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第76話 面倒事

 フレアリスの家に到着したが、フレアリスは不在だった。いつもなら家に居る時間だという事だが、昨日はこのくらいの時間でも働いていたんじゃなかったのか。


「本来は夜明けまでなんですよ。」

「ああ、俺達と話をしていたからか。」


 マナが不機嫌そうに俺の背中にしがみ付いている。なにしろエカテリーナという猫獣人の少女は俺から離れないのだ。仕方が無いので父親が子供を抱くように、曲げた右腕に尻を乗せ、左腕で抱える。それにしても軽いな。マナより軽いぞこの子。


「ちゃんと食べさせて貰ってなかったみたいですね。」

「食べ物は人を従順にさせるからなあ。」

「まるで経験者みたいな口ぶりですね。」

「あ、いや。アレだから。その・・・。」


 返答に困っているとマギは笑った。


「冗談ですよ。そりにしてもエカテリーナはなかなか懐かない子だったんですけど、タロウさんにべったりですね。」

「友達の妹って言ってたけど、その友達に教えなくて良いの?」

「助けたことを伝えれば喜ぶかもしれませんが、それだとまた連れ去られる可能性も有りますので、今は黙っていようと思います。それに11歳にしては甘え過ぎなんですよ。エカテリーナは。」


 マナがうーうー唸ってます。俺の耳元で。

 しばらく家の前で待っていると、空からスーが降ってきた。俺の目の前で綺麗な着地を見せる。こうやって見るとやっぱり猫なんだなーって思ってしまう。パンチラじゃなくてパンモロだぞ。首輪は既に外したようだ。


「どうだった?」

「暗殺依頼は出てませんでしたが、世界樹の葉の依頼は出てました。」

「葉っぱを欲しがる人がいるって事?」

「そりゃーいるんじゃないですかねー。闇でも裏でも、普通に正規ギルドでもたまに出ますし。報酬額が700金でしたが、どうせ偽物しか出ないでしょう。」

「まー、本物が目の前(ここ)にいるしな。」

「お金くらいじゃ売らないわよ。」

「半分噛んでしまった葉ならまだ持ってますけど・・・。」

「まだもってたの?!」

「当然です。大切に保管してますよー。」


 流石だ。もう何も言えない。


「フレアリスさんは?」

「途中で追い抜きましたんでそろそろ来る頃です。」


 と、言ったソバからやって来た。仕事の時に来ている服のまま乱れた息で。


「ぽちーっ!」


 ビクンとした時には抱き付いてた。ポチの首元に顔を突っ込んでいる。ホントに好きなんだなあ・・・。しかも簡単に意思疎通できるしね。あっちの世界で飼い犬と会話出来たら楽しいだろうな?どうかな?

 フレアリスはポチの獣臭を堪能したあと、こちらを向いた。


「今日は何の用?」

「タロウさん達が狙われているかもしれないのでその相談に。」

「狙われてる?なんで?」


 女の子に気が付くと何故か感心したような表情になる。


「もうやっちゃったの?意外と手が早いわね。」


 買ったのではなく奪ってきたと思われたようだ。まずそこの説明からだよな。




 今日は雨が降っていないのでリビングだ。上を見ると僅かな光が零れているのが分かる。天井に何か所穴が開いてるんだ・・・。これ土魔法で塞げばいいんじゃないか?と思ったのだが実行はしなかった。椅子は二つしかないので袋の中から折り畳みの椅子を出す。こっちに来る前に買ったキャンプ用品が頑丈で助かる。今日は味付きの水をカップに注いだ。それを飲んだ事の無い二人の反応は誰の目から見ても明らかだ。


「こんなおいしい水ってあるんですか?!」

「太郎しか出せないけどね。」


 なんでマナがドヤ顔なんですか。


「こんなにおいしい水が資手(もとで)無しに無制限に作れるんなら大儲けできるわね。」

「無制限かどうかは判らないけど、酒樽ぐらいじゃ入らないのは確かだな。」

「それだけでも命が狙われる原因になりそうだけど?」

「これを知ってるのって数人だし、知っている人はみんな知り合いだし。」

「誰が知ってるの?」

「えーっと・・・ここに居るメンバー以外だと、フーリンさんと、ダンダイルさんと、ナナハルと・・・あぁ、あのグリフォンは知らなかったっけ?あと、シルバなんとか。」

「シルヴァニードは知ってると思うわよ。」


 太郎とマナの会話を聞いただけでフレアリスが昨日の時の様に目を丸くした。理解の限界が一瞬にして突破したようだ。


「フーリン様は当たり前として・・・ダンダイルって元魔王よね?いくら別大陸に住んでいたと言ってもそのくらい知ってるわよ。」

「あ、うん。そーらしいね。」

「軽く言うわね。」

「ダンダイルは私の友達だからねー。」


 マナがもっと軽く言うから、価値観が崩壊したついでにフレアリスの顔面も崩壊している。マギは知らないから助かっているようだが、俺の創り出した水を飲みながら頭の上にクエスチョンマークが三つぐらいありそうだな。


「グリフォンと出会って勝ったとかいう相手だった・・・迂闊だったわ。迂闊ついでにもう一つ確認するけどナナハルってミカボナナハルじゃないわよね?」

「そのナナハルさんですねー。」


 スーの口調も軽い。マナへのツッコミ役が減ってしまうではないか。


「あんたも知り合いなの?」

「名前しか知らないわよ・・・そういえばシルヴァニードってどこかで聞いた事のある名前ね。確か・・・どっかの町で知り合った兎獣人が見えなくなったけど私達の大切なお方とか言ってたような・・・。」


 町に住んでいる兎獣人はあの時の様な発情期が殆ど無いらしい・・・殆どって言うだけで危ない時もあるのか。今は関係ないな。


「生粋の兎獣人は昔から信仰してたから、今も魔王国の山奥に居るわよ。」

「え゛・・・まさか精霊の事じゃ?」

「その精霊よ。」

「モー何なのこの子達は?!」


 この子達呼ばわりしているが今はフレアリスの方が子供っぽく見える。


「あんた達の列挙した名前の人物集めたら国の一つや二つ崩壊するってレベルじゃないわよ!」

「もうちょっと力が戻れば私一人でも町一つくらい壊せるけど?」


 そんな事で対抗しなくて良いから。ね?


「ひょっとしてタロウも?」

「太郎さんの100%って今だったらここの城が崩壊しますねー。」

「え、流石に無理でしょ?」

「スーの言う通りよ。ちゃんとマナのコントロールとイメージが完成したらあの城と同じぐらいのゴーレムが造れるわね。」

「ゴーレムって以前失敗した泥人形だよね?」

「そうね。」


 口調が伝染(うつ)ってるよ?


「あんなに大きくなるもんなの?」

「術者のマナ量次第ね。大きい程コントロールが難しくなるけど見た目だけなら今でも造れるんじゃない?」

「ハリボテでもデカかったらビビるよなぁ・・・グリフォンもすげーでかかったし、今度やってみよっかな。」

「誰を相手に使うつもりなの?」

「・・・さぁ?」


 マギが会話に参加していないと思ったらポチと遊んでる・・・訳じゃなくて皿を片付けてたのか。大きい水瓶から柄杓のような道具で掬って洗い流している。


「マギは驚かないんだね?」

「凄いってくらいしか解りませんから。」


 なるほど。


「命が狙われても不思議じゃない事ばかりじゃない。良く生きてたわね。」


 運が良かったのか・・・という以前に知り合ってからまだ一年くらいしか経過していない。俺の方がまだ無名なんだから狙われる理由なんてある筈もないんだが・・・。

 小さな欠伸。


「あれ・・・おねーちゃん???」

「やっと起きたわね。」


 むくれるマナも可愛いぞ。俺にしがみ付くから視線が怖いよ。

 猫獣人の少女は見た目だけでも凄く可愛いのだが、声も凄く可愛い。まるでアニメのキャラクターの様な声だ。


「あ、あ、あの・・・。」


 腕に抱かれながら俺を見詰めるのだが、しがみ付く力が少し強くなると同時に顔を真っ赤にした。


「お、おにーさんになら・・・その・・・。」


 なんか嫌な予感がする。


「あんな人達とは違うみたいだし・・・エッチな事をしてもいいので大切にして下さい・・・。」


 そう言い切ると泣きながら俺の頬にキスをした。


「だーめー!」


 遂にマナがキレた。


「あんたはもう奴隷じゃないんだから自由にするの!」


 声が大きいから怖がってるぞ。


「うっ・・・うぇっ・・・す・・・棄てられるの?」


 マナが返答する前にエカテリーナは大声で泣きだした。すげー、耳がキンキンする。


「自由にするのを棄てられると思うって、だいぶ調教されちゃってるわね。」


 フレアリスは泣声なんて聞こえていないかのように平然としている。


「棄てられたら死ぬだけなんですよね・・・。」


 スーの声が悲しい。


「すてないから、すてないから。大丈夫だから・・・ね?」


 太郎の言葉に反応するように泣声が止む。これってエッチな事しないといけない流れなんてないよな?


「そ、そういえばこの子何歳だっけ?」

「11歳です。」


 犯罪だー?!?!


「私の事を買った人が新しい御主人様だと教わったので・・・。エッチなのは好きじゃないけど・・・それしか出来ないので・・・、・・・。」

「買う予定だった貴族の顔をぶん殴りたい気分だ。」

「太郎さん、思うだけにしてくださいねー。」

「あ、うん。もちろんだよ。」

「タロウさんが抱いているからそうなるんじゃないんですか?」


 マギの言葉はその通りだと思うのだが・・・。


「11歳にしてはもっと幼く見えるし体重も軽すぎるんだけど。」

「売られた時は9歳でした・・・。」

「食事で制限するのは調教の基本なのは解るけど、流石に酷いわね。」


 フレアリスの目が怖い。俺はそんな事しないぞー。


「しがみ付いて離れないんだけど、どうしよう?」

「その年齢で体重が軽いのは猫獣人にとってそれほど異常ではないですねー、私もそうでしたし。それ以上に幼く見えるのは珍しいですけど。」

「この首輪の所為かしら?」


 リードは外したが首輪の外し方が分からなかったので今も付けたままだ。


「あー、この首輪にマナを感じるわね。何かの封印に似た・・・。」

「成長を抑制する魔法なんてあるの?」

「封印魔法の一種だけど、無い事もないわ。」

「預かってもらおうと思ったけどこれじゃあダメだなあ・・・。」

「私に面倒事を(なす)り付けるつもりだったの?」

「お互い様では?」

「そ、そうね。」


 首輪を外すのに多少の魔力コントロールが必要だったが、マナはいとも簡単に外し、外したと同時に少女の空腹を知らせる音が響き渡った。フレアリスが食べる予定だった昨日の残りをエカテリーナが食べる事になったのは良いのだが、食べる時も俺にくっついているのでマナの圧力が半端ない。睨まれても平気で食べているのは俺にくっついているからだと、マナが説明したのは少女の食事が終わってからだった。






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