第340話 ガッパード・ギア
2025年 本年もよろしくお願いいたしますm(_"_)m
太郎以下、マナ、マリナ、スーとポチ。
五人?と言うのかは分からないが、五名のパーティーは、エカテリーナ手作りのお弁当を食べて休憩している。
まだ何もしていないから疲れてはいないが、朝の作業をしていたら予定が変わってしまい、遅めの朝食にしようと思ったら、箱いっぱいのおにぎりを手渡されたのだ。
「早く帰ってきてくださいね。」
自分の役割をしっかりと把握していて、出掛ける事を引き留めはしないが、帰宅についてはしっかりと釘を刺してくる。何しろ帰らなかった事も有るので、その点では少し信用が低い。
「夜には帰ってくるよ。」
「いってらっしゃいませ~!」
と言う訳で、聖地を眺められるいい場所をシルバに選定してもらい、休憩しているのだった。しかし、ただの岩山が見えるだけの丘陵地で、林とは言えない程度の木々と草原が有るが、他に何もない。
「近くにかなり大きな町が有ります。」
ここからだと見えないくらい遠いが、シルバにとっては近い。
「国じゃないの?」
「町が有るってだけでもびっくりですけどねー。」
エカテリーナから貰ったおにぎりの中の具は種類が豊富で、村ではあまり人気のない漬物も入っていた。スーもポチも苦手だが、子供達には大人気だ。マナとマリナは食べ物について不満を言った事が無いので数に含まれない。
・・・その子供達は村で戦闘訓練をしている頃だろう。
食事の必要が無いシルバが報告を続けた。
「周辺に多数のワイバーンが確認できます。」
「この辺りの土地には世界樹の波動は届かないよね?」
「ないわね。」
「よし、植えとこ。」
袋から世界樹の苗木を取り出し、ついでにトレントも植える。
数分の作業で新しい林が完成した。
「これでここは私の聖地ね!」
マナにとってはそうかも?
因みに、マナの身体の中にも世界樹の苗木が数本入っていて、これが有るから一人でも行動が可能だ。太郎からマナを貰っている状態だと、太郎が居なくなった時に身体が崩れてしまう。
「私が居るから大丈夫!」
元気に言ったマリナはポチの食事を邪魔するように鼻をツンツンしているが、ポチは怒ったりしない。ポチにとっては太郎とマリナはほぼ同レベルの扱いになっていた。
林の周囲は弱いが世界樹の波動が発生するようになり、気分の良さから欠伸が出てしまう。
「太郎さんは暢気ですねー。」
「暢気なのは良いけど、なんか来るわよ。」
「何が来る?」
太郎以外が、何か来るその方向を見ている。
見えるの、なんで?
「ドラゴンじゃないですねー。」
「大きいけどワイバーンみたいです―。」
「へー・・・?」
暫く空を無意味に眺めていると、マリナが肩を叩いた。
見ると指をさしている。
「あっちー。」
「おっ~!」
何かが近付いてくる。
当然だ。
その何かは、周りの景色と比較して大きいのが太郎でも分かる。
「おぉ・・・結構デカいな。」
「普通はもっと怖がるんですけどー。」
「太郎だもんね。」
「パパだもんね。」
みんなが言う通りワイバーンなのだろうが、村に着たワイバーンとは大きさが全然違う。太郎達を見下ろしたそのワイバーンが目の前に着地すると、フワッとした風が吹く。
「・・・。」
なんかすっごい見詰められるている。
「・・・?」
「・・・。」
「えーっと、スズキタロウさまで宜しいですか・・・?」
もの凄く野太く、丁寧な声で尋ねられ、太郎はゆっくりと頷いた。
「直ぐに来ると思っていたそうなのですが、なかなか来ないので迎えに行って来いと言われまして・・・。」
「ちょっと休憩してただけで食べたら行くつもりだったんだけど・・・。」
今度は鳴き声のような音が響いた。
「もしかしてお腹空いてるんじゃないの?」
マナの指摘に恥ずかしそうになる。
巨体でモジモジされるとなんか怖いんだが。
「ワイバーンが好きな食べ物ってあるの?」
「あ、えーっと、好みはそれぞれ違いますが、私は根菜類が好きです。」
血肉じゃないんだな。
自分達はまだ食べている途中なので、食べ終わるのを待たせるのも何か可哀想な気がする太郎は、袋の中をごそごそとする。
「パパもってるの?」
「根菜類なら有るはず・・・。」
太郎が取り出したのはサツマイモとジャガイモ。
人参と大根も出てきた。
じーっと一点を見詰めているようだ。
「これ欲しいのー?」
「あ、はい。・・・いえいえ、何もしていないのに頂く訳には・・・。」
マリナが両腕に抱えた人参を持ってふわ~っと飛んで行く、怖がるそぶりも無く鼻先に座るとワイバーンは困惑しているようだ。
「ほら、口開けなさい。」
何故か圧力に負けて口を開くと、人参がごっそりと口の中に放り込まれる。
頬いっぱいになったのか、零れ落ちないように口を閉じて暫くモグモグとしていたが、とても嬉しそうに見える。
「美味しいでしょー?」
ごくり。
「いつも食べているのと比べると甘さと濃さが全然違う・・・。」
「でしょー?」
ニコニコして目と目の間をナデナデする。
その間に人参だけを用意したがのせられる皿が無いので、大きな風呂敷を広げてそこに置いた。
「食べさせてあげるね!」
「え?」
マリナが人参に近寄って手招きすると、人参の目の前までワイバーンの顔も近付く。
「はい、あーん!」
「あーん?」
「口を開けるの!」
「あ、はい。あーん。」
なんだこの光景。
餌付けかな?
「ポチさん、あのワイバーンかなり強いように見えるんですけど。」
「お前と俺で挑んでも、ギリギリ良い勝負ぐらいだと思うぞ。」
「ですよねー・・・。」
ポチとスーがひそひそという程ではないが、ワイバーンには届かない程度の声で会話している。そうか、かなり強いのか。
マリナに食べさせてもらっている雰囲気だと、そんな感じは全くしない。薪を炉にくべるような勢いで人参を満足気に食べ、山盛りあった人参は無くなった。
「もうないよー。」
「こっちもおにぎり無くなったし、そろそろ行こうか。」
「はーい。」
巨体のワイバーンがマリナにでれっでれになっていて、背中に乗せると直ぐに飛び立っていく。
案内しに来たんじゃないのか?
更に加速して、あっという間に姿が見えなくなった。
「シルバ、頼むよ。」
到着した一行は、最初にワイバーンの謝罪から始まった。
「す、すみません・・・。」
「まあ、案内が無くても来れたけど、案内が居た方がいきなり襲われる心配はないんじゃないかな。」
「襲って来る事は無いと思いますけど、迷子にならないのですか?」
「困ったら飛んで帰るからダイジョーブよ!」
何故かマリナと会話をしていて、太郎に主導権が無い。
「それにしても凄い場所だね。」
「私が生まれた時にはすでにこの状態でしたから。」
「それ、何年くらい前?」
「800年くらいですかね。」
「若いわね。」
マナの感覚だとそうだろうな。
ワイバーンは巨体の所為で中には入れないので、遺跡の周囲を歩いている。幾つも開いた横穴と、人が一人通るのもやっとの狭い通路が有り、ポチも奥には行けなさそうだ。
「少し小さくなれませんかー?」
「魔力の放出を抑えれば可能だが、これで一番小さい状態だぞ。」
ウロウロと横穴の中に入ると、差し込んでくる光で奥が見える。
「どうせそんなに奥まで掘られてないと思いたいところだけど、地下に続く階段が沢山あるからなあ。」
「あ、なんか来た。」
「ああ~、それじゃあ失礼しますね。人参ありがとうございました。」
「きにしなくていいよー!」
だからなんでマリナが言うのかな?
慌てて逃げるように飛んで行ったワイバーンの後に、見慣れた姿が現れる。
「遅かったな。」
「ああ、ファングールさん。」
「・・・。」
「どうしました?」
「そんなに気軽に呼ばれると思わなかったからな。」
「おじさん!」
「・・・まぁ、いい。それより、中は見たのか?」
「これからです。」
「案内してやろう・・・。」
中に入ると石を削って作られたイスやテーブルが配置されている。棚もベッドも全て石だ。多分キッチンと思われる形をした台も、調理台と竈が並列していて、意外と使い易そうだ。
「何を見ている?」
「ちゃんと生活してたんだなって・・・。」
「当然だ。」
「・・・入れないんだが?」
不貞腐れたポチの身体をマリナが撫でると少し体が小さくなる。
まだ大きいらしいのでもう少し小さくしている。
「その娘の魔力コントロールが異常だな。」
「ポチはねー、ちゃんと才能は有るからお手伝いしてあげればできる子なのー。」
「普通は他者の魔力を調節したうえで操作するなど出来んのだぞ。」
「何故か力が漲るんだが?」
「それはマリナが魔力の制御をしたから身体全体に上手く循環したんじゃない?」
身体は一回り小さくなったが、何故か身体能力は上がったという、バトル漫画にありがちなパターンだ。
スーは対抗しなくていいよ、なんで背を低くしようとしてるのさ。
「では、こっちだ。」
そう言うと階段を降りて行く。
陽が届かないから真っ暗な筈だが、十分な明るさが有る大きな空洞にやって来た。
「ああ、ヒカリゴケか。」
「太郎さん、こっちに大きな絵が有りますよー!」
壁に巨大な絵が有る。
歴史を刻んでいるのだろうか?
聖地と呼ばれるだけの古い歴史だとすれば、ココにあるドラゴンらしき姿と人が武器を持っている絵は、戦いを示すのだろう。
それに続くのは多くの小鳥と、少し大きな鳥と、凄く大きな鳥。一番大きいのはドラゴンかな?
「この一番小さいのってカラーですかね?」
「そう言われるとこれだけ色の種類多いね?」
「カラーなら古代より存在していたぞ。」
「へー・・・よく絶滅しなかったね?」
「生存能力は高いんだろう・・・すぐに増えるしな。」
村のカラー達も増えまくっていて、世界樹の枝に巣を作って棲んでいる。ベッドで寝てる奴もいたけど。
「あの子達は賢いからね。」
「マナもカラーとは付き合いが長いんだろ?」
「そうね。」
「昔はワイバーンと仲良くしていたぞ。」
絵にはまだ続きが有り、城壁に囲まれた畑。その城壁に弓を放つ者達。たくさんの墓。そしてどこからか降り注ぐ火の玉。
「この火の玉って、流星?」
「良く分かったな。」
「それに・・・この形の山ってゴリテアと似てるなあ・・・。」
「その山がココだ。そして問題はその先だ。」
指し示すその先にはびっしりと刻まれた文字が有る。
スーとポチが眺めているが首をかしげていて、マナも悩んでいるようだ。
「パパー。」
「なに?」
「ここに料理のレシピが書いてあるよ。」
「読めるの?」
「うん、そー。」
太郎がしゃがんでマリナとその文字を読み上げる。
「これ、カレーのレシピじゃない?」
「うん、そー。」
「こんな昔からカレーって存在してたんだなあ・・・。」
「こっちは製鉄技術みたいだよ。」
「なんでマリナは製鉄技術なんて知ってるの?」
「パパの知ってることならだいたい知ってるよ!」
そういわれればそんな事言ってたな。
「もっと重要な何かは無いのか?」
「これ、半分くらいは名簿みたいですね。」
「名簿?」
「多分ですけど、ココに住んでいた人達の名前か、重要な役職についている人達か、ちょっと分からないですけど、名前だと思いますよ。」
「他はなんだ?」
「法律みたいです。」
「法律だと?」
「みんなで守る約束みたいなもんです。」
「うん、そー。」
「マリナは私に読み方教えなさいよ。」
「いいよー!」
マナとマリナが二人で並んでいるのを見ると親子には見えない。
そもそも、正確な意味においての親子ではない。
ただし、マリナは完全に母親父親認識している。
「あー、これこれ。」
太郎の発言に、注目が集まる。
「魔素の乱れによって悪しき生物が生まれる。だが、同時に善き生物も生まれるきっかけになる。だが、滅ぼされるのが先では良き生物が育たない。」
太郎が文字に視線を向けると、何故か読める。
その不思議な感覚に心がゆらゆらと目を回すようだ。
「魔素が吹き荒れ世界を飲み込もうとしている。これに対する方法が見つからない。」
文字から感情が読み取れる。
「誰でも良い。生き残った者。生き延びる術を知る者。誰でも良い。」
文字が乱れて読みづらい。
「助けてくれ。たすけてくれたすけてくれたすけてくれたすけ・・・。」
負の感情が襲い掛かる。
太郎は突然気を失い、その場に崩れるように倒れた。
■聖地ガッパード・ギア
古代都市の名称で、岩山を横や地下に向かって掘って作られた
穴の開いた山の形がゴリテアに酷似している
象形文字に似た古代の文字が壁に刻まれていて、壁画も有る
太郎しか読めない(マリナも読める
一般的に聖地として知れ渡っているが、実際の姿を誰も知らない




