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第36話 一族の財宝

2024/12/07 後書きに追加しました

 扉に手を触れる。温かな光を感じたが、他を見ると不思議そうな表情を返してきた。そう見えたのは俺だけのようだ。扉を押す手に力を()めると、音も無く扉は開いた。


「あっさり開いたな。」

「それは太郎がちゃんとした一族の子孫だからよ。」


 そうかもしれないが、もう少し感動があってもいいような気もする。天使は目を輝かせていたが、内部に見える輝かしい物の所為かもしれない。


 ところでこの天使。一時的とはいえ、一緒に行動するのだから名前を聞いたのだが。


「ん?私はサマヨエルというわ。」

「彷徨ってる?」

「違う、サマヨエルよ。」


 俺の知っている天使は語尾にelが付くのだが・・・こんな名前有ったかな?


「名前はどうやって書くんだ?」

「文字か?そんなもの無いぞ。普人達が使う文字で音だけを当てれば文字として書き起こすことも可能だろうが、私はどうやって書くのかは知らん。」


 冒険者ギルドには日本のカタカナで書いたからなあ。こっちの世界の文字は英語でもドイツ語でもなかったし・・・。深く考えるのは止めとくか。


 灯りを用意してから建物の中に入ると、外の光を反射して色々な物が輝いていて、その一つは金の延べ棒が山積みされていた。奇麗な装飾の施された細身の剣は壁に立て掛けてあるだけで、鞘は別の場所に転がっている。拾って剣を鞘に納めると、パチンといい音が鳴る。長く使っていない筈だが錆もないようだ。それほど重くないし持ち易い。何気なくスーに渡すと、細身の剣を抜いて確認する。持っているその手が小刻みに震えだした。


「こ、これ、ダマスカスで作られたレイピアじゃないですか。」

「ダマスカス?こっちの世界にもあるの?」

「ダマスカス自体は有るんですけど、製造技術が不明(ロストテクノロジー)で、修復するにも材料が無いらしくてかなり高額で取引されるんですよ。」

「材料?これかな?」


 壁際にいくつも並べられたツボの中には、黒く変色した物が入っていて、持ち上げようとしたが結構重い。ツボはそれほど大きくもなく、子供の頭ぐらいしかないのだが。

 スーが自分の持っているナイフの柄で叩くと、ゴツゴツとした鈍い音がする。


「私も良く分かりませんが、多分そうだと思います。これだけでもかなりの財宝になりますね。金の延べ棒がこれでもかってぐらい並んでいるので、価値観というモノが崩れかけてますが。」


 スーの言う通り部屋の3割ほどが金で埋まっている。だが、そんなものよりも資料を探しているという事を忘れてはいけない。灯りで照らして他の何らかの財宝は無視して本棚を探すが、それほど広くもない部屋だから、本棚が無いことぐらいわかる。


「お前たちは財宝が目当てではないのか?」

「財宝が要らない訳じゃないんだけど、探している物があってね。」

「言えないモノか?」

「そんな事ないよ、ここに有るんじゃないかと思って本を探してるんだ。」

「本?紙ならあるが。」

「え、どこ?」


 サマヨエルが指し示したのはツボの下。積み重なった紙の上にツボがある。ツボをどかして紙を手に取ると・・・読める。よかったー。


「読めるけど、これ何かの製造法を書いたレシピみたいだ。」


 一番大きく書かれた文字が少し擦れていて読みにくい。


()()()鋼ってなんだろ?」


 スーが身体を寄せてきて俺の持っている紙を見た。


()()()鋼じゃないですかー?」

「読み間違えた。加護があっても読み間違えるんだなー、ハハハ。」

「単なる見間違いでは?」

「う、うーん。それにしても紙がいっぱい重なってるんだが、厚みだけで30センチくらいあるぞ。ちょっと待って。同じ物が他にも有るんだけど、これを全部確認するのか・・・?」


 手分けをして読むにしても時間がかかるので、とりあえず袋に入れて他を見る事にした。サマヨエルは何かを見つけて小さくもない声を出す。


「どうした?」

「えっ、あ、いや、多分なんだけど、そこにあるブーツ、私が以前に無くしたのとそっくりなの。」


 棚の上にあるのは白く輝くブーツで、一見硬そうだが、手に取ると硬すぎず柔らかすぎず、それでいて重くない。


「これもレアなミスリル銀でできてますねー。その昔魔女が開発したと言われる魔法金属(マナメタル)です。本当に天使の持ち物なんですかねぇ?」


 今のサマヨエルは靴を履いているが、俺達が履いているのと変わらない革製のボロボロの靴だ。かなり年季が入っている。俺に近寄ってくると靴をまじまじと見つめる。


「仲間に会う事なんて滅多にないから証明できないけど、他の天使も持っているの。理由は知らないけどたくさん作られてみんなに配られたらしいわ。私はその靴の二代目で、元々は母親が持ってたのよ。お願い信じて。」


 必死さが伝わる表情で、真剣な口調で訴えてきた。熱い視線を素直に信じて、そのまま渡すと嬉しそうに受け取った。ボロボロのブーツを脱いですぐに履き替える。綺麗な肌に良く似合う白いブーツ。見た感じだけで、持ち主であると感じさせるぐらい似合っている。いや、あの、別に頬を染めて上目遣いで俺を見なくてもいいぞ。スーとマナから向けられる視線がちょっとチクチクするのだが。


「お前は普人なのに優しいな。」

「普通の対応だと思うけど。と言うか、どうやって靴なんてなくしたんだ?」

「朝起きたらなくなっていたの。」

「それ盗まれたんじゃなくて?」

「あ、もうかなり昔の事なのでどうやってなくしたかは詳しく覚えていないわ。ここに有る方が不思議なのだけど。それに、他にも珍しい物がいくつかあるな。」


 マナが俺にくっ付いてきた。こういう時は子供っぽい。それがまた可愛いのだが。サマヨエルが無造作に纏められている木箱の中を覗き込む。空の硝子瓶がいくつも入っていて透明度も高い。


「これもかなり貴重な物だぞ。」


 この村には硝子の製造技術も有ったのだろうか。色々な製造レシピを書いた紙が有ったくらいだ。本に書いてくれればもう少し管理も楽だっただろうに。


「本は見つからないよな。」

「ないわねぇ・・・。」

「この紙を全部確認するしかないのか。」


 とりあえず目に付いたモノを次々と袋に入れる。その光景にサマヨエルが目を丸くした。だよね、吃驚するよね。スーも同じの機能の袋を持っているが、俺の袋は更に大きい。しかも他の者には扱えないので、セキュリティもばっちりだ。


「それは一体?同じ様な袋は知っているがそんなに大きなモノは見た事が無いわよ。」

「そりゃそうよ、この世界で一つしかない、太郎だけの道具袋なんだから。」


 誰から貰ったとか言う必要は無いので、その点については黙っておく。俺も面倒になるようなことは言わないように注意しているつもりだが、やはり入手経路は気になるようだ。マナもそこまでは言わないのは、正規の仲間ではないからだろう。

 小さい物はスーの小物袋に入れてもらい、大きいのは俺の荷物袋に入れる。ポーション関係もあるのだが、スーもマナも解らない。


「このポーションの濃度凄いわね。」


 瓶に入った液体を見つめるサマヨエルのセリフだ。


「解るのか?」

「これでも世界樹の半分くらいは長生きしてるわ。それに、あちこち移動もしているし、たまに普人の町にも出入りしてるしね。もちろん素性は隠すんだけど。天使ってバレるとめんどくさいのよねー。」


 4000年か・・・マナも詳しいが、実体験したことは少ないらしいし、経験しているっていうのは強いよな。そう思うと少し知的な顔に見えるから不思議だ。二人に解らないモノをサマヨエルに確認しているから、スーはしょんぼりしているし、マナは悔しそうだ。そんなに気にすることは無いと思うのだが。


「それにしても、珍しい物ばかりあるわね。加工前のミスリル銀もあるし、マナ石もゴロゴロしてるし。」

「マナ石はかなり珍しいですねー。魔女しか製造技術が無いという話なら聞いたことありますが。」

「・・・箱の中に凄い有るんだけど。」


 マナでも驚く技術らしい。そうなるとスズキタ一族ってどういう存在だったのかが凄い気になる。


「サマヨエルは直接会った事が有るのか?一族の誰かと。」

「まだこの村に住んでいたころの一族になら会った事が有るわね。なかなか良い連中だったわ。精霊の加護も持っていたし、そういう意味では普人とは思えないほど私に対しても普通だったかしらね。」

「あの子達が私のところに来た正確な時期って思い出せないのよねぇ。」

「魔女の子孫だったと言う噂なら天使たちの間であったけど、証拠はないのよね。とてつもないほどのマナの持ち主が居た感じはないけど、マナ操作が優秀だったのは覚えてるわ。」

「魔女の?普人同士で純血は守っていた筈だけど、そうね、こんな辺鄙な村じゃ仕方のない事なのかな?」


 スズキタ一族の歴史を紐解くのは時間がかかりそうだ。資料があるかどうかも分からないが、あの紙のどれかに書かれているかもしれない。マナの事も書かれているかもしれないし、やはり調べないと。




 部屋の中はきれいさっぱり物が無くなったので、すっきりとした・・・あれ?棚も無くなってるんだが。


「棚だったのは、箱の上に置いてあっただけの板だったんですよ?」

「あぁ、ここの箱を全部袋に入れたから棚が無くなったように見えたのか。」

「袋に入る大きさで助かりましたね。」

「まあ、中身だけ入れても取り出すとき困る訳じゃないから良いんだけどさ。」

「液体じゃなければ、そうですねー。」


 袋を持っている二人にしか分からない事ではあるが、取り出すときは欲しい物をイメージして取り出すため、本人が忘れてしまうと取り出せなくなるという罠もある。箱の中身をイメージしても入っている箱そのものと一緒に出てくるから、袋の中身を紙に書いてメモしておく必要がある。大きいのは便利だが、沢山入るから管理も面倒だ。

 村はほぼほぼ崩壊しているが、探索する必要があるかもしれないので、さっぱりした部屋を眺めて考える。


「じゃあ、とりあえず、今日のところはここに泊まるとするか?」


賛成2

異議無し1

私もお願いします1


 と、いう事で4人分の寝床を作る。俺以外は外から入る事が出来ないから安全な家だが、出るのは誰でも出れるので戻れなくなるのが怖い。ベッドはパイプで組み立てるタイプで、少し面倒だが二段ベッドも作れる。ボルトやらネジやら、スパナやドライバーを使っているのを二人が興味深く見ている。当然、元の世界から持ってきた道具なので、この世界には無い。


「便利な道具ね。釘やトンカチは普通に見た事が有るけど、この二つは知らないわ。」


 とのこと。大砲とか有るんだろうから組み立てる時に使うと思うんだけど。建築や小さい物を作るときにだって必要だろう。彼女にとって必要が無いから知らないだけじゃないかな?

 ともかく、寝床の準備は俺一人でやっているので、袋から食べる物を出して配る。俺以外が食事をしながら談笑している中、完成したベッドの骨組みに布団をのせる。久しぶりの布団はふかふかで気持ちいい。食べるのも忘れてベッドに横になるとそのまま寝てしまった。






2024/12/07

言葉使いの誤字報告をたくさんいただきました ありがとうございます

サマヨエルの言葉使いに関してですが


こーゆー喋り方です


格下の普人相手に言葉使いをどうするか悩んでいるだけで、戻ったり戻らなかったり、元々横柄な態度だったからやりにくいのと、男と女の混ざった喋り方をしています

おねだりする時は猫なで声になります(笑)


以降、太郎に対する態度は変わりますので・・・

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― 新着の感想 ―
[一言] この話を読みながら「実はこの袋の中に環境を作って活用すれば《願ったら手間なく取り出せる農場・養殖場》作れるんじゃ」とか思ったがさすがに生き物は入れられないか。 …中にいれたものが腐る…菌や…
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