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第343話 古代図書館

 ワイバーンの案内で図書館までやって来て、書籍師という肩書を持った人を紹介されると、一通りの挨拶をする。

 魔女と九尾の存在に気が付いて顔が引きつっていたのだが。


「も、持ち出しさえしなければご自由に読んでもらってかまいませんが、ここの書物を読めるんですか?」

「よめるよー!」


 子供の声だったので男の精神が和らいだのか、小さな笑顔を見せた。


「古代の書物ばかりですので、丁寧にお願いしますね。」

「わかったー!」


 図書館と勝手に思い込んでいるが、石と木で作られた2階建ての大きな建造物の扉の入口には、書物保管所と書かれているだけだった。

 特に名称は無いらしい。

 中に入ると本が棚にびっしりと詰め込まれていて、図書館のような雰囲気を感じる。ただし、カウンターのような受付は無い。


「すご・・・。」


 マリアが純粋に驚いているトコロを見ると、凄い古書物でいっぱいなのだろう。


「読むのでしたらこちらでどうぞ。」


 テーブルと椅子が綺麗に並べられた小部屋で、俺達以外の人が他にも何人か居る。

 これだけの本が有るという事なら、製本技術もそうだが、製紙技術もちゃんとあったという事になる。いまさらだが、この世界の製紙技術は低いのに、本に使われている紙は太郎の居た世界よりも少し厚く感じるぐらいで、さわり心地は遜色ない。


「何の本~?」


 勝手に肩車状態のマリナが耳元で言うからくすぐったい。


「・・・なんだろうね?」


 本の表紙には何も書かれていない。

 綺麗に飾りがついているが、タイトルもない。

 いや・・・消えているのか?


「れ・・・きし?」


 マリナは文字が見えるのか?


「ああ・・・その本ですか。その辺りの棚の本はぐにゃぐにゃの文字なので、古いという理由だけで保管していますが、誰も読めません。そもそも、ココに保管してある本を全部読める人は存在しませんが。」


 手に取って開いたページに書かれた文字は確かにぐにゃぐにゃだ。

 いうなれば草書のような?

 理解可能な言語なら日本語として解読できるし、言葉にすればワルジャウ語になる。

 何とも便利な言語加護だろう。

 マリナも使えるんだって。


「よめるねー。」

「読めるな。」


 書籍師が驚いた声を出した。

 本を読んでいた他の人達が、なんだなんだと集まってくるが、それほど多くない。


「あの、出来ましたら音読してくださいませんか?」

「いいよー!」


 小さな子供の元気な返事で、野次馬は離れていった。子供がやっているから、たいした事ではないと思ったんだろうか、それでも、書籍師は読めると言ったもう一人に頭を下げた。


「あのっ・・・お願いします・・・。」


 太郎はムスッとしているマリナの頭を数回撫でた後、その本を持ってテーブルと椅子の並んだ部屋に入った。

 椅子に座り、テーブルにその本を乗せる。

 タイトルは分からないが、マリナがいった「れきし」は正しいのだろうか?


「ああ、これ、年代と何が起きたか書いてあるね。でも、バウスト歴って何?」

「なんだろねー。」


 足をパタパタさせながら太郎の横に座るマリナが言葉を続けた。


「これこれ、この、アル・アリエル・シックスターって、誰だっけ?」

「ああ、あのトレントだろ。名前は覚えなくても良いけど、存在は覚えといてあげなさい。」

「はーい!」

「え・・・あ、あの・・・その子も読めるんですか・・・?」

「よめるよー!」プンプン

「なんで読めるんです?」

「俺達言語加護が有るんで、だいたい読めます。書けないですけど。」

「うん、そー!」

「でも、なんで信じる気になったんです?」


 太郎の疑問はすぐに解かれた。


「古代の聖女の名前を知っている人なんてこの世にほとんど存在しません。」


 そういや、確か凄い人だったんだよな。

 今じゃとんでもない名前で呼ばれてるけど。


「・・・なるほどね。」


 太郎の村では知っている人だらけなんだけど、どうしたモノか。

 連れて来たら解ったのかな?


「連れてくればいいじゃん。」


 いつの間にか肩に座っているマナに言われた。

 書籍師の男が頬を赤くしてソッポを向く。

 不思議に思ったが、直ぐに気が付いた。

 マリナと一緒に居るようになってから服装は少し変わって町の人らしい衣装にはなったが、羞恥心はほとんど変わっていない。

 マリナと一緒で下着を身に着けていないから、簡単に丸見えになる姿勢でも平気である。そもそも、下着を付ける習慣も有ったり無かったりでバラバラだ。

 スーも付けてなかったときあったな・・・。


「何考えてるの?」

「あ、ああ。ちょっと連れてくる。」






 もりそばを連れてきたら、うどんも付いてきた。おまけにシルバもふわふわと浮いて姿を見せている。シルバに運んで貰ったから仕方が無いんだけど、いつもならすぐに消えるのにな。


「おい・・・あれ・・・。」

「ああ、そうだ・・・。」

「伝説の・・・!」


 シルバがニコニコしている。


「あんた、ついでに信仰貰ってるでしょ?」

「ナカナカ頂ける機会が無いので。」

「シンコウって美味しいの?」

「マリナはまだ知らない方が良いんじゃないかな?」

「えー、意味は知ってるよー?」


 経験値の差かな?

 理解してなくて助かる。

 信仰を利用するようになったらマリナなら国ぐらい創れそうで怖い。

 そんな事を考えていると、うどんに後ろから抱きしめられる。知らない人達に見られるのは少し恥ずかしい気がしたが、他の人達はシルバに視線が集中していて、うどんにももりそばにも興味は無さそうだ。


「あ、あの・・・シルヴァニード様ですよね?」

「はい!」


 強い憧れを感じる。

 早く本題に行きたいんだけどなあ。

 何か楽しそうだし放っておくか。


「わざわざ私達を呼んでおいて何やってんの。」

「シルバはほっといて構わないから、もりそばに見てもらいたい本が有るんだ。」

「うん?」


 先ほどの本を見せると、うどんともりそばが覗き込む。


「あら、これセキエイの本じゃない。」

「セキエイって人?」

「そーよ。歴史の編纂が好きだった変なやつなんだけど、本そのものってくらい毎日本を読んでは何かを書いていたわね。」

「何かって編纂してたんじゃないの?」

「そう言ってただけで私は歴史に興味ないから、なにやっていたかなんて知らないわよ。」

「文字は読めるんだ?」

「アーリア文字ね。古いけどなんとかなるわ。」


 アーリアってなにか聞き覚え有るけど、そんな文字有ったかな?


「書ける?」

「当然。」

「ちょっとこの文字読みやすく書き直してくれないかな?」

「読めるならそのままでいいじゃない。」

「文字なの解るけど、どこからどこまでが文字なのか区別がつかないんだよ。」

「はーっ、役に立たない能力ねぇ。」


 太郎が袋から出した紙と鉛筆で一文字ずつ書き直す。

 そうするとはっきりと分かる事が有る。


「これ四文字で一文字になるし、こっちなんか八文字も使って一文字なのか。」

「そうだねー。」


 書籍師の男が太郎達をずっと見ている。

 太郎が咳払いをして文字を読み上げた。


「バウスト歴1年。今年は記念すべき年になるだろう。ついに聖女が誕生したのだ。だが、この聖女様はとんでもなく艶めかしい姿をしていて、シースルーのローブを羽織り、来るモノ全てに愛を与えている。人も魔物も関係なく。」

「・・・なんかそんなコトしてた記憶が有るわね。」

「スケベねぇ。」

「スケベだねー。」

「必要だったんだから仕方がないでしょ。」


 もりそばとマナのやり取りを無視して再び読む。


「バウスト歴25年。アルカロスが聖女を我がモノとして建国を宣言する。バウスト歴が廃止されてアルカロス歴が始まる・・・が、同規模の反対者が立ち上がって戦争が起きる。たった半年で聖女が行方不明になり、各地で小競り合いが続く。今、私が居る場所も安全ではない。」


 戦争は続き、建国すると滅亡し、滅亡すると建国する。それが各地で繰り返されていた。行方不明の聖女は幾つかの国で存在を表明し、それぞれが本物であると証明した。その所為で争いは激化し、平和を目指す国にも争いを持ち込み、飢えと貧困が続いた。

 聖女を擁する国は、その力によって国内は平和になったが、一歩結界を出ると、そこは地獄と変わらない景色が続く。

 その中でアルカロス王国はしぶとく生き残った。

 理由は解っていないが、6人の聖女は全く同じ能力を持っているが、姿は違う。それぞれがそれぞれの能力で勇者を集め、戦いを続けている・・・。

 だが奇妙な事に、滅ぼす程の被害を与える事は無かった。


「読むの疲れるなあ・・・。」

「読んであげるねー!」

「ああ、たすかる。」


 書籍師は聞いた言葉を必死に書き記していて、太郎とマリナの会話は耳に入らなかった。書き終えて、太郎を見る。その目は続きを待っているのだった。





 聖女が現れた理由は不明だが、彼等は聖女を求めた。聖女が居れば平和でいられたし、聖女が全てを救ってくれると信じているからだ。

 無論、それは間違いだったのだが、それに気が付く者は誰一人いない。

 まるで戦争を続ける為に存在しているような聖女達。


「悲しい話だね。聖女は世界を救う為に人を争わせていた事になるから。」

「知っててやってたった事?」

「・・・多分ね。」

「問題は、聖女がどうして世界を救う方法を知っていたか。もう一つは、なぜ滅びる事を予見できたのか。」

「アー・・・なんか思い出したような、思い出さないような・・・。」


 もりそばが悩んでいるのでうどんに抱っこされた。


「そもそも、これってセキエイって人が他の人の歴史書を参考に書き直した物でしょ?なんでもりそばが知ってんの?」

「・・・え?」


 見た事が無いほど複雑な表情になった。

 うどんがニコニコして頭を撫でている。


「聖女の最後は太郎ちゃんだって知ってるでしょー!」

「そりゃ知ってるけどさ・・・。」


 太郎の方はマナとマリナにヨシヨシされている。

 思い出したくはない。


「セキエイって普通の人だよね?」

「ふつーよ。」


 普通のボーダーラインが不明になっているのは内緒だ。


「なら、どうやってセキエイが歴史書を書いてるとか読んでるとか知ってるの?」

「そりゃーいつも私の傍で背もたれに・・・ああああっ!」


 視線が集まる。


「これトレントの記憶だったわ。長いこと寝ているのと変わらないような状態だったから。・・・もう何年前か分からないけど、周囲は殆ど人がいなかったわ。と言うか、彼一人で生活してたわね。」


 全てが終わり、聖女は失われ、村も、町も、城ですら崩壊した。

 世界は終わったと思った。

 誰もがそう思った。

 極一部の者達は強力な生物によって守られたが、それでも絶望以外感じられない。

 山は崩れ、海は枯れ、川は汚れ、大地は割れ、畑は荒れ、家は潰れ、誰も生きているとは思えないのだ。

 そこで崩れた城から本を拾い集め、岩肌を掘って作られた場所に保管した。

 その昔からガッパードと呼ばれた岩山しかない大地に、私はギアと名付けた部屋を作り、いつか、本の保管に適した場所に移動させる夢を抱きつつも、ついつい忘れて読みあさってしまう。僅かに残った森で心を休め、いつしか、そこが私の居場所となった。


「日記みたいなページが有るね?」

「当時、どうやって紙を手に入れたんだろう?」

「元々全部手書きだったから、白紙の本に書いたんじゃない?」

「なかなか技術力が有ったんだろうなあ・・・。」

「感心そっちなの?」

「そりゃー、ね。古代なのに今と変わらなかったら凄いんじゃない?」


 この世界は1万年前も10万年前もあまり文明が変わっていない。

 それどころか、古代の方が多くの技術を持っている可能性も有る。

 ゴリテアの技術力の謎だってまだ分からないのだ。


「こっちの方も読むー?」

「お願いします。」


 黙って太郎達の会話を聞きつつも、読み上げる文面を速記の様に早く書いている。

 ちょっと見てみたけど、グニャグニャ過ぎて俺には読めn・・・読めるわ。

 なにこれ?


「じゃー読むねー。」


 マリナは文字を読むときは凄くきれいに喋る。

 朗読をしているような感じで日記らしき文章を読んだり、年代と事件のあらましを読んだりしている。


「・・・魔素溜まりから魔物が現れるのを発見。兵士を動員して対処し監視をする。七日後に再び現れる。魔素にノマレタ兵士が凶暴化した。」

「凶暴化?」

「うん、そー。」

「どう対処したんだ?」

「・・・魔素で凶暴化したモノは魔物化し、人々から離れて暮らした。凶暴化したのではなく、魔物化による身体の変化に苦しんでいたと知ったのはそれから数年後だった。」


 マリアもナナハルも読めない文字なので、今はマリナの読み上げる声だけが重要な情報になり、無言で耳を傾けている。・・・優雅に珈琲飲んでた。

 俺にも貰える?


「魔物と人との区別がはっきりとしたが、後にドラゴンと呼ばれ、人々から恐れられるようになった生物は、区別をものともせず同等に見下した。あの魔素の嵐を耐えきった人々を守る為にも、彼等にはある程度の知恵を与える為にも。」

「魔素の嵐が起きる前はドラゴンと呼ばれてなかったのか。」

「うん、そー。」


 一冊の本を太郎とマリナの二人で見ているので、周りからは本は見えても文字は見えない。マナは覗き込むのを諦めていた。


 獣人が現れると、生活圏は一気に広がった。彼等は寒さに強く、草木に隠れて生活し、衣服も纏わず、それでも人々に受け入れられたのはドラゴンのおかげだっただろう。そうでなければ生活圏を争って戦いが始まったかもしれなかった。魔素の濃度は次第に薄くなり、どこかで極小規模の魔素溜まりがたまに発生する程度だったが、ドラゴンの子供達に調査をさせると、いつの間にか消えていたという。

 ギンギールと名付けられた土地には多くの獣人が集まって街を作っていた。そこには翼の生えたモノが空を飛んでいて、荒れた大地を整えているようだった。また、名もない村が各地に点在するようになり、我々だけで監視する必要が無くなったと判断する時期になったという証拠だとして、ガッパードに腰を下ろす決意をした。

 ココには、いつまで経っても消えない魔素の噴き出る泉が有る。

 ドラゴンの始祖は、世界の表舞台から消え、名も残さず。


「それが今も生きているっていう・・・こと?」

「うん、そー。」

「とんでもない話じゃな。」


 ナナハルがタイミングを見付けて話に入ってきた。

 ここぞとばかりにマリアも入ってくる。


「それが本当なら、魔素溜まりを今も抑え続けてるの?」

「でも、それなら世界樹を燃やした理由にならないんじゃないかな?」

「私の波動だと退ける事は可能って事だけど、そういう細かい魔素の仕組みとか、私は考えた事無かったし。」

「そもそも、そういう情報もなかったワケだけど、神様は知ってたはずだよね?世界樹を大地に植えたのだから、マナの放つ波動によって魔素を退けて・・・。」


 太郎はもう一つの仮説に思いが至る。


「魔素の発生源を抑えて広がらないようにしている事と、魔素そのものを退けて安全に範囲を作ってるってさ、やっている事は違うけど、結果は同じになるよね?」

「・・・多少の違いはあるかも知れんが、大まかに言えばそうじゃな。」


 太郎の意見にマリアが考え込む。

 僅かな沈黙の時間を新たな声が埋めた。


「直接、話をすればいいだろう。」







※追記



■:セキエイ


 本を読むのが大好き

 もりそばの記憶の中の人

 当然、既に生きてはいない

 アーリア文字を使用する


■:アーリア文字


 古代に使われていた言語

 草書のようにクネクネした文字でとても読みにくい


■:バウスト歴


 聖女を擁立した国の国王の名前

 25年で廃止された


■:アルカロス歴


 国名の元となった国王は初代アルカロス王だが、子孫は存在しない

 以降は聖女のお気に入りが国王になっている

 アルカロス歴を廃止しなかったのは考えるのが面倒だったから


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