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第48話 協力



ちょっと遅れてしまいました。 m(_"_)m

「で、どうするんだ?」

「とりあえずは予定通り運んで。それよりも、箱の中身を見たかどうか訊かれたりしたら危ないわね。監視されているかどうかはあんたたちでも分かる?」


 護衛の男達は互いに目を合わせてからは小さく頷く。


「そう。じゃあ私はちょっと離れたところで隠れてるから、いってらっしゃい。」


 子供が無邪気に手を振っている。何も知らない人から見たらそんなところだろう。だが、実際のところそんな簡単な話じゃなかった。知らなければそのまま木箱を置いて来るだけでよかったはずだったのに。荷車を引く商人に護衛の一人が言った。


「やっぱり殺されるっていうのは考え過ぎかもな。」

「なんでだ?」

「受け取る側だって書類を見るわけだし、全員がこの事を知っているわけじゃないだろうよ。」

「そ、そうだよな。あんな子供が入っていたという事に気が動転していたけど、よくよく考えてみたらその可能性の方が高いよな。知っている奴が居たとしても極一部だろうし、そんなに大っぴらに俺達を消すはずもない。・・・それにしても、な。」


 振り返って木箱を見詰める。マナによって破壊された木箱だが、今は元通り直っているのだから、不思議でならない。箱の中身もマナと同じ程度の重さの物が入っている。これは近くの木を伐って詰めただけだ。


「こんな魔法は見た事が無い。木箱なら植物と変わらないから直せるって言っていたが。」

「伝説の魔女かな?」


 発言者とは別の者が妙に硬い笑い方をする。


「ははは、そんな簡単に魔女がいてたまるか。国だって一夜で滅ぼすほど恐ろしい存在だぞ。」

「まぁ、あんな子供だしなあ。」


 年上だと言われた事は覚えているが完全に無視している。そんな不安を抱えながら、箱を積んだ荷台を引く4人は、町外れにある集積場にやって来た。ここでは受け取った荷物を検査して必要な物を必要な場所へ振り分けて運ぶ施設で、入国手続きが不要になるように造られている。

 護衛に雇われた3人はここで待機していて事実上の護衛役は終わっている。納品を終えた商人は本来なら別の仕事を受けて帰路に合わせた荷物を運ぶのだが、直ぐにこの土地を離れたい事を不審に思われないように適当な理由を付けて断る予定だ。

 マナはこの時点で四人を見捨てて太郎のもとへ戻っても良かったのだが、見捨てる事が出来なかったのは太郎の影響だろうか、異世界に長く居た所為なのか、自分でも解らない。




 コルドー神教国は商人達から見た商売相手としての信用度は決して低くない。低くは無いが何をやっているのか分からない部分が多く、首都のコルドーも中心部は種族問わず殆どが信者達で埋め尽くされていて、信者になると家に帰らない者も多く、殺されたり儀式の生贄にされたりという、噂だけが独り歩きして信者以外に伝わっていた。だからこそ、商人とその護衛達は「殺されるかもしれない。」という発想に至ったわけである。

 それに対してガーデンブルクは4ヵ国の中で一番貧困の国だが、それでも魔王国と戦争さえしなければそれなりに安定している。財政も一度は大崩れした過去が有ったが、農業に力を入れたことで国内を安定させ、輸出によって収入を得るというオーソドックスな方法で順調に回復した。花と緑にあふれた美しい国というのは、大陸を離れた海の向こうの国では今でも信じられていて、戦争に力を入れていたという事実はあまり伝わっていない。




 順番待ちを終えて手続きが進む。検閲官に書類を渡すと、案の定の質問がきた。


「・・・箱を落としたり傷つけたりはしていないよな?」

「もちろんです。」


 勿論、見事に破壊されているが、元通りに戻っているのは確認済みだ。サインをしてそのまま返された。


「よし、受付の場所はわかるよな?」

「は、はい・・・。」


 あとはサイン入りの書類を受付に渡せば、当初の予定通りに報酬を受け取れる。本来なら木箱の一部をはがして中身を確認するはずなのだが・・・。


「なんだ?もう行っていいぞ。」


 何も言及されない事に不信感を抱くが、きっとこの男は()()()()()()()()()上で()()()()()()のだろう。一礼して立ち去る。歩調に乱れが有ってもそれに気が付く者はいない。彼以外にも多くの商人がいるのだから、一人の様子だけに注視する事はない。想像以上になにもされなかったので、小走りになってしまった。トイレに急いでいるようにしか他人からは見られないだろうが。




 箱を開けなかった検察官は、なぜ開けなくて良いのかは知らない。この男も下っ端の一人なのだ。誰もが全ての事情を理解しなくとも、世界は廻っている。

 その理由を告げずに命令だけを送ったのはマリアで、冒険者ギルドを通じて情報だけは伝達できる。物体や人体の転送も可能ならばこんな苦労はない。そのマリアは事情聴取に三日を費やし、敗戦の責任を負わされていて、直ぐにコルドーへ向かう事が出来なかった。味方の死傷者は少なく、なぜもっと攻めなかったのか理由を問われた事が一番面倒だった。マリアの目的と軍の意向が乖離(かいり)しているのだから当然と言えば当然なのだが、マリアがどんなに優秀な能力を持っていたとしても、階級が下ならば従わなければならないのだ。

 結局、目的のモノだけを先に送る方法を採ったが、ここ数日間、暴れる事もなく殆ど寝ていたモノに対して警戒心は薄れていたし、自分の作ったマナ抑制の機能を持ったリングの能力を信じていたのも有った。擬人化した姿を封じて、固定化するには十分な筈で、マリアは世界樹に対しての能力を完全に理解していたわけではない。ただし、自分以上に優れた能力を持っている筈もなく、あの時燃えて消し炭になったはずの存在がたった500年程度で元の力を手に入れられるとも思えない。結果的に油断も有ったが、他人に任せて、それも出来る限り弱小の商人にやらせることにした。もし秘密を知られたとしても、処理するのが楽な方がいい。そういう理由で選んでいたから、失敗する事も考慮に入れて世界樹のマナの流れは常に警戒して感知していた。むろん、逃げ出す事を前提にしていたから、誰かと協力するとは思っていなかった。

 商人達に依頼をしてさらに四日後。やっと査問会から解放され、翌日に出発する事にした。歩いて行くのではなく飛んでいくので一日あればコルドーに到着できる。それは常に同行するはずのグレッグが不在であることを意味している。グレッグに事後処理を任せたのは一人で移動した方が移動が速いからだ。

 予定通り世界樹は移動しているようで、マナの流れに変化はない。夜も明けないうちに文字通り飛び立った。




 コルドーの町外れ近くの森に全員集まっている。町の方ではいつも通りの喧騒が聞こえ、特に変化はない。


「何にもなかった?」

「ああ、大丈夫だ。」

「じゃあ、解散でいいかしら?」


 4人が頷いた。もう関わらない方が良いだろう。全てを忘れたい気分だが、なかなか忘れそうもない。酒場で酒を飲みたいが、この町では飲みたくないし飲める場所も限られる宗教国家だ。さっさと自宅へ帰ろう。

 そう思っていたし、そう行動しようとしていた。だが、それを許さない者がいた。異変を感じたのは近づいた事によってマナの変化や流れを鋭く感知できるようになったからで、コルドーの中心部に弱々しいマナを追いかけるはずだったのが、強いマナを感知して、なんかしらの魔法を使っただろう事に気が付いたからだ。世界樹の使う魔法はかなり特殊で、それはあの戦いの時から知っていたし、だから復活したのにも気が付いた。

 解散しようとしていた5人の前に突如現れたのがバカ女(マリア)だったから、凄く驚いた。マナを感知できなかったのも不思議でならない。バカ女(マリア)が空から降って来たのなら、かなりのマナを消費していた筈だし、それなら気が付いている筈だったからだ。


「まさか仲良しになっていたとはね。それともこんな小娘の方が好きなロリコンさんなのかしら?」


 豊満なボディを見せびらかすようなポーズをとるが、マナ以外の4人は現れた女に恐怖しか感じなかった。依頼について嘘を付いた事がバレる以上の恐怖だ。

 マリアはマナのリングが外されていたのは、この男達が何らかの理由で箱の中身に気が付いて、ありもしない騎士道精神でも生まれたのだろうとしか考えていない。

 マナは自然とマリアに近づき、それが商人と護衛達を守る行動であったことに気が付いて、逃げ出そうとしたことがすごく恥ずかしかった。子供に守られるというのは大人としては、特に子を持つ親としては辛い。辛いだけでは済まない何かが有って、護衛の一人が突然マナを持ち上げて逃げだした。それが合図となって、他の三人も逃げだす。


「ちょっと、なにするのよ。」

「あほか。あんな空から現れる女はまともじゃない。逃げるのが普通だろ。」


 だが逃げ出した先に先ほどと同じ女が立っている。再び空から降りてきたのだ。


「素直に娘を渡してもらえるかしら?面倒な事はしたくないんだけど。」


 言葉の一つ一つから滲み出るような威圧感に負けそうな男達は、声も出せずに震えていた。逃げる事が出来なければ、戦うしかない。本当にこんな相手と戦ってけてるかどうかという考えは浮かばない。死ぬかもしれないという恐怖感が思考を奪っているのだ。

 相手がどんな存在なのか、考えている余裕もなく、護衛の男達が帯剣を抜こうとした時、マナが爆発的に動いた。それはコルドーに居た一部の者達にも気付かれ、事態を少しずつ大きくしていった。






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