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第54話 国境へ

 そんな暇もないのだが、陽が暮れると辺り一面は真っ暗闇で、スーとポチは歩くのに苦労はしないが、俺は数歩先すらまともに見えず、何度か転びそうになった。飛んで行きたいところだが、スーとポチは疲労とマナ不足が重なり、結局はキャンプをすることにした。しっかりと休んだ方が次の日にちゃんと動けると言うことだ。

簡易テントを木と木の間の隙間に設置し、三人と一匹が身を寄せ合っている。食べ物はスズキタ一族の村へ向かった時に用意した干し肉がまだ残っていて、ポリポリと食べているが、先の事を考えると心許ない。

 ここまで長い移動をするとは思っていなかったスーは、少しくらい食糧を買えばよかったと後悔している。実際そんな暇が有ったのは町で情報を集めていた時ぐらいで、それも目立つような行動は控えていたから、買い物をすることも無かった。


「国境の警備ってどのくらい人がいるんだろうな。」

「ハンハルトとは戦争していませんけど、それなりの人数はいると思いますよー。少なくとも50人はいると思います。ガーデンブルク側に国境警備の必要はないみたいでしたけど。」


 予想と経験を混ぜて答える。


「50人って少ないのか多いのか分からないわね。」

「少なく見積もって・・・ですから、倍以上いても不思議ではないです。特に環境も厳しい場所ですし、この森を抜けたら荒れた大地がしばらく続きます。実際に来たことはありませんけど、これでも元冒険者でしたから。」


 土地の情報は調べてあるという事か。


「そう言えば怪鳥類がいるって言ってたけど、どんなもんなの?」

「魔物の情報はあんまりないですね。何しろ殆どの人が近づかない場所ですし。噂ではかなりの大きな猛禽類が魔物や人を問わず襲っているらしいです。あと、変わった建物があるって言うのも聞きました。」

「建物?」

「あくまで噂ですよー。・・・妖狐がいるらしいです。」

「妖怪化した狐の事でいいのかな?」

「ですねー。ポチさんにとっては天敵かもしれません。」

「ヨウコなんて聞いた事ないな。」

「そうなんですか?」

「何しろ産まれて半年足らずで死別したから、必要な事も教わってない。」

「あ・・・。」


 ポチがスーの顔に肉球を押し付ける。狭いから簡単に届く距離で、気にするなという事を行動で示したが、正しく伝わったかどうかは定かではない。


「俺は今の方が良い。」


 いや、その熱い視線を俺に向けられても。


「警備隊の砦を迂回するのはダメかな?」

「迂回ルートを知ってるの?」


 マナの素朴な疑問で期待は消えた。無駄に遠回りして魔物に襲われるのも嫌だし、だからと言って砦に真正面から突っ込むのも嫌だ。では、どうするか・・・。

 しばらく無言が時を刻んでいると、寝息が聞こえた。


「太郎寝ちゃった?」

「完全に寝てますねー、やっぱりマナ様がいると安心するんですよ。私も安心します。・・・ポチさんも寝てますね。」

「それは嬉しいけど、だいぶマナが減っちゃったから次の戦力にはならないわよ。」

「そう言われればかなり小さくなりましたね。初めて見た時よりも小さくなっていないですか?」

「そうなのよ。この世界に居るから維持できているけど・・・そうだ、私の服まだあるわよね?」

「ありますよー。」

「じゃあ朝になったら着替えよっかな。ああ、ここで服なんかいらないわよね。」


 白いワンピースが消えると全裸になる。その姿は太郎が出会った頃と変わらない・・・、太郎さんってこの姿に興奮してたんですかね?スーには多少の疑問が残った。




 目が覚めると、マナがしがみ付いている。やけに柔らかい枕も後頭部に当たっている。後ろにピッタリとくっ付いているのはスーか。ペシペシとポチの尻尾が動くたびに俺の顔に当たる。朝のようだ。今何時?・・・ポチには分からないか。簡易テントの天井部分を見ると光がこぼれている。ああ、破れてるなあ・・・。


「魔物だぞ。」


 スーがスッと起き上がり、テントに空いた穴から外の様子を見る。あれ、なんか穴がいっぱい開いてる。


「鳥に突かれましたね、大型は少ないですが。回収するのも面倒ですしテントは放置していきましょう。」

「いや、モノの数分で組み立てられるのはこの骨組みに仕掛けが有るからなんだ。そういう仕組みになっているのは分かるけど俺には造る事が出来ないから持って行かないと後で困る。」

「そうなんですね、分かりました。私とポチさんで追っ払ってくるので、回収はお任せします。」


 任せるとは言っているが、回収できるのは太郎だけなので仕方ない。マナをお腹にしがみ付かせたまま、テントを折りたたみ大きな袋に入れる。そんなこんなでマナが腹から落ちた。


「あれ・・・もう片付けた・・・あー、ダメね、やっぱ、全然気が付かなかったわ。」


 それは魔物の接近に気が付かなかったことを悔やんでいて、太郎に申し訳なさそうな表情をする。みんな疲れていて魔物の接近に気が付くのが遅れたんだから、マナだけの所為ではないと思う。

 スーとポチは飛び込んでくる怪鳥類を叩き落としていて、周囲には翼が折れて動けなくなった鳥が沢山いる。なんかカラスの様に真っ黒い鳥だ。


「こいつらは何かに操られているだけだな。」

「ですねー。何かの縄張りでしょうか?」

「操られているのは見た感じで解るが本体が何なのか俺には分からんぞ。」

「匂いでどこに隠れているか分かりませんか?」

「余計な匂いが多すぎてわからん。」


 マナがスッと立ち上がる。


「そのくらいなら私が分かるわ。ほら、あそこ。」


 差した指の先は空だ。・・・デカいな・・・あんなデカいのが空を飛んでるなんて。乗れたら気持ちよさそうだな。


「あれ、グリフォンじゃないですか?!」


 驚きの声を上げたのはスーで、ポチとマナはそれほどでもない。俺はちょっとカッコいいなって思ってしまった。驚くスーを無視してマナが服をくれとせがむ。あれ?ワンピースは?


「少しでも温存しておきたいから。」

「わかった。」


 袋から服を出して、それをマナに着させる。自分で着ろと言いたいが両腕を上にまっすぐ伸ばしてポーズをとっているので、そう言う事なんだろう。


「あの二人は何やってるんだ。」

「ドラゴンほどではないですけど、ドラゴンと戦えるくらい強い魔物なんですけど。」


 あの二人を見ていると何となく心が落ち着く。驚いて叫んでいたちょっと前の自分が恥ずかしいくらいだ。距離的にはまだ遠くに居るので直接の被害は無いが、グリフォンがこちらに気が付いているのは間違いない。


「戦うしかないのか?」


 ポチの疑問に答えられるのはスーしかいない。


「気が付いているのは間違いないんですけど、こちらに接近してきませんね・・・。」


 グリフォンの方としては、縄張りに侵入してきた何かがいる事に気がついて確認しに来たのだが、思考が混乱していた。


「あれ、世界樹様だよな。ちっちゃいけど本物だよな?なんか二人いるようにぶれるぞ。どういうことだ・・・。」


 本来の世界樹は移動しない。しかもドラゴン達に焼き尽くされた筈だ。500年の混乱の間に人同士の醜い争いで多くが死んだ。世界樹の存在は安寧をもたらし、世界樹の不在は混乱を招いた事を証明した。今存在しているのは本当に本物なのか・・・?


「何故世界樹が二人・・・いや、あの男の波動は確かに似ているが違うな。」


 いつまでも接近してこないグリフォンを警戒しつつ、グリフォンについてスーが教えてくれた。


「巨大怪鳥の中でもかなり強い部類です。いろんな生物が混ざっていますが、翼で飛んでいるわけではなく、魔力が結合して生まれた魔物なんですけど、空中でも地上でもかなり強いです。ケルベロスが集団でも敵わないくらいの。」

「あー、合成魔物(キメラ)ってやつ?」

「太郎さんは変なところで詳しいですね。合成した魔物っていいとこ取りしようとして能力を相殺してしまい、逆に弱くなることが殆どなんですけど、それを魔力で均衡を保ちつつ、今の状態になっているらしいです・・・。マナ様はご存じないのですか?」


 ご存知というのは存在を知っているのかという意味ではなく、知り合いかどうかという事だ。話し合いで済むのならその方がいいに決まっている。


「・・・知ってると思うけど、グリフォンって世界に一匹しかいないわよね?」

「家族が居るなんて知りませんけどフーリン様なら知っているんですかね?」

「そうねー、私よりフーリンの方が詳しいかも。」


 マナが何か考え込んでいる。昔を思い出しているようだ。グリフォンの周囲には、比較すると小さいが、それなりに大きな鳥が集まっている。いつでも攻撃を開始できる態勢を整えているのだが、一向に始まる気配はない。


「鳥って濡れると飛べないよな。」

「魔力で浮いていない鳥ならそうですね。」

「じゃあ周りの鳥はなんとかなるなあ。グリフォンって・・・やめとこう。ゲーム感覚で攻めるもんじゃないよな。ここから見ていてあの大きさなら俺の知っている象なんかより大きいもんなー。」

「太郎さんってなんかすごい変わりましたね。」

「・・・そお?」


 考え込んでいたマナは何かを思い出したようで、俺の服の裾を引っ張った。


「・・・確か魔女が嫌いでドラゴンに加担しなかった奴だけど、ドラゴンもあんまり好きじゃなかったような。話はしたことないわね。敵じゃないけど、味方になるかは問題があるわね。」

「交渉できる?」

「そうね、試してみるわ。」


 マナがグリフォンに視線を向けた。グリフォンは元からここに住んでいたわけではなく、世界樹の存在が消えてからやって来たから、マナ(世界樹)にとっても初対面となる相手だった。緊張感のある空気が周囲を取り込む。マナの第一声は俺達には聞こえなかった。









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