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第338話 なんで居るの?

 朝。

 マリナとマナを両脇に抱えながら食堂にやってくると、見慣れない人・・・いや、あの人は確かドラゴンだ。

 エカテリーナが困り顔で配膳している。

 陰でうどんが狙っていてるのは黙っておこう。

 ただのサラダを食べているようだが、葉っぱを食べるドラゴンってどうなんだろう?

 何故か肉食のイメージが有る。


「これは美味いな・・・。」

「美味しすぎるのよ。」


 この親子、なんで仲良く並んで他人の家のご飯食べてるの?


「あ、た、太郎様・・・。」


 困っているがうどんは眺めているだけだ。

 抱き付かれたら邪魔で動けないもんな。


「これ、どういう状況?」

「今朝早く来て、飯を食わせろって・・・。」


 エカテリーナはココでの調理や食事でなら相手がエルフだろうが天使だろうが、モノ申す事が出来る。もちろん、理由が有ってする事だから、言われた方も自覚をしている。しかし、ドラゴン相手では委縮しているようで、それも純血のドラゴンに睨まれたら普通はまともに動けないだろう。


「済まない、我々も手伝うぐらいしか出来なくてな。」


 オリビアもエプロン姿であっちこっちと、忙しく動いている。


「おっさん食べ過ぎ!」


 腕から抜け出したマリナがスクッと立ち上がると人差し指を向けて指摘する。


「お、おっさん・・・?」モグモグ


 こちらも抱えられた腕から抜け出したマナが太郎の身体によじ登って肩に座る。


「ちょっと、食べるのやめなさいよ。」

「メンドクサイな・・・何の用だ。」

「こっちのセリフなんですけど!」


 会話の主導権を奪われた太郎は、対面に位置する椅子に座る。それだけでもとんでもない事なのだろう、オリビアを除く他のエルフ達が逃げ出した。

 なんでエルフィンも一緒に逃げてるのかな?


「冗談だ。」モグモグ


 朝からカエル肉のカレーを食べるおっさんは、残り少なくなった自分の皿を見て少し悲しい表情をする。


「食べるのは良いんだけど、用事が有るのならちゃんと手順は踏んで欲しいかな。」

「手順など有ったのか?」


 隣に座るエンカが驚いた表情で太郎と自分の父親を交互に見ている。

 てか、この二人いつの間に仲良くなってたんだ?

 自分の娘を殺すような事言ってなかったっけ?


「太郎君は忙しいんですよ。」


 横から現れてそう言ったのは、聴き慣れた女性の声だ。


「フーリンも来たか。」

「ピュールも来るわ。」

「・・・じゃあ、お代わりをくれ。」


 今度はオリビアが同じ量のカレーを持ってきて並べている。朝からカレーなのは一晩寝かせると更に美味しくなるというのを試したからで、本当は太郎に一番最初に食べて欲しかったのだ。

 エカテリーナが寂しそうにしているが、今はうどんに抱きしめられているので動けない。ごめんね。





 ファングール、エンカ、フーリン、ピュールが揃って椅子に座っているが、ピュールは俺の横に座っている。あっちに行けと視線を送るが、何故か離れようとしない。


「怖いんだよ、解れよ!」


 そんな事を偉そうに言われたら、余計に行かせたくなる。

 ファングールが手招きをしたのでピュールは半べそで横の椅子に座った。頭を鷲掴みにされてボロ泣きである。

 ピュールが泣いている理由は、ハンハルトの事件を既に知られているからだ。


「我ら一族の癖に情けない男だ。目の前の普人の方がよっぽど・・・、その娘もなんかおかしいな?」


 マリナに視線を向けると、べーって舌を出されたが、怒る事は無い。


「九尾の子ではないな。」

「私と太郎の子供だからね。」

「世界樹と・・・?とんでもないなこの男は。」


 苦くて渋い、小さな笑い方をしたが、すぐに止めた。


「本題だ、魔素溜まりについて話してやろう。」


 湯気を立ち昇らせている珈琲に視線を送りながら、ぽつりぽつりと話し始める。それは魔素の嵐について。トヒラが近くに居れば知りたがる情報の嵐でもあった。




 魔素が集まると魔物が生まれる

 産まれた魔物は特殊個体が多い

 放置すると魔物同士が争い、生き残った魔物が強力になる

 現在の魔物の殆どはこの魔素から生まれ、繁殖した

 魔素の濃度によって必ず強い魔物が生まれる訳ではなく、群れで現れる事が稀に有る

 ドラゴンやケルベロスなどは高濃度の魔素から生まれた

 魔素は周囲の魔素濃度を上げ、植物が魔物化し、最終的に魔素で汚染された土地は弱肉強食となり、負の魔素が濃くなると、嵐が発生する

 浸食が続き、世界を負の魔素が覆うと、魔素の嵐となって十数年吹き荒れ、今度は正の魔素が湧くようになる

 少しずつ中和され、最終的に中庸となると魔素が安定し、嵐が収まる




「その中で生き残れる生物など殆どおらん。」

「ドラゴンは生き残ったんですよね?」

「当然だと言いたいが・・・魔素の嵐を経験しているのは聖女かトレント、あとは人も生きは残っているんだと思う。」

「ドラゴンは?」

「魔素の嵐の発生条件は正確には解っていない。ガッパード・ギアと名付けられている古代都市にその歴史が刻まれているのだ。」

「え?かっぱー?」

「ガッパード・ギアだ。」


 聞き覚えのある名前と似ている気がする。

 どーなんだろう?


「岩肌や山肌に穴掘って住んでいる古代都市事だったりします?」

「なんで知っておる?!」


 驚き過ぎて怒鳴り声になった所為か、俺とマリナとマナ以外が倒れた。

 うどんですら目を回しているから凄いんだろうけど、家が壊れそうなので止めてくれ。テーブルも叩かないで、ピュールが吹き飛んだよ。


「聞いた記憶のある名前と似ているから言ってみただけなんだけど。」

「・・・おぬしは何を知っとるんだ?」


 マリナとマナが期待の眼差しで俺を見てくる。


「この世界の事は殆ど知らないかな。」


 がっかりしている。

 なんでおっさんもガッカリしてるの・・・。


「でも、魔素の嵐が過ぎ去った後にドラゴンが生まれたって事は、魔素溜まりは嵐以降も自然発生を続けてたって事ですか?」

「特定の地域に魔素が集まり続けたのだが、その原因は解っていない。」

「複雑な時代なんですね。」

「今自分が言っている事も正解かどうかの保証はないからな。だいたい合っているんじゃないかという推測に過ぎない。だが、魔素が濃くなると良い事は無いが、薄すぎても駄目だ。」

「薄すぎると困る事とは?」

「新たな生物が生まれない。」


 フーリンとエンカは二人の会話に耳を傾けつつ、静かに珈琲を飲んでいる。ピュールはどうにか席に戻ったが、エカテリーナとオリビアは気を失っているらしく、うどんに抱きしめられてヨシヨシされている。


「薄くなったトコロでは普通の人達が繁栄するんじゃないの?」

「我々はその生物を吟味していたのだが・・・。」


 まるでこの世界で生きたければ我々に認められたモノだけ・・・と言っているようでもある。あの神様が納得しているかどうかは知らないけど、少なくともこのドラゴン・・・いや、ドラゴン達は正しいと思って行っているのだろう。


「だいたい合っているって、何か記録みたいなものが残ってるんですか?」

「証拠と呼べるかどうかはわからんが、昔の普人の学者が調べていた壁画なら有るな。文字のようなモノも有るが誰も読めん。」

「壁画かあ・・・それ、ちゃんと保存されてますか?」

「どういう技術かは知らんが、特殊な塗料で塗られていて、夜になると一部が光る。」

「蛍光塗料なんて有るんですか?!」

「ケイコー?なんだそれは。」


 フーリンとエンカが何か相談しているようにひそひそと話した後にこちらを向いた。


「光る文字や壁画なら、昔に見た事あるけど、なんか良く分からない記号みたいなものがびっしり並んでたわ。」

「象形文字かな?」

「ショーケイ?なんでおぬしは我々の知らない言葉を知っているのだ?」

「俺の居た世界は古代の記録を調べる、考古学者という人達が居て、その人達は沢山の資料を集めて過去に何が起きたか、その歴史について探究しているんですよ。」

「そんな事をしてどうするのだ?」


 それほど歴史に興味はなく、過去を調べて知る事による利益について知らない。


「俺の世界ではどうか知りませんけど、ゴリテアを発見した人達が居るくらいですから、何かの発見や、もしかしたら昔の方が今より発展した文明が有るとか、失われた技術とか、知る事が出来るかもしれません。」

「ほう・・・。」


 何故か興味を含む瞳で見られた。

 左右からも見られたけど、なんで?


「そういえば、昔やって来たギデオンという男を知っているか?」

「ギデオン?」


 誰だっけ?


「あー、捕まえた奴ね。」


 珍しくマナが先に思い出した。

 俺ボケたかな?


「捕まえた?あの男はなかなかの強さだったはずだが?」

「強いらしいね。」


 座り直すように椅子を動かし、背筋を伸ばして腕を組むと太郎を細目で睨む。


「あの男にこの村を調べるように言ったのは我々の母だ。」


 エンカが驚いていて、フーリンも口を手で押さえる驚きぶりだ。


「え、なんで?」

「その世界樹が我々の領域にまで侵食して来た事で周囲の環境が変化し、魔素の発生源の場所も大きく変わった。」

「それは私の能力なのよ。文句言われても困るわ。」

「ソレは解っているが、我々に悪影響が出ては困る。」

「魔素の発生個所は減ったけど、より濃い魔素が発生するようになったとか?」

「・・・知っている口ぶりだな。」

「知らないけど予想は出来るよ。もちろん、正解かどうか知らないけどね。」

「・・・我らが治める土地にも発生し、その土地に住む者はドラゴンを信奉する者達であったから助けねばならん。」


 そこからは苦渋に満ちた表情に変わった。


「助ける事もままならず、毎日が魔物との戦い。ドラゴンにとっては平気でも、我々を信じる者達が命を奪われていく。これがどれだけの屈辱か理解できるか?」


 信じる者達がドラゴンに守られている事に感謝しているのに、この気持ちを踏みにじり、魔物に襲われる者達は一人ではない。襲う魔物も一体ではない。強さと数のバランスが絶妙で、どうにかギリギリ守り切っている状態が数百年続いていた。

 魔素が濃くなるほど凶悪な魔物が生まれ、残虐な魔物は命を奪う事しか生きる道を知らぬ魔獣であった。


「人々は少しずつ数を減らし、人と人との争いにも巻き込まれ、血を流して傷ついている娘を助けた時、泣きながら問われた言葉は今でも忘れぬ。」





「なんで居るの?早くパパとママを助けて!!」






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