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第371話 一大事業

 早朝、エカテリーナに見送られて村を見下ろす高台にやってきた。

太郎は建物の配置を決めるべく土に線を引いているのだが、マナはすぐに飽きてしまったので、マリナが手伝ってくれた。

地面を掘るのに土魔法を使用するのだが、俺よりもマナよりもマリナは指示した通り、正確に掘ってくれる。あっという間に水路と溜め池を完成させた。溜め池の横にはうどんともりそば以外のトレントを植える。このトレントは苗木から育てた別物で、山の斜面にも果樹園を守るようにたくさん植える事にした。


「こっちはブドウ園でいいのー?」

「うん。」


 ここに植えるのはピンク色の葡萄で、突然行ったので凄く驚かれたが、苗木も無かっなので、代わりにエッセン伯から貰ったのがコレだ。

 エッセン伯の領地はエルフ国の胃袋を支える事が可能なほど広い農園で、あの時に植えた世界樹も元気に育っているのを確認できた。


「アンズって美味しかったね。」

「桃が木に成っているのを見た事が無かったから気が付かなかったけど、スモモやプルーンもあったね。」

「全部育てるの?」

「この山を果樹園にするつもりだから、土地が余ればいくらでも作るよ。」


 葡萄用に支柱も設置するが、建築はまだ先だ。


「パパー、こっちがにわとりー?」

「うん。」


 線を引くといっても棒で土を削っているだけだ。

 だいたいの大きさを決めたら、角に杭を打って紐を結べば直線が出来る。


「やっとるのー。」


 ナナハルが子供達を連れてやってきた。

 子供達は家畜の世話をしてからなので遅くなったのだが、まだここに来るまでの道は整備されていない。

 ちなみにベヒモスが来ると雑草が増えるので完成するまで来るのを禁止されている。


「馬車が通れるくらいの広さが必要じゃの。」

「うーん、道は坂がきつくなるから九十九折かな。」

「ツヅラオリ?」


 ナナハルが頭に?を何個も作っている。

 あー、うん。

 通用しないかー・・・。

 がんばれ言語加護。


「あー・・・くねくねした蛇が通った跡のようなやつじゃな。」

「そうそう。坂を緩やかにしたいからね。」

「道もかなり大変になるのぅ。」

「そのアタリは大丈夫、マリナが後でやってくれるって。」


 マリナが任せてとばかりに両手を上げてバンザイのポーズをしている。

 崩れにくくするために坂道にも木を植えておこうかな。


「おとーさーん、これからどうするのー?」

「今日は基礎工事前に場所決めだから、昼までには終わるよ。」

「お手伝いはないのー?」

「この辺り一帯の草むしり!」


 子供達よ、なんでそっぽを向いた。

 ナナハルも知らんぷりするのやめてくれないかな。


「暫くは地味な作業だけど、仕方ないよ。」

「分っておる。」


 そう言って魔法で草むしりを始めるナナハルは、土を一気に剥がしてひっくり返す。

 見事な魔法コントロールだ。子供達も真似をしていて、次々に完成していくフラットな広場を眺めた時に気が付く。


「そっか、馬小屋も必要かな?」

「ここまで線路を敷けばよいではないか。」


 なるほど。


「先に水路を張り巡らせて、この辺りに井戸も作って・・・。いや、水道管を通してここにタンクを設置するか・・・。」


 気が付いたら後ろでナナハルが子供達と魔法を展開している。

 組手魔法?


「魔法で簡易的に大きさを見ておる。ここは2階建てにするのだろう?」

「うん、それと建物はいくつかに分けで通路で繋ぐ予定だよ。」

「まるで宮殿じゃの?」


 本館をコの字型に作って、周囲にも繋げ易い位置に建築していけば、色々と便利だろう。加工する工場も必要だな。

 ナナハルをじーっと見詰めながら考え事をしていて、特に見詰めている理由は無かったのだが、見詰められた方はモジモジしている。


「先に宿舎と食堂を建てるか。」


 独り言のように呟いているので、ナナハルは溜息を吐いたが、働く男の姿は見惚れるモノが有るらしい。太郎に指示を仰ぐと、直ぐに返事がくる。

 仕事に対して少し真面目過ぎるトコロもあるが、太郎は常にもう一つ上を考えている。だからこそ夫に相応しい。

 その太郎は袋からごそごそと何かを出している。


「なんじゃ、これは?」

「コテージだよ。」

「まるで小さな家じゃな。」

「見た事ないっけ?」

「それならば、兵士宿舎で余っている部屋を圧縮して持って来ようかの。」

「それ採用。」


 と言うワケで、ルカに許可を貰って30人が寝泊まり可能なプレハブのような兵舎を移築する。簡単に作れて、簡単に増改築が可能なので便利だ。

 オリビアや兵士達が昼過ぎに資材や道具を積載した荷車を曳いてやってきた。

 これも圧縮してしまえば良いと思ったが、手伝う側にしてみればそんな魔法に頼ってしまうのも困るとのこと。村から新たな太郎の家までのルートも確保する必要があるので、周囲の木々を伐採する必要も出てくる。


「やる事がたくさんあると我々も助かる。なんでも指示してくれ。」


 オリビアさん以下のエルフ達がやる気満々で迫ってきて、兵士達も負けずに迫ってくる。鼻息は荒いが、今はやる事がほとんどない。

 まだ夜は元の家に戻るし、この山の中腹と往復するには、村からはかなり遠いし、高い。見下ろせるので村は良く見えるくらい景色は良いのだが。


「それにしても、こんなに離れる必要があったかの。」

「あの村はもう俺の指示で動くべきじゃないと思うんだ。俺が居るといつまでも俺のところに許可を求めるに来るからね。」

「確かにのう・・・。だが、あの村で太郎の代わりを誰にやらせるつもりなんじゃ?」

「やる?」

「・・・構わんが、他にも候補がおるではないのか?」

「いるよ。でも、後はオリビアさんくらいかな。この村を知ってて古参でないとダメだから。兵士には任せたくないしな。」


 ドラゴンも候補に入っていない事でナナハルは太郎の考えを読み取っている。

 

「あくまでも村、か。」

「そうだね。ハンハルトからの移民も来ているみたいだし。」

「なるほどの、監視も兼ねておるか。」


 太郎はその言葉に否定気味だ。


「監視するつもりは無いけど、変化は見守りたいかな。そもそも世界樹が育てば問題はないし。」

「確かに、少し大きくなりすぎて面倒も増えたの。」


 それは村の事かな、マナの事かな。


「銀行か商会を作って土地や資産を管理しても良いけどね。」

「ギンコウ?」

「お金や土地の管理をメインとした金貸業かな。」

「ほう。大きな商会ではやっているところもあるが、金貸しなんぞ殆ど失敗する気しかせんの。」

「土地や店舗を貸して商売させて一定の返却を求めるくらいでいいよ。働く気の無い奴に貸す気は無いから。」


 その言葉だけで太郎の言う事を理解したが、金儲けの為に金を貸すのではなく、村を発展させる為に金を貸すという発想は無かった。考えとしてあったとしても、最初に除外する項目である。儲けようとしない金貸しに何の意味が有るのか。


「なるほどのぅ・・・それならば古参にしか出来ぬな。村を理解してなければ儲け重視になってしまうからの。」

「まあ、それはまだずっと先の話だし忘れていいよ。今はガッパードさんが来る前に完成を目指そう。」


 コテージは内部を改装し、調理場として利用し、宿舎にはベッドだけ設置する。そのベッドはまだ用意できていないので、暫くは利用しない。

 陽が傾いて空が赤くなったら家に帰り、夜が明けたら新居の建設作業をする。

 新築用に新しい家具やベッドなどの殆どはエルフ達に作ってもらい、柵などの簡易的なモノは兵士に、グルさん達には水道管や果樹園用の支柱などを作ってもらう。

 それが半月ほど続くと、土台は完成し、一部の建築も始まった。


「私達の使う道具も新しく作るんですよね?」

「そのつもりだけど、使い易いのなら持ち込んでもいいよ。長く使った道具って愛着も湧くしね。」

「包丁も置いて行かなければならないのかって心配していました。」

「少し離れるって言っても・・・そっか、まだ行った事なかったね。」

「はい。」

「もう少しで調理部屋は完成するから、配置とか棚の位置はエカテリーナに決めてもらいたいし、あとで行こうか。」

「はい!」




 用事を済ませたエカテリーナと、調理担当のエルフを連れて新居にある調理部屋にやってきた。土台は完成していて、太郎の伐採した木材を運んでいる兵士達と、それを受け取って組み上げているエルフ達の声が響く。


「枠としての広さは決まっててさ、前より広いよ。」


 窓も部屋に入る扉も枠だけで設置されていないので、中は丸見えだ。

 そして、今までは室内に無かった流し台がある。

 蛇口をひねると屋上に溜めたタンクの水が流れてくるというもので、残念ながら汲み上げ機能は無いが、タンク内への水の供給は専用の水路とパイプを伝わって自動で行われる。タンクが満タンになると余った水路の水は風呂場へ流れるようになっていて、風呂場では常に水が流れている。湯沸かしに使う水も余ったら排水用に流れるし、魔法で沸かしてしまえば湯舟にも温度調節で水は流せる。

 ちなみに、この蛇口を作ってもらうのにグルさんの弟子夫婦に凄く苦労してもらった。完成まで三日かかったとか。

 量産して欲しいから蜂蜜を樽で渡しておいたから大丈夫だと思う。

 うん。

 水路では水車も回せるし、トイレも新設した。

 小川が近いから以前よりも水を使い易い事で実現したのだ。


「水路はまだ調整が必要だけど、使うだけなら今からでも使えるよ。かまどの上に換気扇も設置したし。」

「カンキセン???」

「煙突よりも効率的に煙を排出するんだ。」


 エカテリーナが言われた通りにボタンを押すと、カンキセンが回りだす。

 まだ火を入れたばかりのかまどの煙が吸い上げられ、室外へ出ていく。

 これで室内に煙が充満する事は無いだろう。


「ふうしゃってこんな使い方が有ったんですね。」

「あー、うん。風車・・・ね。」


 どうしても「ふうしゃ」と言うと、巨大なイメージがある。

 小さければ「かざぐるま」だろう。

 字は同じなんだよなあ。

 まあ、この世界で日本語は中途半端にしか使えないし、使えるようで使えない、ナナハルの国ではどうなっているんだろう?

 言語加護がんばれ。


「・・・太郎様?」

「ああ、何でもない、ちょっと考え事。」

「?」


 エカテリーナに心配されてしまったので、咳払いをし、改めて調理部屋の配置について相談した。エルフ達も交え、気が付くと何時間も話してしまったらしく、とっぷりと日が暮れていた。






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