第4話 初めての町
ちょっと長くなっちゃった。\(^o^)/
一話4000文字程度を予定しているけど、このくらいならいいかな・・・。
あれから苦労して風呂とトイレを作った。ユニット式ではなく、別々に作った。許される贅沢を得るために自作するのだ。シャワーも作ろうと思ったけど、汲み上げるのが面倒なのでやめた。目の前に森があるので木材には困らないが、どんなに良い道具があっても組み立てられるかどうかは別の話だ。袋からペンとノートを取り出し、メジャーで測りながら設計図を作る。3日かかった。
マナはトイレも風呂も不要な存在なので助かるが、飯はしっかりと食べる。ちなみにどれだけ食べても問題ないとのこと。味も解るのか。すごいな。それって逆に言えば食べなくてもいいんだよな?マナはにっこりと微笑んだ。ずるい、可愛い。
神さまから貰った道具はどれもすごく、斧で木を切るのも簡単で、ノコギリで板を作るのも苦労はない。これはもう武器と変わらないレベル。風呂釜は木だと困るので石で作ることにした。幸い近くに大きな岩があったのでツルハシで叩く。岩が崩れた。駄目だこれ、砕けすぎる。木を切るのに使ったノコギリでいけた。もう驚かないぞー。
寸法通りに切って組み立てる。石はさすがに重い。可能なら石を器の様に掘る方が楽かもしれない。そう思って実行してみた。岩でも石でもこのノミはゴリゴリ削る。凄いけど怖い。削り過ぎないように注意しながら掘った。マナの木からだいぶ離れてしまったが、まだ許容範囲内だ。石の風呂釜を直接火にかけるのは怖いので、風呂釜より高い位置に湯沸かし専用の石釜を作る。何これ、めんどくさい。大きな岩が大きな風呂釜になった。お湯を流すためには高い位置に湯沸かしを作らなければならないので、そこに水を入れる作業が大変だ。小川が遠く感じる。排水用の穴も作り、なんで入ってたかわからないけどコルクの栓で蓋をする。抜くときはコルク抜きを使おう。なんで入ってたんだろう。俺、ワインなんて飲まないよ。
風呂を作るのに疲れたのでトイレは適当になった。穴を掘った上に木の板で蓋をして、穴をあけて、その上に木の真ん中をくりぬいた台を置く。便座カバーに合うように木製の便座を作ってカバーを付ける。合計で一週間掛かった。俺頑張った。
それまで風呂は入っていなかった。小便はそこら辺でしていた。大便は掘った穴にしていた。毎回土で埋めた。個室っぽく枠を作って屋根を付けてドアがあれば完璧だ。さらに三日かかった。トイレと風呂だけでこのありさまなのだから、家を作るなんて夢のまた夢だ。
運がいいのか、トイレと風呂が完成した後に雨が降った。仮設の家は雨漏りしなかったが、トイレは雨漏りしていた。風呂場は雨漏りしていても気にならないので問題ない。完成した風呂を利用するのは雨が止んでからにしようと思ったら、三日ほど降り続いた。9食連続のインスタントラーメンは流石に飽きる。家が燃えたら困るので固形燃料を使った。サバイバルという感じがする。
遂に完成した風呂に入ることにした。シャンプーも石鹸もある。沸かしたお湯もいい感じだ。洗い場にはスノコと椅子もあるが、排水先は外に垂れ流しているだけで、それは諦めている。室内が暗くならないようにランタンを明かりにした。風呂に入ったときに目の高さに小窓を作っておいた。棒で引っ掛けるだけの簡単な窓だけど、景色を眺めるには十分な大きさだ。久しぶりの湯船にのんびりしていると、誰かが入ってきた。俺以外に誰が・・・といえば一人しかいない。
「お風呂って入ったことないけど気持ちいいの?」
「俺は気持ち良いな。もう少し熱いともっと良いんだが。」
改めてあっちの世界の便利さを思い出す。水やお湯が簡単に出るのがこれほど素晴らしいことだったとは。それにしても脱衣所を作ってよかった。ドアを開けたらいきなり風呂場だったら丸見えだ。
「一緒に入ってあげようか?」
ドキッとした。ワクワクもした。あれだけ可愛いと思える女の子が一緒に入ると言っているのだから。どう返事をしようか悩んでいると勝手に入ってきた。当然のごとく裸だけど、想像以上のちっパイだったとは口が裂けても言わない。今の俺には彼女はいないが、昔はいた。その元カノとは一緒にお風呂へ入ることはなかった。・・・そんな事もきっとマナは知っているだろう。あの時すでにマナの木は俺の部屋にあったのだから。
何も言わずに湯船に入るマナは、そのまま俺の横に座った。流石に二人で入ると湯船のお湯がこぼれる。・・・その後、俺は久しぶりの高揚感と満足感を得て、有意義な時間を過ごした。若いって素晴らしいな。
異世界に来て二ヶ月が経過すると、生活にもだいぶ慣れた。日本に居たころのような梅雨はなかったが、それでもそこそこの長雨は何度かあった。初めての狩りの相手は根性の有りそうな角の生えたウサギで、元の世界で見たウサギよりも二倍ほど大きい。角を掴むと何故か大人しくなる不思議な習性でもあるのだろうか?運よく生け捕りにすることが出来たので、箱を組み立ててその中に閉じ込める。血抜きは何とかなるが、皮を剥いだことなんてないのでどうしようか悩んでいると、マナが近づいてきた。
「このウサギどうするの?」
「料理したいんだけど、皮の剥ぎ方がわからない。」
「それだったらさ、そろそろ町に行かない?」
「移動できるぐらいのマナは溜まったのか?」
「うん、もう大丈夫だよ。数か月は人間の姿でいられるくらい。」
「そっか。こっちの世界に来てよかったな。」
マナは嬉しそうに頷いてにっこりした。
「町に行けばそういうのを処理してくれる人もいるし、もっと別の肉も手に入るかもね。あと、こっちの世界の服も何着か必要よね。」
未だにジーパンとTシャツで過ごしている。洗濯を増やすのも嫌なので靴下は履かずに、ビーチサンダルでうろうろしていた。
「マナはこの土地だと大きく育たないのか?」
「ここはちょっとマナが弱いのよね。もっといい場所はあるんだけど、流石に元の場所には戻りたくないわね。」
より良い場所を探す旅もいいかもしれない。マナは俺を守ること。俺はマナを育てること。この世界に来てやることはあるのだが、使命感に燃えているわけでもないし、特に手を入れて丁寧に育てている気もしない。基本が植物なので放置しているのとあまり変わらない気がする。
季節は初夏。今回はまたここに戻ってくる予定の旅だ。仮設とはいえ俺の家となっている小型のパオのようなテントはそのままにしておくことにした。もっと小さくて古いタイプのテントがまだあるから、移動にはこっちを使う。畑で収穫したサツマイモとダイコンを袋に入れ、ちゃんと靴を履いて服装を整える。ジャンパーは暑いので着ていない。防具も身に付けなかった。暑いという理由もあるが、付けるのが面倒だったからだ。
「腕ぐらいは付けた方がいいわよ。」
そう言われたので、小さな籠手を付ける。なかなかのフィット感だ。とても軽い。いつもの様に帽子を被り、マナには麦わら帽子をかぶせた。やはり白いワンピースによく似合う。可愛い。たが旅をする風には見えない。身長は俺の方がまだ20cmほど高く、並んで歩いていると兄妹ぐらいにしか見えないだろう。なんだかんだやっていたら午後になってしまったので翌日の早朝に出発することにした。
袋に背負いやすい紐を付けてリュックの様に背負う。マナはただの人型ではなく、第二形態と言っていた。マナの木の本体は根元からなく、もともとそこに木があった跡も残っていない、まっさらな土で埋まっている。
マナが指し示した方向にまっすぐ歩く。小川の流れる方向とそれほど変わらないが、歩いて一時間ほどで小川は明後日の方向へ進んでゆく。俺たちはほぼ正確に西へと向かっているようだ。方位磁石なんて不要だったのでそっと袋にしまった。
ただ歩いているだけではなく、マナはこの世界の昔話をした。
「それでねー、5000年位前だったかなあ~。滅亡する前のヒンデス帝国から派遣されたっていう自称勇者御一行様が、私のところに来たのよ。」
「もう有名だったんだ?」
「私は宣伝したつもりはないけど、この世界で最大の木になってたから、目立ってたんでしょうね。迷惑でしかなかったけど。」
勇者一行はマナの木に隠された不思議な力が欲しくて、枝を折って持ち帰ろうとしたらしい。
「枝ごとかよ、勇者とは正義の味方じゃないのか?」
「勇者が正義の味方という定義は当てはまらないわね。自称勇者はたくさん来たけど、私と交渉して葉っぱを持ち帰りたいって言った勇者は一人しかいなかったもん。」
「やっぱりアレか、葉っぱを食べるとなんかしらの薬のような効果があるのか?」
「酔い止めじゃないわよ?」
俺の父親のことは根に持っているらしい。
「私の葉っぱを煎じて飲ませると死んだ者が蘇るって噂が流れてたのよ。」
「死んでるのにどうやって飲み込むんだ?」
「そう!そうよね~。なんであの当時の人達は気が付かなかったのかな?」
「勇者が必要とされているって事はそれなりに荒れた時代だったんだろ。」
「・・・ヒンデス帝国が滅亡したもんねー。」
「噂でも都市伝説でも、信じたい人はいるんだよ。悪魔に魂を売ってでも成し遂げたいことがあるぐらいだからな。」
「太郎は悪魔に魂を売りたいことがあったの?」
「そうだな・・・今はマナに魂を売ったって事かな?」
笑いながらそう言うと、マナは理解してくれたらしい。事実転移してこちらの世界に来ているのだから、元の世界の俺は行方不明として扱われているだろう。
歩きながら喋っているので喉が渇く。水筒の蓋に水を注いでマナに渡すとコクコクと飲んだ。
「あれ、これ水じゃないわね。でもおいしー。」
「レモン水の素があったから作ったんだ。冷やす道具でもあればもっと美味しかったんだろうけどね。」
「他にも何か持ってきたの?」
「炭酸水も作れるけどやっぱりキンキンに冷やして飲みたいかな。」
「水だけでこんなにおいしいんだったら、太郎のいる時に何か食べておけばよかったなー。私の目の前で毎日おいしいもの食べてたんでしょ~。なんかずるい。」
「そう言われても、元の世界でマナの事を知った後は準備で忙しかったし、食べれるなんて言ってなかったしな。」
「久しぶりだから食べるっていう発想がなかっただけなんだから。」
知らない人が聞いたら子供にご飯を食べさせない悪い親のようにも聞こえかねない。幸いなことに人影は二人以外に何もなく、魔物が襲ってくるという感じもしなかった。
マナの昔話、勇者の事、魔法の事、色々な国と、それを取り巻く、人間、獣人、悪魔に天使に・・・。幻想の物語を聞いているのと変わらない。だが、今は現実として、いつか身に降りかかる火の粉を払うこともあるだろう。最悪人を殺さなければならない場面だって想定しなければならない。護身用に持ち込んだサバイバルナイフやボウガンは、袋の中で眠っている。使う必要がないのが一番いい。
歩みは決して早くなく、休み休みに進み、日が落ちればテントを張って夜明けまで寝る。草原が広がる大地は、魔物も動物も群れでなければ安心して生きられない。逆に言えば群れに注意していればそれほど危険もないということだ。三日で到着する町には4日で到着した。しかし、町が見えてから町の入り口に到着するまでに二時間以上かかるとは思わなかった。
「結構賑やかだな。周りに何にもないのに、良くこんな場所を町にしたもんだ。」
大きな泉と、複数の井戸。家のほとんどは平屋で、見た感じは土と木で作られている。町が見えてからは人の姿も見えたし、農作業をしている人もいた。
「太郎、正直に言うね。」
「どうした、いきなり。」
「わたしね、町に来るの初めてなの。知ってはいるし、ある程度の事はわかるけど、スズキタ一族の人達から聞いたり、たまに来る旅人の話しを聞くぐらいで、こんなに人がいるのも初めてで・・・。」
「え、ワクワクしてきた?」
「そーなの。楽しそうよねー。町。」
マナははしゃいでいる。くるくる回ったり、小さくジャンプしたり。人にぶつかりそうになって謝ったり。マナの木として大木だった時も人の姿をして歩き回っていたらしいが、周りが山に囲まれていて、さらに森の中ということもあり、人よりも魔物の方が多い環境だったとのこと。
とりあえず二人は、一泊するための宿を探すことにした。