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第62話 禁忌魔法

 楽しい食事を終えて、のんびりしていると、片付けていた筈のナナハルがいつの間にか戻ってきた。食事も終わらせていて、懐かしい香りのする飲み物を出してくれた。


「精進料理にお茶なんて、昔が懐かしいな。」

「精進料理を知っておるのか。」

「肉を使わない料理ですよね?」

「・・・元々は修行者が精神を鍛えるのに四つ足を禁じたことからつくられたのじゃが・・・おなじかえ?」

「さぁ・・・どうだったかな。何かの戒律だったような気もするけど、由来は知らないです。」

「ふむ。・・・戒律。・・・戒律。そうじゃ、戒律と言えばお主、神気魔法をどれだけ使っておるのじゃ?」

「普段は・・・特に使ってないです。使えると言っても水が沢山出るくらいなので、湯船に水を溜めるのに使いますね。ちゃんとしたゴーレムは造れません。」

「なんじゃ、全て使えるわけではないのか。」

「多分イメージ力不足だと思います。ちゃんとしたイメージが作れれば酒だって出ると思うんですけど。」

「ゴーレムが完全に造れるようになったらお主一人で軍隊とも戦えるの。」


 それに対する以下の反応がこれ。


「すでに沢山の兵士を水に流したわね。」

「洞窟に棲む魔物退治で洞窟ごと水没させましたよねー。」

「火のように燃える地面を食い止めてたな。」


 聞けば聞くほどナナハルの目がまん丸くなる。


「お主、人間か?」

「ははは・・・。」

「・・・まあ、解っているとは思うが、勧善懲悪のような物語が通用する事など無い。力の有る者が良いように時代や歴史を作って来たのじゃ。だからこそ、お主の能力は恐ろしい。お主が正しいと思ってとった行動が、結果的に多くの敵を作る事にもなりかねん。わらわも神気魔法ほどではないが禁忌魔法を使える。」


 そう言って袖から取り出したマッチ箱ほどの小さな物がつづらと言えるほど大きくなった。


「圧縮魔法ね。」

「これはかなり恐ろしい魔法じゃ。どんなモノでも圧縮して小さくしてしまえば、手ブラと変わらずに運べる。」


 スーや俺が持っている袋は無制限に物が入る。誰かが作った魔法の袋だが、袋の口より大きい物を詰めることは出来ない。ましてや一般的に存在しているのはスーの持っている小さなタイプで、軍隊で利用されていても不思議ではないが、鎧甲冑は入らないのだから、あまり役には立たない。薬や保存食を入れるくらいで、入れるにしたって資金が無ければそれだけの量を買えない。水を大量に入れて干上がらせることも可能なのだが、そんな事をすればすぐにバレる。袋の値段もとても高く、持っている事を知られると狙われる事も有るので、実力なり権力なり、それなりの自信がないと所持する事が危険なのである。

 圧縮魔法は大きさを無制限に縮小可能で、元の大きさにも戻せるが、本来の大きさより大きくすることは不可能だ。巨大な帆船だろうがお城だろうが、ポケットに入るサイズまで小さくし、重さまで変化するのだから、悪事に使うつもりなら何でも出来てしまいそうな恐ろしい魔法である。

 ただし、圧縮魔法が使用可能な者はほとんどおらず、マリアは空気を圧縮して放つ道具を作っているが、それは魔法と関係なく作れるため、結果として圧縮魔法の研究をほぼ諦めている。


「禁忌とされるだけの理由は必ずあるのじゃ。他にも瞬間移動(テレポート)や一部の勇者が使用可能な天変地異レベルの天候魔法、圧縮魔法の亜種の空間魔法もそうじゃ。空間魔法や圧縮魔法は一度発動してしまえば効果が残り続けるゆえ・・・道具入れなどに利用されておるが、どこで誰が作っておるのかは知らぬのう。まぁ、袋の口が大きいほど強力な魔力を必要とするらしいから、誰でも簡単に作れるわけではないが、流通しておるくらいじゃからどこかに制作者がおるはずじゃ。」

「圧縮して私の持っている袋にいれたら・・・恐ろしい事になりますね。」


 ナナハルはスーがその袋を持っているのに気付いていたのだろう。太郎の方の袋にはまだ気が付いていない。


「禁忌魔法を使い続ければどこかに歪みが発生するはず。世界の均衡が崩れるのを防ぐ何かが現れるという・・・まぁ、それが世界樹の事なのだろうと思っていたのだが、勇者や魔女は今でも破壊活動を繰り返しておるし、禁忌魔法が使えるのはわらわと勇者と・・・お主以外知らぬしな。」


 今しがたの新たな情報として太郎がサラッと加えられている。神気も禁忌も危険なのに変わりはない。


「わらわは魔法の使用自体がマナの量に依存しているからこそ、均衡が保たれていると考えている。実際そうでもなければもっと世界は歪んでいた筈じゃ。水で溢れたり、大地が枯れ果てたり、山も海も消えていたと思う・・・。のじゃ。」


 なんで語尾に付け足したんだ?


「魔法が使われる世の中になる前は、誰一人として魔法を使う事は無かったんですかね?」

「聞いた話じゃが、わらわの地方では魔法とは言わずに神通力と呼んでおったの。」

「今みたいに魔法を使うのが普通の状態になる前からも魔法のようなことは出来たんですかね。」

「呼吸するように魔法を使う訳じゃないが、それに近い状態にはなるじゃろうな。その所為というかわからんが、わらわが若いころ普人の女子(おなご)にえらい酷い目におうたのう・・・。」

「ん?あんたの若い頃なら既に魔法って確立してたんじゃないの。」

「わらわが魔法と言うようになったのはこの大陸に来てからじゃ。今でもあそこでは魔法と言わないのではないかな。」

「神通力の使い手ですか。」

「そうじゃ。確か・・・ヒミコと自称していたような・・・狐火を操り、わらわ達を敵とみなして20年くらい戦ったかのう。」

「勝ったの?」

「当り前じゃ。・・・と言いたいところなんじゃが、ヒミコが死んで勝手に消滅したのじゃ。神気魔法を操る者は長生きすると聞いておったが、あっさり寿命で逝きおったから、多分勇者だったのだろうと思う。」

「長生きする?」

「そうじゃ。神気魔法の使い手は普人であっても千年ぐらいは生きている筈じゃ。」

「俺もそんなに長生きするのか・・・な?」

「それは解らぬ。勇者であればいずれその能力は失われるから判別可能じゃが、神気魔法を使う者に直接会ったのは初めてじゃ。この世界でもわずか数人しかおらぬ・・・はずじゃしのう・・・。」


 ナナハルが小さく息を吐いて、冷めきったお茶を飲み干した。


「あぁ、済まぬ。これほど話をするのは久しぶりじゃてな、少し疲れてしまったのじゃよ。」


 マナと俺は同じようにお茶を飲んでいるが、スーとポチは飲んでいない。ポチの場合は興味なさそうに俺の横で丸くなっているからなのだが。


「スーはこれ苦手?」

「はい・・・すみません。ちょっと苦くて。」

「まぁ、飲みなれてないとそんなもんかな。」


 俺もなんとなくお茶をすすっている。世界的規模で影響の出る魔法を使っている自覚が有ったのかと問われれば、無かったとしか言えない。責任感とか重圧とか、考える事はあっても、そこまで影響が有るほど強力な魔法が使えるのかどうかの疑問も残るからだ。




 暫く無音の時が流れる。和風の家なんて久しぶりだから、畳の匂いが心を落ち着かせてくれる。気が付けばマナはポチを枕に寝転がっていて、スーは武具の手入れをしている。長い旅の所為で服も破れているし、靴にもいろいろと傷が残っていた。

 すっかりと暗くなった部屋に、ナナハルが行燈を灯す。


「風呂は期待して良いかの?」

「すぐ入れますよ。」


 余裕で全員が入れる広い檜風呂で、ちゃんと脱衣所も有る。本来なら何度も往復して浴槽に水を溜め、薪で湯を沸かすのだが、太郎がいるので不要な工程だ。

 掌からお湯を出す光景を見ていたナナハルは、スーと太郎の驚きを無視して服を脱ぐ。


「私達と一緒に入るんですか?!」

「俺達と一緒に入るんですか?!」


 ポチも全裸のマナを背に乗せて浴室に入るが、こちらは誰も驚かない。


「たろー、ポチにお湯かけてー。」

「あ、あぁ。」


 この世界では意外と貴重品だった石鹸を渡し、サバ―っとかける。ポチは身体をプルプルさせるのを我慢していて、マナがポチの身体に石鹸を擦り付けると白い泡にならず黒く濁った液体になった。


「結構汚れたなー。」


 もう一度お湯をかけて石鹸を洗い流してもう一度同じことをする。今度は白い泡になった。マナが楽しそうにポチの身体を洗っていて、何故かその横ではナナハルがちょこんと座っていて、少し恥ずかしそうに俺の顔を見上げていた。


「わ、わらわにも、その、ザバーってやつやってくれぬか。」


 裸を見られるのが恥ずかしいワケではないようで、頭の上からお湯が出てくるのを待っている。そんなに物欲しそうにしなくても・・・。


「おー、これは凄い。凄いのう。」


 背中からモフっと飛び出てきた・・・沢山の尻尾?


「こんな贅沢は久しぶりじゃ~。」

「ナナハルさんって九尾だったんですね。」

「そうじゃよ。妖狐と一括りで呼ばれておるがの。」

「凄い尻尾だー。」


 マナがポチの身体を洗い終えたらしく、今度はナナハルの尻尾に飛び付いた。石鹸を擦り付けると泡がもこもこと凄い事になった。

 片手でポチにお湯をかけて再び洗い流していると、更にもう一人が、頬を僅かに膨らませ、ちょっと涙目で座って待っている。


「太郎さん。私のこと忘れてないですよね!」


 ザバーン。


 スーにも尻尾は有るが、見慣れているのでマナの興味は惹かない。自分で水を湿らせた手ぬぐいに石鹸を擦り付けて身体を洗う。スーとナナハルが自分の身体を洗い始めると、ポチが綺麗になったのを確認してから俺の腕を引っ張ってきた。


「洗って!」


 マナの身体は洗う必要があまりない。確かに汚れたりはするが、臭くなったりはしないし、肌の色も綺麗だ。マナは自分の身体が泡に包まれるのが楽しいようで、泡を作って遊んでいる。遊んでいるだけで自分では洗わない。


「お主は幼児趣味なのか?」


 マナの身体を洗っている俺に向けられた一言は、それほど胸に深く突き刺さったわけではないが、せっかく成長した身体が小さくなっていて、今のマナは5~6歳くらいにしか見えない。

 全員の泡を洗い流して、やっと自分の番が・・・あれ、なんで三人に囲まれてるの。


「太郎の身体洗ってあげるね!」

「太郎さんの身体洗いますねー。」

「お主の身体を洗ってやろう。」


 あれ、なんで一瞬火花が見えたんだ。何かの錯覚かな。二人の目が怖いよ?こんなの絶対おかしいよ!アーッ!!






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