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第77話 風呂

「おとーさんとおかーさんなんて大っキライ。」

「でも、いつか家に帰るんだよ?」

「ヤダ。」


 エカテリーナを身体から引き離そうと色々と話をしているが、接着剤でも付いてるのかっていうくらい離れない。


「あなたのおねーちゃんだって寂しがってたわ。」

「私が知らない人に連れてかれてく時に、助けてくれなかったもん。」


 両親がお金の為に妹を売ったという事実を知っている以上、普通に考えれば助ける手段など持ち合わせている筈もなく、子供の脳裏には棄てられたと刻まれるのは自然な事だと思う。だが、それではエカテリーナの帰る家が無くなってしまう。助けた時に今後どうするのか、何も考えていなかった事を太郎は思い知らされている。


「旅に連れていくには幼すぎるし、家に帰るのは嫌がるし、家族は信用していないみたいだし・・・。」

「ある程度の嘘も教え込まれていると思うけど、この子じゃ判断は難しいか。引き取りたくても根無し草だしなあ・・・。」

「太郎に根っこなんてあったっけ?」

「俺は植物じゃないぞ。物の例えだよ。住所不定無職の男だぞ。」

「お金稼ぐ必要ないもんね。」

「殆ど一族の遺産だけどな。」


 スズキタ一族の残した金塊の全てが袋の中に入っているので、スーがギャンブルで儲けた時よりも大金を持っている。お金持ちのはずなのにスーのケチケチ癖は何故か変化ないのだが。


「とりあえず解決策もないし一度宿に戻ろうか。風呂に入りたかったんだけどまた今度にしよう。」


 その時に意外な言葉がフレアリスの口から飛んできた。


「お風呂ならすぐそこの崖に洞窟があって、その奥から滾々とお湯が湧き出てるから、ため池を作ってあるぐらいの簡単なヤツだけど。」

「おー、露天風呂か・・・しかも温泉?」

「そうね。」

「俺達が入ってもいい?」

「良いけど、普通の人は誰も入りたがらないわよ?」

「え?ただの温泉でしょ?」

「えー、太郎さん・・・お湯が出てくるって気味が悪くないですかー?」

「俺は自分の身体から水が永遠と出てくる方が気味が悪いよ。」

「凄い魔法なんですから自慢していいですよー。」

「俺だけ入ろうかな。ポチもナナハルさんのところ以来だし綺麗にしたいだろ?」

「この町に来てから妙に身体がべたべたして洗いたかったところだ。」

「潮風の所為だろうな。」

「シオカゼ?」

「海から吹く風を浴びてるとべたべたするんだよ。鉄も錆びやすいしな。」

「へー・・・。」


 と言ったのはフレアリスだった。


「この町に住んでるのに知らなかったの?」

「元々山育ちで気にしたことなんてなかったわ。それに、仕事に行く前に入るのが日課みたいなもんだったし。入りたかったのならいつでも来ていいわ。」


 ポチに視線を向ける。


「ポチが入るなら私も入ろうかな。」

「え?混浴だよね?」

「え?あー、一緒に入るって別に普通じゃない。私の裸を見たら興奮・・・しないか、子供が好きだっけね。」

「違わないけど違う・・・うっ・・・。」


 エカテリーナが顔を真っ赤にして両手で顔を覆ったが、指の間から俺をじーっと見ています。無理矢理されるのではなく望んでしたいと思っているのだろうけど・・・この世界観は解りたくないなぁ。

 結局、マナもスーも入ると宣言し、みんなで洞窟へ。しかしこんな町の近くで温泉が湧いているのなら、もっと多くの人が利用してもいいのでは?


「地面から熱湯が噴き出る地獄の泉って言うのがありまして、その水を浴びると身体が溶けてしまうという伝説が・・・。」


 それ溶岩とかマグマじゃないのか・・・?


「間欠泉とか有るし不思議ではないよね。フレアリスさんは平気なんだから入るんだろうし。」

「故郷にもお湯の出る泉は有ったし、身体を洗うのに利用したわ。ちょっと変な匂いがする事が有って飲み水には使わなかったけど。」

「硫黄の成分かー、確かにあんまり飲みたくはないけど、きっと良い温泉なんだろうな。」

「イオウ???」


 あ、流石に説明するのが面倒になりそうだからさっさと行こうっと。




 着替えるスペースなんてないが、湧いている場所と入浴する場所は分けてあった。少し熱いから冷ましてるのね、なるほど。洞窟の中なので薄暗いが、外は良い天気で光も届く程度の奥行きの無い横穴の洞窟だから問題は無かった。だが服をかける場所もないし、身体を洗う場所もないのでスーとフレアリスに手伝ってもらいながら作ることにした。なんと木材だって入るこの袋の中に・・・まだスノコあるじゃん。なんで持ってるんだ???こんなところに突っ張り棒が!カーテン・・・これ俺が使ってたやつだ。文明って凄いな。洗面の桶が有りましたー!オケマルー!


「その袋、便利ねぇ・・・。」


 俺が袋から取り出しているのをただただ見ているだけのフレアリスが呟く。マギも驚いているが、エカテリーナは目を輝かせている。何でも出てくる魔法の袋に見えるんだろうな。まぁ、元は俺が詰め込んだんだけど。何をどれだけ入れたかなんて覚えてない。


「旅立ちの前にいろいろ買ってたじゃないんですか?」


 そんな事あったような・・・。元の世界でもいろいろ詰め込み過ぎて覚えてないし、魔王国を出発する前もいろいろ買ったしなあ・・・。


「石鹸はないけどいいわよね?」

「有るよ。これ身体洗う道具。」

「何でもあるわね。あんたも洗ってあげよっか?」


 と、冗談半分にフレアリスが言った直後に他の3人の目が光ったような気がした。後ろを見ると既に全裸だ。ちなみに入浴メンバーにマギは含まれていない。男が一人いるのが恥ずかしいというのもあるんだろうし、それが普通だと思う。うん。マギは部屋に戻り、1人で留守番するそうだ。

 既に普通じゃないマナが無理矢理俺の服を引っ張って脱がそうとするからエカテリーナと奪い合いになった。


「タロウ様の事は私がやります!」


 あ、そう呼ぶんだ。


「太郎は私のモノなの!」


 モノ扱いかよ。


「何なのコノ状況?父親と子供みたいな。」

「想定内ですねー。」

「あんたも大概ね。」

「太郎さん相手ですし、ある程度は諦めてますから。」


 大人の会話をしている二人の目の前で、奪い合いの果てにエカテリーナが付き飛ばされた。尻もちをついて、痛さと悔しさで涙がぼろっと出てくる。


「役に立てないと・・・ぐすっ・・・うぇ・・・。」


 マナの表情が変わった。流石に大人の振る舞いをして欲しいと思ったが、俺の事になるとマナの思考が我儘な子供と変わらなくなる。しかし相手が子供だという事に気が付いた事で、凄くバツが悪そうな、後悔しているような、普段はなかなか見せない珍しい表情になった。泣いている子供に弱いのは俺だけじゃないらしい。


「マナは判ってるよな?」

「わ、わかってるわよ。」


 大事なところが丸見えでも恥ずかしくないマナの仁王立ちポーズから一息ついて、エカテリーナを抱き寄せて泣き止ませる。ピタッと止まるから凄いな。その間にささっと服を脱いで身体を洗う準備をする。スーは諦めて自分で自分の身体を洗い、ポチはビクビクしながらフレアリスに身体を洗ってもらっている。洗い方が上手いのか意外にも気持ちよさそうな表情のポチだ。


 泣き止んだ後、結局二人で洗う事になった。小さなキャンプ用の椅子に座っていると二人に洗ってもらっている俺。自慢するほど立派ではない俺の息子が建国しそうだ。いや、そこばっかり丁寧に洗わないでくれるかな。なんで二人して股間を押し当ててくるの。頼むから今はヤメテ。

 洗い終えて既に湯舟の二人と一匹の会話。


「エッチなお店ですねー。」

「無理矢理やらせているわけではないから怒るのも変だけど止めたくなるわね。」

「それにしても・・・子供なのに手慣れてますねー。」

「マナがチラチラ見て真似しようとしているのはなんでだ?」

「ポチちゃんは知らなくてもいいんじゃないかしら?」

「そうですねー。」

「あーゆーのは子供が覚える必要のない事なのよ。本当ならもっと自由に、もっと親に甘えて、もっと笑顔じゃなきゃ子供じゃないわ。」

「それは同感ですー。」

「俺の親もそうやって俺を育てたかったのか?」

「子供の育て方の基本ってそれほど変わらないですしねー。」

「ポチちゃんの親は?」

「・・・殺された。」

「えっ、あぁ・・・そっかあ。」

「気を使わなくても良いぞ。俺の世界はそういうところだったから。太郎とマナに助けてもらって今は違う世界を生きている。あの仔猫が太郎の事をどう思うかは知らんが、俺にとっての仕えるべき主人は太郎と決めたからな。」

「へー。でも普人の方が先に死んじゃうんじゃない?」

「それはその時に考えればいい。」

「・・・ポチちゃん、頭良すぎない?」

「ポチさんはかなり賢い方ですねー。同じケルベロスでここまで人慣れしているのも珍しいですし。」

「そっかー、よしよし、いい子いい子。」

「マナ様以外でケルベロスをそこまで子供扱いしている人もいませんけどね。」


 ホボイキかけて生殺し状態の太郎が魔法でお湯をまき散らせて石鹸を洗い流している。二人の身体も洗ってピカピカになったところで湯舟にやって来た。


「あんたも苦労人ね。」

「マナが二人になった気分だよ。」

「ご苦労様ですー。」

「う、うん。」


 左右に抱き付いているマナとエカテリーナに注意をしていたが、湯船には何も気にせずに入る。あっ・・・フレアリスが隠すことなく巨乳を水面に浮かせていて、スーも同様に浮かんでいた。凄い光景だな。ポチは大人しくしているがそろそろ熱くなって来たんじゃないのか?大丈夫?


「慣れてるわね。」

「ナナハルにも絞られたし、裸見たぐらいじゃ興奮しないもんね。」

「それは・・・尊敬したくなったわ。」

「それはどっちの意味かな?」

「両方よ。」

「そっか。」

「腹の探り合いみたいな会話ですねー。」

「解る人が分かればいいよ。少なくともこの子はヤバい。なにがやばいって、子供のする事じゃないよ。ホントに。」

「それにしては楽しんでたんじゃないの?」

「タロウ様、楽しかった?」

「え、あ、うん。」

「えへへー。」


 子供の笑顔はずるい。しかも耳がピコピコしてるし、俺の倫理観なんて崩壊寸前だぞ。ホントだぞ。まだ崩壊してない・・・と、思うけど・・・自信ないな。ってなんで二人して揉んでるの?ねぇ。

 ポチが湯舟から上がるまでふわふわな感覚は続いた。






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