第333話 家族一同
このままだと危険な物体の苗木だが、封印するくらいなら形を変えてしまえば良いと思った太郎は、苗木を持って考え込む。太郎が何をするのか興味を持っているようだが、変な事をするつもりは無いぞ。
うーむ。
動けないと困るなあ・・・。
喋れないと面倒だよなあ・・・。
うどんの様に人型なら良いのか・・・?
そして生成されたのが、女の子なのだ。
人型に変化した最初は全裸で太郎に抱き付き、頬にキスをしている。吃驚したので慌てて放すと、いつの間にかマナと同じワンピースを着ていて、言葉は話せなかったが、キスをするたびに言葉を覚えていくらしく、いつの間にか普通に喋っていた。
楽しそうに太郎の周りをぴょこぴょこ歩き回る姿が可愛い。
そしてまた飛び付いた。
「ぱぱ~だいすきぃ~!」
「う、うん。それより自分の事は解る?」
パパの質問の意味を理解する方が難しいが、この子は生まれた事を理解していた。
「私はパパに作ってもらった人間だよ。」
「人間なんだ?」
「んー、多分そう。」
なんで自信ないの?
「女性として身体は出来てるけど・・・。」
自分の身体をペタペタ触っている。
「あんた、子供を作れる身体じゃないわね?」
「うん、そー。」
「太郎の所為よ、女性の身体のイメージを作れなかったからでしょ。」
な、なるほど?
「あと、パパの所為で成長できない。」
「成長しない?」
「子供だけど大人なの。」
「もしかして太郎の好みを反映してるんじゃない?」
「うん、そー。」
マジかー・・・。
あれ、視線が痛い。
いてて・・・。
「ママの事も好き!」
「私がママなのね。やっぱり太郎とは相思相愛なのね!」
「うん、そー。」
改めて言われると照れるんだけど。
「なんと言っておるのじゃ?」
「え?」
「ああ、太郎は気が付かなかったでしょうけど、この子、日本語を話してるわよ。」
「ワルジャウ語は?」
「話せるよー!」
「なんだ話せるじゃないか。」
今まで何を言っているのか分からず困惑していたポチがそう言うと、その子はトテトテと移動し、ポチに抱き付いた。
「ポチすきぃ~♪」
「お、おぉ・・・。」
ポチが大人しい。
「名前を知っておるのじゃな。」
ナナハルの声に反応し、今度はナナハルに飛び付く。
ジャンプじゃなく、明らかにふわっと浮いている。
「ナナハルの事も分かるよ~!」
「今、浮遊せんかったか?!」
「できるよ~。だいたいパパと同じ事なら出来るよ~。」
マリアが吃驚している。
「こんな事が出来るという事は、私も創造魔法を極めれば人造が可能に・・・。」
「マリアにはまだ無理だよ~。」
なんで分かるの?
マリアも納得しているけど、この子まだ出来たばかりだよ?
「まだって事はいずれ可能って事よね。」
「うん、そー。」
「私の事も解るんです?」
明らかに飛んで移動し、スーの肩に座った。
耳を触って遊んでいる。
「スーは強くなったね~。」
「強さも解るんです?」
「だいたい解るよ~。ママの能力も半分あるもん。」
俺の魔力しか込めてないのに何でマナの能力が?
「とんでもないモノを生み出しおったな。」
ナナハルがあきれ果てた声で呟く。
エカテリーナとマギが何とも言えない表情で見ていると、ふわふわと飛んで行く。
二人にも順番に抱き付いて行き、エカテリーナは負けじと抱きしめ返すと、頬に何度もキスをされていた。
「私の方がお姉さんなのにぃ~。」
仕掛けた方の顔が真っ赤になってへにょへにょである。
「直ぐキスするわね?」
様子を眺めていたうどんともりそばだ。
うどんの方は戸惑っているようだが、もりそばは積極的に近寄ると、やはり抱きしめられた。
「なんか、甘えん坊みたいね?」
「というか、うどんっぽいかも。」
うどんはニコニコしている。
それはこの子に自分の一部が反映されていると思ったからだろう。
「とにかく、名前を考えないとなあ・・・。」
封印される予定だった苗木は、人型の姿をして歩いている。
俺の所為なのは解っているが、欲望の塊みたいに言わないでくれ。
少しは反省している。
暫くは自由にさせておくことにしたら村のあちこちに神出鬼没で、シルバでも位置を把握するのが大変だという。気が付くと頭の上に乗っていたり腕に抱き付いていたり、背中で寝ていたりする。
自由にさせておくことにした最大の理由は、気が付くといなくなっていて、捜すのが大変だからだ。
「ぱぱ~、早く名前チョーだい!」
太郎にはいつも甘えて、直ぐに抱き付くのでマナがプンプンしているが、マナにも抱き付くので本気で怒っている訳ではない。自分が太郎に抱き付こうとする前に抱き付いているので場所の取り合いで負けているのだ。
「ママ~!」
どういう認識か知らないが、この子にとってマナが母親で太郎が父親なのだ。
名前を付けるという事に、変な名前が付かないように言葉を濁していて、数日悩んでやっと絞り出した。
「マリナだ!」
女の子はキョトンとしている。
周囲を見渡し・・・。
太郎に抱き付いた。
小声で自分の名前を何度も呟いてニコニコしている。
気に入ってくれてよかった。
「マリナって、なんでぇ~?」
たまたま近くに居たマリアとナナハルに見られた。
「マナの子って分かりやすいでしょ?」
「そうじゃな。」
日本語にしても英語にしても違和感のない名前だ。
しかもしっかり マとナが入っている。
「マリナ、こっちに来なさい。」
「は~い。」
トテトテと効果音が有りそうな歩き方で、マナにくっ付いた。
魔力は吸収しない。
「それにしても人型になるとはねぇ・・・。」
見た目はマナよりも小さく、身長は100センチあるかないかぐらい。
髪の毛は長くお尻に届き、髪色も同じ、顔もマナに似ていて、マナの妹と言っても違和感はない。
マナが抱き寄せてナデナデしている。
「それに能力も無くなって、ただのマナの塊に・・・恐ろしいですねー。」
スーはそう言ったが、無くなった能力というのはマナの吸収と触った人のマナの許容量を増やすというモノであって、他の能力がかなりモリモリに追加されている。人型に変化させたことで言語を話す事が可能になったのだ。
この世界では太郎とマナしか知らない日本語も話せる。
造ったのは俺なんだけど、どうしよう?
それから数日が経過し、今では子供達とも仲良くしているし、エルフ達にも兵士達にも受け入れられていた。何しろ村中をウロウロするので、孤児院でも2階の窓の外から覗き込まれて軽くパニックになっていた。
仲良くなる能力はマナに似ているのかもしれないが、態度まで似なくても良かったんじゃないかな・・・。
「マリナちゃんあそぼ!」
「いいよー!」
孤児院で遊んでいると完全に子供なのだが、知識は俺とマナを引き継いでいる。言語加護もついているので、キラービーと会話をし、キッチリと蜂蜜を受け取っている。
子供達と蜂蜜を分けて食べていた事で発覚したのだ。
その他の者達では、フーリンとエンカの二人は最初から受け入れてくれた。そもそも受け入れられないという雰囲気すらなく、トヒラもダンダイルも、ドーゴルでさえ、彼女の抱擁からは逃げられなかった。
そして、一番子供が苦手そうなグルも抱き付かれて苦笑いしていた。
「自分の子供ジャネーノに何でも許せちまうんだよな。ある意味怖いぞ。」
と、太郎に伝えている。
カラーとキラービーもすでに仲が良く、キラービーの巣の中にまで入って女王と会話したそうだ。兎獣人の村も自力で発見し、見せたくはなかったが行為も見学していた。
「なんか、自分の娘みたいな妹が出来たみたい。」
ククルとルルクがそう言って困っていた。
一番驚いたのはファリス達デュラハーンの国に一人で行った事だ。グルさん達の居る鉱山にも一人で遊びに行っているから、いずれ行くだろうと思っていたが、予想よりもずっと早い。ファリスを見てすぐに仲良くなり、ポニスの背に乗り、あちらの世界での巨大なトレントは、世界樹様が来たと思って慌てたという。
「家族の絆みたいなものを感じますね。妹が欲しくなっちゃいました・・・。」
そんな感じで村での活動は目まぐるしく、毎日どこかへ行くのだが、太郎が名前を呼ぶと直ぐに戻ってくるし、食事の時間や入浴には必ず付いて来る。
一番心配な夜は、新しいベッドでスヤスヤと寝ている。
マナには出来ない事で、マリナは本当に寝ているのだ。
「無垢というか無邪気というか、悪気が一切感じられないし、天使達が来たらどうなるんでしょうかねー?」
そのスーの疑問は、直ぐに解決した。
「これは太郎の子か?」
ミカエルに抱きかかえられて帰って来たのだから、それをたまたま来ていたフーリンが見て驚いたのだ。
「あなた、そんな事が出来たの?」
「子育てくらい経験あるわよ。それより、こんなに懐かれると子供が欲しくなって困るんだけど。」
同じ気持ちになったのがオリビアで、マリナを抱きかかえたまま半日ほど昼寝をしてしまったらしい。マナには包容力が有るが、マリナは抱かれ力がある。
なんとも不思議な子だ。
・・・抱かれ力?
「これ、あなたの理想の子供?」
「半分はそうなんだけど半分はマナの影響を受けてるみたい。」
「確かに好奇心は凄いわね。恐怖心も警戒心も無いわ。」
「私はちゃんと警戒するわよ!」
そのペシペシ叩くの俺の頭の上でやらないで、ほらマリナが真似したじゃないか。
太郎は二人におでこを交互に叩かれている。
もちろん痛くは無い。
心地よい音が響いているだけだ。
「そんなにあちこち行くんなら、魔王国にはもイッテみたい?」
「いきたーい!」
それ、連れて行くのって俺なんだよね?
「つれてってー!」
「まあ、良いか。」
「やったー!」
「やったー!」
無邪気に喜んでいるようなのですぐに・・・。
なんでマナも喜んでるのさ。
いや待てよ。
「折角だから電・・・違う、魔力列車に乗って行こう。」
電車じゃないよな、えーっと、魔車?
なんか変だな・・・。
魔力機関だけど・・・。
機関車で良いじゃん。
乗っていると、少しだけ現代に戻った気がするんだよな・・・。
窓の外の景色は全然違うけど。
「パパ、どーしたの?」
「ちょっとかんがえごとー。それよりあちこち歩きまわるから汚れてるな。今日は何処にいってたの?」
「我々の所まで飛んで来たぞ。危ないから保護したんだが?」
そりゃそうだ。
じゃなきゃミカエルがそうそう降りてくるハズもない。
「あー、なんか、悪いね。」
「それにしてもオソロしい子供を造ったな。」
「こわくないよー?」
「空飛んでると汚れるの?」
「雲に突っ込んで遊んでたな。」
「それは普通に危ないじゃないか、ダメだぞー?」
「ピリピリして楽しかったのー、えへへー。」
ぐぅ、なんだこの可愛さ。
ヤバい。
「よ、よし。それならお風呂はいろっか?」
「はいる、はいるぅー!」
「私が太郎の洗い方を伝授しなきゃね。」
マナさんは何を言っているのかな?
「それならわらわも。」
ナナハルも?
「参加しますよー!」
「今じゃないですよね?夜ですよね?」
スーとエカテリーナも参加するそうです。
結局、子供達も参加する事になって、夜の大浴場は太郎達の貸し切りとなった。男は太郎だけではなく太郎と子供を合わせて6人いるが、他は子供から大人・・・いや、大人体型の子供まで幅広い。
ククルとルルクは本当にヤバいぐらいのミラクルボディをしている。
うん。
男女混浴でも家族ならまだ許されるが、子供達はしっかりと大人の身体をしている。
成長が早くて困る。
スーとエカテリーナが家族ではないと除外する事なんて俺にはできないが、まあ、何度も一緒に入っているようだし良いか。エカテリーナだけはまだ少し恥ずかしそうだけど、これが普通だと思うんだ。
わいわい、がやがやと入浴する。風呂場だとナナハルが普段はあまり出さない尻尾を全部出すので、マナが飛び付きマリナが真似をする。
「ふかふかー!」
「ふっかふかー!」
無邪気さならマナも負けてはいない。
石鹸でゴシゴシ洗えば泡も沢山出る。
子供達もはしゃいでいて、どこに誰が居るのか分からない。
「太郎よ、やってくれ!」
頭から沢山のお湯をかけられるのが大好きなナナハルが、この時だけは無邪気になる。まるで子供のように・・・?
「ざばーん!」
胡坐をかいて浴びていると、膝にはマリナがいた。
「きもちいいのじゃー!」
なんでその台詞をマリナが知っているの?
「おお、気持ち良さが分かるか!」
マリナの言葉にナナハルが上機嫌になる。
「そうか、そうか。わらわの影響も受けておるの!良い事じゃ~。」
「こーとーじゃー!」
「よし、景気良くもっとやってくれ!」
「これ以上やると流されちゃうよ?」
「じゃあ、あたしがやるー!」
ざばーーーん!
頭上からお湯が四方八方に流れ出し、天井が吹き飛び、壁が倒れる。
皆が湯舟に逃げ込んで来ると、あちこち泡だらけ、浴場が半壊し露店風呂の様になってしまった。
あまりの出来事にポカーンとしている。
「お困りですね?」
いつの間にか湯舟に居た、うどんともりそばが水を浄化してくれた。
泡も綺麗に無くなると、周りから丸見えなのでナナハルが魔法で壁を作ってくれた。
「とんでもない威力じゃったぞ・・・。」
「壁が流されて屋根が吹き飛びましたー。」
「やりすぎちゃった、えへへー。」
全員がアクシデントに慣れているのか、ケガ人が出なくて良かった。
でも、みんなは楽しそうで、湯舟に浸かると騒がしさも無くなる。
ほっこりしているのは俺の影響なんだろうな。
肩まで浸かると思わず出てしまう声を、みんながやっているのだから。
凄く楽しい。
とても楽しい。
こんな日がずっと続くと良いなあ。
そう思いながら失った屋根の代わりに、満天の星空が天井となっていた。
■:鈴木魔利菜(マリナ
何かの植物の苗木だと魔力を吸われてしまうので
人型の姿に変えた。
太郎がイロイロな想いを込めて出来上がったのは
マナにそっくりな子供だった
この世界の区分で言うと魔人に相当する(魔女ではない
(実は姿を変える事が出来て、いつでも大人に成れる)
■:ククル
兎獣人で太郎とウルクの子供
森の中に作った兎獣人の村で管理人のような仕事をしている
結界も張られてて安心
■:ルルク
兎獣人で太郎とウルクの子供
森の中に作った兎獣人の村で管理人のような仕事をしている
結界も張られてて安心




