番外 マナの木の下に 後編
今日も番外編です。
いつもより長いです。
世界樹がこの世界に根を下ろしてから5000年程経過した。巨木の姿は更に大きくなり、世界樹は更に強いマナを集めていて、ついに神の領域に届く程になった。
そうなると世界樹は神様との交信を試みるようになり、それがいったいどういう魔法技術なのか説明できなかったが、大量のマナを消費している事だけはわかった。
スズキタ一族とフーリンが見守る中、ついに神様がやって来た。その姿は朧気ていて、霞のように薄かったが、ついに地上に現れた。
「やっときたわねー。」
「ん?あぁ、創造して以来の地上だな。」
世界樹と霞が何か会話している。
「あの世界樹様?」
「どしたの?」
「申し上げにくいのですが、本当に神様なのですか?」
「疑われるのも無理は無いな。」
霞から声が聞こえる。
「干渉する力は無いが、干渉させない力ならあるぞ。」
霞が揺れると、フーリンは身体が動けなくなった。恐怖だけではない、何か不思議な力によって。身体中から気持ち悪い程の汗が流れ出ている。十分に干渉しているような気がするがどこか違う。まるで死の淵に立たされているような。
「生物には必ず危険から身を守るための行動というモノが有る。それをちょっと突くだけでどんな生物も怯えるのだ。これで理解してもらえるかね?」
後日の事だが、この時に聞こえた声はみんな違っていて、フーリンには成人男性のように聞こえたというが、他の者達は老人の様な喋り方だったといい、世界樹様のように若い女性の様な声だったという者もいた。
怯えきったフーリンが何も言えずにいたが、急に身体が楽になると力なくその場に座り込んだ。こんな体験は初めてだった。
「あんまり私の友達をいじめないでくれる?」
「あーすまんすまん。で、なんで私をここに呼んだんだ?」
「私の友達を紹介したいからよ。」
「そんな事の為に呼んだのか?」
「もちろんそれだけじゃないわ。」
「ほう?」
「神様に文句を言う為よ!」
一同が驚いた。これだけのとんでもない存在に文句を言うなど、どうなるか分からない。やはり世界樹様はどこかおかしい。
「わかったわかった、私が悪かった。あの時は時間が無いと思ったからで、もう少しちゃんと教えてやればよかったとは思っていたのだ。それにしても私の領域にまで干渉するぐらいだから、かなり大きく・・・おぉ、これがあのマナの木か、ずいぶん育ったなー。」
「でしょー?でもまだ何か足りないのよねぇ。」
「ああ、なんか変な存在が荒らしまわっているようだ。」
「変な存在?」
「お前ほどじゃないがかなり強いマナを持った存在をどこかで見たんでけど、どこだったかなぁ?」
「それは・・・魔女の事ですか?」
フーリンがやっとの思いで声を出した。
「魔女?そんなの創った覚えは無いのだが・・・なんか勝手に色々と変化しているし、どうも他とは色々と違うようだ。」
他とはどこの事だろう?
「マナの流れを感じる。ふむ、この辺りはかなり安定しているな。なんか久しぶりに背伸びしたくなったぞ。」
「ゆっくりしていっても良いのよ?」
「それは無理だな。お主のマナがゴリゴリと削れておる。三日ほど私が滞在したら枯れてしまうかもしれんぞ。」
「世界樹って枯れるのですか?!」
「当然ではないか、植物だぞ。」
「じゃーどうしたら定期的に会えるの?」
「私に会いたいのか。そうか、まあ確かに母親であり父親であるからな。そんな感情を持つとは思わなかったが・・・私を呼び寄せられるのだからお前がその身体をわしの傍まで送ればよいではないか。」
「あー、なるほどねー。」
そんな魔法あるんですか、神様、世界樹様。
「その方がマナの消費も少なくて済むだろうに。無茶をしおって。」
「だって見せたかったんだもん。」
「そんな言い方まで覚えたか。そうか、人の姿をしている理由はそれか。もしかしてここに居る者達を愛しておるのか?」
「愛・・・そうね、愛してると思うわ。」
「ふーむ。まぁ、確かに人にしては優秀なようだな。そっちはドラゴンか・・・ちょっと違うな、人との間に生まれたのか。しかし、よくもこれだけ集まったモノだ。以前はシルヴァニードとも話をしておっただろ。今日は来ておらんのか?」
見ただけで私がドラゴンだと・・・しかもハーフだって・・・やっぱり神様なのね。
「あの子は来ていないけど、ちゃんと見ていたのね。」
「たまたま見ていただけだ。毎日観察しているわけではないぞ。こっちの時間軸で言うと数百年に一度くらいは見ている。・・・つもりだ。」
「もうちょっとちゃんと見てよー。」
「めんどくさいだろ。」
神様がめんどくさいって言った。めんどくさいって。神様なのに。あれ、世界樹様もめんどくさいって言うけど、まさか・・・。
「まぁ、長居しても他の者が怯えるし、私は帰るぞ。もうちょっとマナに余裕が出来たらいつでも会いに来るがいい。」
「うん、わかったー。またねー。」
霞が消えると、緊張も消えた。あれが神様なの?色々な宗教を見て来たけど、本物は違うわね。やはり紛い物の神様は信じられないわ。
「フーリン、どうしたの?」
「凄いとしか言えない自分がいます。」
「凄いの?ただの神様じゃない。」
「そう言えるのは世界樹様だけです。」
「じゃあ私も凄いの?」
「凄いです。」
スズキタ一族も今のこの日の出来事を色々な方法で書き記している。しかしそれが伝わる事は無かったが・・・。
暫くして、またもや来訪者だった。普段の旅人とは違うし、フーリンのような感じもしない。フーリンほどの強そうな感じもしなかったが、町の者が見ただけで怯えているのはフーリンの時とは違う。何者?
町をウロウロしている男に声をかける。
「あんた何してんの?」
「これはこれはお嬢さん・・・フーリンという女性がこの地に棲んでいると聞きまして、今度紹介したい人がいるからいつでも一人で来るように言われておりましてな、何処に居るか知らないかね?」
「あー、フーリンね。森に魔物が棲みついたからってさっき退治しに行ったけどすぐに戻ってくるわよ。」
「そうでしたか・・・。」
男が少女に妙な視線を向けた。汗がぼたぼたと滴る。
「あの・・・もしかして、世界樹様で?」
「そうよ、良く分かったわね。」
男はその場でひれ伏した。
「あ、わたくし魔王国の9代目魔王のダンダイルといいます。先ほどは失礼な言葉使いをして申し訳ありませんでした。」
「魔王って何?」
周囲を見渡して一人を捕まえる。
「フーリン様がおっしゃっていた新しい魔王だと思いますよ。ダンダイル魔王国になったのは数百年くらい前なので私は知らないですけど。」
「あー、そんな事あった・・・っけ?」
「とにかく一番偉い人なんです、私を引っ張り出さないで下さい。」
「もー、しょうがないわね。ほら、よしよし。」
魔王に近づくだけで酷い怯え方をするから、抱きしめてあげると落ち着きを取り戻した。なぜか知らないけどこうするとみんな嬉しそうになる。可愛いから?違うか。
「それにしても世界樹様が町の中をウロウロしているのですか?」
「暇だからねー。」
「世界の均衡を保っているのでは?」
「それは私が意図して行っているわけじゃないのよ、木が勝手にやってるの。木と私は同一の存在だけど、無意識に行っている事にはどうしようもないのよ。それより、あんたのその妙な雰囲気止めてくれない?私が無理やり抑え込んでもいいけど。」
「・・・魔王の癖でして。気を付けます。」
そう言うと周囲の張りつめた空気が緩和された。怯える人もいなくなり、普段通りの活動を始める。
「暇だし何か食べる?」
「よろしいので?」
「フーリンの友達なんでしょ。」
「友達・・・といえばそうなんですが、どちらかというと私の方が子分なので。」
「へー、それなりに強そうに見えるんだけどね。」
魔王の強さがそれなりとは一体。
「フーリン様は桁違いとまでは言いませんが、かなり強いお方です。昔はそれ程の力が有るとは思いませんでしたが、いつの間にか急成長しましたね。」
「私は強そうに見える?」
なんで可愛いポーズしたんですか。とは魔王の心の中。
「か、可愛いと思います。」
「あらー、良く分かってるじゃない!」
上機嫌で魔王の頭をぺちぺちと叩いている。止めて下さい世界樹様。その人を怒らせると国が滅亡ぶと言われているんですよ。とは、一族の心の中。
この町には今でも旅人が来るため、小さいながらも宿屋が有る。その中の更に小さな食堂では、腕自慢の料理人が世界樹に言われて料理をしていた。用意された水を丁寧に飲む魔王。
「ただの水なのに美味いですなー。」
「トレントもいるからね。」
「なるほどー。」
トレントが棲むと近くの水が綺麗になるという効果が有る。町の周囲を囲むように生えているトレント達は、この町になくてはならない存在の一つだ。たまに話もするし、スズキタ一族とも仲良くやっている。面倒な冒険者を追い返してもくれるが、トレント達よりも強い存在には効果が無いので、減らす程度だが。
「フーリンが魔王に挨拶させたいって昔から言ってたのよね。」
「前魔王は嫌がっていましたね。」
「なんで?」
「自分より強い存在を認めるのに抵抗が有るとか。」
「なにそれ。」
「一国の頂点に立つ魔王ですから矜持も有るのですよ。」
「めんどくさいわね。」
「確かに面倒ですな。」
「あんたは違うわね。」
「・・・最近、勇者と言う存在があちこちで荒らしまわっていましてね、我が国も被害を受けているのです。何度殺しても死なない存在で、面倒なことこの上ないのです。過去の魔王達は幾人かが苦労の果てに引退しましてね、仕方がなく私が魔王になったのですよ。他に候補者もいなかったというのも有りましたが。」
「一番ってやっぱり面倒なのね。」
「分かっていただけますか。」
「私のところにも勇者ってのが来て勝負を挑んできたことが有るわ。殺すのが嫌だったから草でぐるぐる巻きにして町の外に放り投げたけど。」
「フーリン様が会わせたい理由ってそれですかね?」
「どうなんだろう・・・。」
「過去にはあのドラゴンをたった一人で倒した者もいるくらいですしね。」
「へー、凄いじゃない。」
「ですがその後に魔女達に目を付けられて殺されたようです。それも大人数で呪殺ですからね。」
「いやな話ねー。」
会話が弾んでいるかどうかは別として、次々と料理が運ばれてくる。
「遠慮しなくていいわよ。」
魔王が食べる食事にしては質素に見える。盛られている皿も木製だ。
「まさかこの皿ってトレントの?」
「あんた良く分かるわね。役目を終えたトレントが差し出してきたのよ。」
「見た目は質素なのに・・・どれも高級品とは恐れ入ります。」
「そうなの?トレントなんてそこら辺りに居るから珍しくもなんともないけどね。」
美味しい料理に胃袋が満足した頃、フーリンが戻ってきた。世界樹様はまだ食べるんですか?
「世界樹様ただいまです。あらー、ダンダイルちゃん、やっと来たのね。」
マナが口をもぐもぐさせて何か言っている。多分「おかえり」といったのだろう。
「えぇ、暇を作れましたので三日ほどいるつもりです。」
「魔王ともなると大変ね。」
「本当ですよ。こんなに忙しいとは思いませんでした。」
「どう?世界樹様は。」
「・・・とても可愛らしいですね。」
にっこりしている。
「ダンダイルちゃんに変な知恵をつけさせましたね。」
「あ、いや、それだけではなく、果てしないマナを感じます。」
「でしょうね。私が威圧だけで動けなくなったし。」
ダンダイルがいつまでも食べている少女を不思議そうに眺めると、食べ物をこぼしていてだいぶ汚れていた。ハンカチを取り出して口を拭ったのはフーリンである。
「そんなにいっぺんに口の中に入れてもちゃんと味が判らないでしょう。」
「ほんなほほないわよ、ひゃんとおいひいひー。」
またこぼしている。
再び口の周りを拭って食事を終わらせると、コップの水を一気に飲み干した。それだけ食べた物はどこへ消えてるのですか。
「はー、久しぶりに食べたけどやっぱり美味しいわね。」
「・・・もう、変な事ばっかり覚えますね。」
「世界樹様ってこんな方だったのですか?」
「出会った頃はもう少ししっかりとしていたんだけど、なんか私と出会ってから変わったというか、妙に真面目なお姉さんだったり、急に甘えてくる妹みたいだったり、町の子供達と泥だらけになって遊んだり、私と魔法の勉強をしたり・・・でも、普段通りな時も有るのよ。」
「その普段を知りませんのですが。」
「フーリンだって寂しいとか言いながら私と一緒に寝てるくせによく言うわね。」
「そ、それは・・・言わないで下さいよぅ。」
「なんと、フーリン様が・・・半ベソで泣きつくとは。」
「そんなこと言ってません!」
「まぁ、大して変わらないわね。」
二人の笑い声がコダマした。
深夜にフーリンの別荘で3人が話をしている。実際に住んでいるわけではないのだが、本来の自宅よりこの町にある別荘の方が豪華なのだ。どれを見てもトレントの木でできているから驚きを隠せない。
「凄い場所ですね。」
「トレントがこれほどたくさん生えている森も珍しいから。」
「絶滅したと聞いていました。」
「シルヴァニードが持ってきたのよ。マンドラゴラも有ったでしょ。」
「あの噂の精霊ですか・・・マンドラゴラを塩漬けにしたモノなんて初めて食べましたよ。」
「最近だとまたマンドラゴラが採れなくなっているんだって?」
「えぇ、戦争が起きるたびに大量に消費されまして、生産が追い付いていないようです。」
「戦争ねぇ・・・人が人を殺して何が楽しいのやら。」
「大人しくしている魔女が妙に気になります。」
「魔女って今もその行方が分からないの?」
「見た目は普通の女性ですからね。マナを隠すのも巧いですし、普通の生活をしていたら街に溶け込んでしまうでしょう。」
「この町に来てほしくないから勇者と同じように居場所だけでも掴みたいのだけど。無理かしら?」
「申し訳ありませんが無理です。勇者は暴れるので分かり易いですが、魔女となると本当に存在するのかも怪しい部類ですし。」
「魔女ってそんなに気にするモノなの?」
「世界樹様はこの世界に魔法がどうしてできたかご存知ですか?」
「フーリンに教えて貰った事が有るような・・・。」
「魔法を生み出し、戦争に利用し、世界を混沌の渦どころか、死の淵にまで追いやった原因を作ったのが魔女ですぞ。」
「そう言えば5000年くらい前がそんな時代だったのよね。」
「そうです。我々ですらまだ産まれていない頃にすでに産まれていて、今もなお生きているという存在です。」
「ああ、そっか。あんたたち年下だもんね。」
「え、そうなんですか?」
「その5000年前に私が創られたのよ。」
「フーリン様より年上でしたか・・・そうは見えないですのに。」
「年齢なんて・・・どうせ私は死ぬことが無いから、今後もこのままなんだろうけどねー。」
「それが・・・なんですけど。」
「ん?」
「魔女が世界樹様を狙っているという情報が有るんです。なんでも世界樹様の枝や葉っぱを集めているらしくて、何か研究しているみたいなんですけど。」
「あー、フーリンが研究してたやつね。今でもやってるんだっけ。」
「マナの研究は続けていますよ。世界樹様に集まるマナと放出される波動など、色々と分かりましたが、その情報もどこかへ漏れているようなのです。」
「あの子達が喋ったという事?」
「というか、世界樹様もお隠しになられないじゃないですか。」
「まぁ、訊かれるとツイね。」
「・・・偽物の葉っぱも出回っているらしくて、ハンハルトのキャラバン隊が全滅したらしいのです。」
「なるほどねー。」
「周囲が森と山に囲まれているので世界樹様の姿を遠くから見るには空を飛ばなければなりませんが、私達の様な飛べる種族なら知らない者はいないくらい巨大です。多くの人達が世界樹様の存在を認識しています。それだけにいつ狙われるのか・・・。」
フーリンが心配する事件は翌日に発生した。魔女ではなかったが、行く手を阻むトレント達を根元から引き抜いて現れた勇者が、町で暴れまわっていた。スズキタ一族が優秀であるのは魔法の使い手としての能力で、それは勇者相手でもある程度発揮できた。
「この世の理を塗り替えようとする邪悪な木は切らねばならんのだ!邪魔をするのなら容赦はしないからな!」
たった一人で乗り込んで来た勇者が一族達の作り上げた組手魔法の罠にかかって吹き飛ばされたが、すぐに戻ってきた。いつもなら何度も追い返した挙句に諦めさせる手法だったのだがだが今日はあのダンダイルがいて、桁違いの魔力を放出していた。
「スズキタ一族がこれほど優秀なら兵士として雇いたいですなー。」
「ダメに決まってるでしょ。」
「わかってますぞ。しかし、見事な組手魔法です。10人によってあれほど綺麗に魔法が組み上げられるとは。」
「その昔大賢者と呼ばれる者がいたらしいから。優秀なのよ。」
「なるほど、あの勇者が困惑している様子。次は警戒してくるでしょうからそこを狙いましょう。」
あえて一族とは離れ、警戒して現れたところに仕掛けた組手魔法を見せて正面から来ると思わせたところを、横から強力な水魔法を叩きこむ。水で出来た大きい球体が勇者の身体を包むと、そのままはるか彼方へと飛ばした。マナの効果が切れれば球体は消えるだろうが、その頃には大陸の端まで移動しているだろう。殺してしまう事も可能だが、勇者は無制限にどこかで生き返る。そして、強くなって再び現れるのだから、出来る限り殺さずに吹き飛ばすという方針を採っている。
「暫くは戻ってこないでしょうし、勇者は何故か同じ場所に二人以上現れる事はありませんので、運が良ければ何十年も来ることはないでしょう。」
「なんともまあ、お見事ねー。」
「世界樹様に褒めていただいて光栄です。」
「それにしても私が邪悪な木だって。」
憤慨しているが、ぷんぷんって声に出さなくても。
「影響力が現れているのは認めますが、それをどうしたら邪悪だと言い切れるのか・・・やはりどこかで魔女が関わっているとしか思えませんなあ。」
「なんで私が狙われるのよ。」
「魔女が一番強いと恐れられていた時代が終わりそうだからじゃないですかね。」
「一番・・・。」
「自分の能力を超える能力を持つ者が現れたら、死ぬまで待つか、排除するか、とにかくその存在が消えないと困る訳ですから、なにかをする都度に障害となります。それが世界樹様だと解っているのなら、いましばらくは直接手を出さないでしょう。強さを測り確実に勝つ方法を探すと思われます。」
「私に勝つ、私が負ける?どんな方法で・・・。」
「どんな方法が有るのかは私には分かりません。ですが、勇者が頻繁に現れるようでしたら、なにかを掴んでいる可能性も・・・。」
それ以上は解らない。どんなに考えても推測に過ぎず、正解を導き出すには情報が足りないのだから。予定通りダンダイルは魔王国に帰った後も、勇者は暫く現れず、平和な日々を過ごしていた。
それからもしばらくは戦争と平和な日々を繰り返していたが、近年は各地で戦争による飢餓が進み、唯一平和な世界樹の周りにも火の粉が飛ぶようになった。だからといって世界樹に逃げる場所などない。この姿では移動も出来ないからだ。安全な場所というのは狙われる。魔王国では世界樹周辺への他国の侵入を防ごうとしていたが、それも限界に近い。ハンハルトにも協力してもらってはいるが、ハンハルトが裏切る可能性も捨てきれず、ガーデンブルクと三つ巴の状態での戦争は続いた。
そして、ついにあの日がやって来た。その日の世界樹は自分の木の枝に座り報告を待っている。その姿を視界におさめると腕を伸ばした。
「せかいじゅさまー。」
「おかえり。どうだった?」
「もの凄い数のドラゴンです。もう逃げて良いですか?」
「いいわよ。ありがとうね。」
腕にとまっている鳥が世界樹の頬に頭を擦り付ける。
「早く行きなさい。」
寂しそうに飛び立つ鳥は、ドラゴンの来る方向とは真逆へと姿を消す。
巨大過ぎる大木が彼らにとって目障りな存在と認識された時、フーリンが慌てて教えてくれたのだ。シルヴァニードも逃げる事を勧めてきたが私はここから動くことなど出来ない。もし動けるとしたら、それは私が燃え尽きる事なく身体をどこかに持ち去ってくれる人がいなければならない。
「世界樹様!」
「フーリンは逃げないの?」
「一族の子供は魔王国やハンハルトに逃がしましたが大人は残っています。」
「・・・しょうがない子達ね、勝ち目なんてないのに。」
遠くを見ると幾つもの小さな点が空に浮かんでいる。空に浮かぶ100体以上のドラゴンがここに到着するのに一時間もかからない程度の距離だ。根元に降りた世界樹の周りには500人近い男女がいて、武器を手に取る無意味さを理解した彼らが強力な組手魔法を構築していた。人として作り上げるには今まで見た事が無いとフーリンが言うくらいの見事な魔法らしいが、それでも世界樹の魔法力の足元にも及ばない。
彼らは何故か恐怖心が殆ど無かった。負けることは死ぬことだと理解している筈なのだが、それが世界樹の影響力であることをフーリンが強く説明して説得した上で彼らは残ったのだ。
「シルヴァニードはこなかったわね。」
「多分、邪魔されているのでしょう。」
「フーリンも逃げて良いのよ。」
「世界樹様が居る限り私はここに居ます。」
「そんなに気を張らなくてもいいのに。ほら、なでなで。」
一族の視線が集中する。思いのほか恥ずかしく感じて、フーリンは初心な少女のように顔を赤くした。
約一時間後、ドラゴン達が組手魔法の罠にかかって墜落している。意外にも驚く効果を発揮していたが、物理的なダメージは殆ど無く、直ぐに復帰してくる。
「スズキタ一族ってこんなに凄かったんですね。」
「ドラゴン一匹だったら撃退したかもねぇ。」
フーリンがドラゴンの姿に変わると、強力な炎がドラゴン達に襲い掛かったが最初から吐き出す炎の数が違い過ぎて、一瞬にして劣勢になった。だがフーリンのところまで相手の炎は届かない。
足元にはこれも構築された組手魔法で水柱が何本も打ちあがった。それがドラゴン達の炎を打ち消したのだ。世界樹が巨木に巻き付く蔓を無限に伸ばしてドラゴン達に襲い掛かった。炎を浴びても燃える事の無い蔓がドラゴン達の身体に巻き付き落下させる。ドラゴン達は爪で蔓を切り裂き、さらに多くの炎を吐き出してきた。最初は協力した様子はなかったドラゴン達が、今は力を合わせて炎を吐き出し、組手魔法の効果が消えると一気に劣勢となった。
勝負なんてものはそこに存在しなかった。
炎は森を燃やし、トレント達を燃やし、町を燃やし、炎が世界樹達の目の前まで迫った。
「一方的ね。やっぱりちゃんと・・・あれ?」
炎に包まれると思っていたのだが、逃げたはずの子供達が幾人か戻ってきていて世界樹のすぐ近くまでやって来た。なけなしの魔法でマナの身体にまとわりつく火の粉を消している。
「なんで戻ってきたの?!」
「僕たちだって役に立ちたいもん!」
問答する暇は与えられず、一族の身体が炎に包まれそうになった時、世界樹が巨大な水の半球を作り彼らを守った。
「世界樹様。この子達を逃がす余裕がありません。」
「もう、仕方がないわね。」
マナが途切れて魔法の効果が切れる。各自が自力で魔法の壁を作って身を守っているが、ついに巨木の枝に炎が移ると、一気に燃え上がった。
マナが途切れたのはこの子達を逃がす為だったのだが、その為には私も行かなければならない。残りのマナをすべてこの子達の為に。
「フーリンごめんね、私はこの子達を・・・。」
フーリンが追い求めた姿は声だけしかなく、周囲が炎に包まれ、ドラゴンだからこそ生きているフーリンだけが炎の中を歩いてその姿を探した。地面をえぐるように落ちてくる火球は世界樹の根も燃やしていて、骨まで燃える一族の姿に怒りと悲しみと無力感だけが残っていた。
―――そして世界樹は町と一族と共に消滅した。
一族が逃げ延びた場所は真っ白い場所。神様が驚いているのも当然だろう。私の姿は霞のように消えかかっている。説明すると頷いてくれた。
「ふむ。彼らにはそちらの世界でマナの木の管理してもらうとしよう。しかしほとんどマナの無い世界ただからいつ戻れるか分からないぞ。」
「いつでも戻れるようにマナの結界を作っておくわ。」
「そんな事をしたらさらに戻りにくくなるぞ。」
「確実に戻ってこれる手段が無いのでしょ?仕方が無いのよ。」
「そうだな。その結界はわしが作ろう。そうすれば少しはマシだろう。」
「いいの?」
「それに子供のまま知らない世界に送り出すことも出来んし、行けば会話をすることも困難になる。少しは連れてきた責任も考えるのだ。」
「そ、そうね。」
「私はマナの木を創った責任を果たすだけだ。」
「あ、なるほど。」
連れてこられた子供達は戸惑っているが、神様の勧めで新しい世界の勉強をすることになった。マナの木が喋れなくなる事が一番の問題で、この子達には再び力を取り戻すまでの間守り続けてもらわねばならないのだから、一番の責任をマナの木によって押し付けられたことになる。
彼らは守り続けた。あの男が現れる日まで、知らない世界で子々孫々と守って約束を果たしたのだった。
世界樹メインの話でしたが、全て記憶しているようで、結構忘れています。
本編とはちょっと違う事を言っている事も有るかもしれませんが、基本はココにあります。
俺が忘れてる場合は指摘してくれると嬉しいです\(^o^)/
宜しくお願いしますm(_"_)m




