせ、世界を覆い漂うマナが不安定になった。それに気が付いた神さまがマナの安定を図るために創ったのがマナの木である。神は直接世界に干渉する力が無かったから、いわば代理のような存在で、マナの木が世界に認知される頃には”神の木”とか”世界樹”とか呼ばれるようになっていた。
なぜ木だったのか。それは木が一番創りやすかったというのが本来の理由であるが、それはマナの木も知らない。マナの木に自我を与え、マナを干渉させ、世界に漂うマナが安定してくると、戦争が急速に減り、規模の小さい武力抗争が局地的に発生する程度になった。実際問題として、誰かと争う程人口は多くなかっただけとも言える。
世界最大の樹木としてマナの木が多くの人に知られるようになると、マナは人との交流を持ち、魔法も覚えた。人型として行動できるようになると、多くの人が崇めた。
崇められることはマナにとっては迷惑でしかなかったが、スズキタ一族が現れると、マナの木はある程度安心して暮らせるようになった。それまでは勝手に葉っぱを摘む者や、枝を折ったり、幹を刃物で削るなど、やりたい放題だった。もちろんマナ自身は魔法を使えたので戦えたが、当時のマナは手加減するのが苦手だったため、周囲までも破壊してしまう程の高威力魔法は乱発するわけにいかなかった。スズキタ一族はマナの木を通じて神に認められる程の誠実さと優しさを兼ね備えており、マナの木がマナを暴発してしまうのを何度も防いでいた。
なぜスズキタ一族がここまでマナの木に尽くすのか、その理由は、一族を救ったのがマナの木だからだという。マナの木自身は何もしていないはずだった。何かしたつもりもない。やっているのはマナを安定させることと、人型になって辺りをウロウロするぐらいだ。木が大きくなり過ぎて、大樹すべてを人型に納めることは出来ずにいて、ほとんどの時間をスズキタ一族と過ごしている。
スズキタ一族と呼んではいるが、元々は二人だった。いつしか子供が出来て、世代が変わり、数千年も共に過ごしていた。だが、ある時争いが起きた。あらゆる種族が戦争に参加し、マナの木にマナが集まっている事を知ると、マナを利用して大きな力を得ようと画策する者が現れる。当時最初に利用しようとしていたのは魔王と噂されていたが、実際は過去に絶滅寸前にまで追い込まれたと言われる、魔女達だった。魔女達は過去の栄光を取り戻すために現れたのだ。利己的な、ただ、欲望の為だけに行動している魔女達は、多くの種族に嫌われたが、その行動力と破壊力は止めるのに苦労した。最終的に多種族の魔王軍と、魔女の率いる人間達の二大勢力となり、その争いに巻き込まれないように参加を拒否する種族、そして、争いの原因がマナの木に全てが有ると思い込んだドラゴン達が一気に焼き尽くした。
―――多くの犠牲者を出して戦争は消滅した。決着が付いたのではなく、戦う力を失って―――
指の先で火を灯す。やっと魔法が使えるようになった。焚き木に火を点けるのが楽になった。指先から水が出るようになった。水を汲む必要がなくなったので、風呂が楽だ。タバコに火を点けるのも魔法を使うぐらいに慣れた。・・・もうタバコないな。というかスカスカして味がしない。賞味期限なんて過ぎまくってるからなあ。
風呂とトイレは作り直した。遠くに旅立つにしても準備というか、自分を鍛えて、少なくとも、対峙した時に身体が震えて動けないという状態は避けたい。
その前に冬に備えているのだが、畑以外の食糧としては、ウサギを何匹か狩る事が出来た。結局あの町で肉を手に入れる事が出来なかったので、血抜きはするが、どうやって皮を剥ぐのかわからない。魚を釣ればいいと思ったが、近くの小川には大きな魚はいないようだ。木はだいぶ切った、木材を組み立てて家を作る予定だ。道具が凄いので加工に苦労しない。しっかり寸法を測れば、釘を使わずに家が作れる。その為にミニチュアサイズの家を練習で作った。一週間かかったなんて言えない。
肌寒く感じるようになったころ、四角い家が完成した。屋根を斜めにするの忘れてた・・・。
床板は張らずに土のままにした。忘れてたなんてマナにも言えない。ただ、暖炉とかまどに煙突もつけて、やっと室内で料理ができる環境になった。これから問題になるのはトイレとゴミだ。・・・穴を掘って埋めることにした。ここに永住する予定はない。それでも手作りのテーブルとイス、元の世界から持ち込んだ組み立て式のベッドを配置し、それなりに生活感も出てきた。
・・・やばい、雨漏りする。ちゃんと屋根を作る。外見だけはログハウスっぽく見える。
料理はレパートリーが減った。きれいに皮を剥ぐことは出来ないが、血抜きは何とかなった。しかし、基本的に焼くだけだ。調味料の塩胡椒もだいぶ減ってきた。困ったな・・・。
マナは食事には文句を言わなかったし、食べない事もあった。唯一残ったお菓子の飴を舐めるだけでも満足している。ただ最近、調子が悪いようだ。
「木が成長しないの。」
「マナの木って常に成長し続けてたの?」
素朴な疑問を投げる。永久に大きくなるのだったらいつしか星そのものがマナの木の栄養になってしまうだろうと。大げさな言い方だったが、理解してくれた。助かる。
「でも、成長が遅くなる事はあっても、今まで止まるってことは一度もなかったの。マナの吸収は問題なくできているし、水も栄養も十分なのに。」
原因は不明。マナのコントロールも可能だし、周辺のマナも安定している。過剰に溜まり過ぎた気がするのなら、吸収量を減らすなり止めるなりしてみたらどうだろう。
「それでも無理なら、魔法を使って消費するとか。」
「あ~、そういえば最近ほとんど魔法使ってなかったわね。人型になるのもマナを使っているけど、大きく放出するようなことはしてなかったわ。」
解決したわけではないが、納得したようすで、口の中で飴をころころ転がした。
息を吐くと白くなる季節になった。寒い。畑にはうっすらと霜が降りている。マナの力で成長が促進されていなければ作物は枯れてしまうだろう。外に出るのが面倒になったので、殆どを室内で過ごす。水の魔法のおかげで汲みに行かなくていいことがかなりでかい。薪はたくさん作っておいたが、この家にはちゃんとした窓はないので、基本的に真っ暗だ。ガラス窓なんて作れないし、あの町にもなかった。ガラス自体がまだ高価なんだろう。
身体を鍛えるだけでも重要な事だが、本当なら剣術を習いたい。・・・とりあえず魔法の訓練をしようと、風呂場で火と水を混ぜてお湯を作る練習する。右手で水を作る。左手で炎を作る。マナも同じことをする。ちょっ、でかいって!・・・風呂場が崩壊した。
「へっくちょん!」
マナはくしゃみをしなかった。寒いという感覚はないんだろうな。風邪はひかなかったが、しばらく風呂に入れないのは仕方ないか・・・。火と水の魔法は生活に役に立つからコントロール重視で頑張ろう。魔法で指先から蛇口のように水が出るけど、科学的に調べてみたい気もする。飲めるから良いか。
少し暖かくなった。寒くて外に出たくない日はほとんど室内にいて、丸々一日ベッドにいたこともある。やはり女の子がいると楽しい。やっと風呂場を直す気になった。これ、ほぼ建て直しじゃん・・・。材料は有るから頑張ろう。マナは作業する俺を見ているが、手伝ってくれることはない。マナと一緒に何かすることといえば、魔法の訓練だ。
最初はマナの流れを感じるのに手間取ったが、一度掴むと、ライターの火程度と同じぐらいの火が発生した。そこからはいろいろな魔法を試したが、土の魔法はイメージが出来なかった。風を起こすのも団扇で扇ぐ程度の風が吹き抜けただけだ。聖魔法はイメージが全くできなかった。マナも使えないらしい。光魔法は両手が光ったけど、本当に光っただけだ。この世界の事をもっと詳しく知る事が出来れば、イメージも変わると思う。だが、殺された時のイメージが未だに残っている所為か、いずれ移動する予定はあるのに、なかなかここを離れようとする気が起きない。
自分の事も重要だが、マナを成長させる為に必要な事を探すのも重要だ。春も中頃になってもマナの木に変化はなく、人型の姿も大きくなる事はない。マナの使用量を増やせばもっと大人の姿を作れるとは言っていたが、無理して作る理由もない。
「場所的にはどこが一番いいと思うんだ?」
「そりゃー、前と同じ場所が一番だろうけど、ドラゴンをどうにかしないとね。」
マナにとっての一番の天敵はドラゴン。燃やされた事を考えれば火も苦手な筈なんだがなぁ。
「別に火が怖いことはないわよ。集中放火されて防ぎきれなかっただけで、ただの魔法なら水の障壁で守れるし。」
そこまで怖がっていないのだから、いいことだと思っておこう。それにしても、一つ気になっていた事が有る。それは二人でウサギ肉とサラダを食べている時だ。
「食べた物はどこに行くんだ?」
食べたら胃で消化される。それが普通だと思っているようでは異世界は生きられないかもしれない。考え過ぎか。
「体内でマナに変換されるから、排泄される事はないんだけど、涙は出るのよね。私自身、世界で唯一無二の存在だから知らない事もあるの。誰も教えてくれないしね。」
これから俺は、もっとマナを観察しようと思う。いや、服は脱がなくていいから、そういう意味じゃないから。ちなみに、マナは可愛い。いやいや、凄く可愛い。そんな女の子がワンピースしか着ていない。下着なんてないよ?
マナは人の姿はしているが、子供は作れない。
・・・可愛いから仕方ないでしょ?
そりゃあ、エッチな気分にもなります。
欲情もします。
でも下半身に有るべきモノがないんですよ。
本当の意味でのつるつる。
マナがもう少し成長したらちゃんと説明しようかな・・・。
うーーーん。
設定や会話に矛盾があるときは
物語が変化しないように
書き直してます
ご了承くださいm(_"_)m