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第386話 一部の平和と一部の混乱


「今日も平和だ、ご飯が美味い。」


 この言葉は太郎が言い始めたという説と、マナがご飯を食べ過ぎて怒られそうになった時に、誤魔化す為に言ったという二つの説がある。

 だからと言って、食器まで食べるのはどうなのかな。

 魔素に還元するから問題ないのは分かるけども。


「最近は枯れる予定のトレントもいないから貴重品なんだよ。」


 太郎がそう言うと、うどんがやってきて太郎に差し出す。


「足りなければこれをどうぞ。」


 目の前にうどんの腕がある。

 もちろんただの枝になる訳だが・・・。


「腕を千切って渡すのやめてくれないかな。」

「必要でしたらどうぞ、直ぐに生えますので。」

「それ禁止。守らないと抱き付くのも禁止するからね。」


 うどんが凄く吃驚した顔をした後に落ち込んでしまった。もりそばに慰められているが、倫理的にどうなのよ、って問題なの。

 イマサラって言わないで、お願い。

 普通に最初から枝で出してくれればいいじゃないか・・・。

 流石に素材が足りないからって千切った身体の一部を渡されたら気が引ける。

 というか、ドン引きする。

 そんな夕食が終わった後、珍しく魔王様がやってきた。

 目的はカレーと重要な情報な筈なんだけど、どう見てもカレーを理由に来てるよね。

 ペロリと4回お代わりした後に、ドーゴルはトヒラに用意させた資料の一部を見せてくれた。


「ワンゴがこの村に住んでるんですか?」


 スーが気が付かないくらいだから、かなり巧妙に隠れているのだろう。

 と、思ったら、隠していた犯人も名乗り出てきた。


「ははは、私なんです。」


 ハーフドラゴンのエンカなのは少し驚いた。

 元々知り合いだったそうで、それなりに世話になっている部分もあるので一度だけ問題が有るのを知っていて黙っていたらしい。

 スー激おこ案件だが、相手がエンカさんでは何も言えない。

 あの完成記念パーティが始まる少し前から隠れていて、今日までの約3ヶ月くらいは村人のふりをして過ごしていたという。

 擬態魔法があるらしく、それと認識を誤解させる魔法を組み合わせる事で、高確率でバレないらしい。改めて凄いな、魔法。

 阻害させるだけなら結界魔法でも可能だが、その場合だと直ぐに魔女にバレる事から、使うことは無い。


「何度か来ていたのは教えて貰ったから知ってるけど、住んでるとは思わなかったな。俺に用があると考えていい?」

「太郎君は話が早くて助かるわ。」

「まぁ・・・他に何か有るんならとっくに向こうから来るわけですし。」

「それなんだけど、何度も来て会おうとしていたらしいわ。」

「正直言うと、俺には会う理由がないんですよ。特に話したい事も無いですし、交渉するような事も無いんです。」

「会って貰えないかしら・・・?」


 スーをちらっと見ると、分かりやすくムスッとしている。

 マリナも真似してムスッとしている。

 もちろん何も言わないし、言えるハズもない。


「要求か何か有るんですか?」

「さぁ・・・そういう話は聞いていないわね。」

「では、この村に居る理由もないですし、エンカさんが庇護しているとしても、こちらからは立ち退きを要求するだけです。」

「わ、私も・・・?」

「いや、ワンゴだけですよ。そもそも犯罪者が自由にしているのにも問題は有るんです。たとえ誰かにとって英雄でも、困っている人もいるのですから。」


 そう言われるとエンカは返答する言葉を失った。

 凄く悲しそうな表情だが、こればっかりは認められない。

 部屋の隅から現れるように、黒い影が移動してきたのはトヒラである。

 隠れて話を聞いていたらしい。

 まっすぐに太郎を見詰めて、多少の緊張する感じがありながらも、口調はしっかりしている。


「では太郎殿、発見次第捕縛。よろしいですね?」

「うん、お任せ。」

「ダンダイル様に報告して指名手配を再配布いたしますので、これで失礼します。」


 敬礼をすると再び影に消えていく。

 それを見送ったエンカは、溜息を吐く。


「ちなみに、ワンゴなら今はいないわ。」


 そう言って力無く自宅へと帰って行った。

 その背を見送りながらスーが言った。


「それは残念ですねー。今なら捕まえられる気がするんですけどねー。」


 鼻息は荒いが、今のスーの実力なら触れる事ぐらいは出来るかもしれないが、勝てるかどうかは別問題だ。スーは毎日の素振りを欠かさずやっているし、村の巡回にも参加していて、太郎のように怠ける事は無い。

 ちなみに、その後にワンゴを捕まえたという報告を聞くコトは無かった。





 今日も村には旅人や冒険者がやってくる。

 魔王国とハンハルトのルートが確立された事で、普通の旅人の姿もよく見かけるようになった。商人の運送用大型馬車も通る、大通りに面しているギルドには、大きな宿屋や厩舎も増設されていて、日に日に賑やかになっていく。

 これでガーデンブルクまでのルートも開通すれば更に増えるだろう。

 綺麗に整えられた大通りは兵士の姿も見かけるが、魔王国の兵士しかおらず、これは太郎に配慮した結果で、問題を起こす者はいない。ただ、安全性が上がると、来なくていいような奴らも来る。それでなくても以前からちょいちょい来ているから、警戒も厳重になる。

 原因の一つとなっているこの村の住人は、いうなればただの被害者だ。

 美男美女の多いエルフ達は酒が入った旅人や冒険者にからまれるのは日常茶飯事で、大トラ専用の牢屋が有るのもこの村ならではだろう。犯罪者は出身地に強制送還するから、長期に牢屋へ収監する必要が無いのだ。

 観光名所としては温泉があり、世界樹を眺めながらの入浴も人気の一つだ。

 鉱山から採掘される鉱石類は直ぐに列車で魔王国へ運ばれる。

 この列車には客車も有るので、金銭に余裕のある者達の利用率が少しずつ上がってきている。

 そんな外からやって来る者達の一番の目的はグルメあり、村で採れた新鮮な野菜や果物、特に有名となったカレーはエルフの店で売られていて、土産用のカレールーまで用意されている。

 一番人気はカエル肉のフライと、どろどろカレーだ。それをパンで包み込んだカレーパンは帰路に就く者達が必ず買うほどの定番となっていた。


「あの・・・丘の上の大きな建物は何だい?」

「あれは太郎様のお屋敷ですよ。」

「どこかのお貴族様かな?」

「この村の有力者ですけど、村長ではありませんので。」

「そう言われると気に成るなあ。」

「いきなり捕まるなんて事は無いですけど、用が無ければあの方向に向かう事は無いので、近づけば怪しまれますよ。」


 これはギルドに来る新参の冒険者の殆どが最初にする会話で、世界樹は知っていても、あの豪華で大きな建物の事はまだ知られていない。

 しかもワイバーンがその建物に向かって飛んで行く姿を見かければ、気に成らない方が不思議ともいえる。ただし、その屋敷に近づいた者が、その後にどうなったのかについては教えて貰えないのである。

 村の人口が大きく増えることは無いが、孤児院の子供達も成長し、村と呼ばれるには無理がある賑やかな村では、今日も旅人が訪れていて、彼らの中から特定の人物がいないか、捜す者が居る。


「注意してますけど、ワンゴが来ている様子はないですねー。」

「見つけたら俺が捕まえるからな。」

「ポチさん、そこは譲ってくださいよー。」


 今回、ポチとスーが巡回する先は、結界で守られた秘密の兎獣人だけが住む村で、ここを管理している双子の少女は太郎の娘だ。

 慣れた場所なのでするっと結界を通過し、家のドアを開く。

 ドアがある家はココだけなので、間違いようは無いのだが、何故か部屋が増設されていた。


「ククルとルルクは居ますかー?」

「ああ、丁度良いので手伝ってもらえますか?」


 黒髪黒目の・・・天使?


「匂いは天使だが、お前誰だ?」

「二人に頼まれたんですよ。私はソダテル、ポチさんとスーさんですね。」

「頼まれたって何をです?」

「出産ラッシュで大変に成るようなので。」


 そう言えば数日前に言われてた気が・・・。


「綺麗な布は有るんですけどお湯が足りなくて。」


 増設された隣の部屋から声がする。

 子供の泣き声だ。


「・・・始まりましたね。」


 隣の部屋を繋ぐのは扉ではなく布をのれんの様な布を下げたダケの簡単なモノで、声だって筒抜けだ。


「出産は気合ですっ!!」


 無茶苦茶言っているのはククルですかね。


「いつもは自分で産んで育ててるから、産まれる前から立ち会うのは初めてなんだって。」


 とても冷静なのか、気が抜けているのか、よく分からないがこの天使はとても重いはずなのに、平然とお湯をたっぷり注いだ大きな桶を持って、隣の部屋にスタスタと向かっている。


「ルルクさん、持ってきましたよ。」

「ありがとうございますー!」


 ルルクの非力さでは受け取れない重さなので、低いテーブルに置いてもらい、産湯として使うために、別の小さい桶に移し、生まれた子供を丁寧に洗う。

 ところでこの天使は何でここに居るんですかね?


「手伝いましょうかー?」

「スーさん、入る前に服を全部脱いでください、汚いです!」


 ルルクに怒られてしまいました。

 天使のソダテルは翼を隠しているし、いつの間にか全裸だ。

 魔法で服を作っているので消すだけでいいのは羨ましいです。

 脱いだら頭からちょっと熱いお湯をかけられました。

 ポチさんは逃げましたね・・・。

 役に立つはずもないので仕方が有りませんが。


「私は右からやりますので、ククルは左、スーさんを向こうからお願いします。」

「え、あ、はい。」


 気合い負けしましたけど、そんな余裕ないです。

 凄い泣き声と、ぐったりしている母親。

 そりゃ、三つ子を産んでればそうでしょう。

 あー、産湯と布と、赤ちゃん・・・可愛いですねぇ。

 子でもちゃんとふわふわな耳です。


「・・・この子達を置く場所は?」

「倒れていないのでしたらそのまま母親に渡してください。ちなみに間違えても気にしなくていいです。同時に二人しか育てられませんので。」


 胸は二つ、飲める子は二人。

 なんとも・・・私達とは違いますね。

 ちなみに私達の場合は子供を産むと胸が増えます。

 正確に言うと小さな乳首がたくさん出来て、そこに赤ん坊が群がる訳ですが・・・。

 兎獣人はそのままなんですね。

 ふむ・・・ふむふむっ・・・ああっ、忙しいっ!!


 子供を洗って渡して、子供を洗って渡して・・・。

 この子、何処の子でしたっけ?

 間違えても問題無いんでした。

 ちょっと私の胸を吸ってもなにも出ませんから。

 さっと引き離して母親へ。

 母乳を与える母親が嬉しそうにニコニコしているのを見ると、こっちもニコニコしてしまいますねー。何故か聖女よりも聖母に見えます。

 この村の聖女はあまり聖女っぽくないですけど。

 フーヤレヤレ。


「終わったか?」


 ポチさんが欠伸しながら来ました。

 もう終わったので隣の部屋で休憩中です。

 服も新しいだけの白いワンピースですが、着心地は最高ですね。


「モンスターよりもモンスターでしたねー。」

「でも、やっぱり子供は良いもんだよ。」

「ねー。」

「ねー。」


 双子と仲が良いみたいですが、態々ココに来るというのも珍しいです。


「ソダテルさんもお疲れさまでした。」

「久しぶりに楽しかったよ。」


 とんでもない言葉を聞きました。


「楽し・・・い?」

「ああ、私、天使達の助産師で、子育てのアドバイスとかもするんですけど、最近は殆ど仕事が無くて、経験と勉強するのに相談したらここを紹介されたんですよ。」

「なるほどですねー、太郎さんに相談したんですかー?」

「まさかー、ナナハルさんの方ですよ。」

「ですよねー。」


 笑ったところで会話の途切れを確認し、ルルクが提案をする。


「じゃあ、遅くなりましたが、お昼ご飯にしますか。」

「さんせー!」


 久しぶりに二人の作った料理を食べる事になったのですが、カエル肉のフライだそうです。美味いっ。調味料も有るしサラダもパンも、どれも美味しい。ミルクも有るんですけど、違いますよね?チラッ

 牛乳でした。

 ポチさんも大満足してますねー。


「美味いわね。」

「姉さんに教えて貰ったんです。」

「姉さん?」

「ママって呼ぶと恥ずかしがるんで姉さんに。」


 エカテリーナは他の子供からもママって呼ばれる事が有るんですよね。

 家事をしている時の姿は私が戦闘を始める時に似ています。

 エルフでも天使でもテキパキ指示を与える姿は惚れますねー。

 ソダテルさんもあのパーティの時に給仕をしていたそうですが気が付きませんでしたね。黒髪なら逆に目立つと思いますが、太郎さんも黒髪なんですよね。

 まあ関係ないでしょうけど。

 ・・・その後も、美味しい食事と、楽しい会話。

 多少の混乱は有ったけど、昼寝をしてしまったポチさんを放置して、陽が傾くまで楽しみました。

 双子はもう少しで暇になるからと、数日後に太郎さんの家に行くそうです。

 じゃあその前にたっぷり絞っておきますか。

 この双子、私が見ても可愛いと思っちゃうので、危険なんですよ。

 ・・・その目はヤル気ですね?

 太郎さんも遠慮しなくて良いと思うんですけどねー。

 あっちの夜は激戦区ですからっ。

 






■:追記


ソダテル


希少な黒髪黒目の天使 羽根はちゃんと白い 天使の中でも数の少ない助産師


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