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第339話 魔女の嘘


 

年内最後の投稿です\(^o^)/よいお年を!



 

 思いもよらない過去の話に、娘からも同情の目を向けられている父親は、苦みを込めて笑った。どんなに強くても全てを助けられる訳ではない事を、その時に知ったのだ。

 当時は数百以上いたドラゴンも、必ず勝ったのではなく、少しずつ狩られ、様々な陰謀や虚像に悩まされつつ、今の状態に落ち着いたのだから。


「その後も色々あってな、私だけではなく、仲間も人と関わるのをやめた者は多い。昔の人間が遺した遺跡に住み着いたのはその頃だ。」


 他人であっても半世紀近く長生きすると少し前の記憶がが三か月から一年近い時間のズレが有る。数万年以上生きているドラゴンにとって、昔とは何年前の事だろう?


「少し前に世界樹を燃やした我々は、もう二度と悲劇を起こしたくなかったのだ。」

「なーるほどねぇ。」


 マナが感心すると、マリナもうんうんと頷いている。

 それで良いのか?


「そんなんで良いのか?」


 疑問を持って言葉にしたのはファングールである。


「良いわけないでしょ。」

「だろうな。」


 眉間にしわを寄せ、腕を組んで足を組み直す。


「だがな、お前達の方が正しいと言うのなら魔女が嘘を言っていた事になるが・・・その辺りはどうなんだ。何か知らんのか?」

「魔女なら二人知ってるけど、どっちよ。」

「二人?たった二人なのか?もっと居た筈なんだが。」

「あんたの知らない内に滅ぼされる寸前になったらしいわよ。」


 二人しかいないのならほぼ滅んでいるのと変わらない。


「そうか、あいつらはなかなか面白いのも居たんだがな。」


 魔女とドラゴンの関係を知らないので何とも言えないが、とりあえず近くにいる魔女を呼ぶことにした。






「で、なんで袋から引きずり出してくるの!」

「だって、あそこに居たら呼んでも来ないじゃん。」

「そーだけどー・・・。」


 マリアの袋の中にに入るにはしっかり扉が有るが、それをどんなに多重ロックしても太郎とマナとマリナは簡単に開けられるのだ。ちなみに内側からなら誰でも自由に開けられる。

 その袋の中では別世界が作られていて、ココにも世界樹の苗木が植樹されている。カラーやキラービーも棲んでいて、ちゃんと外の世界と昼夜のタイムサイクルをリンクさせているから、なかなか凄い。


「太郎ちゃんに呼ばれたら断れるわけないじゃないの~・・・。」


 純血のドラゴンに睨まれても怯えていないようで、対面する椅子に座る。


「なかなかの胆力だな。」

「あ~、それは太郎ちゃんのおかげだから、そんなに睨まないで~。」


 フーリンとエンカ、そしてもう一人の純血のピュールもいる。


「それで、これは何処を滅ぼす話し合いなの?」

「誤解だけど結果は間違っていない気がするわね。」


 マナが誤解を深めるような事を言った後、ファングールが改めて説明する。

 マリアはオリビアに珈琲を要求する余裕を見せつつも、話を最後まで聞いたが、心当たりはない。


「心当たりがないだと?」

「そもそも、ほとんど袋の中に居たから知らないわ。」

「それなら世界樹を燃やさなければならないのは嘘なのか?」

「半分は嘘じゃないと思うわ。残念だけど、負のマナと正のマナが混在しないとバランスが悪くなるという予想は有るのよね。」


 世界樹の発する波動は確かに世界を安定させるが、それは負のマナを押し退けいているだけという事も分かっていて、負のマナは消えていないのである。


「まあ、俺としては簡単に燃やされても困るから世界中に苗を植えているけどね。」

「・・・それ、言っちゃっていいの~?」

「そんな事をしたら負のマナが一箇所に集まってしまうではないか。」

「全体に広がるよりはいいと思うけどね。」

「だが、それでは負のマナが極限にまで凝縮され、とんでもない事が起こるのではないのか?」

「全体に広がっても起きてるんじゃないの?」

「・・・確かに・・・?」


 過去の記録が正確である保証はない。

 大きい災害が発生している事は記録にも有り、生物が滅亡寸前にまで追い込まれている。防ぐ方法が無いのであればひとまとめにしてしまおうというのが太郎の目的なのだが、村に住むみんなに正しく伝わっている様子はない。


「まだ何が起きるのか分からないし、どうせ防げないのなら、俺は俺が出来る事を勝手にやらせてもらうよ。」

「ドラゴン相手にそんな事が言えるのね?」


 エンカが驚いていて、フーリンがマナに何かを目で訴えている。気が付いているようだが、マナはニコニコしているだけだ。


「それほどの度胸が有るのなら遺跡を見に来るがいい。お主なら簡単に行けるのだろう?」

「襲われない?」

「お主を襲う度胸の有る奴は殆どおらん。それと、もう一人の魔女は呼べんのか?」

「呼べるけど、都合もあるだろうからなあ。」

「私の都合は~?」


 太郎が返事をする前にマリナに頭を撫でられたマリアは、人形を扱うように抱き寄せると、頬を摺り寄せる。

 僅かだが震えていて、我慢していたらしい。

 空気と化しているピュールが羨ましそうに見ているが、そちらは無視されていた。


「シルバ、すぐいける?」


 シュルルッ


「行けます。」

「ほう、シルヴァニードか。」

「知り合い?」

「いえ、会った事はありません。」

「だろうな、俺も初めて見る。たしか、以前に我々ドラゴンの誰かの眷属だったはずだが。」

「眷属ではありませんでしたが、魔力を分けて頂いた事が有ります。」

「そうか、なら奴が勝手にそう思っていただけか。」

「あんた、魔力が無くなりそうになるくらい衰えてたんじゃないの?」

「誰かの近くに居ると勘違いされるので、それ以降はフラフラしていました。」

「それで信仰を魔力にして貰うようになったのね?」

「・・・そうです。」


 今の間、なんなん?


「じゃあ、明日行こうかな。」

「明日か・・・。だが、早くした方が良いぞ。」

「なんでよ?」

「ドラゴンがココに攻める予定だからな。」

「え、この村を滅ぼすおつもりですか!?」


 フーリンが驚いた声で問うが、問われた方は冷静なまま返した。

 厨房の方で皿が何枚か割れた音がするが、気にしない。


「世界樹をもう一度燃やすつもりだ。だが、来るのはあのお方だけだがな。まだ小さいからあのお方だけで十分という話ではあったが・・・。」


 太郎達を目を細めて睨むと、重い息を吐き出した。


「無理だろうな。」

「まあ、太郎ちゃんが居るから。」

「俺なの?」

「パパ一番強いもんね!」


 マリナに純粋な瞳で見詰められた。

 マリアまでこっちみんな。


「あのお方って?」

「魔女に言われて世界樹を燃やす事にしたドラゴンだ。」

「私なんかじゃ手も足も出ないほど強いわ。」


 フーリンがそう言うのだから相当強いのだろう。

 ん?


「フーリンさんが手も足も出ないのに俺の方が強いみたいな言い方してることになるんだけど?」

「見ただけだが・・・魔力量では圧倒的にお前の方が上だ。」

「え。そ、そんなに?」

「自分の魔力量を正確にはかれんのか?」


 マナを見る。

 マリナを見る。

 フーリンを見ると頷いた。


「こいつは・・・ある意味恐ろしい男だな。」

「コワクナイヨー。」

「お、おぅ・・・。」


 マリナが言葉だけでおっさんを怯ませたぞ。


「主ちゃんが最高なのは間違いなわねー。」


 ウンダンヌが現れて、そう言っただけで消えた。


「精霊を二人も従えているのか?」

「まあ、うん。」

「不満そうだな?」

「不満とかじゃなくて、なんていうか、自由過ぎるんだよ。」


 シルバがふっと消えた。

 逃げたともいう。

 それを見ていたファングールは目の前に残った珈琲を飲み干すと立ち上がった。


「明日、来るのなら待っているからな。」

「あ、はい。」


 待っている?

 ガッパード・ギアに行けば色々と分かるかもしれないのかな?

 と、そう考え事をしていた一瞬で、ファングールはいなくなっていた。


「・・・娘を何だと思っているのかしらね。」

「・・・同感。」


 エンカとフーリンが溜息を吐いている横で、ピュールは椅子から崩れ落ちて床にうつ伏せに倒れた。


「なにやってんの?」

「つらい。」

「しょうがないわねぇ。」


 マナになでなでされて元気を取り戻したピュールは、椅子に座り直すと、家の中を確認するかのようにコソコソと入ってくる姿が見えた。


「なにやってんすかかダンダイルさん。」

「ん、あ、いやー・・・な!」


 その後ろには他の姿も有って、トヒラとスーが珍しく仲良くしている。


「ホラー、大丈夫って言ったじゃないですかー!」

「いや、でも、確認は必要ですよ?」


 あんまり仲は良くなかったようだ。


「それよりっ!」

「なに?」

「行くんですよね、伝説の聖地に!」

「伝説の聖地?」

「ガッパード・ギアの事だ。」

「聖地なんだ?」

「ドラゴンが棲んでるから誰もイケないんですー。」

「あー、なるほど?」


 行くのは明日だが、太郎としてはメンバーは決まっている。

 変化としては追加の一名が有るが、連れて行かない訳にはいかないだろう。


「?」


 ニコニコしてるなあ。

 やっと平和を取り戻し、村はいつも通りの動きを再開した。






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