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第337話 ワイワイワイバーン

 ゴリテアの研究はマリアに任せ、ダンダイルとトヒラが教わっているのをしばらく眺めていたが、上の方が騒がしくなったのを聞いて、思い出した。


「あのワイバーンどうするの?」

「文字通り、煮るなり、焼くなり、好きにしていいわよ。」

「鶏を絞めれない俺に言われてもなあ。」


 何か諦めたように溜息を吐き出してから外へ出る。屋根が見える位置に立つと、子供達が飛び降りてきた。

 足を掴まれたワイバーンも一緒に。


「おとーさん、おとーさん。」

「うん?」


 ワイバーンは少し嫌がっているように見えるんだが?


「うちで飼って良い?!」


 子供達が期待の眼差しで俺を見詰めてくる。


「ここならご飯たくさん食べられるから、帰りたくないって言ってるよ。」

「え?ワイバーンが?」

「うん、そー。」

『お手伝いしますのでお願いします。』

「へ?」

「ワイバーンってかなり賢かったのね。言語が有るなんて。」


 ワルジャウ語を喋る人の言葉を理解するくらいなのだから賢いのだろう。


『・・・これわかる?』

『・・・?!ど、どうして私達と喋れるのですか?』

『言語加護だよ。』

『うん、そー。』


 ワイバーン達が俺とマリナを交互に見ている。

 子供達が羨ましそうに見ていて、4匹のワイバーンが俺の前に並んだ。


『ドラゴンに使われると命が幾つあっても足りないのでここに住みたいです。お願いします。』


 きっと子供達には啼き声にしか聞こえないんだろう。

 マナもしかめっ面だ。


『パパー?』

「言語加護で話したら分からないだろ。」

「あ、う、うん。」


 言語加護の作用するタイミングはいつも謎で、意識して使わないとこうなる。

 まあ、意識するというのも感覚的には説明できないのだが。


「話で聞くとかなり優秀らしいし、キラービーとかカラーも居るけど問題ないかな?」

「大丈夫じゃないかな。強さで言うとキラービーの方が強いわ。」

「じゃあ・・・ちゃんと面倒見る?」


 子供達は頷く者と、喜んで両手を上げのと分かれる。


『あ、あのー・・・?』

『なぁに?』

『ここは暖かいので特に面倒を見て貰わなくても、ちゃんと働きますが。』

『何が出来るの?』

『村では荷物運びもやっていましたし、畑の作業もしますよ。専用の道具が必要ですけど。』

『畑は困ってないよ。』

『でもココの畑、規模にしては小さすぎませんか?種類は多いみたいですけど。』

『ちゃんとそういうの解るんだ、賢いね。』

『かしこいねー!』


 マリナがワイバーンの頭を撫でると、子供達も集まってナデナデしている。


『あ、あのっ・・・我々、子供ではないのであんまり撫でられると恥ずかしいです。』


 マリナが凄くションボリしてやめた。

 子供達も撫でるのを止めて少し離れる。


『てか、なんですか、この子、浮いてませんか?』

『子供達も俺も浮けるし、飛べるよ。』

『大人なら分かりますが、子供でも簡単に飛べるものなんですか?』

『ココが特別じゃないかな・・・?』


 マリナが不貞腐れている。

 可愛いけど今はそういう場合じゃない。


『まあ、ココに棲むんなら色々と説明するよ。』


 幾つかの説明を受けたワイバーンはビックリもしたが大喜びもして、仲間も呼びたいと言ったが、あんまり集まっても困るので制限させてもらう事にした。


『えーっと・・・30くらいですが良いですか?』

『そのくらいなら良いよ。巣も欲しいでしょ?希望が有れば作っておくけど。』

『少し高い方が落ち着きますのであの屋根の上が良いのですが・・・。』

『いいよー!』


 なんでマリナが答えるのかな?

 ほら、ワイバーンが俺を見るじゃないか。


『いいよ。』

『巣は我々が自分で作ります。』


 許可すると4羽がバラバラに飛んで行って、枯れ木や藁なとを集め始め・・・戻ってきた。


『あの藁を頂いても良いですか?』

『いいよー!』


 マリナは面倒を見る気満々のようで、今度はワイバーン達と一緒に俺に視線を向けてきた。


『ちゃんと面倒を見るんだぞ。』

『わかったー!』


 マリナが喜んでいるトコロを見て、子供達がもう一度喜んでいる。後は子供達に任せ、マナを連れて家に戻るとダンダイルに呼び止められた。


「太郎君はワイバーンを飼うつもりかね?」

「子供達がそのつもりなので。」

「そうか・・・勢力圏が変わりそうだな。」


 ダンダイルが眉間にしわを寄せている。

 トヒラに何かを言っている様子で、トヒラの方も表情が変わった。

 ダメならそう言っても良いんだけど、理由は違うらしい。


「ああ、一応ワイバーンはギルドでも偶に出るくらいの高級食材だから、許可なく捕獲しないように兵士に説明する。」

「あー、お手数かけます。」

「それにしても、敵だったワイバーンをココで飼うなんて大胆な事するわね。」


 ミカエルが呆れている。

 世界樹が燃えた時にも居たらしい。


「あー、そう言われればワイバーンも居たんだっけ?」


 これがマナである。

 ただ忘れているだけかもしれないが。


「そりゃあ、あれだけの数を集めたらドラゴンだけじゃ無理よ。数合わせでワイバーンも混ざっていたわ。気が付かなかったの?」


 ミカエルはあの当時空から眺めていたという。どちらかに味方をする訳でもなく、中立でもなく、ただ傍観していたのだ。


「今ってドラゴンは少ないんだろ?」

「一番最近生まれた純血のドラゴンは、多分、あのピュールだから・・・死んでなければ20を少し上回るくらいじゃないかしら?」

「それってかなり重要な情報なんですけど、信じちゃっていいですか?」


 割り込んで来たのがトヒラで、情報の重要性を理解しているからこそ、確認したかったのだが、普通に考えれば近付く事さえなかなか許される相手ではない事を失念していた。一瞬の不機嫌な表情の後、トヒラがソコに気が付いて身体を震わせた。

 もちろん、太郎が許す訳が無いので、無視する事は無い。


「情報は古いけど嘘では無いのは確かよ。」


 ダンダイルがトヒラの肩を掴んで下がらせたので、何事もなかったが、ここに太郎が居るからこそだという事を、久しぶりに再確認した気分であった。





 半月ほど経過し、ワイバーンはゾクゾクとやって来た。

 30体という話はどうなったかと思うくらい、やって来た。

 慣れているオルトがワイバーン達を誘導しているようだ。

 え、オルトって住んでるの?

 誘導されて屋根に着陸していく。太郎の家の屋根だけでは足りないので、専用の小屋を建設する事になったのだが・・・。


「あんたたち、なんで私に棲まないのよ?」

「そう言われましても、ドラゴンって怖いですよ?」

「あの子達が作った小屋だからそれでも良いけど、私の方が安全じゃない。」

「でも、ドラゴンに焼かれましたよね?」


 マナとワイバーンが会話していて、何の違和感もなく通り過ぎる前に気が付いた。


「あれ、ワルジャウ語?」

「あ、太郎様、よろしくお願いします。」

「それは全然良いんだけど、言語加護の所為でどっちの言葉なのか分からない。」

「こいつはワルジャウ語が話せるみたい。」

「へー、賢いね。なら子供達とも話してるの?」

「お子さんなんですよね・・・。」

「そうだけど、なんかあった?」

「なんか多過ぎてしまったらしくて、小屋をもっと作ると張りきられてしまいまして。なんか申し訳なく。」

「あー、それで沢山欲しいって言ってたのか。」


 太郎は袋を背負って移動している途中で、袋の中に材木がたくさん入っているのだ。


「小屋の方に行くのでしたらお供します。」


 背が高く、身長は太郎と変わらない。翼を広げれば何倍も大きくなるんだろう。マナが太郎の肩に座り、太郎が歩きだすと、歩き難そうにワイバーンが付いて来る。

 いつもより歩く速度を下げ、のんびりと到着する。


「ぱぱー!」


 マリナが飛び込んで来たので受け止めて抱きしめる。

 なんと気持ちいい抱き心地だろう。

 そうじゃなくて。


「器用に建てるね?」

「わらわが指導しているのじゃぞ、当然じゃ。」


 母親のナナハルが現場監督をしているようで、子供達がせっせと建築してい。既に完成したところにワイバーンが棲み付いていた。

 ちっちゃいのも居てなんか可愛い。あれ・・・100体以上居るよね?


「ツクモの村で飼えば良い。」

「勝手に決めちゃっていいの?」

「ワイバーンが棲む村は裕福になると言われておる。実際にやつらは働き者じゃぞ。」

「働き者なんだ?」

「うむ。」


 ワイバーンはかなり重いモノも掴んで飛べるようで、確かに人を運んで飛んでいたのを目撃している。畑を耕すのが上手で、収穫もするらしい・・・。


「ワルジャウ語が話せないと困るんでな、何匹かは話せる奴も連れてこいと言っておいた。」

「あ~、それで。」

「雑食で何でも食うが、言えば守るでの。」

「詳しいね?」

「若い頃に何匹か飼っていた事が有ったのじゃ。見とれよ。」


 ナナハルが不思議な口笛を吹くと、一斉に集まってきた。空を見上げると群れでやってくる。次々と着陸し、太郎の目の前には100体以上のワイバーンが綺麗に整列していた。


「よいかおぬし等、この男の顔をよーく覚えるのじゃぞ。お前達の主人じゃ。」


 ぐぇー、きぇー、きょえー。

 いろんな啼き声が返ってくる。


「これで太郎の言う事なら何でも聞くぞ。あまりにも無茶でなければ逆らう事もない。火が吐けるから戦力にもなる。」

「私の言う事も聞きなさいよね!」

「それは大丈夫じゃ。カラーと同じように力関係は理解しておる。優先順位が変わるだけじゃ。」

「わたしはー!?」

「少し残念な事に、わらわの子より優先順位が上のようじゃな・・・。」


 力関係で生まれたばかりのマリナに負けているという事実に軽いショックを受けていたらしい。子供達とってマリナは妹だが、勝てる要素が一つもないらしい。

 何を勝負しているのかな?


「マリナとはわらわでも本気で戦いたくないぞ。」

「そういう力関係を作らないで欲しいんだけど。」

「こればかりは仕方がない。太郎が強過ぎるだけじゃ。」


 理解はするが納得はしたくない太郎が、ナナハルの肩に手を乗せて顔を近づける。当然だがマナの顔もマリナの頭も近寄る事になるが気にしない。


「頼むよ?」

「う、うむ。」


 ワイバーンの査定で、ナナハルの優先順位が下がったのは言うまでもない。





 小屋が完成して数日後、ワイバーン達がツクモの村にも棲むようになり、魔王国でも飼えないかダンダイルが相談に来ていた。ワイバーンにとっては安全に繁殖できて、仕事を与えてもらえるのなら問題は無いらしく、ワイバーンが行きたいと思うモノだけを連れて行くように伝えると、身長がマリナと変わらないほどの小さなワイバーンが魔王国の城内に棲む事になった。ギルドでは任せられないような情報伝達が行えるのでかなり助かるらしい。


「かなり以前にワイバーン通信を使っていたのは魔女や天使達だが、自分達で運ぶ方が良いという理由で止めたという話がある。相当量を運ぶとなると、それなりの数が必要になるが、経費も嵩むのだ。」


 経費って何だろう?


「ダンダイルさんは必要なんですか?」

「任地から帰ってこない行方不明の兵士を捜したり、緊急の指令を送るとか、急ぎの小荷物程度なら便利ではある。」

「そんなに便利ならなんで使わなくなったんです?」

「そもそも使った事が無い。魔王になる以前に何故かどんどん北に棲み処を移動させてしまって、周辺で見かけなくなってしまったのだ。」

「だいたいドラゴンの所為ね?」

「いや、戦争で食糧難になって食べ尽くしたのが原因だだったと思うが。」


 確かワイバーンの肉は美味しいって話だったもんな。


「ワイバーンの食べるモノが無くなったんだ。」


 ああ、そっちか。

 

「この村ならそんな心配もないし、これで城との連絡もギルドが不要になるなら、無理に戻る必要が減るし、助かる。」

「あんたもこの村好きだもんね。」

「もちろんです。」


 マナに頭を撫でられてニコニコしているおっさんが居る。

 俺じゃないぞ。

 なんでマリナがニコニコして俺の頭を撫でてるのかな?


「嬉しい?」

「嬉しいよ。」


 おっさんが二人でニコニコしている。

 ・・・たまには良いか。


「ところで太郎君。」

「どうしました?」

「あの・・・お方はずっと住み続けるんだよな?」


 ダンダイルが気を遣う相手など数えるほどしかいない。

 フーリン相手でもそうだったのだから、それと同レベルの者が村に滞在していると、とてもやり難いのだろう。兵士達もエルフ達も慣れたとはいえ、エンカの住む家をよく見ている。もちろん凝視などできないが、気にしているのは間違いない。


「俺に聞かれても。」

「だよなあ・・・。」


 魔王国の上層部では大騒ぎになっていて、いつ城に来るかと何度も追及されているという。それらの情報をワイバーンを使って連絡していて、監視を理由に戻っていないらしい。そしてもう一つの問題が今浮上していた。






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