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第368話 名ばかりの村

 季節は少し流れ、村とは思えないほど活気に満ちている。ハンハルトからの旅人が激増したのも一因だが、事情を中途半端に知った者達の無法問題が多数発生し、魔王国の兵士が手を出しにくいことをイイ事に、牧場や農場に無断で入ろうとするのをエルフ達が止めているのだが、今一番効果があるのが、ケルベロスとキラービーのライン防衛隊である。カラー達はあまり役に立っていないし、ワイバーンは配達で忙しく、キラービーだけでは限界だったのだ。


「で、呼んだん?」

「役に立ちたいらくてな。」


 ポチの目の前にはケルベロスの群れがずらーっと並んでいて、その頭の上にキラービーが座っている。

 なんでマナはポチの頭に座ってるのかな。


「ずいぶん増えたわね?」

「キラービーの方は順調に増えてるみたいだね、ワンゴ関係の犯罪者がたまに来るから絞ってるらしい。」


 搾ってるのかも?


「ケルベロスも増えちゃって・・・。」

「こんなに居たら災害級らしいけど、俺からすると凄い大人しいし、じゃれてくるから可愛いんだよね。」

「そりゃ、タローが一番だからな。」


 自慢気に語るポチの鼻息が荒い。

 フィフスは俺の頭に座らなくて良いんだぞ。


「魔素溜まりの報告もしてくれるから助かるわ。」

「へー・・・。って、まだ迷いの森に発生してるんだ?」

「一日に一回くらい。」

「それ、多過ぎじゃないかな。」

「閉じ方わかったし、私でも出来るから。」

「意外となんとかできるよね。」

「うん。」


 実際は天使達も出来るので、それほど難しい技術ではないのかもしれない。

 と、思っていたのだが・・・。


「普通は出来ないですよー。」


 スーとオリビアが子供達を連れて現れる。

 あれ、マリナはそっちに混ざっているのか。

 子供扱いが良いらしい。


「吹き飛ばせばいいんだけど、地面もえぐれるから。」

「そんなんでもいいの?」

「一時的にはね。完全に消せるのは天使の専売特許の筈。」


 専売特許なんて言葉あるんかい。

 言語加護の謎は深まるばかりだ。

 そもそも、魔素溜まりの存在理由も謎のままなんだし。


「ってことは、天使以外が出来るのは異常なのか。」

「まあ、太郎殿は常識では計れないからな。」

「わたしもできるよー!」


 マリナは何でも出来る優秀な子だ。

 何でも出来過ぎて困るくらいでもある。

 最近は孤児院や農場で子供達と混ざっいる方が多い。

 俺より優秀だよね?

 ニコニコしているから頭撫でとくか。


「そーですねー・・・ドラゴンでも消せるワケではないみたいですしー。」

「そーいや天使の姿を見ないけど、最近はどうしてるのかな。」

「大忙しらしいですねー、規模は小さいけどあちこちに発生するって愚痴ってましたよー。」


 元々住人ではないし、村に不在でも困ることは無い。

 偶に食堂でたむろしている姿を見る事はあっても、直ぐに居なくなってしまう。


「食事はココが一番美味しいので近くまで来たら寄っていくようですねー。」

「まぁ、フィフスとおんなじで俺の事を神様って呼びたがるからなあ・・・。」


 あの日以降の天使達は太郎を神と認識していて、フィフスも未だにそう呼ぶ。

 やめて欲しいんだけど。


「ダンダイル様が神様呼びした時は笑いましたけどねー。」

「もうね、何度も言われたら俺は泣く。」


 子供達は流石に父親と認識してくれるし、ナナハルも気軽に名前で呼んでくれる。ポチやマナは、スーは昔から変わらない。

 やっぱり名前は大事だよな。


「ところで、これだけケルベロスを集めたって事はやるんですかー?」

「俺が集めたわけじゃないけど、ほら、結局はワンゴが現れないじゃん?」


 あの日の報告以来、ワンゴ現れないが、その部下らしき姿は現れているし、悪さもしている。

 治安に関してはかなり悪くなっていて、エルフ達も兵士達も苦労をしていた。何しろ牢屋が増えているのも問題だし、普通の旅人らしい姿で村の中をうろうろしている奴は、たいてい何かを探している。

 季節関係なく四季折々の果物が手に入る村なんて、知りたがる気持ちは理解できるし、その品質が高いのも多くの人に知れ渡っている。


「そしたら、旅商人よりも貴族達の方が多く乗り込んでくるとは思わなかったよ。」

「みんな権利を主張しますからねー。魔王国が村との関係について多くを語るようにしていないのも、そろそろ限界だと思いますよー。」

「なんかヤダなあ・・・。」

「太郎殿には苦労を掛ける。」


 そんな寂しそうな声で言われるとこっちが申し訳なくなる。

 だからと言って恐怖政治とか、力でねじ伏せるのは極力避けたい・・・。

 と、言っていられなくなったわけで。


「一応マリアに結界を張ってもらってるから侵入者の駆除は楽なんだけど、連行が大変なんだよね。」

「僕達が頑張るよ!」


 やる気満々な子供達。既に一般での一流の戦士レベル以上に強く、特に兎獣人の村の近くでうろうろする人達を追い出すのに役に立って貰っている。

 マリナは本気でやらないでね、村が壊れるから。

 ニコニコしてるから頭を撫でておく。

 頼むよ?

 ククルとルルクがいつも兎獣人の村に居るのは、忙しいからで、戦力としては十分だが、あまりこっちに来ない。来る時はいつも俺の布団に潜り込んでくるので困る。

 村周辺の警備はエルフ達が主に担っていて、村内は兵士が巡回するコトで犯罪の抑制をしている・・・。


「村を作り始めた頃が懐かしいよ。」


 太郎が昔を懐かしむように遠くを見詰めると、スーが同意した。

 ポチも頭をこすりつけてくるので、頭を撫でておく。

 スーはしないよ。

 頭こすりつけないで。


「では、大掃除作戦を開始する合図を送っていいか?」

「よ、よろしく。」


 先日オリビアと決めた合図によって、今日の為に用意したワイバーン隊が村中を警戒し、何かしようとしている奴等を片っ端から捕まえる。

 村の中心では警備用の兵士が待機していて、カールとルカも協力態勢を整えていた。

 ぞくぞくと連行される怪しい者達を、一人一人尋問し、容疑が確定した者から牢屋に直行させる。

 これだけでもかなり大規模になってしまった。


「なんだこれは、次々とやって来るじゃないか。」

「こいつら、殆どが貴族の雇われだからなかなか口を割らないぞ。」

「太郎殿が面倒と言うワケだ。」


 兵士宿舎に新たに造られた牢屋は、孤児院の子供達に良い影響を与えないという事で、隠すように建設されたが、これだけの人数が連行されると、村に訪れただけの普通の人達にも、その異様な光景が目に映った。

 冒険者ギルドでは「草刈り」とか、「野焼き」とか、勝手な呼称で隠語のように話題が広がっていく。


「おい、つれてきたぞ。」


 参加しているグリフォンは、近づいた者を次々と持ち上げ、一人で十人ぐらいを無理矢理運んでいる。

 陽が落ちる直前までに千人近い人数が連行され、その半数が牢屋へ、残りの半数は厳重注意の後に解放した。それらを書類にまとめ、文書として提出する事務作業は完全に任せ、後日来るトヒラに確認をしてもらう。

 ただ、全てを捕縛できたワケではなく、数十名は素上すら分からないまま逃げられている。その中に、もしかしたらワンゴが含まれていたかもしれない。

 ともかく、この作戦のおかげでかなりの効果があったコトを体験する事になる。




 大活躍したグリフォンは、太郎に褒められて満足気に夕食を食べている。子供達も、今回は参加しないで見ていただけのナナハルに褒められていて、夕食も豪華だ。

 捕まえた者達の殆どが貴族の関係者だったのは予想通りだったが、ワンゴ関係の盗賊は一人もいなかった。


「逮捕者のリストを見ましたか?」

「ダンダイルさんの頭痛の種が増えそうだね。」


 アンサンブルで販売されているモノを知った貴族達が、こぞってこの村の生産物を狙っているのがはっきりとした。ハンハルト関係の貴族が一人もいなかったから余計に頭痛が痛いだろう。


「貴族はその地位を剥奪されるそうだ。」

「高位の貴族でも居たのかな?」

「うむ。納得できないと言いたげな者も多くて困ったそうだ。」


 その中で、捕まった貴族の一人が尋問中に怒鳴り声をあげた記録がある。


「ここの何処が村なのだ、エルフが住み、兵士が駐在し、規模で言えば町レベル、生産力で言えばアンサンブルと区別がつかない、村とは名ばかりではないか!」


 それを知った時の太郎は、何とも言えない憮然とした顔で、みんなが心配する程であった。ゴリテアの事件で多くの人がこの村に残った事も有り、村のまま住人は増えていて、それが理由で怒鳴られる理由は太郎にはない。


「ここは村。誰が何と言おうとも、村。」


 村としているが、太郎以外の殆どは町だと思っている、エルフ以外にもそれなりに移民や関係者も増えていて、名ばかりの村なのだ。


「普通は小さいモノを大きく見せようとするモノですけど、ここだと大きいモノを小さく見せようとするんですよねー。」


 スーにツッコまれた。


「そんな事するんだったら最初から大きい街占領した方が楽じゃん。」

「太郎さんの考えはちょっとどころじゃないくらい過激ですねー。」


 今の貴族達がやろうとしている事を言っただけであるが、太郎が考えて実行すると成ればだれも止められない。


「んー・・・そうかもね。」


 色々と面倒になっている太郎は疲れの所為か、考えも纏まらない。

 ルカにとっても自分が貴族なので、他の貴族とはいえ簡単に地位が剥奪されるのは嬉しい出来事ではなく、罰金程度で許してもらえないか、トヒラに具申するつもりだった。

 後日の話になるが、太郎はその貴族達がどうなったか知ろうとする事は無い為、結果的には太郎に内緒で処理する事が決定し、厳重な機密事項となった。ちょっとではなく、関わる貴族に大物が多過ぎたからである。

 





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