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第362話 完成記念式典

 いくつかの食糧問題が解決すると、決着を付けなければならない話が残る。

 ワンゴが全然姿を現さなくなった所為で、先延ばしにしているのだが、太郎の頭の中にはワンゴの事などすっかり忘れていて、明日は馬車に乗って出発する準備をしている。

 子供達も瞬間移動で一気に進むとはいえ、半日ほどは乗って移動する事になっていて、その為に必要なものは子供達で準備させていた。

 馬車も村で作った一番大きいタイプで、馬が4頭で牽いている。

 出発式も簡素の簡素を極めたようなもので、ハンハルトからの出席者として出向でやってきたコンロッソ大佐という軍人が、人かの部下を引き連れて見送りに参加していた。

 ジェームスと仲が良いらしく、村では常にジェームスの案内であちこちを見て回っていて、特に食事では唸り声を出した後に「いつもこんな美味いモノ食ってたのか。」と、ジェームスにこぼしている。


「飯が自慢の訓練所だったんだがなあ・・・。」


 この村の料理責任者が子供だという事に驚いたが、元奴隷だという事にも驚いている。そんな重要な部署に何をするか分からないモノを据えるとは度胸があるな、と。


「それを太郎君に言っても喜ばないからな。」

「あ、ああ。」


 その噂の人物である鈴木太郎とは歓迎会という形であいさつをしているが、とても最強には見えなかったというのが正直な感想である。

 視察も兼ねていたコンロッソは太郎の乗る馬車のすぐ後ろをついてくる。予定より凄く遅い出発日になった事もあって、村の住人になりかけていたから、特に部下達は客人待遇で滞在していた所為で、帰るのを凄く惜しんでいた。


「これで本当に間に合うのか?」

「これから太郎君が連れて行ってくれるから安心しろ。」


 それだけで説明をしないジェームスは、その後に起きる事が予想できるのでニヤニヤしている。フレアリスとマギは出席しないが、ジェームスは参加メンバーに指定されているので、三人がコンロッソと同じ馬車に乗り込んでいる。

 

「じゃあ、シルバ頼むよ。」





 唖然とするコンロッソ以下兵士達は女子供ばかり乗っている馬車の後ろを軍用馬車3台が付いて行く。最後尾の御者席に座るジェームスは、その隣から質問と唾が飛ぶ。


「なっ、なんだ今のは。」

「瞬間移動。」

「あんなの、簡単に扱える魔法なのか?」

「普通は無理だし、大人数を運んでも平気なのは太郎君ぐらいだろうな。」

「村でも驚く事ばかりだったが、とんでもない男だな・・・。」

「見慣れたら普通だぞ。あの村には最強のドラゴンも居るからな。」

「まさか・・・あんな気軽に会話が出来るとは思わなかった。」

「その最強に親が居るってのも、それがガッパードと言われるあのドラゴンだぞ。」


 コンロッソが胃の辺りの腹を撫でる。


「自分の事、ばーちゃんって言うの、アレは何とかしてほしいよなあ・・・。」

「見た目は綺麗なお姉さんって感じだが、どれだけ生きているのやら。」

「九尾だけで十分異常なのにな。」

「世界樹が在る村で異常も何もないもんだが。」

「そうか。そうだよな。世界樹だよな。」


 自分を納得させる事に忙しいコンロッソは、遠くに城が見えるようになると無駄口を止めた。道中、訓練場を経由するのはマギとフレアリスを下車させ、無駄な荷物を減らし、式典用の衣装を積み込む為だ。

 ここからは馬車が追加され、先頭がコンロッソになり、最後尾も軍用馬車で、太郎達は9番目となる。隊列も間隔が広く、子供達は幌から顔を出し、馬車からの景色を楽しんでいた。


「空に、なんかパンパンしてるよ。」


 遠くから音が聞こえるのは歓迎の為にお祭り状態になっているからで、主要街道の開通は多くの商人や冒険者に歓迎されている。

 このルートではダリスの町を経由する必要が無くなる事でアンサンブルまでの必要日数が軽減される。安全性にはまだ不安要素が有るが、冒険者達にとっての稼ぎどころが増えるのも歓迎される要素の一つである。

 

「花火でも打ち上げてるのかな?」

「凄い歓迎じゃの。」


 子供達が馬車から飛び出しそうなのでスーに止めてもらうが、マナとフィフスは止められない。十分広い道の左右には兵士だけでなく様々な職業と種族の人が集まっていて、物珍しそうに馬車を見ている。


「なんかパレードみたいでイヤだなあ。」

「そう言うでない。村の代表として来ておるのだ。本当ならばもっと馬車が並ぶ予定だったのじゃぞ。」


 エルフも連れていく予定があったが、双方から断っている。

 オリビアは目立つ事を敬遠したかったし、ハンハルト側からもまだエルフを受け入れるだけの余裕はないとのこと。


「ねじ込むつもりだったらしいが、面白い事を考える国王のようじゃのう。」

「俺としてはどっちでもいいんだけど、厄介事が増えるって言われたらね。」

「すっごい人の数ねー。」


 通り過ぎていく馬車を見つめるのは大人ばかりではない。子供が子供を見付けると、自然と手を振っていて、誰かが始めると、それが広がっていく。


「なんであいつらは手を振って来るんだ?」

「マナもやってるだろ。」

「かm・・・太郎はやらないのか?」


 神様と呼ぶと名前で呼ぶように注意されたので太郎と呼ぶようになったが、日が浅い所為で神様と呼びそうになる。


「こーゆーのは苦手なんだよ。」


 そう言うとマナとフィフスを左右の腕で一人ずつ抱きかかえる。そうすることで手が振れない理由を作ったのだ。

 後ろではポチが顔を出すと驚く声と悲鳴が聞こえたが、気にしない。子供達がポチの顔を撫でまわして怖くないよアピールすると、沿道の子供が何人か飛び出してきた。

 直ぐに兵士達に取り押さえられそうになったが、子供達が手を伸ばすと、それを掴んで馬車に乗せてしまった。


「まあ・・・到着する前に帰してあげればいいか。」

「祭りじゃしの。」


 後ろが騒がしくなった。

 仲良くしてくれるなら何の問題もない。

 特に、村以外での子供をあんまり知らないから新鮮なのだろう。

 ポチが知らない子供に抱き着かれたり撫でまわされたりしている。

 すまん、我慢してくれ。


「奴らも分かっているようじゃ、減速したぞ。」


 軍用馬車が減速して、幌の中で着替えた兵士達が降りて馬車に合わせて歩く。沿道の人は城下に近づくほど増え、見覚えのある町並みは少し違って見えた。城門が見えると周囲は殆どが兵士になり、軍楽隊でも居るのか、遠くから音楽が聞こえる。

 子供達が名残惜しそうにしているが、そろそろ降りてもらわないと、このまま城に入ってしまう。一時停車して、一台ずつ入場するたびに、何らかの歓迎を受けているようで、時間がかかるようだ。

 今のうちに降りてもらおう。


「また、あそぼーねっ。」

「うん!」


 子供達の約束が守られるかは不明だが、また会えると信じられる関係は悪くない。

 マナとフィフスも大人しく幌に戻ると、スーが前に来た。


「こんな式典見たことも無いですし、普通なら将軍とかがやるもんじゃないんですかねー?」

「将軍みたいなやつなら道中に居ったぞ。」

「そーなんですかー・・・。」

「ククルちゃんとルルクちゃんにも見せてあげたかったなー。」

「ナナヨがそう思うのならまた来ればよい。勝手にはまだ困るが、その為に作られた街道じゃ。」

「ハルミと約束したんだよね。」

「なんと?」

「私達だけで冒険に行こうって。」

「強さなら十分だと思うけど、世間的にはどうなんだろう?」

「そんな世間など知らんよ。村の方でも十分な刺激はあるし、常識も教えておる。」


 村の常識はちょっと違う気が。


「おじさんには好奇心さえ抑えられれば問題ないって言われたよ。」


 おじさんとはジェームスの事だ。

 戦闘訓練ではいろいろとお世話になっている。

 会話をしていたらいつの間にか場内に居て、見た事の無い人にじろっと睨まれた。

 どうやらこの国の将軍らしい。

 停車した馬車から降りると声をかけられる。


「鈴木太郎殿であるな?」

「はい。」

「案内する。なるべく一列で付いてくるがよい。」


 人は多いのに軍楽隊の奏でる音しか聞こえない場内で、通路を歩く。

 他ではいろいろな式典を行っているが、太郎一行には関係が無いようにしてくれたらしい。好奇心でどこかへ行ってしまいそうになるフィフスをマナが手を掴んで引っ張る。

 連れてこられた部屋の中ではマギとフレアリスが待っていて、既に料理が並べられている。


「式典はココで終わりのようです。お疲れさまでした。」

「ジェームスさんは?」

「無視して先に食べてくれって。」


 村とは少し違う料理に、子供達のテンションが高い。

 特に魚料理が多いようで、ナナハルも感心しているくらいだ。


「結局、ただの一般参加者のように扱われたけど、俺達に意味があったのかな。」

「一般である事が重要ではあるが・・・村から来た訪問客と言うトコロじゃろうな。」

「なるほど。」


 椅子に座るとウエイターがナイフとフォークだけでなく、箸も用意してくれた。

 箸を使うような料理は無いと思っていたら、御飯が盛られた皿が出てきた。


「ツクモ村のコメというものです。」

「ほう。」


 ナナハルが強く反応した。

 妹の活躍を聞くと気分が良い。


「他にも使われておるのか?」

「漬物と呼ばれているモノです。」


 今度は皿に乗せられた大根とマンドラゴラの漬物が出てきた。

 もう一つ驚くモノが。


「これ、ゴボウだ。」

「どうぞ、ご自由にお召し上がりください。」


 ウエイターが部屋の隅に移動すると直立不動になる。

 我慢できずに食べ始めるマナとフィフスをスーがどうにか抑えていたが、太郎のいただきますの合図に一斉に食べ始めた。

 特にナナハルが嬉しそうに食べているのは珍しく、美味い料理を食べた以上の何かを得たようで、子供達の騒がしさも耳に入っていなかった。






ナナハル「なかなか・・・こんな日が来るとはのぅ・・・(モグモグ

子供達「おかーさん、嬉しそうだね

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