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第47話 脱出




GWなのでもういっちょ投稿しました\(^o^)/




 意気揚々と進む四人の男達。多少の疑問など報酬の前では何の障害にもならない。前金も良い額を受け取り、リバウッドから荷車を引いて歩いている。それほど重くも無いので馬は使わず、護衛もいつもの五人から三人に減らした。

曇天模様(どんてんもよう)だが雨は降らず、暑過ぎず寒過ぎず、旅をするには丁度良かった。魔物に襲われることもなく、しっかり整備された街道は安全度が高く、すれ違う人々もそれなりに多い。休憩と野宿を幾度か挟みつつ、目的地へは予定よりも早く到着する予定だった。護衛の報酬は日数で決まるので、早ければ早い方がいい。最後の峠を超え、森も後小一時間ほどで抜ける。コルドーまで後わずかと言っても過言ではない距離だ。




 マナは真っ暗闇の中で目を覚ました。見えないが両腕両足には自分の力を封じ込めるリングが付けられているのが解る。動くだけでもすごく脱力感を感じるからだ。だが、真っ暗闇だからこそ気が付いた事が有った。直ぐに気が付かなかったのはこの姿でいた期間が長すぎたからなのだろうか。自分が植物の精神だけを持った擬人化した姿なのだから、普人の姿でいる必要はないのだ。今まで気が付かなかった自分自身が、少し恥ずかしい。

 姿形の全てを変化させる必要もないし、腕や足が斬られてもすぐに再生するし、中核となる重要な部分もない。細切れにされて困るのは服がバラバラになるくらいだ。

 マナで形成されている身体の一部、腕を消すとリングが外れた。足を消すと引っ掛かりを無くしたリングが床に転がる。身体が自由になってから姿を元に戻す。自由を奪っていたリングには大量のマナが封じ込められている筈だが、それを取り出す方法は解らず、持って行こうと思ったが、全裸なのでポケットもない。太郎に買ってもらった服が無い事を思い出して怒りが込み上げる。

 暗闇の空間は狭く、両手両足がどこに伸ばしても壁に当たるという事は・・・。


「え、まさか私どこかに運ばれてる?!」


 存在と正体がばれているのなら隠す必要もない。両手両足をまっすぐ伸ばし、身体全体を使って箱が壊れる限界まで伸ばす。しかし、なかなか壊れない。少しイラっとした事と、面倒な事が重なって考えるのが面倒になり、水魔法を放った。

 僅かに響いた軋みが、直後に箱の枠を四方へ吹き飛ばしたかと思うと、慌てる男達の声が聞こえた。身体が斜めになって荷台から転げ落ちる。


「何が起きた?!」


 見た通りの事が起こっているのだが、声に出さずにはいられない。箱を荷台に乗せて運んでいたのは兵士ではなく、商人とその護衛の男達だった。だが、そんな事はマナには関係ない。静かに起き上がり、怒りに満ちた表情で、妙に怯えている男達に向かって言った。


「ここどこ?」


 見渡すと、辺りはどこかの森の中で、そこそこ整備された道が一本。どこへ通じているのかは分からない。目は座り、まるで寝不足で起こされたかのように焦点があっていない。


「ねーぇー、どーこー、こーこー。」


 こんなに不機嫌なマナは珍しいかもしれない。だが、問われた方としてみれば、大切な荷物を預かったはずなのに、中から全裸の女の子が飛び出てきて、服もなく隠しもせずに睨みつけてきたのだ。直ぐにまともな対応が出来たらそれはそれで凄い。護衛の男の一人がどうにか声を絞り出し、子供に怒鳴り返した。


「ど、どこでもいいだろ。お前は箱の中身なんだから大人しく運ばれっ・・・。」


 最後まで言う事が出来なかったのは、途中でマナが魔法で吹き飛ばしたからだ。仲間がやられたのを見ると、相手が少女とか子供とか全裸だとか、気にすることなく殴り掛かった。当然の如く拳は届かず、風魔法で吹き飛ばされた。


「あのバカ女(マリア)はどこ?」


 運んでいる者達にとっては依頼者となるはずだが、直接的な依頼者としての名前が刻まれてはおらず、ガーデンブルクからの依頼となっていたので誰の事かは解らなかった。


「・・・女なんて知らんぞ。」

「あんたたちに私を運ぶように頼んだ女よ。知らないの?!」


 迫力で子供に負けてることに悔しさが滲むが、全裸の少女に力で勝っても嬉しくないどころか、非難の的にしかならない。ぐっと堪えて応える。


「コルドー神教国に運ぶって頼まれただけで、人が入っていたのも知らん。むしろお前が何者なんだ。」


 当然の疑問である。


「私の事は知らない方が幸せかもね。」


 素っ裸の子供にそんな事を言われて、状況からするにその通りのように感じたので、詮索は避けた。しかし、目的地に運ぶ前に逃げられてしまっては困る。仕事の報酬は前金で既に貰っているのだから。吹き飛ばされた仲間を助け起こすと、お願いするように言った。


「嬢ちゃんが何者か知らんが目的地まで付いてきてもらえんか。そうじゃないと俺達の仕事が無くなっちまう。」

「別にあんたたちの仕事なんてどうでもいいけど・・・ここから一番近い町はどこ?」

「それならこの森を抜けたらすぐだ、一時間もかからない。リバウッドに戻るとしたら歩いて五日はかかるぞ。」

「リバウッド?・・・あー、ガーデンブルクね。」

「服を買ってやるから・・・あ、れ?」


 少女はいつの間にか白いワンピースを着ていた。


「その服・・・?」

「上位の魔法使いならこのくらい普通でしょ。」

「確かに魔法使いなら・・・嬢ちゃん・・・いや、何でもない。付いてきてくれるだけでいいから、頼む。」


 上位の魔法使いと言われれば彼ら男どもに勝ち目はない。風魔法を使っただけではなく、マナで服を作っているのだ。具現化したモノを維持するためには常にマナを消費するのだから、服を維持しているだけでもかなりの使い手なのは馬鹿でも分かる。だが、せっかくの依頼を反故にしてしまったら今後の仕事は他に回されてしまうだろう。やっとガーデンブルクでお城の仕事を貰えたというのに。


「あんまり下手(したて)に出られても・・・困ったわね。さっさと帰りたいんだけど、多分あんたたちに付いて行ったら、また箱に閉じ込めようとするか、戦闘になるか、二つに一つなのは間違いないのよね。」

「戦闘になるって・・・こんな子供なのに?」

「まあ、子供のような姿だから仕方ないけど、少なくともあんたより年上だからね。」

「え・・・?」


 年上と言われても信じられない。しかし、態々(わざわざ)箱に入れて運ばせたのだからなにか裏はあるだろう。だからと言って城の人間がかかわっているようなことに首を突っ込みたくはない。なんでこんなに面倒な事になったんだろう。どっちに転んでもろくでもない未来しか予想できない。何事もなくリバウッドに戻りたいのだが・・・。


「見捨てても良いんだけど、そんなことしたら太郎に怒られそうなのよねー。報酬と同額さえ渡せば済むって話でもなさそうだし・・・、でもなんでコルドー神教国に私を運ぼうとしたのかしら?」

「魔法使いでかなりの使い手なんだろ?」

「まぁ、一応そうだけど、何か関係あるの?」

「詳しくは知らんが、元々この国は魔法使いの多い国でな、優秀な人材ならどんな手段でも集めているっていう噂ならよく耳にしたな。」

「多分そんな理由じゃないと思うけど、詳しく言うと私も面倒な事になりそうなのよねー。」


 考え込んでいる少女に男達が眺めている。


「そう言えば、あんたたち4人もいるのに荷車一つでここまで運んできたの?」

「馬は結構維持費が掛かるんだ。それほど重くない荷物なら人力で十分だろ。」


 依頼を受けた商人一人に護衛が三人。服装もそれほどいいモノを着ているわけでもなく、護衛もそれほど強そうに見えない。リバウッドからコルドーまでのルートはコルドー神教国の建国当初から完成していて、高い安全性が保たれている。

 ちなみに、ハンハルト公国とのルートも有るが、双方の国が積極的に協力して整備を行う気が無く、コルドーの方に大きな特産物も無いので、商人もあまり利用していない。冒険者達の往来が殆どで、安全性はそれほど高くない。


「そんなに悩むくらいなら俺達に協力してくれよ。」

「協力ねぇ・・・、あんたたち箱の中身が私だって知らないって言ってたわよね?」

「ああ。」

「だったら空箱持って行けばいいじゃない。」

「空箱だったら重さでバレるだろ。」

「石でもなんでも入れて重くすれば?」

「し、しかし・・・。」


 マナはため息をつく。


「あんたたちは頭が固いわね。本気で私を箱に閉じ込めて運ぶとしたら、こんな少ない護衛じゃ逃げられるのよ?普通なら兵士がしっかりと周囲を囲んで箱も外からじゃ確認できないようにホロ付きの荷馬車で運ぶとか、もっとちゃんと対策するはずなのよ。」


 不思議なリングで魔法を封じられていたことはすっかり忘れた発言だが、なにも知らない男達にとってはそのまま受け入れられた。


「言われればその通りかもしれんが、元々箱の中身は信者用の服ぐらいにしか思っていなかったんだ。」

「箱の中身を確認してから運ぶんじゃないの?」

「契約書類に中身について記載されていなかったんだ。気にはなったがそれなりに報酬が良かったから・・・そうか、そうだよなあ。こんな楽な仕事なのに報酬が多かったもんな、初仕事だから多めにしておいたって言われたけど・・・そう言えば前金で俺達に金私た奴って女だったな。初めてだから何の違和感も持たなかったが。」


 それがマナの言うバカ女(マリア)と同一人物だったが、確認する術はない。


「俺達この仕事が終わったら殺されるって事ないよな?」


 護衛の一人が呟いた。それは次第に言った本人の身体に浸透したのか、小刻みに震え始める。


「やっぱ普人ってめんどくさいわね、獣人の方がもう少し根性があるわよ。」

「根性が有るかどうかなんかより、最初から俺は利用されてたって事か。」

「護衛に来ただけの俺達は関係ないよな?」

「どうだろうな・・・。中身見ちまった訳だし。」


 悔しそうに、残念そうに、諦めたように、護衛の男達はマナを見ている。仕事を請け負った商人は絶望的とも言えるが、それが返ってこの男を冷静にしていた。


「嬢ちゃんも逃げるんなら俺達も逃げるってわけだから、ここは嬢ちゃんの提案に乗ってとりあえず箱だけ置いてくるか・・・。」


 悩みつつも自己保身を考慮に入れて、マナの提案に条件を付けて乗る事にした。






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