表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/402

第32話 兎獣人と精霊

 エルフの村で一晩泊めてもらう事になった。こんな暗い森の中を歩くのは危険だという事だが、暗すぎてどれが道やら分からないから俺も歩きたくはない。

かなり遅れたが、銀髪の志士が名乗ったので応える。


「オリビア・ド・トルチェです。」

「俺は鈴k・・・いや、タロウ・スズキです。こっちがスーで、こっちがポチ。」

「私はマナでいいわよ。」

「世界樹様にお名前があったのですか?」

「太郎がつけてくれた名前なの。」


 しかしこのオリビアさん、最初とは口調がだいぶ変わって、堅い感じが薄れてきた・・・堅苦しくはなっているが。

 マナ様、タロウ様、スー様、ポチ様。

 と、こんな調子だ。ついでに言うとこの人の強さはポチよりちょっと上くらいらしい。さすが銀髪の志士と言ったところだ・・・いや知らんけど。


 翌朝になってもエルフ達はクルミを集めて作業していた。昨日から寝ていないのだろうか。フラフラしながらクルミを拾う者、砕いて粉にする者、練って固める者、焼いている者。それを食べる子供達。


「木を植えて育てるという発想は有りましたけど、運ぶのが大変でなかなか・・・。」


 見つめた先にある、植えられたクルミの木からは実がぽろぽろと落ちてくる。止め処無く、間断無く。子供ははしゃいでいるが大人は困り顔だ。


「あれは、いつまで落ちてくるんでしょうか?」

「100年くらい。」

「少し減らしていただいてもよろしいですか?村がクルミで埋まってしまいます。」

「実が成るスピードを遅くしてあげればいかしら?」

「我儘で申し訳ありません。お願いします。」


 マナの調整で落ちる量が減った。オリビアさんがそれを知らせると、安堵の表情を浮かべて倒れた。いや、その場で寝てる。男とか女とか関係なく。ぐったりしている。お疲れ様です。

 マナがいたら餓死者なんていなくなるんだろうから、すごい能力だよ。こればっかりは流石世界樹様様と思う。制御する人がいないとこんなに適当になるけど・・・。




 胡桃のパンが朝食に用意される。


「折角ですし食べてから出発なさってもよろしいのでは。」


 半分ぐらい責任を感じて食べているが、これ美味しいぞ。昨日のレッドボアの肉も美味しい。調味料は特別なモノでもあるのだろうか?一般的に流通しているモノと変わらないそうだ。という事は肉そのものが美味しいのか。昨日は話ばかりしていてほとんど食べてなかったからなあ。

 ついでにこの先の村の事も訊ねる。


「スズキタ一族の村はまだ遠いですし、途中の村でもそれなりに距離があります。ただ、宿屋のようなものは無かったので、泊めさせて貰えるかどうかは難しいところです。我々もその村は通過しただけで、(とど)まりはしませんでした。まぁ、兎獣人ばかりの村ですので、排他的な感じも仕方のない事でしょう。」


 スーとマナは食事を楽しんでいるようなので、会話は俺とオリビアさんだ。ポチ?それならマナの横で半分寝てるよ。


「ところで、長旅をしているようなのであまり重い防具は面倒でしょうけど、軽装過ぎませんか?」


 今は食事をしているので胸当ては付けているが、普通の旅に適した服だ。特にドラゴンと戦う事を前提とした装備ではないのも事実だが。


「私達はお金が無くて防具を買わないんじゃなくて必要ないんですよ。」


 俺がちょうど肉を口に放り込んだ直後で喋れないでいると、スーが代弁してくれた。


「必要ないとは?」

「竜人族のフーリン様はご存知ですよね?」

「もちろん知っている。・・・あぁ、そうか。確かにあのお方に鍛えてもらったのなら鎧など重いだけだろうな。長旅には不向きであるし。太郎様が強いのも頷ける。」

「そうです、そうです。」


 フーリンさんってやっぱり有名人なんだ。今は姿を誤魔化していて、本来はとんでもない大きな竜だそうだけど・・・見た事ないんだよなあ。でも俺は。


「俺はスーに鍛えてもらっただけで他は特には・・・。」


 スーが頬を膨らませた。


「太郎さん、言わなければ誰にも分からない事だし、フーリン様の弟子の方が知っている人なら手を出してくることは無いんですよ。まあ、フーリン様を知っている人にしか通用しませんけど。」

「あのお方が正体を隠していると言う話なら知っている。太郎様は世渡りがあまり上手ではない方かな。」


 オリビアが苦笑する。確かに全てを正直に言う必要は無いが、嘘を付くのは確かに苦手だな。まあ、必要なら嘘ぐらい言うが。

 食事も終わり旅立とうとすると、多くのエルフが見送ってくれた。一泊だけだったはいえ、仲良くなれた人達と別れるのは少し寂しい。途中まで案内すると言われたがそれは断った。誰が案内するかで少々揉めていたからだ。




 元の道に戻るまで数時間、そこから目的地を目指してさらに数時間。時折休憩をはさみながら進むが、いつまでも森の中だ。道は他にないし、魔物が近寄ってくる気配もない。森の中の小さな空き地を見つけると、暗くなる前にキャンプをする。貰ったクルミのパンをかじりつつ交代で寝る。そこからは大した変化もなく、いつまでも続く森の中を七日間ほど進み、森をやっとの思いで抜けたところに村が有った。そこは兎獣人の村だった。


「この人達、ちゃんと服着ていないんだけど。」

「兎獣人に限らず、元々の生活スタイルに服なんてありませんよ。普人と共に過ごす事が多くなって服を着るようになったんです。」


 なんと言うか、大事なところは隠しているけど、胸は丸出しだ。しかもそのほとんどが巨乳というすばら・・・すごい光景だった。見られたからと言って恥ずかしがる様子もないが、話しかけても来ない。


「オリビアさんの言う通りですね。」

「排他的なほどの拒否は示していないけど、近づいても来ないし、逃げるわけでもないんだな。」

「話しかけられても言語が違うのでわかりませんしねー。」

「え、そうなの?」

「そんなことより、さっさと通過しましょ。」


 目的地まではまだ遠い。いったいどれだけ歩いたのだろう。家はいくつかあるし、畑もある。葉っぱだけ見るとダイコンだったりニンジンだったり・・・キャベツもある。あと、何だか分からない葉の植物も植えられていた。歩きながら畑を見ているとマナが驚いた声を出した。


「これ、マンドラゴラじゃないの。」

「え、あの抜くと叫ぶっていう?」

「そんなわけないじゃない。抜いても何も起こらないわよ。」

「太郎さんの知識ってどこで仕入れているんですか?」

「あ、いやあっちの世界の御伽噺だから。」


 マナが言うにはまだ成長していないとの事だが、成長するとかなり大きな蕪のようになるという。抜くのにそれなりに苦労するらしいので兎獣人が育てているのには何か理由がある。と、マナは言ったが、ここで無理に関わろうとする必要もないので無視した。


「そう言えば男が少ないな。」

「あー、兎獣人は男が殆ど生まれないので、たぶん今頃は家の中でアレに励んでいると思います。」

「太郎みたいにねー。」

「俺はそこまで何人も相手に出来ないぞ。」

「残念な事に出来るできないは関係ないんですよ。もう、見たら絶句するような光景ですよ。」

「スーは見た事が有るのか?」

「特に隠れているわけではないので覗いても怒らないと思いますよー。いや、むしろ覗かれている事に気が付かないと思います。」


 覗くのはやめておこう。想像するだけで俺の下半身が弾けたくなる。それより気になることを確認する。


「マンドラゴラって何かの薬に成ったりするのか?」

「簡単に育つので高級品ではないですけど、マナの回復を促進する薬が作れるみたいですねー。」

「マナにも効果ある?」

「私の場合そのまま取り込んじゃうから、効果が有るのか分からないわね。」


 会話しても歩みは止めず、村を通過して再び森に差し掛かる直前に、兎獣人に呼び止められた。胸を揺らしながら駆け寄ってくる。追いかけるようにもう一人やって来た。


「あっあのー。」

「ちょっと、ウルク。どうせ通じないし無駄よ。いくらシルバ様から言われたからって・・・。」

「シルバ様?」

「太郎さんが変な音波を・・・み、耳がなんかムズムズしますー。」


 スーとポチが俺の傍から少し離れる。俺はもう一度言った。


「シルバ様って何?」


 兎獣人の二人はすごく驚いていたが、お互いの顔を見て頷くと、両手に持っている何かを渡してきた。


「なにこれ?」

「これ、マンドラゴラの種じゃないの。」

「なんで俺に?」

「知らないけど、太郎の言うシルバってのは精霊シルヴァニードの事よ。この辺りに居るなんて知らなかったわ。オリビアが気が付いていないくらいだから最近きたのかしらね?」


 何の事だか分からないので説明を求める。マナも兎獣人の言葉は分からないらしいので、俺しかいない。


「私達にも分からないのですけど、シルバ様が渡せって。」

「そのシルバ様ってどこにいるの?」

「すぐ傍に居ますけど、多分あなた達には見えないと思います。」


 スーとポチは心配そうな表情でこちらを見ているが、マナの表情は少し怖い。何かを睨んでいるようだ。


「あー、居た居た。隠れてないでちゃんと姿現しなさいよ。私じゃこの子達の言葉分からないんだから。」


 マナが何かの魔法を放ったのは解るが、なんの魔法か分からない。すると、兎獣人の横にマナよりも髪の長い少女が現れた。コバルトグリーンの美しい髪の毛だ。髪の毛であってるよな?こちらはスーもポチも見えるようだ。なんか全裸率高いな。しかしこの子はぺちゃばいなので安心する。昔のマナのような感じだ。


「ほら、ちょっと力貸したげるからちゃんと喋りなさい。」


 くっきりとした姿が見えるようになると、不思議な事に少女は少し浮いている。まるでこの世界の生き物ではないような感じもした。とにかく不思議を絵に描いたような少女はマナに深く頭を下げると言った。


「おかえりなさいませ。世界樹様。」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ