第358話 帰宅
結論から言うと、良かった。
良かったけど、皆に見詰められながら食べるのは余り良い気分ではない。
何故かフィフスも俺と同じ皿のカレーを食べていて、スーに睨まれながら満面の笑顔で美味しい美味しいと、口からご飯粒を飛ばしながら連呼しつつも食べていて、屈託のない笑顔にスーも負けていた。
「見た目も声もマナ様とおんなじですねー。」
「こいつと一緒にしてほしくないんだけど。」
「じゃー、せめて髪の毛の色ぐらい変えられない?」
「わかった。」モグモグ
そう言うと髪の毛が根元から少しずつ色が変わって・・・30秒ほどで毛先まで真っ黒になった。つやつやして奇麗なので思わず撫でてしまう。
撫でられている事にニコニコしながら言い放つ。
「同じと思われるとこっちも迷惑なのよね。」
「アンタねぇ!」
マナが怒るのも無理はないが、それって俺の所為なんだよな・・・。
なんでフィフスは俺の理想を反映したのか?
「そりゃー、そいつの事が一番好きだからでしょ。」モグモグ
マナが吃驚した後、直ぐに表情が変わり、嬉しそうにモジモジしている。
フィフスは嘘を言う理由が無いというか、特に何も考えていないから、率直な意見だろう。率直な意見を言った口は別の物を求めている。
「おかわりー!」
カレーはみんなのお気に入り。
居候3杯目にはグッとだし。
とはよく言ったもので、一番関係があるやつが、一番無関係を決め込んで食べているのだ。流石に飽きれたドラゴン達が近づいてきて、太郎達を囲む。
「そろそろいいか?」
ガッバートにそう言われれば手が止まる。
フィフスは止まらないがスーは止まるので問題ない。
「お前がコイツをどうするつもりかは、お前に任せる。だがな、そいつが世界の元凶だという事は忘れるな。」
「はい。」
ガッパードの背に隠れて俺を見つめてくる女性。
その更に後ろから凄い威圧が飛んでくる。
はっきり言えば、ドラゴン相手に平然としている男が気に食わないのだ。
「アイツらはどうせ何も出来はせん、気にする事は無い。・・・気にしてないな?」
「そんなつもりはないですけど、こっちの方が気に成るんです。」
「そんなに気にしちゃってー、神様ったらー。」
ドラゴン達がぎょっとした。
太郎が渋い表情をする。
「かみさ・・・ま?」
メイリーンが鈴木太郎を見詰める目を細める。
どう見ても品定めされている視線が痛い。
「こいつが勝手にそう言ってるだけなんです。」
「コイツじゃないから!名前で呼んで!」
え、あぁ、うん。
拘るトコロはそっちかぁ・・・。
「私達よりも強いみたいだけど、世界の支配でも望んでいるの?」
いきなり質問されたうえに、その内容が酷い。
それでも太郎は鄭重に慎重に返事をする。
「支配しても良い事なんて無いので。世界の平和が一人によって保たれる世界なんて崩壊の未来しかありませんよ。」
「それでも、周りが、少なくともアナタのお仲間達が望んでいるとしたら?」
「そもそも、俺自身が望んでいない事を持ち込んでくる奴は仲間じゃないですよ。」
一部の天使達がそっぽを向いた。
あいつらー・・・。
「まあ、神ではないのは分かるが、神に一番近い存在ではあるだろうな。」
「そうなの・・・お父様?」
精霊などのような寿命の無い者でなければ進むことも許されない空間を、この男は平然と突き進んだ。ドラゴンで最も強い者でも不可能な事を。
「もし弱いと感じるのなら気の所為だ。強いと感じるのなら気の迷いだ。」
「えー・・・。」
「だからこそ真に強いのだ。」
「理由になってないんですけど・・・。」
「穢れ無き強さ・・・?」
どういう意味なんだろう?
「あの時は寿命が無ければ無理だと言ったが、実はもう一つ方法がある。」
娘の方ではなく太郎に向かって説明を始めた。
あの魔素に抵抗するだけの力が有れば問題ないという事だが、それが穢れ無き強さと呟いた理由だった。
穢れ無き魔素とは、正にも負にも属さないモノとなる。
「中庸ね。」
マナの一言はガッパードを除いたドラゴン達が驚いた。
「そんなことが有るのか・・・。」
「中庸ってそんなに珍しいの?」
「今までに中庸の魔力を持つ者なんて存在したか?」
「少なくとも今は太郎以外で見たことは無いわね。」
「以前はいたんだね。」
マナがフーリンをちらっと見ると、小走りで寄ってきた。
なんでエンカまでついてくるの。
「なんでそんなに急いでくるの、イイケド。それより知ってる?」
中庸の魔力を持つ者の存在についてはフーリンも知らない。
しかし、過去に居たのは間違いはない。
「ただ、その者は太郎君ほどの力はなかったので何も影響はなかったようです。」
「そもそもそれほど注目されなかった存在ですので。」
と、エンカが付け加える。
二人はそのまま太郎の後ろへと隠れ、ドラゴンとハーフドラゴンはどうとても仲良く出来ないナニカが有るという事がよく分かった。
エンカの父親が目の前に居るんだけどな。
「それでは今までやってきた事が無駄だったとでも言いたいのか?」
ブロッグーンがそう言うと、バロッグーンが同意する。
「そういうワケじゃないと思うけど、どうなんだろうね?」
「べつにー、神様が居てくれるんならどうでもいい話じゃない。」
「それはお前だけの問題・・・でもないのか。」
フィフスはドラゴン達の視線を集められても身動ぎひとつしない。
それどころか、睨み返すとガッパード以外の者達が後退りする。
「名前も貰ったし、神様だけどお父さんみたいなもんだし、拒否権以前に、私のどこにアテが有るって言うのよ。」
「そういわれるトナー・・・。」
「お、お父さんなの・・・?」
「えっ・・・いや、どうなんだろう・・・。」
「生みの親ならママになるんじゃない?」
マナがそう言うと、納得したようだ。
なんで?
「ママー!」
「やめて。わりとガチで。」
「えー・・・。」
現在のフィフスの見た目はマナと髪の毛が違うぐらいで、ほぼ同じだ。
しかし無限に近い魔力量はとても危険視されている。
それが、太郎には懐いているので、行くアテが無ければ引き取れる者は鈴木太郎しかいないのだ。
「負の魔素は誰も制御出来なかったと思うが、そうでもないのか。」
「制御出来ないのは、アンタたちにその才能がないだけでしょ。」
「制御出来るのなら暴発はしない筈だが?」
ガッパードが強く睨みつけて言う。
魔素の嵐によって世界が滅亡寸前になった事を知っている数少ない生き残りなのだから、怒りも込められているのは当然だろう。
「溜まった魔素を定期的に放出しなかったら、最終的に全てが粉々に砕け散るけど、その方が良かったの?」
「あー、火山が定期的に噴火するみたいなもんか。」
「火山?それは良くわからないけど、定期的に火を噴く山は有ったわね。偶に大地も割れてたけど。」
「地震の影響かなー。」
少し話がズレてしまったので、意味もなくマナの頭を撫でる。
ポチが羨ましそうにこちらを見ているが、太郎の傍に近寄れないのはスーも同じであった。
「暴発でなかったらなんだと言うのだ。定期的に大災害を起こされてはたまらんぞ。」
「そんなの、あんた達が地上で悪意と欲望に満ちた戦争を幾度となく繰り返している所為に決まってるでしょ。」
フィフスの口調が厳しい。フィフスがフィフスたる所以は、悪意や穢れのエネルギーである負の魔素で、必ずどこかに存在している。だが、多くの者の悪意が局地的に集中する戦争は、負の魔素が大量に発生し、それはどこかへ流れていく。
その集積地がココなのだ。
「穢れなんて言ってるけど、穢れてない奴なんていないんだからね。」
フィフスが言うと重い。
正の魔素ではあるが、善ではないし、正義でもないし、絶対でもない。
負の魔素は穢れているかもしれないが、何かを生み出し、何かを作り、そして崩壊する。
「正の魔素の方がバランスを壊していると言っても過言じゃないから。」
「なるほどねー・・・。」
太郎が一人納得しているが、そうでもない事に気が付く。
「そう考えると、やっぱり創造魔法って恐ろしいね。」
「やっぱり神様じゃん!」
フィフスが力強く指摘するが、創造魔法なら他にも使える者が居る。
「そんな簡単に神様認定しないでくれないかな。」
「じゃあ、パパ!」
「それもなんだかなあ。」
「えー・・・。」
「まぁ、創造魔法が危険であるのは間違いない。特にお前のように生物をも生み出すのであれば尚更だ。」
「俺が造ったのは・・・。」
フィフスも作った内に入るのかな?
太郎という存在が無ければ人型になる事も無かっただろうし、人格と人型が形成されることも無く、魔素の嵐に怯えて備える事しかしなかっただろう。
マリナもかなり危険な存在で、能力で言えば太郎とマナが可能な事はだいたい出来るのだ。極論してしまえば、もう一人の太郎ともいえる。
「太郎ちゃんは、その子を、フィフスちゃんを大事にできるの?」
「大事にしますよ。俺の事を神様と呼んで慕うようなやつを見捨てるなんてできないですしね。」
「それは、敵になった時にとても困ると思うのだけど、それでも?」
「そもそも人類共通の、最後の敵だったモノを俺一人に任せようと思うのでしたら、見捨てる事なく、一緒にこの世界を破壊しているかもしれませんよ?」
メイリーンが、今までに感じた事の無い、父親ですら超える深い恐怖を感じた。
「太郎は私と一緒でもそう言うと思うわよ。」
マナが自信たっぷりに言うので、とりあえず頭を撫でておく。
善にも悪にもなるのは、彼自身の資質によるものではなく、鈴木太郎以外の大多数が鈴木太郎をどう見るかで変わる。
そう言っているのだ。
ファングールが深く息を吐き出して、自身を整えてから太郎に言った。
「お前が第二のガッパード様になると言っているのと変わらない、とても大それたことを言っているが、それで良いのだな?」
「ガッパードさんは、大それてたんですか?」
太郎がじっと見つめた先に、その名を呼ばれた者が立っている。
「世界の為を思ってやっていたが大それたとは思ってないな。」
「なら、俺もそうです。」
ドラゴン達が何も言い返せなくなり、視線を交わすだけで押し黙る。改めてガッパードが太郎にフィフスを託す事と、定期的にこの地に訪れる事を再確認する。
悔しくても、後悔しても、何もしていないのとなんら変わらない気分にさせられた多くの参加者達に向かって、太郎はとても優しい声で言った。
「じゃあ、帰ろうか。」
その一言が多くの人の心を救ったのは言うまでもない。
ミカエル「役に立ちたかったなー
オリビア「それは私も・・・
マリア「存在が空気ね
一同(魔女含む)「・・・。




