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第347話 自称守護者

 不敵な笑みを見せるもりそばがスーの耳を撫でるように触ると、スーが気を引き締めた表情で歩きだし、帯剣を抜く。ふわりと重力を無視して浮き上がるが、歩調に合わせた移動速度で、まるで宙を歩いているように。


(これホントに大丈夫なんですかー?!)

(怖くないでしょ、思いっきりやりなさい。)

(信じちゃいますからねー!)


 二人のやり取りを周囲は知らない。

 都合よく飛び掛かってくる何かをスーは一撃で切り裂いた。

 落ちてきた肉片はワイバーンに似た何かで、牙と爪が無駄に長い。

 次々と飛び掛かってくる魔物を先ほどの太郎と似た動きで、屠っていく。


(わたしつよーい!)

(聖女の力を付与しただけよ。あなた私と相性が良いみたいね。)

(どんどん行きますよー!)


「あやつ、あんなに強かったのか?」

「聖女の力よ。」


 いつの間にか復活したナナハルとマリアが頭を手で抑えながら状況を確認している。太郎の傍にはポチとマナとマリナが居て、ファングールはただ傍観している。

 魔物の発生が止まると、そのままガッパードに向かって行く。


(あの傷付いた鱗を斬るのよ。)


 舌なめずりしたスーが、懐に飛び込んでいく。

 フェイントを混ぜた動きに対応しきれず、血のにじむ翼の付け根に一撃が入った。


「グオォォォォ!」


 血が噴き出ると、スーが戻ってきた。

 連続攻撃のチャンスはあったはずだが、倒すつもりは無いという事だ。


「へっへー、カッコ良かったですかー?」

「うん、凄かったよ。」

「すごかったー!」

「調子にのってるわね。」

(今度は凌いでみなさい。)

(おまかせー!)


 ガッパードが大きく口を開くと、火球が発生する。


(突っ込むのよ。)


 今度は走り出して跳躍する。


「スーがとんでもなく悪い顔をしているなあ・・・。」

「元々戦うのが好きなんじゃろ。」


 その火球が飛び出すよりも早く、スーは剣を突き出した。

 刺さると同時に爆風で瓦礫が飛び散り、死んで動かない魔物達も吹き飛んで行く。

 その爆発の中から無傷で戻ってきた。


「わたし凄いっ!」フンスフンス


 何故かマッスルポーズをするスーの鼻息が荒い。

 肩車のように座って聖女になっているもりそばがスーの頭をペチペチと叩いてドヤ顔をしていた。

 なんか仲いいな?


「グゥゥゥゥ・・・。」

「あんなもんじゃダメージにはならないわ。それに、手加減してるし。」

「そんな事より、直接戦ったら拙いんじゃないのか?」

「コミュニケーションみたいなもんよ。どうせ戦わないと分からないとかクダラナイ事言う奴らなのよ。」

「あー、戦闘民族みたいな?」

「そうそう。」


 たまにパパとママの会話が分かりません。

 なんか寂しい。


「吹っ切れているな?」

「太郎ちゃんのおかげでね。」

「ふんふーん♪」


 やる気満々のスーは久しぶりにみる。

 まあ、最強竜種相手に引かないで戦ったなんて自慢にしかならないもんな。


「覚悟は見たぞ。では案内しよう。」


 ガッパードの姿はみるみる小さくなり、人型になった。

 角と尻尾と翼は残っているが、背丈は太郎より少し大きいぐらいだ。

 ポチもいつの間にかいつものポチに戻っていて、太郎の腰のあたりに顔を擦り付けてくる。

 一仕事したようなので撫でておく。


「なんじゃ・・・この・・・禍々しい悪意は・・・。」


 それは魔素が固まってできた巨大で純粋な魔石であった。


「これって神様は知ってたと思う?」

「あー、知らないんじゃないかなあ・・・。」

「宮殿に住んでいる神様くらい下界を気にして欲しいよ。」

「ホントねー。」


 ママとパパが不思議な会話をしています。

 ちょっと寂しい。

 ・・・魔石?


「マリナ?」

「ううん、何でもないよ。それより、ママ。」

「ん?」

「あの魔石、扉になってる。」


 マリナが指で示す方を見るが、太郎がじっと睨みつけても扉には見えない。


「よく気が付いたな。アレは私が長く護ってきた扉だ。あの扉でも防げないほど強い魔素があの先にある。」


 防げないのにどうやって護っていたのか。


「先に行けと?」

「開ける事が出来たらな。」

「どういう意味なのよ?」

「あの扉はこちら側からでは開けない。そもそも、数百年に一度開くぐらいで、閉じる事は出来るが、開いたままだと魔素が溢れて大変な事になる・・・。」


 扉の前に勢ぞろいすると、戦っていた事や傷付いている事など全く気にしていない様子で、苦渋の表情はなにに対してなのか分かりにくい。

 でも・・・、痛そうなのは嫌だな。


「パパなにしてるの?」


 ゴソゴソと袋の中から瓶を取り出す。


「これって誰にでも効果が有るよね?」

「太郎さん?」


 スーが睨んでくるが気にしない。


「何のつもりだ?」

「痛々しいのを見てるとちょっとね。」


 取り出したエリクサーを何故かマリナが受け取って、小走りにガッパードに近付くと、笑顔で差し出した。

 その笑顔を見て睨む事をせずに素直に受け取ってしまうのは、負けた気分なのだろうか?


「敵にこんなものを渡すとはどうかしているな。」

「おじーちゃんなんだから無理しちゃ・・・めっ!」


 あのガッパード様が・・・テレているだと?!?!?!

 とは言っていないが、ファングールの表情が凄いことになっていて、驚きを通り越した何かを感じ取っていた。


「意味が分からん。」

「ね~。」


 マリアとナナハルも気を緩めた訳ではないが、力が抜ける。

 受け取って飲み干すまでじーっと見ていたマリナの満面の笑顔に、飲み終えて空になった瓶を返す。


「治ったね!」

「キラービーの蜂蜜に濃密な魔力。今までポーションは何度か飲んだが治るとはな。」

「効果が無かったの?」

「傷を回復するのに回復量が足りなかっただけだ。・・・もう一本貰って良いか?」


 マリナが小走りに戻ってきたのでもう一つ渡すと、直ぐに引き返した。

 再び受け取って飲み干す。

 体中が僅かに光り、傷が消えたどころか、強い魔素を放った。


「太郎ちゃんと同じ・・・?」

「中庸の魔素ね!」


 瓶を持って帰ってきたマリナの頭を撫で、空の便は袋に入れる。


「助かったぞ。」

「作ったのは俺じゃないんで、感謝ならあっちに。」


 エリクサーを作れるほどの技術者は、ココには一人しかいない。


「魔女か・・・。」

「ドラゴンに感謝されたくて作った訳じゃないから、別に・・・ねぇ。」

「・・・良いだろう、手伝いはする。しかし、どうなるか分からん。無理だと思ったら扉は閉じる。」


 何か勝手に話が進んでいるけど、特に詳しい説明は受けていない。

 それが、どうして、どうなって、どうなるか。

 気に成る事は質問しておく。


「・・・はぁ?」


 なんか凄くガッカリされた。

 マナとマリナに慰められた。

 なんで?


「俺が知っているのは聖女の死んだ場所ってだけだが?」

「知っているではないか。それ以上の何を知りたいのだ?」

「少なくとも何をするべきなのかは知りたい。」

「魔素の発生を抑える事が出来れば最良だが、それは不可能だ。」

「物理的に?それとも物量的に?」

「生きる希望を失った者達の怨嗟と渇望が負の魔素と成っているのだ。それも100や200じゃない。数百万だぞ?」

「じゃー私の仕事だね!」


 視線が集中した先には、マリナがにっこりと立っていた。

 マリナは太郎が創造魔法で創り出した人型の何かで、太郎の知識とマナの知識を併せ持っているようで、何か足りない。

 しかし、魔素のコントロールと魔力量は太郎に次ぐほど有り、見た目の姿からは想像もできないほど強い・・・と、ナナハルとマリアから説明を受けている。


「パパとママが出来ない事をするのが私の仕事なの。だってそのつもりで創ったんでしょ?」

「そんなつもりなんてこれっぼっちも無いぞ。」

「え?」

「扉って、何か特別な魔法が無いと開かなかったりする?」

「・・・いや、魔石で出来てはいるが、とにかく重い扉でな、なんかしらの重力魔法が働いていると思われるが・・・なにをして・・・?!」


 太郎の筋肉が膨れ上がる。

 服が破れるんじゃないかって程に太く、大きく、二倍近く大きくなった。

 やはり太郎は良い。

 俺も大きくなろうか。


「ポチちゃんがニッコニコなんですけど~?」

「何を考えているのかまるわかりじゃ・・・が。太郎の方はアレが本気か?」

「魔力が気持ち悪いくらい膨張してて、なんていうか、吐きそうですー。」

「うん、そー・・・。」

「あんたもモリモリになりたい?」


 肩に座るもりそばに言われ、スーは全力で拒否した。

 ファングールとガッパードが何故か警戒姿勢になっている。

 不思議だ。


「太郎、大丈夫なの、それ。」

「いける。もっとデカくなれるけど、あの扉思ったより小さいな。」


 扉は大きい。普通なら、馬車でも軽く通れるくらいの大きさだが、太郎はもっと大きくなっている。


「パパがおっきすぎっ!」


(もっとおっきくなる~?)

(筋肉強化ならまだいけます)

(頭の中に直接話しかけないで、出てくればいいじゃないか)

(こわいのー)

(怖いですから)


「アイツは何をしてるんだ?」

「さ、さぁ・・・?」


 筋肉強化でも、身体強化でも、膨張でも拡大でもなんでもいい。

 とにかくパワーに全力だっ!


「ポチも大きくなれたよな?」

「ああ。」

「なら、みんなを乗せられるくらい大きく成ってくれ、開いたら飛び込むんだ。」

「分かった。」


 太郎の命令なら、先ほど戦った敵でも背に乗せる。

 お前ら、遠慮しないな?


「ほう、ケルベロスか。良い主人を持っているな?」

「当然だ。」フンスー


 ガッパードに言われて満足気なポチでした。

 私もフンスしたい。


「マリナとマナもポチへ。」

「私達は専用の乗り物が有るからねー。」

「ねー。」


 二人してなんで俺の身体によじ登るんだ。

 浮けば簡単だろ。


「んしょ、うんしょ。」

「いいよー。」

「わたしもあっちが良いなー。」


 もりそばが寂しそうだけど、スーまで羨ましそうに見ないでくれないかな。


「太郎、いけー!」

「パパっ、やっちゃえー!」

「よしっ!」


 太郎がノシノシと歩いて魔石の扉に近付くと、手を添えた。


「なんで歩いとるんじゃ?」

「忘れてるんでしょ、浮けばいいのに。」

「聞こえない。キコエナイ。」


 押す。

 圧す。

 全力で・・・!


「ふんっ!」

「ぬらっ!」

「ばぁ~~~!」


 なんか余計なカケ声が・・・。


「おお・・・どんなに全力でやっても開けられなかった扉が動いている・・・。」


 地響きが洞窟全体に届く。

 揺れて揺れて、扉が・・・開かない。


「なんてパワーだ。扉を開かないで押し退けておる。」

「やはり夫にして良かったのう。」

「えー、私の方が先なんですけどー。」

「私も妻にしてもらおっかな~?」

「ふふん。」


 外野はうるさいし、自慢してるポチは妻じゃないぞ。


「ね、ねぇ・・・このまま押したら洞窟壊れないカナ?」

「ちょっとやそっとじゃ壊れないぞ。以前に全力の火球をぶつけたがピクリともせんかったしな。」

「ちょっと、アンタはここ守護者じゃなかったの?」

「・・・自称守護者だ。」

「はぁ?」


 元聖女のもりそばとカッパードの会話の間も太郎はどんどん押し続ける。

 ちなみに、うどんはクシャミをしていた。






スー「今なら何でも勝てるっ!


ふしゅ~(何かが抜ける音


スー「・・・失礼しましたー(スタコラサッサ

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