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第332話 ツクモ村

 ツクモは、ナナハルが以前に住んでいた土地に居て、凄く困っていた。

畑は綺麗に耕かしてあり、収穫物は整然と並べられ、小さな小屋が何件か増えている。水路も新たに造られ、水量も豊富だ。若い男女が20人ほど住み着いていて、生きている喜びを実感しているようだった。

 実はツクモの不在の間に勝手に住み着いたのだが、あまりのみすぼらしさに、滞在を許した事がキッカケであった。彼等はツクモの姿を見て九尾と思い込み、恐怖に震えたのだが、畑と鶏の世話や、建物の修繕と掃除を行い、精根尽くした行動が認められ、蓄えられている食糧を分け与えられたのだ。


「ツクモ様。ここの土地に住まわせていただいた事に感謝をしております。」

「よいよい、良く働く者は好きだぞ。」


 コルドーの事件が収束して以降、やっと落ち着いて戻って来たので、最初は追い返そうと思っていたツクモは、働かぬ者に生きる価値は無いと言い捨てた。

 ナナハルが聞いたら頭を叩かれながら説教されても文句が言えない台詞である。

 しかし、彼等は良く働いた。

 食事もツクモを上位に用意された。

 身の回りの世話に一つの文句も言わず、笑顔で応じた。

 そして気が付いた事が有った。

 彼等がボロボロの服を着て働いている事を。


「ぬしら、事情を話せ。」


 食事の席で、一人分が用意され、ツクモはそれを食べる前に問うた。それは包み隠さず全てを話せという事で、彼等はそれを全て話すと捨てられるのではないかと不安でいっぱいであった。怪訝な面持ちで見詰めると、彼等はますます下を向いた。

 

「そうか、ならこれは要らぬな。」


 ツクモわざとらしく綺麗な衣服を彼らの前に投げた。

 その服は村で作られたエルフ製の高級品である。

 彼等はその優しさに気が付いて泣いた。

 それは永住を約束するモノではないが、長く住む事を許された事に間違いはないからだ。一人が重い口をやっと開く。


「実は・・・我々はコルドーから逃げてきました。」

「で、あろうな。そのくらいは気が付く。だが、ただ逃げるだけでもここまで来るには相当な苦労が有っただろう?」

「はい。魔物に襲われ30人ほどが死にました。」


 思い出し、嗚咽を漏らす女達を男が宥める。宥める男も泣いていた。


「それで武器も無く食糧も無く、ココに辿り着いたワケか。」

「はい・・・そして、私は勇者なのです。」


 流石にツクモが驚く。

 確かに言い難い訳だ。


「そうか、そういう事情か。なるほどのぅ・・・。」

「あの事件以降、恐ろしくて仕方ありません。」


 勇者の力が無駄に発動すれば、また誰かに操られるかもしれない。知られれば捨てられるかもしれない。勇者が嫌われ者なのは全世界の共通認識であるのだ。


「おぬし程度の勇者なら恐るるに足らん。それに難民があちこちで溢れておるし、他にも勇者がおるであろう。それこそ気にする話ではない。」


 その寛大で大器の言葉に、彼等は感謝に伏した。

 ツクモにとっては姉に知られたくない事ではあるが。

 彼等は感謝の言葉を述べつつ服を受け取り着替えようとすると、ツクモは苦い表情で立ち上がって言った。


「風呂に入ってから着替えろ。」




 方々を探してやってきたナナハルは、あまりの変わり様に驚いている。

 綺麗に整えられた敷地。

 沢山というほどではないが、働く者達。

 そして、偉そうに寝そべっているツクモ。


「これはどういう事じゃ?」


 声が聞こえると直ぐに起き上がった。

 耳がピーンとしている。


「姉上?!」


 九尾が二人居ると思った彼等は、その場に座り。全てを受け入れるかのように静かになにった。

 事情に付いては軽く説明しておき、勇者が居る事も伝えた。


「なるほどのぅ、ツクモにしてはちゃんと働いたという事か。」

「あ、あのっ・・・一応立場ってモノがあるんで。」

「その立場を上げてやるつもりで迎えに来たのじゃ。あと、そこの勇者も連れて行くぞ。」


 勇者を名乗った男は、殺されるコトを覚悟した。

 そしてとある村に到着した。


「・・・ここは何処ですか?」


 ナナハルに連れて来られた勇者は、周囲を見渡して怯えているが、マギを見付けてホッとした。会話はしていないが顔は知っていて、マギも覚えていた。


「ああ、あなたも・・・。」


 何故か優しい笑顔を向けられた、その後に変な施術をその場で受けると、なんと勇者の文様が消えたのだ。

 どういう事だ?


「私も勇者じゃないです。」


 その後ろでは説明を受けたツクモが太郎の作った苗木を握っている。


「ああああおおあおあおっ?!」


 ツクモは人型が溶ける前に手を離してしまったが、十分な能力を手に入れる事が出来た様で、ナナハルから渡されたエリクサーを飲むと、尻尾が増えた。

 マナが面白がって飛び付く。


「ふかふかね!」

「魔力が制御できな・・・いいいいいっ?!」

「やらねば暴発するぞ。」

「ひぎぃぃぃぃ?!」


 ツクモはなんとか耐え抜き、力を得る事に成功したが、その苗木は封印されることになった。こんな簡単に能力が上昇しては、力関係が簡単に変わってしまう。もちろん、耐えられるだけの能力が最低限必要ではあるのだが。

 呆然と眺めている元勇者が呟く。


「ここは一体どんな村なのですか?」

「知らない方が良い事も有る。」


 ツクモではなくナナハルがそう言った。

 ツクモの方は後ろで子供達に尻尾で遊ばれていて返事が出来ないのだ。


「もう、九尾になる事は無いと諦めていたのに・・・。」

「今回は特別だからね!」

「でも良かったの・・・か?」

「村の子供達を守ってくれたんだから、良いんじゃないかな?」


 太郎の言葉にナナハルは頷き、ツクモは感謝した。

 元勇者の男にとってそれは驚く光景なのだが、周りに驚いている者はいない。そして、あの元女勇者も、全てを受け入れているような笑顔なのだ。


「あとさ、これ植えといてもらって良い?」

「ああ、世界樹の苗木か。分かったちゃんと植えておく。」


 世界樹の苗木と一緒にトレントの苗木も渡す。


「魔力操作に慣れたら瞬間移動の練習に来ると良い。」


 ナナハルの言葉に頷くと、ツクモは特に何かして行くワケでもなく、直ぐに帰った。

 男の方はツクモの腕に抱かれて空を飛ぶことになったのだが、行きも帰りも気を失っていて記憶が無い。




 ツクモが帰宅すると、みんなが集まってきた。男が勇者ではなくなった事を告げると、一人の女性が大いに喜んでいる。抱き合って、泣いて喜んでいる。


「夫婦であったのか?」

「いえ、まだそこまでは・・・。」

「では結ばぬのか?」

「そのつもりではいるのですが・・・。」

「なんとウジウジしておるの。理由が有るのか?」

「この地に骨を埋める許可を頂いておりませんので。」


 ツクモは高らかに笑った。

 こんな不毛な地に住みたがる者がいるとは!

 それは、ツクモの努力で豊かになった訳ではなく、ナナハルと、その後は彼らによるものだ。ツクモ自身はなにもやる気がない。面倒だが村に行けば太郎が食べ物を分けてくれるので、困る事は無かったのだ。


「そんな事に悩んでおったのか。」

「ですが、ツクモ様のご加護により、この地には魔物が現れません。それだけでも私達には大変な恩と感謝を感じております。」


 半分はトレントのおかげである。


「そうか、では婚姻を結んでやろう。わらわが言うのであれば受け入れるのだな?」


 二人だけでなく、他の者達も大いに喜んだ。

 そして、この地にツクモ村と名が付くのは数日後で、それと同日にツクモ式の婚姻の儀が盛大に行われる事となった。ツクモ式とあえて言ったのは、ツクモ本人が正しいやり方を覚えていないからである。

 ツクモは儀式で自分の尻尾を一本ちぎり、それを契の証とした。

 僅か20名の村では酒も振舞われ、夜にはコッソリとナナハルと太郎もいた。村の者達には気が付かれる事のない屋敷の一番奥の部屋である。


「そうか、ツクモもこれでわらわと並ぶ者になった訳じゃな。」


 太郎を連れて来る事になったのは村の酒を持ち出す理由と、その日のうちに帰る事を約束したからで、今夜はここに寝泊まりはしない。エカテリーナが太郎の手を強く握ってにっこりと微笑んだだけで、もの凄い罪悪感を感じたからである。


「こんなに酒が美味い日は無いです。それに妊娠している者が居る事も分かりました。猫獣人と犬獣人という少し変わっていますが、労苦を共にした気持ちが深い絆を生んだとの事。」

「では、そヤツらの祝福もそなたの仕事じゃ。」

「必要な物が有ったら届けるよ。」

「そんなにしてもらうと悪い気がする。」

「孤児院を守ってくれたからね。」


 ツクモが守った子供達。

 それは太郎には出来なかった事で、村では兵士からもエルフからも高い信頼感と子供達の人気が高いのを、ツクモ本人は気が付いていない。

 知らせる必要もない。

 ナナハルはそう言って太郎に黙っているように伝えていた。


「遠慮しなくて良いよ。」

「太郎もそう言っておるのじゃ、気にする事は無い。」

「うーーむ。」


 ツクモは遠慮しつつも必要な建材などを注文し、それをエルフ達が運ぶことになった。太郎やナナハルが運ばないのは、この村との繋がりが有る別の村が存在する事を彼等に肌で感じてもらう為である。ハンハルトルートはまだ整備はされていないが、少しずつ安定していて、馬車に乗って移動が可能ぐらいは切り開かれている。

 2か月後ぐらいに現れたエルフ達に驚いたが、ツクモの言葉で彼等は過去の偏見を捨て、全面的に受け入れる事が出来た。

 だが、ツクモの村人達は金がない。自給自足で生きるだけのモノは揃っているが、商品を買う事が出来ないのだ。そこでエルフ達はハンハルト経由で彼らの作物を売り歩き、得た利益と商品を交換して運ぶことにした。エルフがハンハルトでも活動する事に問題は無く、三国同盟の規定で、他国の法を尊重する事も書かれている。

 エルフを容認したのが魔王国なら、他の国も容認するのだ。

 もちろん、そこには細かい制約なども有るが、容認した国が責任を持つ事で一部は解決している。エルフ達にとって、銀髪の志士として、世界に認められる活動をする事になったオリビアは、大役だと思ったが、その大義に関われる事を大いに喜んでいた。


「太郎殿には感謝してもしきれない。この身で良ければいつでも使ってください。」


 オリビアにそう言われても太郎が遠慮することは周知の事実なので、そのうちスーやマナが太郎をハメる計画を提案するだろう。

 太郎の村との交流が始まれば、ツクモ村は少しずつ認知され、宿屋と酒場の建設が始まる事になったのが半年後で、移住者も増え、驚くほど発展していくことになった。一年満たずに村に住む者が200人を超えたのだ。

 その頃にやってきたナナハルが、村の広がりを見て喜びと同時に危惧を覚える。


「ツクモよ、この村を統治する責任者たるお主に問う。」


 いつになく真剣な表情の姉に生唾を飲む。


「太郎の村と同じ・・・あの事件が起きた時、お主ならどうする?」


 それはツクモにとって、初めて身体で感じた重責であった。重すぎて身を潰すほどの、責任を、太郎はたった一人で解決した。それが事実ではないにしても、ツクモにはそう見え、そう感じる。太郎の存在はあの村に絶対必要なのだから、太郎がいなければ不可能なのである。

 ツクモは太郎を姉よりも眩しい存在として見ていて、姉のナナハルもそれを否定しない。寧ろ推奨していた。






■:御荷鉾九十九(ミカボツクモ


 8人兄弟の7番目の妹

 オレンジと茶色がまだらに混じった髪の毛でロングヘア―

 胸は標準サイズ

 九尾の力はないが純粋に強いので土地の守り神的役割をしていた(本人談

 とにかくだらしがない

 しかし、ついに九尾の力を手に入れた(332話)


■:ツクモ村


 ツクモが支配する村(332話)

 この村で作られる作物は太郎の所と同じモノだが、こちらは季節の影響を受けている

 品質は太郎の村の作物と遜色ないのに、価格が少し安いので高い人気を得る事となる

 ただし沢山作れない

 こっそり世界樹の木が植えられている

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