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第373話 熱意

 建物から近くて着陸出来そうな場所がソコだった。

彼らがソコに降り立った理由はソレだけだ。

 周囲を見渡すと、ワイバーンが飛び立っていく大きな建物に驚きつつも、ドラゴンは姿を人型に変化させた。

 思ったよりラフな衣服で、町で生活している一般人な感じがする。

 ・・・多分。

 

「完成しているじゃないか。」

「兄ちゃん、俺達の家より豪華だよ。」

「シッ、余計なこと言うな。」


 なんかぶつぶつ言っているが、太郎には聞こえない。


「迎えか、案内するヤツはいないのか?」

「娘が来る筈なんだが。」


 きょろきょろしていると、最初に現れたのは農民の様な貧相な男だ。

 

「どーも、こんにちは。」


 その態度に睨み付けたが、周囲の人達が倒れただけでこの男には効果が無い。


「あにしてんのっ!」ベシベシ

「アデッ?!」

「あれ、いつの間に。」

「おじーちゃん元気だった?」

「うむ。お主はいつも通りのようだな。」

「おぬしじゃないよー、マリナだよー。」


 顔を叩かれたドラゴンが驚いて頭の上にいる子供を掴んで地面に下ろす。

 叩き付けなかったのは相手が子供過ぎるからだ。


「誰よー、変な威圧飛ばしたやつはー!!」


 次に現れたのはマナだった。

 フィフスは・・・屋根の上でワイバーンに何か指示している?


「あー、アレ?なんか天使が睨んでくるから天使除けの結界を張るみたい。」


 天使だけを排除する結界・・・フィフスなら出来そうだな。

 てか、なんで睨んでくるのさ?


「部屋はたくさんあるんだし、好きな所に住めばいいのにねー。」

「あー、まぁ・・・部屋が余るほどあると思ったらそういう事だったんだね。」

「ねーっ。」


 そのワイバーン達が別方向からやってくるドラゴンに気が付いて、逃げるようにたくさん飛び立っていった。

 何かがやってくるようで、流石に俺でも予測できる。

 フィフスも弾けるように飛んで俺達のところに来た。


「おとーさまっ!」

「やっと来たか、メイリーン。」

「・・・この二人は何で来たの?」

「暇つぶしだ。」


 ガッパードにそう言われれば否定はできない。

 くすくすと笑われた後に、フィフスとマリナを頭の上に乗せた兄弟が、メイリーンに一歩詰め寄る。


「流石に説明して欲しい。」

「あなた達が来るのは予定になかったから、ばーちゃんに言われてもねぇ・・・。」


 なんで俺を見るの。

 で、なんでお前ら三人は頭の上に座ってるんだ。


「来たのでしたら歓迎はしますよ。ちゃんとした席というのでしたら今夜は無理なんで明日になりますけど。」

「構わん。風呂は有るんだろ?」

「ガッパードさんは風呂に入るときって元の姿なんですか?」

「このままだ。」

「でしたら着替えも用意しますんで、タオルと桶を用意しておきますね。」


 頷いた後、屋敷のような建物を眺めた。

 凄く気になる何かを感じたからだ。


「この家に使っている材木、まさかトレントか?」

「数千年は腐らないって太鼓判を押されたんで使いました。」


 兄弟のドラゴンがビックリしている。

 ビックリしすぎて開いた口が塞がらないくらいだ。


「良く建材が足りたな?」

「重要な部分に使っているだけで、他は普通の木です。でも、トレントが居る所為で多少は何らかの影響を受けているみたいですけど。」


 普通の木って言ったけど、普通の木ってなんだろ・・・。

 なんかトレントだって思うと斬りにくいのよね・・・。

 実は凄くたくさん増えていて、斬った後の空いた土地にはトレントを植えている。

 勝手に増えるらしいけど待ってるより早いし直ぐ育つ。

 だいたいマリナとマナの所為だけど。


「お暇でしたらまc・・・いえ、村を案内いたしましょうか?」


 今の間は何だ。

 太郎の方を見ないようにしているのだが?

 なんで娘はあの男に従っているのだ・・・?

 モジモジしておる。

 まさかなあ・・・。


「太郎ちゃん、良いわよね?」

「良いよ。日が暮れるまでには帰ってきてね。」


 4人のドラゴンがテクテクと村に向かって歩いて行く。

 歩くんだ?

 マナとマリナはそのまま連れてかれる事は無く、丁寧に置いて行かれたので、グレッグと太郎の頭に乗り換えた。

 別に乗らなくても。


「なんか、見ているだけで凄く疲れますね。」

「ドラゴンの威圧に耐えられただけマシね。」


 マチルダとグレッグはあの威圧に耐えていたが、しばらく動けなかったらしい。

 流石にマチルダの方が復帰は早かったようだが。


「何日滞在するの?」

「さぁ?」

「我々もその間、滞在を?」

「ここに来たがる人が居ないからね。」


 グレッグとマチルダが何か悩んでいるようで、何処からともなくうどんが現れてマチルダを後ろから抱きしめている。

 グレッグがビックリしているが、マチルダは少し頬を赤くしただけだ。


「これは困ったわね。」


 どっちの事だろう?


「まあ、滞在は姉さんに頼るとして・・・姉さんどこ?」

「新しく作った魔法研究所に居ると思うわよ。」


 頭痛の種が増えた。

 魔女がこれほど大っぴらに魔法を研究するなんて、有り得ない。


「何を考えているのかしら・・・?」

「アミュレットが全く役に立たなくなったから新しく作るみたいね。」


 フィフスの所為でもあるのだが、結界の効力も考慮に入れた新しい魔法人も考案中らしいが、それらの事を太郎は知らない。


「それで魔法研究所を作ったの?」

「負の魔素に対抗する魔道具というと、そんな簡単に作れるモノじゃないわ。」

「そういえばたくさん持ってましたね。魔法効果のあるアイテム。」

「今じゃただのガラクタと変わらないわ。」


 この村ではほとんど無意味の魔法効力で、性能は一般レベルの冒険者には一級品だろう。要するにこの村が規格外なのだ。


「そんな事より後を追うわよ。」

「へっ?!」


 マチルダが速足でドラゴン達を追いかけていくのをグレッグが慌てて追いかける。

 そのままマリナを連れて行ってしまったのだが、マリナが太郎に手を振っているのでお出かけ感覚だろう。


「夕飯までには帰って来いよー。」

「わかったー、パパー、行ってきまーす!」


 早足で坂道を下っていくのですぐに姿が見えなくなる。

 今度は太郎にふわっと森林の香りが鼻をかすめる。


「で、うどんは何で俺に抱きついてるの。」

「お困りのようでしたので、触ります?」

「また、今度な。」

「はい。また今度!」


 マナにおでこをぺちぺちされたのは言うまでもない。





 ニコニコ顔で歩くメイリーンを先頭に、三人の男が付いて行く。

 見た感じからして、きょろきょろと周りを物珍しく見ているお上りさんで、服装も冒険者のようには見えず、軍人に見えるはずもなく、見知っている村の者ならメイリーンに挨拶をするが、後ろの三人については分からない。

 ちゃんと威圧感や存在感も消していて、ここに最強種族のドラゴンが4体も居るとは思えない。

 フーリンとエンカは知っていて近付かず、マチルダとグレッグとは別に、遠く上空から様子を見ていた。


「こんな事が起きるなんてね。」

「あっちで兵士達も騒いでるみたいだけど。」

「魔女の方がちゃんと気配消してて偉いわね。」

「バレバレだけどね・・・。」


 一方、バレバレとは思っていない将軍が太郎のところへ行き、事情を知ると慌てふためいていて、尾行を開始したのは最初の目的地に到着する直前だった。

 上機嫌のメイリーンが露店で購入した串焼きを歩きながら食べている男達は、肉の美味さよりも、野菜の美味さよりも、そのタレの美味さに驚いている。


「今日も元気にしてるかなー?」


 4人は入り口とは別のちょっと狭い裏口のゲートを潜り、建物には入らず広場に向かう。そこには子供達の姿は無い。


「なんだココは。」

「村の孤児院。」


 孤児院というと良いイメージが無い。

 ボロボロの服にやせ細った身体。

 具の無いスープにカチカチのパンを食べ、男なら重労働、女なら慰めに使われる。

 子供だとしても、扱いは変わらない。


「お父様、あちらです。」

「ん・・・?」


 歌声が聞こえる。

 綺麗なハーモニーではないが、多くの子供達が建物の中で歌っている。


「良いピアノの音がするな。」

「ばーちゃんが使ってもらいたくてあげたの。子供達が大喜びで。」


 そのピアノを弾ける者が一人いた事で子供達に教え、その後の日々の努力もあって今は子供が弾いている。


「奴隷に歌など覚えさせてどういうつもりだ?」


 娘は首を横に振った。


「奴隷ではありません。子供達が将来の為に学を得る為の宿舎、ここに居るのはみんな孤児だけど、笑顔が多いのです。」


 とても驚いた。

 こんな無駄な事にどれだけの手間をかけるのか。

 誰もが役に立つ筈が無いだろう。

 余計な知恵を与えれば悪事を働く者だって出る。


「太郎ちゃんは承知の上でやってるって。」

「あの男・・・とんでもないな。」

「なんでも、識字率を高くしたいと。更に計算も教えていて、変わった道具を使ってるのです。」


 それはナナハルの国でも使われていたソロバンと呼ばれるモノで、旅商人達の間でなら、それほど珍しい物ではない。ただし、その道具に使われる素材に宝石を使ったりするので無駄に高級品である。


「ここでは金属と木材で作ってて、ある程度量産しているみたいだけど。」

「計算など、得意な奴に任せておけばよいだろう。」

「ミスをしても困るではないのか?」


 兄弟ドラゴンの当然のような言動に、ガッパードの娘は首を横に振った。


「間違えない人はいないって、太郎ちゃんは言ってたのよ。」

「何事もやらねば覚えぬ。」

「そうです、お父様!」


 ピアノの演奏と歌声が消えて暫くすると、子供達が外に出てきた。直ぐに気が付いて飛び付いてくる。


「おばーーちゃーーん!」

「「「わーーーい!!」」」


 あっという間に子供達に囲まれて、メイリーンはご満悦である。

 男三人に飛び付く子供はいなかったが、興味深げに見詰めてくる。

 メイリーンが子供達と何やら話をしていると、少しずつガッパードの周りにも集まってくる。そり子供達の姿を見てさらに驚いた。


「獣人が・・・?!」


 見る者の耳の形に統一性が無い。

 それは多種族が同じ場所で平等に扱われている証明だ。

 年齢にはかなりの差があるようだが、そんな事が可能だったのは聖女ぐらいしか知らない。ガッパードがその場に座ったのはメイリーンに言われたからで、言われなければその光景をぼーっと見つめ続けていただろう。

 視点が下がっただけで子供達が、特に年齢も身長も低い子達がガッパードの周りに群がってくる。少女が胡坐で座るその膝に乗ると、不思議と幸せな気分になった。

 実娘のメイリーンですら、子供の時にこんな甘え方はしなかった。


「お歌を唄ったのー。」


 いきなり会話が始まるのも子供らしい。


「どんな歌かな?」

「しあわせのうたー!」


 もちろん、ガッパードはそんな歌を知らない。

 だが子供の喋る口からあの匂いがしてくる。


「ん・・・カレー?」

「おひるごはんカレーだったよー。」

「なんと・・・。」


 そこからは子供達が自分の言いたいことを同時に話しかけてくるので、誰が何を言っているのか殆ど分からなくなったのだが、それ以上にカレーの香りに心を奪われていて、そこからは子供達とカレーについてじっくりと話をしてしまった。


「なんか、楽しそうだよ。兄ちゃん。」

「ああ、あんな姿は初めて見る・・・。何故あんなにカレーに固執して熱意を燃やしているのか。確かに美味しかったのは認めるが。」






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