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第50話 コルドーの戦い

 大地が揺れる。この世界の人達は経験が少ないのだろうか?スーが怖がるのは分かる気がするが、周りにいる男達も震えてしゃがみ込んでいる。揺れ方はかなり強く、太郎の経験で言うと震度6強ぐらいだと思う。当然この世界にそんな単位はない。怯え方も酷く、世界が終わると思い込んで泣き叫ぶ者までいた。

周りに高層ビル群なんてないし、崩れそうなほどの大きな山もない。大地が割れても飛べばいいし、あの頃の体験と記憶のおかげか、特に怖さは感じない。むしろちょっと楽しい。ん?スーが足元に居る。


「なんでしがみ付いてるの?」

「こコこ、コワクナインデデスカー・・・。」

「ただの地震だろう。それにこれはマナの魔法だ。」

「そそそ、そうなんですかー・・・。」


 揺れは想像より長く続いた。人為的にこれほど強い魔法を使って大地を揺らしているのだから、とんでもない強力な敵と戦っているのだろう。例えば・・・勇者だろうか。あのマリアって人も魔女かもしれないという疑いはあるようだが、それよりも攫った理由の方が知りたい。マナに何をするつもりなのか。場合によっては・・・いや、出来れば争いたくはない。一度でも争えば敵を増やすことになる。それではいつ命を狙われるかわからない状況を作ってしまう。しかし明確な敵意を持っているのなら、やるしかない。

 そんな事を考えていると揺れは収束した。周囲を見渡しても特に被害らしい被害がないのは、ちゃんと木の根が張っているからだろう。振り返ってポチの方を見ると、木の陰に隠れてこちらを見ていた。いきなり人前に出ると驚く人もいるからなんだと思ったけど、そうじゃないらしい。近づくと皿の周りにポーションの液体がこぼれていた。


「すまない、ちゃんと飲めなかった。」

「揺れは大丈夫だった?」

「大地が揺れるのは別段怖くは無い。」

「ポチさんも強いんですねー。」


 苦い物を食べた後のような渋い表情のポチは先ほどのような疲れた感じは消えていて、それなりにポーションの効果はあったようだ。皿を片付けて、ポチの頭を撫でる。


「マナが戦っているかどうかは分からないけど、マナが魔法を使っているのは間違いないから急いで行こう。魔女にしろ勇者にしろ、巻き込まれていたら大変だし。」


 直接マナが戦っている上に、ある意味巻き込まれた状況だという事までは分かるはずもなく、相手が魔女だなんて思うはずもなく、商人達を守って逃げられずにいるなんて想像する事も難しい。


「大地震を起こす魔法を使ってるって言う事は・・・どういう事だろう?」

「分かりませんけど、そんな伝説級の魔法を使っているのならかなりヤバいんじゃないですかね。」

「うーん・・・マナの波動は感じるけど、戦っているのなら相手のマナの乱れも感じるんじゃないかな。」

「マナ様の威力が強過ぎて感じ取れないという可能性もあります。」

「そんなに強いマナをどうやって捕まえて、どうやって運んだのかも謎なんだよなあ。何か不思議な道具でもあるんだと思うしかないかな。」


 妙に冷静な思考を発揮したのはマナの波動を感じて安心した事と、マナの暴れっぷりは暴走するところまで行った事は無く、フーリンが心配するほど危険だとも思えないからで、逆にマナを囮に俺達が誘い込まれているような気もしたが、これは考え過ぎだろう。

 ここにいる他の者達は冒険者に商人に護衛の人達で、今回の騒動の噂話をしている。何しろ情報が少ない。森が燃える炎は戦っている証拠だと言う者もいるし、魔物が攻めてきたと言う者もいるし、勇者が暴れていると言う者もいるしで、誰かと戦っていると叫んで回った者でさえ、直接その戦いを見たわけではないらしい。


「とにかく行こう。さっき覚えた事だけど、マナの流れを同調(シンクロ)させると少ない消費でも飛べそうだから、試しながら行こう。」

「太郎さんは飛びながらそんなことまでやってたんですか・・・。」

「背中にポチを背負ってたら何故か同調し易くなってたから試してたんだよ。」

「はぇ~・・・なんかもう、魔法に関しては太郎さんにかないませんねー。」

「攻撃するのは苦手だけどね。」


 太郎達は他の者に気が付かれないように街道を離れ、森の中から飛び立った。別にコソコソとする必要はないのだが、何となく癖になっている。

 空を飛ぶとマナの波動を更に感じやすくなった。歩いて4・5時間必要な距離でも飛べばあっという間だ。勇者でさえ頻繁に使う事の無い飛行魔法が燃費の悪さを克服すれば多くの人が使うだろう。しかし、その燃費の悪さの理由が少しわかってきたような気がする。気の所為かもしれないが。




 先程の大炎上を見て森に向かって慌てるように走って行く男達。そこへ近づくと数人の人影が見え、さらに近づくとその中の一人を目視で確認する。驚きの混じった声で叫んだ。


「あれはマリア先生ではないか。ご無事ですか?!」


 駆け寄ってきたのはコルドーの兵士達でマリアにとっては味方になるのだが、この状況を説明するのは面倒になりそうだと思い、加害者と被害者を入れ替えることで彼らを納得させる事にした。


「私の荷物を奪った奴らなんだけどちょっと手ごわくて、手伝ってもらえる?」

「ちょっと、いいかげんなこと言わないでよ!」


 少女の怒りの抗議は受け入れられず、兵士達はすんなりマリアの言葉を受け入れた。マリアはコルドーではそれなりに有名人で、コルドーの兵士達に魔法の戦い方について教えた教師でもある。しかし、それは本来の姿ではなく、コルドーの内部の極一部では違う認識が有って、気さくで優しい美人教師だけではない深い関係もある。ガーデンブルクで軍人になったというのも他の目的があっての事で、多くの人はその理由を知らない。美しい女性には誰にも言えない深い理由と秘密がある・・・という事にしていて、いつもはぐらかしていたのだ。

 信用度が高いマリアの言葉は、元生徒が疑うはずもなく、矛先が子供一人と大人四人に向けられた。しかし、彼らにはそれほど苦労するような相手には見えなかった。


「丁度五人だな。・・・一人子供か、分配はどうする?」


 誰が誰を相手をするという話し合いが始まって、少女は最初に除外されたのだが、この少女こそが一番強いという事に気が付いていない。見た目だけで判断する事がどれほど危険を伴うかなんて、学校ではそれほど強く教えない。彼らがマナの流れをしっかりと捉えていれば、正しい判断も出来ただろう。


「・・・そっちがめんどくさい事にするつもりなら、わたしを怒らせたことを後悔させてあげるからね!」


 世界樹の周囲には可視化するほどの濃いマナが集まりオーラとなって炎の様に揺らいでいる。その場にしゃがみ込んで両方の掌を地面に叩き付けると、怒りとともに揺れる。これが広範囲に大地を揺らした原因だった。


「ななナなナナんだだだこれはっ?!」


 兵士どころか商人とその護衛の男たち全員が驚きの声とともに動くことも出来ずにその場で倒れそうになる身体を必死の平均感覚で抑えようと努力していた。

 マリアも立っていられなくなって身体を宙へ浮かす。


「さっきのお返しだからねっ!」


 今度は火球がマリアに向かって飛んだ。その一つ一つはマリアの放った魔法と比べれば小さいが、速度と数が尋常ではなく、まるでスコールの様に降り注ぐ。


「し、シールドが間にっ・・・。」


 幾つもの火球がマリアの身体に命中した。それでも数秒遅れて魔法障壁を展開し、全弾命中は何とか防いだ。だが、マリアのもとへ駆け寄った兵士達は回避する事も叶わず、マリアが弾き返した一部の火球をまともに喰らい、身体の数ヵ所が焼け、のた打ち回った。痛みに耐え、戦闘続行不能の状態になった彼らの一人が救援を求める為に真上に向かって光の球を放った。


「くそぅ・・・戦闘すらしてないうちに負けたのか・・・。」


 火球の攻撃が止むと、兵士達が悔しさを全身で表現しつつ気を失い、大地の揺れもおさまった。そして、半身を焼かれ服もボロボロに崩れ、焦げた臭いを漂わせながら鋭すぎる眼光がマナに向けられた。(あらわ)になった胸を隠すこともなく、怒りに満ちた瞳が様々な感情を込めている。恨み、妬み、怒り。痛みで左肩を手でおさえてはいるが、倒れるには至らない。


「コルドーを敵に回したことになったわね、これであんた達は()()()()()()よ!」

「魔女なんか信用するような国なんて潰れちゃえばいいのよ!」


 睨み合う二人の間に割って入れる者はいない。もしいたとしても、それは空を駆って向かっている一人だけだろう。

 マリアは身体から不思議な光を放ったかと思うと、姿や服装が元通りに戻っていた。回復魔法を使うと傷は治るが体力やマナは回復しない。ボロボロになった服はマリア自身のマナで再構築しただけだ。


「ちょ、ちょっと待て・・・いや、待ってくださいよー!」


 商人が叫んだ。顔は青ざめ、目がピチピチと泳いでいる。涙と鼻水が止まらない。


「俺達はなんもしてないじゃないですかー!あんたの荷物運んで、中身が女の子で、巻き込んだだけでしょう?!」


 主張は間違っていない。


「そうね、だったらハンハルトに逃げなさい。ガーデンブルクはダメよ、こいつの息がかかってるから。」

「秘密を知って逃がすと思ってるの?」

「ほら、さっさと行って。」

「必ず殺すからね?」

「ここに居ても逃げても死ぬんなら逃げた方がマシでしょ。少なくともこんなバカ女に負けないから安心しなさい。」


 男達は顔を見合わせると、全力でハンハルト方面へ逃げた。その先は街道も狭く、魔物の出現も確認されている危険度の高い場所を通過しなければならないが、ここに居るよりは何倍もマシだと判断したのだ。

 彼らの後方から火の魔法が飛んでくるが、その全てが彼らに届く前に消滅した。どうにか森の中に逃げ込んだ彼らを追撃するような無駄な事はしない。彼女のマナにも限りはあり、無限に使えれば世界なんて簡単にひっくり返ると思っている。


「世界樹のマナの根源を研究したかったけど、やっぱり()()()()()()べきかしら?」


 不敵な笑みを浮かべるマリアには何か秘策でも持っているような表情だ。そんな相手に世界樹が不気味な笑みを浮かべて対抗する。


「魔女の最期って知ってる?」

「何を言っているの?」

「厚顔無恥で傍若無人な行いをした人ってどうなると思う?」

「説教でもするつもり?」


 ここで世界樹の声に優しさを含んだ哀しみの色を帯びる。 


「世界の頂点から堕ちた人間はね、最底辺として生きるのよ。あなた美人のつもりなんでしょう?」

「何がいいたいの。」

「性奴隷って辛いらしいわね。戦う能力を失わせ、あらゆる快楽を無理やり植え付けられて、逆らう気力も失い、醜い男どもの玩具として日々を過ごすらしいわ。死ねないあなたにはピッタリね。」


 絶句したのはそのような未来を想像したからではなく、世界樹がそんな発言をしたからである。


「あなた本当に世界樹なの?」

「魔女の癖に解らないの?」


 あの波動は間違いなく世界樹と同じだ。しかし、こんな饒舌で変態的な発言を平然と言うようなイメージはない。傲慢な発言を平気で言うのは変わらないが、人の歴史や生活などに興味など無かったはずだ。


「世界樹が根無し草の様に旅をしている理由を知りたくなったわ。」

「わたしに勝てたら教えてあげても良いわよ?」


 魔法が二人の間を飛び交う。火、水、風、土、それらが混ざり合う様にマナが激しく乱れた。世界樹だけが使える植物を急成長させる魔法が使われなかったのは、まだ余裕が有るからなのか。マリアは魔女としての意地を見せるべく特大の魔法を放った。






次のページは登場人物の紹介で画像も有ります。

読み飛ばしてもokです。

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