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第361話 問題と解決と

 村の生活は驚くほど順調になった。

ハンハルトとの街道の整備も進捗は順調で、もうすぐ完成するらしい。

完成記念式典に出席するかと問われ、当然のように断る。


「そう言うと思ってたよ。でも悪いな。一応は訊いておかないともしもって事もあると思ってな。」

「ジェームスさんも大変ですね。」

「太郎君以上に大変な人を知らないけどな。」


 ジェームスは以前から態度を変えない。

 実はこの人に助けてもらってなかったらもっと面倒な事になっていたかもしれないというのは、後から知った事だが、それが無かったとしても、太郎への対応は変わらないだろう。年齢は違っても友人感覚で話せる貴重な人だ。ケモ耳はないが狼獣人系で、見た目は普人とほぼ変わらないほど混血が進んでいるが、一応スズキタ一族の血を引いているらしい。


「フレアリスさんとの新婚生活は大変じゃないんですか?」

「子供もいないのに子供のようなやつが居るから大変なのは違いないな。」

「そうね。」


 ビックリした。

 いつの間にか後ろに立っているなんて人が・・・いや、鬼が悪い。


「最初に求婚してきた時の話でもしてあげようかしら?」

「あ、マギが呼んでいたぞ。嘘じゃないぞ。」

「そうね。」


 嘘じゃないのでやってきた。


「何かあったんですか?」


 ジェームスさんが慌てている。

 それを見てフレアリスさんは誇らしげだ。


「な、何でもない。それより俺達に用があるんだろ?」


 マギの用事は完成式典に出席してほしい人をまとめたリストを渡すことで、当然のように鈴木太郎の名前もある。


「式典に先立って一号馬車に乗って頂きたいのですが。」

「俺に?」

「出席はしなくても参加してもらいたいそうです。要するに、式典の参加者に名前が有ればいいそうです。」

「あー、あいつも考えたな。」


 あいつなんて言っているが、それはハンハルト国王の事である。魔王国側の時は、現魔王のドーゴルの名前が載っていれば良いという意味と同じ扱いである。

 一号馬車は記念式典で最初にハンハルトに到着する馬車の事なのは当然なのだが、実際は既に何台も馬車が通過している。重貨物馬車による耐久テストも必要だからだ。周辺の魔物退治にも多くの冒険者と兵士が派遣され、橋頭保として使用したキャンプ地を宿泊施設として建て直すのに馬車を利用している。

 綺麗に並べられた石畳に、巡回する兵士達。

 便利と知っていて、なぜ現在迄の統治者はやらなかったのか?


「利益が無いからな。今でこそ太郎君の村に高い価値があるから繋げる意味があるし、線路も繋げてもらえれば経済は劇的に変わるだろう。」

「キンダース商会がマリアに頭を下げて俺に会いたがってるって何度も言われましたよ。面倒だから断ってますが。」

「太郎君に嫌われたらハンハルトに財力で負ける危機感に気が付いたんだろ。」

「そこまで行きますかね?流石に借金の額までは知らないですけど。」

「太郎君のくれた綿花のおかげで安定した収益が出るようになったし、最近のボルドルトが魔物退治が忙しくなって戦争どころじゃなくなってて交易に力を入れるようになったしな。」

「魔物がたくさん現れてるんですか?」

「ああ。魔素溜まりがボルドルト周辺に幾つも発生している。対処が遅れた所為もあって、かなりの被害が出たんだ。」


 太郎が考え込んで、原因について考えようとしているところにうどんが後ろから抱きついた。ジェームスが説明を続ける。


「魔素溜まりの出現を知っていてもあいつらが天使に頼るわけないだろ。天使が居ても居なくても変わらない。」


 多くの天使達が鈴木太郎(自分)の捜索に加わっていた事を今は知っているので、その所為だったら・・・と、考えてしまう。それに気が付いたジェームスの言葉だ。


「まあ、それなら良いですけど。」

「救援の要請も出ていないし、冒険者の活躍の場でもあるからな。何でも簡単に解決されると稼ぎが無くなって困る。」

「私も魔物退治に行ってきましたけど、凄く活気に満ちていましたよ。」

「そうね。」


 魔物による被害に困る人も居れば、それが生活に必要で家族を養っている場合もある。どんな小さな仕事でも、大きな事業でも、魔法で解決してしまえば失うモノも大きいという事が良く解る。

 魔法袋と瞬間移動で、どれだけの人が職を失うのか、想像に易い。


「やっぱりマナやマリナ、うどんにもりそば、今じゃフィフスもそうだけど、一人で解決できちゃうもんなあ。」

「そんなコト言ったら太郎が一番じゃない。」

「あー、解決で思い出したんだが、あの魔素溜まりは海中でも発生するらしいんだ。」


 なんで解決が。


「海の・・・海底とかですか?」

「海底かどうかまでは聞いていないが、ボスクラムは知っているよな?」

「あー、あの喋る貝。」


 ジェームスはぎょっとしたが、そのまま話を続ける事にした。

 言語加護の有る奴は他に見た事は有るが、相手が誰でも加護が通用するというのは太郎が初めてなのである。もちろんその生物や種族にとっての共通言語があって初めて加護が発動するのだから、言語を持たない虫と会話できるワケではない。


「あのパールは稀に真っ黒に成るんだが、それが負の魔素を吸収した所為という事が分かった。」

「黒真珠かあ・・・そういう意味があったんですね。」

「んー・・・、しかし何故か奴らがヤケに協力的なんだ。」

「情報提供にキンダース商会でも関わっているんですか?」


 ジェームスとフレアリスが苦笑いしたのでマギが答える。


「ボスクラムの方ですよ。」

「協力してくれたのがあの貝ってこと?」

「そうね。」

「言語加護が無いので何を言っているのかは分からないのですけど、海岸にずらーって並んで何かを待っているようなんです。」

「もしかして退治しました?」

「近づくと逃げるんだよ。」

「それだと、どうやって協力してもらったんですか?」

「私は別に怖くないから。」


 近づくと逃げるボスクラムの中で逃げ遅れたのを捕まえ、無理矢理開いたらしい。するといつもは白くて何処に有るのか良く解らないパールが真っ黒で、無理に開いたのに抵抗してこないボスクラムを不思議に思いながらも、その黒いパールを取り出すと、そのまま海に逃げて行ったのだ。

 その黒いパールについてはマリアが調べたらしく、結果、負の魔素が染み込んでいる事が分かったのだ。

 そうか、解決したのはこの部分か。


「もしかして、今もそのボスクラムは海岸に並んでるんです?」

「ああ。」

「そうね。」

「まるで誰かを待っているみたいなんですよ。」

「そういや、ワルジャウ語を理解してそうな感じしたんだよな・・・。」


 気の所為かも?


「いや、奴らは理解できると思うぞ。一部に限られるだろうが。」

「そうすると・・・やっぱり俺かなあ・・・?」

「そう思うんならそうだろう。」

「でもさ、もしそうだとして、なんで俺なんだろう?」


 三人が太郎を見つめる。


「え、いや、俺だからって言わないでよ?」

「そんな事は言わん。だが、そもそもからしてボスクラムは人前に姿を見せるような事は滅多にない。船の航行の邪魔もしないし、フレアリス以外だと頑なに開かなかったようだし、他の冒険者や軍が行っても、逃げるだけだ。」

「ちなみに私だと、逃げもしなかったです。」

「ああ、他の人でも捕まえる事は出来るんだ?」

「そうね。」

「そんな奴らの不可解な行動に理由があるとすれば、奴らは海の生物だし、シードラゴンがまた来るかもしれない。何か異変を感じて助けを求めているかもしれない。」

「そうすると、ボスクラムと会話が出来る俺の出番ってワケですか。」

「物分かりが良くて助かるな。ハンハルトに行くなら馬車に乗ってもらえると助かるんだが。」


 そして最初の話に戻る。


「飛んで行っても良いんですけど。」

「まあ、ゆっくり家族で来てくれれば歓迎するぞ。もちろん、盛大ではあるが食事の質は格段に落ちるぞ。」


 他のどこの国に行っても、この村より美味しい料理は存在しないらしい。

 俺としてはそんな事は無いと思っているが。


「この話は決着だ。太郎君にしか対処できない問題が沢山あり過ぎるのも忙しいだろうがな。」

「忙しいというか、魔王国以外からも人が沢山来ているみたいですね。珍しい乗り物があるんで物見遊山なのはわかるんですけど。」

「違うぞ。」

「そうね。」

「ひょっとして知らないんですか?」

「何の事?」


 ジェームスとフレアリスが困ったように笑っているので、マギが教えてくれた。


「この村に最強の男が居るってギルド経由でバラまかれてますよ。」

「ガッパードを発見したのも太郎君という事になっている。」

「世界を救った英雄としてもね。」


 最期のフレアリスの言葉に驚くというより、あきれてモノが言えなくなった太郎である。その原因となったフィフスがこの村に居るのだから、あまり刺激してほしくないモノである。


「目的が太郎君を見るという事でもある。」


 嫌だなあ。


「・・・もしかして、ワンゴはその調査で村に来たんですか?」

「別の目的だと思うぞ。今のワンゴはどうあがいても太郎君には勝てないからな。ギルドだって今はこの村にも有るんだから誰かに依頼して、逆にこちら側からワンゴ調べたっていいんだ。金の為なら喋る奴なんていくらでもいるぞ。」


 依頼、出してみるか。


「それに、あの街はエルフ国との取引が上手くいっているらしくて、キンダース商会が商売で負けた事が理由なんだが、自治領区宣言をエルフ国と魔王国に申請しているらしい。」

「自治領区宣言って・・・何処の属国になるつもりなんですかね。」

「魔王国は拒否するだろうからエルフ国になるだろうな。エッセン領で作られる作物はこの村に次ぐ人気商品らしいぞ。」

「あー、確かに良い畑だったからなあ。でも、ワンゴだと分かっているのにそんなの許可するんですかね?」

「国として独立されるよりマシだと考えれば、有り得ない話でもない。過去にもそれで建国してそのまま戦争に突入した国もあるしな。まあ、魔王国が出来た頃はそんな国ばかりだし、今だって世界中に存在する全ての国や集落を把握してはいない。」


 エルフのように単一種族の国、魔王国のように他種族で協力して作られた国、今は無いが宗教を基に作られた国、そもそも国として名乗りを上げていない鬼人族や兎獣人、それにツクモや俺のように国から独立状態で成立する村。そもそも何処にも所属しない村がいくつも存在するし、盗賊や山賊の隠れ家だってある。


「ガッパード・ギアなんて今まで夢物語だったんだぞ。」

「ははは、でも存在は知っていたんですよね?」

「まあな。もう発見者は太郎君で固定されてしまったから、冒険者としてはシルバーカードを貰えるぐらいの功績になるかもしれないぞ。」


 そういわれればギルドカードなんてあったな。

 何処にしまったか忘れてるぞ・・・。


「気に成る事はいろいろあるが、少しはこちら側にも関心を持って欲しい。」

「そうね。」

「・・・善処します。」


 マギがにっこりとほほ笑んだように見えた。

 きっと、何もしないと思われているだろう。

 それでなくとも畑が忙しいし、注文の量は増え過ぎないようにしているが、純粋な気持ちでやってくる商人に懇願されると、断り難い。

 こちらが欲しがっているモノが分かっているのか、有精卵の卵を持ち込んでくる商人も居て、欲しかったので取引に応じたのも他と断り難くなった要因の一つだ。

 訪れた冒険者や商人はワイバーンに驚くことも多く、村の商品よりもワイバーンを譲ってほしいと頼まれることも少なくはない。


「ワイバーンがこれだけ居るのも良い村の証拠だしな。」

「確かに魔王国でもハンハルトでも見なかったですね。」

「ワイバーンは絶滅したという噂もあったからな。」

「少し見なくなると絶滅したって思うのは冒険者の悪い癖よね。」

「それはそう。」





 ジェームス達との話も終わって解散した数分後、マナ、うどん、もりそば、フィフスが揃って帰ってきた。なぜか仲良くなっているが、悪いより何倍も良い。

 村での生活に慣れるのならメンバーとしても悪くない。

 子供達にフィフスは荷が重すぎるからな。

 そして先ほどの話を伝える。


「到着予定日を伝えたら、途中まで瞬間移動して、馬車で来た事にすればいいじゃない。誰にも分からないでしょ。」


 なるほど。

 採用。

 そうすればギリギリまで畑仕事出来るもんな。


「子供達はどうしてる?」

「畑もやってたけど、田んぼの方が忙しそうだったわよ。」


 カラー達がお米をすごく気に入っているらしい。

 ヒマワリの種が好きだったんじゃないのか。


「ワイバーンにおにぎりを上げたら喜んで食べちゃって、欲しがるのよ。」


 なにやってん。


「ずっと面白くて楽しくて、こんなの、もう、聖地じゃないの。理想郷に近いわね。」


 もう何ヶ月か住んでいるのに、何処に連れて行ってもフィフスが村をべた褒めするのでマナは鼻が高い。孤児院でもマナとフィフスの人気が高く、フィフスは教師がビックリするほどの知識を有しているので、教わるより教える側、授業ではなく、放課後に子供達がフィフスに分からなかった事を聞きに行くぐらいである。

 ツクモもかなり人気は高かったが、最近は自分の村に居る事が多いので、最近は存在を忘れられている。


「こんなに良い村なのに、悪い事は毎日起きるのよね。」

「それは仕方ないよ、外からの流入者が多いからね。まあ、永住は認めないけど。」


 どんな貴族でも、大金を積む商人でも太郎はきっちり断り、移住希望のエルフもオリビアが厳選したうえで少人数を受け入れるくらいだ。


「問題は解決しないのが普通なのだから、最初から増やさなければ良いだけさ。」


 とはいっても孤児だけはほぼ無制限に受け入れている。

 条件としては父親も母親もいないこと。


「ところで、なんで村なの?」


 フィフスの質問に太郎はさらっと答えた。


「村長だって嫌だからね。」


 マナ以外は理解しても納得できない答えだった。







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