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第352話 待望の

 遂に一年が経過した。

 太郎に対する捜索が形式的で義務的なモノに変わろうとしている頃、ツクモ以下、太郎とナナハルの子供達は、今日も天使達を巻き込んで捜索している。

 太郎という求心力を失った村は崩壊するだろうと予想していたが、鉄鉱や宝石を中心に今も採掘が続けられているおかげで、エルフと魔王国の兵士が協力して村の治安を守っていた。

 太郎の像を建てようという意見も出たが、子供達に全力で却下されている。


「パパは死んでないよ!!」

「おかーさんもだめー!!」


 そして4人の新たなドラゴンも捜索に加わってくれるようになり、会った事の有るマチルダも参加したのだが、扉が無くなっていて、ただの壁になっているという。

 その所為で場所を見付けるのに数ヶ月を必要としていた。


「本当に僅かだけど、何かの悪意を感じる。この魔力は・・・。」

「土魔法ですね。扉そのものに魔法の意思を感じます。」

「やっぱり、これ、扉なのよね?」

「知りません。」

「知らないって・・・解除方法が有ったはずなんだけど。」


 手伝ってくれている男女二人ずつで4人のドラゴン達はマチルダと面識が有り、天使のミカエルも知っている程度ではあるが、まったく知らない仲ではない。


「それで、あのお方は無事なの?」

「あなた達そればっかりじゃない、何か知らないの?」


 ドラゴン達は周辺をうろうろするだけで、ほとんど役に立っていない。話しかければ無事かどうか問い返される。

 ただ、ドラゴンが居るというだけで面倒事に巻き込まれる心配が減るので、無駄に報告や連絡をすることは無くなる。

 ・・・まさかドラゴンが面倒事そのものだったとは。


「普通はドラゴンの存在が面倒なんですが。」


 ぼそりと呟いたのはグレッグで、過去には聖地と呼ばれていた土地が、今も人が住んでいるとは思いもしなかった者の一人である。アルカロスとはお伽噺でしかないほど遠い過去の話なのだから。

 それにドラゴンは長寿で、フーリンやエンカよりもかなり年上なのだ。

 扱いも難しいのだが・・・。


「魔女も信用したくないんだがな。」

「その魔女も閉じ込められてるのだけど?」

「ファングールも閉じ込められているんだぞ。」

「そうねぇ・・・。」


 ドラゴンの中では最年長らしい女性が悩ましい表情でマチルダを見つめる。


「解除方法はばーちゃんも知っているのだけど、これだとねぇ。」

「メイリーン様もご存じないのですか?」

「スフィアちゃん、ダンダイルちゃんからちゃんと説明してもらったでしょう?」

「それはそうですけど。」

「あの子達だって頑張ってるんだよ。」


 マチルダも含まれる「あの子達」と呼ぶメイリーンはここにいる誰よりも最年長で、父親がガッパードである。それを知っているのはドラゴン達だけで、マチルダも知らない。そのマチルダは、遺跡の中に続々と集まってくる者達を見て少しほっとした。


「やっと来てくれたわね。」

「こんなところ来たくは無いんだが・・・姉上が中に居るのではなあ。」


 姉の子供達に背中を押されて、どうにかこうにかやってきたツクモは、ドラゴンの視線を浴びて背筋を凍らせている。


「ここは遊技場じゃないぞ。」

「もしかして、あの鈴木太郎の子供かな?」


 意外にも優しい声で質問されたので、長男のハルオが元気良く返事をした。


「そーだよ、あなたは?」


 その言葉遣いに周囲の方がビックリしている。

 ダンダイルやトヒラなどは、町で待機してエルフ達と行動を共にしていて、要するに逃げたのだった。ドラゴンが現れたあの時に、魔王国の兵士のほとんどは気を失っている。エルフ達や天使達でさえ気軽に話しかけられないのだから、仕方のないことなのだ。


「ばーちゃんもね、お父様を助けたいんよ。」

「ああ、ファングールって人?」

「ちゃうよー、ばーちゃんのお父様は、ガッパードっていうんよ。」

「ふーん。じゃあ助け合わないとね。」


 と、ここまでの会話を聞いて怒りが込み上げている者が居る。


「人のガキにしては生意気な。」

「ブロッグーンちゃん、ちゃんとそのマナコでよーく見なさい。」

「こんなタダのガ・・・九尾か?!」

「凄い子達だよ。」


 勢揃いした子供達が照れている。

 照れているがハルオだけはキリっとした顔で応えた。


「僕達なんてまだまだです。」

「そうじゃね、優等生といったところかな。」

「ふん、優等生というのならそれなりの力は見せてもらうぞ。」


 べちん!

 ぺちん☆


 ブロッグーンはメイリーンに頭を平手で叩かれ、ハルオの方はツクモに平手で頭を叩かれた。


「余計な事をするでない。」

「そうよ、そうよ。」

「お互い母親代わりは大変だよねぇ。」

「う、うむ・・・。」


 メイリーンはくすくすと笑って、すぐに表情を引き締める。人数はそれなりに集まったが、人数が多ければ良いという問題ではない。実際に土魔法で堅く閉ざされている扉は姿形も無く、どこが扉だったのかも分からない。


「土魔法の得意な子なんておったかねぇ?」

「うどんさんともりそばさんが得意です。」

「どこの子かな?」


 メイリーンが訊ねると、マチルダが応じた。


「確かに、トレントなら得意でしょうけど、もりそばの方はこの中じゃない。」

「もりそば?」

「元聖女で今はトレントのおねーさんです。」

「せ、聖女・・・?!」

「コルドーの件だな、だがあれは偽物であろう?」


 一番大人しかったドラゴンが問いかけてくる。

 ブロッグーンの弟で、バロッグーンである。


「本物よ。」


 マチルダが嫌そうに溜息を吐きながら答えると、メイリーンが再び驚く。


「本物の聖女というのなら開けられそうだねえ・・・。でも中に居るというのなら、その、うどんというのは?」

「うどんさん・・・近くに居ると思うんだけどなあ。」

「気が付くと隣に居て、気が付くといないのよね。」

「神出鬼没だからなあ。」


 子供達があーだこーだ話し始めるのを、メイリーンが楽しそうに見つめている。

 楽しくないのはブロッグーンだ。


「煩いガキどもの話はどうでもいいから、そいつを連れて・・・kい?!」

「呼びましたか?」


 うどんはガチガチに緊張しているツクモの後ろに現れ、その頭を撫でている。


「驚いたねぇ・・・人型のトレントなんて久しぶりに見たよ。」

「私も純血のドラゴンは久しぶりに見ました。」


 ピュールも純血なのだが、忘れられている。


「今、一体何処から現r・・・」


 華麗に無視され、メイリーンが質問する。


「土魔法でこの先を覗き見る事は出来る無いかな?」

「無理です。ですが、ここに何かの魔力が有るのは分かります。」


 指で示した先に、他の者の誰にも分からなかった何かが有る事を教えると、喜びに溢れた笑顔で返事をした。


「あー、それそれ、ばーちゃん、探してたのそれだよう!!」






 人の形に成ったが、ぼんやりしていて性別は分からない。

 そもそも性別が有るのか?


「ねえ、神様?」


 声ではない音が脳に突き刺さるように感じる。


「普通に喋ってもらえないかな・・・。」

「しゃべる?」

「・・・思念でもトバしてるのかな?」

「何の事か分からないけど、負の魔素が集まり過ぎてそろそろ限界なの。」

「限界?」

「少しずつ放出したり、時間をズラして遅らせてるの。前回は急に集まりすぎちゃってさー・・・。」


 前回とは、約10万年前の魔素の嵐の事だろう。

 戦争で失われた命が負の魔素となってここに集まったという事なのだろうか。


「なるほどね。それなら、集まる量に変化はないかな?」

「確かに、最近はちょっと減ってる。そんな事を知ってるなんて、やっぱり神様じゃない。なんで違うって言うの?」

「俺はただの普人だよ。」

「ただの普人が、精霊を二人連れてここに来たの・・・?その方が信じられないんだけどなー。」


 拗ねたように聞こえる。


「じゃあ、何の用なの?」

「この魔素を減らすとか、消すとか、出来ないかな?」

「・・・神様じゃないのよね?」

「ウン。」

「なら、諦めなさい。魔素の管理を任されているワケでもないし、どうするか決められているワケでもないのよ。」

「自由気ままにやってるって事でいいのかな?」

「そーゆーワケでもないよ。神様が新たな養分として魔素を創ったのだけど、精霊が生まれて、管理を任せてたみたいね。」


 精霊って魔素の管理をしてたのか。

 それにしては俺の魔力を欲しがってたんだが・・・。


「私は勝手に生まれた・・・と言うと語弊が有るけど、神様の意思で生まれたんじゃないの。不要な魔素が行き場を失って集まったところに、精霊とは別の管理者が必要になって魔素によって作られたといった方が正しいかもね。精霊と違ってこっちは何もしなくてもどんどん集まって来るから、それが別の形に成って、魔物として地上に放たれてたみたいね。まあ、魔素を持たない生物なんて存在しないから。」


 凄く説明してくれる。

 だが、黙って聞き役に徹すればいいというものでもない。


「じゃ、この魔素を固めたら、影響は減る?」

「出来るんならやってみなさい。それが出来るんなら私の存在価値はなくなるでしょうね。」


 苛立ちを感じる口調に変わる。

 頭痛い。


「魔素を固める方法はあるんだ。ここで上手く出来るかは知らないけど。」


 じっと見つめられた。

 見つめられたけど目がどこにあるのか分からない。


(太郎様、天使のアレをやるのですか?)

(うん。)

(あの方法って、凝縮するやつでしょ、ここでやったら大変な事に成っちゃうよー?)

「やってみるしかないさ。」

「何をするつもり?」


 太郎は、鬼人族の住む町で魔素溜まりを消滅させた時に、リファエルにやり方だけは教わっている。それをここで初めて実践する訳だが、対象となる魔素が多すぎる。

 魔素で魔力を覆い、凝縮を続けると固形化する。これは圧縮魔法とは違い、魔力を集中させる方法と同じだ。それなら、天使以外でも可能だろうと思ったから、質問した事が有る。

 返答はこうだ。


「もちろん不可能ではないわよ。だけど魔素を魔力で覆って凝縮するには、最低でも抑え込むだけの魔力量が必要だから、普通は魔女クラスじゃないと出来ないのよ。」


 天使はある程度の魔力量を持って産まれる為、他の種族と比べると圧倒的に魔力が多い。空を飛ぶにも翼による力ではなく、魔力で飛ぶため、魔力が無いと天使として活動できないのだ。


「まあ、見てて。」


 揺らぎが人の姿を保ったまま近づいてくる。

 太郎を見つめているのだろう。

 シルバとウンダンヌが戻ろうとしていたのを止めて、また引っ込んだ。

 

「へー、面白い事するね。」


 慣れない事をしている所為で疲労感が半端ないが、数分ぐらいをかけてじっくりと行い、とりあえず成功した。


「・・・でかい。」


 その暗黒球は野球のボールよりも少し大きいぐらいになっていた。






※追加の四人のドラゴン



■:ブロッグーン


 男のドラゴン

 魔女どころか人も信用していないが、決めた事は守るタイプ

 あのお方の捜索に参加する



■:バロッグーン


 ブロッグーンの弟

 兄には逆らわない

 理由も知らずに兄についてきた



■:スフィア


 女のドラゴン

 フーリンやエンカの事は嫌いではないが、純血の為に距離をとっている

 今回の捜索に加わった事で仲が良くなる



■:メイリーン


 女のドラゴン

 あのお方にあいさつに来たところで今回の事件を知った

 ガッパードの娘

 スフィアに知らせたら二人も増え、事情を知って捜索に参加した

 自分の事を「ばーちゃん」という


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