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第57話 あまえんぼう

 巻き付かれた蔓から逃れられなくなったグリフォンが、もがき苦しんでいる。そしてしばらくすると動かなくなった。


「わかった。我の負けを認めるからほどいてくれ。」


 太郎が抱きしめていた両腕を離すと魔力の供給が途切れ、蔓はあっという間になくなった。周囲の草木が茂ったまま残っているのは太郎なのか世界樹なのか、どちらの能力(ちから)なのだろう?


「そのままだと会話もしにくいし、姿とか変えられない?」


 すると、姿が一気に萎んでいく。小さくなったので少し離れたところに居るが、あれはどう見ても女性というか、少女というか・・・マナより小さい子供に見えた。胸の大きさは比較にならなかったが。

 太郎達が歩いて近づくと、(いろ)っぽい衣装に身を包んだ少女が仰向けに転がった。


「なんで大の字にころがってるの?」

「我を殺すつもりであろう!好きにするが良い。」

「殺すつもりなんてないけど・・・。」

「こいつ俺より小さくなったぞ。」

「変わった服ですね。」


 それぞれが言いたい事を言っていてまとまらないので、当初の目的であるハンハルトへの移動を手伝ってもらう話をする。


「本気で我を従わせたいのか・・・しかし、ドラゴンとの約束も有るし・・・。」

「ドラゴンかあ・・・ちょっと怖いけど見たくなってきた。」


 一度遠くから眺めた事は有るが、その時のドラゴンの姿は遠すぎてはっきりしない。


「でーすーかーらー、勘弁してくださいよー。」


 スーが本気で嫌がっているので改めて話を戻す。砦を馬鹿正直に通過する必要はない。ハンハルトに行ければいいのだから、少し離れたところを通過して国境を越えられればいい。


「それは構わないが、我としてはあの大砲を破壊したい。お主ほどの能力が有るのなら簡単であろう。」

「そもそもどんな大砲なの?」

「わからん。」

「え?」

「砦が小さいんだから、大砲もそんなに大きい物じゃないんだろうけど・・・。」

「その姿になって近づけばよかったのでは?」

「なんで自分より弱い相手にこの姿をさらけなければならんのだ。」


 小さくなってもやっぱり態度はデカい。いつまでも寝転がっているのは何でだろう?


「元々砦などに興味は無かったのだが、あヤツらがなあ。」

「そんなに嫌がらせみたいなことをしてくるの?」

「いや、我が砦に近づかなければ何もしてこない。」

「・・・はぁ。」


 それにしても人の姿には違いないが、尻尾は付いているし翼も有る。着ている服もスケスケで巻き付けているだけのローブの様だ。隠れていると言えば隠れているが、着ていない方がマシとも言えそうな煽情(セックスアピール)的な衣装を着ている。髪留めや服を留めている金具は金の様にキラキラと美しい装飾が施されていた。


「なんだ?我の身体に興味が有るのか?」


 なぜかニヤリと笑ってから立ち上がる。身長は今のマナといい勝負だ。それにしてもなんつーエロい見た目なのだろう。ロリ巨乳なんてずるい。


「いててっ。」


 スーとマナにお尻を抓られた。まさか同時にしてくるとは。


「我に勝ったのだからそっちが目的ならば相手してやっても良いぞ?我を造った者にも時折処理しておったからな。それとも契るか?」


「ダメー。」

「ダメですー。」


 両方から抱き付かれた。急にモテモテになった気分だ。その光景を見ていたポチがつまらなさそうに欠伸をする。さっきまでの戦闘は何だったんだ。処理とか契るとかはあえて無視する。


「まあ、とにかく砦まで行ってみよう。まだ遠いんでしょ?」

「飛べば二日程だ。」

「結構遠いな。」

「歩けば7日から10日ぐらいかかるぞ。何しろちゃんとした道も無いから。」

「ハンハルトに繋がる街道(みち)なんでしょ?」

「もちろんそうだ。」


 そう言いながらも近寄ってくるので、マナとスーが俺を押さえつけるように抱きしめる力が強くなった。何にもしないからやめてもらえないかな?


「お主は良い波動を持っておるな。我のように相手を怯えさせるだけの波動など不要なのだが。」

「意味も無く威圧してると敵が増えるだけだもんね。」

「うむ。」


 表情は少し曇り、意外にも自分の能力を持て余している事に悩んでいるようで、強いと言っても自分より強い者の存在を知った事でもっとひっそりと暮らしたいような感じだった。


「その威圧は弱く出来ないの?」

「可能だが、この姿で威圧を弱めると・・・まあお主には意味はなさそうだな。」

「?」

「本来なら獣人やケルベロス程度が我に近づくことなど敵わぬ。普通は泡を吹いて気絶しておるだろうな。」

「太郎さんがいるから。」

「ふむ。お主は普人ではないな。普人の姿をした何かだな。」

「まあ、否定はしない。」

「変わったやつだな。」


 グリフォンが抱き付いている二人を邪魔者のような目で見ている。勿論そんな事では離れる筈もない。


「太郎とやらの力は認めたが他はおまけだ。」


 睨み付けられるとスーは身体をガタガタと震わせた。本気で怯えているのが良く分かる。マナの方は平然としているが完全に力負けしていて、近寄ってくるロリ巨乳(グリフォン)に何も出来ずにいる。ポチ?恐がって少し離れたところに移動したよ。


「太郎に何する気よ?」

「我だってこの波動を肌で感じたいぞ・・・初めて感じるこの心地よさはたまらんのだ。」


 魔力でも腕力でも完全に負けている二人の身体が太郎から自然と離れて行くように見えたが、どうも意志とは反する行動をさせられているらしい。一瞬の隙を作ったところで巨乳が太郎に飛び込んできた。


「たろー!」

「たろーさーん!」


 二人の叫びも虚しく、太郎の周りには見えない結界が張られ、しかも真っ白いモヤによって姿が見えなくなった。中で何が起きているのかは全く分からず、声も聞こえない。




 胸が少し邪魔じゃないかと思うぐらいに接近していて、不思議な空間の中で太郎は抱き付かれていた。その目は父親に甘える娘のようだった。


「やはり不思議な男だ。こんなに気分が良いのは何百年ぶりか・・・。」

「本当は甘える相手が欲しかったんだよね?」

「うむ。」

「ずっと独りで生きてきたんでしょ。」

「う・・・うん。」

「主とか、強いとか、忘れて生きる場所が欲しかったんだろうに。」

「なんでそこまでわかるのだ・・・。」

「だって怯えて生きてきたんでしょ。誰だって安住の地って欲しいと思うからね。」

「我より若いのにか?」

「ん~、独りで生きるって誰からの知恵も借りれないけど、俺達みたいに弱い生き物は多くの力を借りて生きてきたんだよ。先人の知恵もそうだし、弱いからこそ知恵を出し合って生きるんだ。」

「お主が弱いのなら我はもっと弱いのだ。いつ死ぬのかもわからぬ身ではとても辛くてな。」


 造られた生物とは寿命が不明だ。それは当然のことで、自分以外の存在を持って証明する事が不可能なのだから、その事だけでも不安だろうに、彼女を作ったものはこの世に存在せず、多くの人々に忌み嫌われて移住してきたのだ。本来は彼女が守るべき存在だった者達に・・・。




 暫く無言でいると、結界が解けて周囲が見えるようになった。スーとマナが俺の姿を見てホッとしている。俺の腕の中ではロリ巨乳(グリフォン)が満足そうに寝ていた。


「完全に寝てる・・・。」


 彼女にとっての安住の地は俺だという事だ。それは二人の羨ましそうな表情を見たら納得するしかない。しかし質量はどうなってんだろうな。あんなにデカかった姿が今は小さく、誰にも見せたことが無いであろう寝顔も無防備に見せている。


「やっぱ、太郎はロリ巨乳が良いの?!」

「そ、そんなことはないけど・・・素直な子がいいかなあ。」


 マナが頬をぷくっと膨らませた。カワイイ。

 スーも頬をぷーっと膨らませた。可愛い。

 俺が悪かった、勘弁して。

 

「とりあえず、しばらく休憩しよう。俺も結構疲れたし。」

「あ、うん。それは良いけど・・・私の特等席なのにー。」

「・・・威圧を全く感じませんね。寝ているからなんでしょうか?」


 本当は何か別の事を言いたかったスーは、別の疑問を俺に投げてきた。


「抱いてるから分かるけど多少は出てるよ。ほんのわずかだけどね。完全に威圧を消すのは無理なように出来てるんだろうな。見た目は人っぽくなっても、これじゃ子供は怖がるだろうよ。」


 この時の太郎の表情の優しさは誰の父親という訳でもないが、父性を感じる温かさが有った。そして同時に寂しさも感じた。




 昼過ぎ頃まで休憩し、軽い食事を摂りながら出発する。もう干し肉ぐらいしかない。


「ふかふかの絨毯の上で食事してるみたいで、なんか贅沢ね。」

「意外に揺れないしな。」

「風もほとんど感じませんねー。」

「風をそれほど感じないのはグリフォンのおかげみたいだな。」


 今、グリフォンの背に乗って移動している。3階建てアパートの屋上に上がった事は有るが、それ以上に高い。乗るにしても魔法で浮かんで背中まで移動する必要が有り、実際に乗ると大きさの異常さが良く分かる。こんなに目立つ姿をしていたらもっと広範囲に噂が広まっていても不思議じゃないだろう。


「でも、グリフォンってあんまり知られていないよね?」

「私もフーリンに教えてもらわなかったら知らなかったわ。棲んでる場所も知らなかったし。」

「この土地に棲んで何年くらいなんだろ?」


 突然頭の奥から声が聞こえる。テレパシーってこんな感じなのだろうか?何故か耳の裏側がひくひくする。


「(多分・・・300年位だ。)」


 みんな同様に聞こえたらしく、スーとポチが周りをキョロキョロしていた。


「300年位前って言うとコルドーと同じくらいですかねー?」

「(人々が集まって街を造り始める少し前だ。その頃は魔物くらいしかいなかったのだがな・・・。)」

「まあ森の中だし、その頃この世界にいなかったし。」

「(いなかった?)」

「まーね。でも私の存在が無かったのに、世界樹の味方にならない事も条件にされてたのよね?」

「(ああ。)」

「私が消えた後も私の事を守り続けていた存在が有ったの?」

「(シルヴァニードという奴が必ず戻ってくると信じている・・・と言っておったな。正しい意味での風の噂程度だがな。元々中立というか・・・戦いに飽き飽きしていたから敵にも味方にも成る気など無かったんだが。)」

「あの子はそんな事もしてたのね。」

「ドラゴンが怖かったと。」

「(仕方がないだろ!我と同等か、それ以上に強い者達に囲まれては何も出来ぬ。)」

バカ女(魔女)が作ったドラゴン包囲網はまだ残ってたんだ・・・ホントにやな奴!」

「(復活すれば奴らにとっても面倒なのだろう?それに、生き残りのナントカ一族ってのが、活躍していたらしい。もし来ても相手にしないように言われたが、そっちは一人も来なかったな。)」

「あー、スズキタ一族は・・・もう一人しか残ってないモノね。」


 こちらの世界で残っているのが俺一人という事だ。もちろんあっちの世界にはまだ父親が・・・生きてるのかな?どーでもいいか。

 この世界でのスズキタ一族は血統を守り抜く事が出来ずに途絶えている。いわゆる純血の普人という事で、他の種族との間に生まれたハーフやクオーターなら、存在している筈だとおもう。何処に行ったのか全く手掛かりは無いが。


 この時の俺達は魔女に追われている事などすっかり忘れていて、空の旅を楽しんでいた。






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