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第329話 乗車

 悲哀に沈んだ太郎は、感情を内に籠らせ、耐えているだけでも辛かったが、強烈な睡魔に襲われ、いつの間にか眠ってしまった。

その夢の中では、マナ、スー、ポチ、エカテリーナ、ナナハル、オリビア、ダンダイル、フーリン、その他にも次々と現れては、背を向けて消えていく。

光によって消え、残った闇の中ではただ一人、追う事も出来ず、死ぬ事も許されず、一つの光も残らず、暗闇に消えた。

どれくらい経過したのかは分からないが、僅かに見えた光は、目を開いたからである。視界には大きな胸しか見えない。


「太郎、大丈夫かの?」


 添い寝をするように横に居たナナハルと目が合うと、顔を真っ赤にしたが、吸い付くように抱き付いた。そうされる事を望んでいたが、妙に気恥しい。


「ど、どうしたのじゃ。」

「・・・。」


 太郎を抱き寄せると、ふわふわの尾で太郎を包む。


「わらわに太郎が癒せぬのが悔しいが、少しは役に立てるか?」

「う、うん・・・ありがとう・・・。」


 そう言っているのに、ソワソワとしている太郎を見ると、本当に自分が何も出来ない事が悔しい。太郎はマナを、世界樹を求めているのだろう。

 目の前にわらわが居るのに他の女の事を考えているなど許せない。

 そんな気持ちが湧き出ると、苛立ちも感じてしまい、むりやり顔を寄せると、頭をしっかりと掴んでキスをした。

 長すぎるキスで息が詰まり、鼻で呼吸してもまだ続ける。

 太郎の目が自分に向けられるまで、続いた。


「やっと、わらわを見たな。」

「う・・・。」


 唇が離れたので深呼吸をする。


「気が付いてないのか?わらわも太郎も一糸纏わぬ姿じゃぞ。」

「あ、うん・・・ナナハルは優しいし、綺麗だし、魅力的なのは理解しているけど。」

「何が不満じゃ?」

「不満なんて無いよ。」

「では欲望のまま抱けば良いではないか。」

「そんなのは愛じゃないよ。」

「世界樹にも愛なぞ無いぞ。」


 その言葉は太郎にはとても重い。

 本当に愛しているのか自信は無いし、愛されている自信もない。

 行為が愛を確かめる行動だとは思っていないし、全くしないからといって愛が無いとも思わない。そういう意味でなら、うどんの方がよっぽど愛を感じるが、母性愛という少し形が違う気もする。


「愛って何だろうね?」

「さぁの。」


 ナナハルの声は冷たい。

 太郎は視線を合わせられず、話題を変えた。


「そ、そういえば俺達ってどうやって戻って来たの?」

「世界樹がシルバを呼び出しておったな。あんたのご主人様なんだから少しぐらい働け!と言って瞬間移動で家の前までな。」

「そうなんだ・・・。」

「わらわも後からスーに聞いた話でな、あ奴らに頼んで譲ってもらったのじゃ。」


 何を譲ってもらったのだろう?


「おぬしを癒せぬようでは、妻ではないから・・・の。」


 また顔が赤くなる。

 裸を見られても恥ずかしくないのに、言葉にすると照れてしまう。

 太郎は、愛を感じた。

 それは太郎の感覚であって、それが正しいかどうか知らないが、確かに愛を感じたのだ。そう思うと、ムズムズしてくる。


「さて、しないのなら風呂にでも入ろうか。」

「え、あ、その・・・。」

「?」

「・・・したい。」


 満面の笑顔に吸い込まれ、もう一度キスをした。





 諸々を終え、自宅の風呂に入っていると、スーとマナがやって来た。遅れて入って来たのはエカテリーナだ。ナナハルは満足そうに湯舟を占拠していて、誰が来たのか、興味は無さそうだ。


「どう?」

「ああ、少しは落ち着いたよ。」

「次は私の番ですから、譲りませんよー。」

「どうせ私の所に戻ってくるからね。」

「本妻の余裕には勝てないです。」


 そう言ったのがエカテリーナだったから驚いていると、行動だけは大胆に、太郎にぴったりとくっ付いた。マナはナナハルの尻尾で遊んでいるのか、遊ばれているのか、揺れる尻尾を掴んで離さない。


「食事の用意は出来ていますので、お腹が空いても慌てないで食べてくださいね。」

「そう言われると、なんか凄いお腹が空いてきたな。」

「そりゃそうよ、三日も寝てればね。」

「そんなに寝てたのか。」


 太郎もそんな気はしていたので今度は驚かない。


「わらわも食べておらんぞ。」

「何度か覗きましたけど、微動だにしませんでしたねー。」

「そうなんだ・・・。」


 今度はナナハルが目を合わせない。濡れた手ぬぐいを目の上にのせているからだ。それをマナがスッと取ると、直ぐに奪い返されて元の位置に戻される。


「アンタが照れるなんて珍しいわね?」

「世界樹ほど無神経に成れぬだけじゃよ。」


 のんびり過ぎるほど湯舟を堪能すると、テーブルにはすでに料理が並べられていて、何故かオリビア達エルフが配膳していた。


「戻ってきたようでよかった。」

「みんな心配してたんですよ。」 

「ああ、ごめんごめん、もう大丈夫。」


 太郎以外に男がいない状況はいつもの事だが、子供達も居ないしポチもいない。


「あとで良いのだが、一つ相談しても良いか?」


 食事の後、落ち着くのを待ってからオリビアがエルフを連れて戻ってきた。

 片付けはエカテリーナとスーがやっているようだ。

 ん?

 ナナハルならソファーでだらしがなくしているよ。


「魔力列車に乗って貰えないだろうか?」

「あっちに行く用事は無いけど、何か有るの?」


 ゴルギャンの店が大盛況になっていて、販売物が増えた事で増築か引っ越しが必要になったのだ。瞬間移動を使えばあっという間なのだが、魔力列車に荷物をたくさん載せる予定なので、護衛も兼ねるという。


「グルさんとかマリアは乗ったの?」


 マチルダは別の国の人なので除外している。


「乗ってませんね。」

「なんで?」

「何度も試乗したのでどうでも良いようです。」


 鉱山からの線路は繋がっているのでそこでテストしていたらしい。

 知らなかった。


「じゃあ、いつ乗ったらいいの?」

「魔力列車が戻ってきたら翌日に。」


 現在、魔力列車は機関部と貨物車と客車を含めても10台しかなく、機関は一基しかない。量産するには資材の問題ではなく、部品を造れる職人の数が圧倒的に少ないので、完成までには相当な時間が掛かるらしい。


「そのわりには初号機の完成早過ぎない?」

「そりゃー半分ぐらい出来てたからな。」


 のっそりと現れたのはグルさんだ。

 弟子の二人居て、何やら申し訳なさそうな表情だ。


「それでこの二人をアンサンブルに新しく出来た鍛冶屋で働かせる事にしたんだが、良いか?」

「良いよ。」

「あっさりしてんな。」

「別に俺の許可なんて必要ないって、いつも言ってるじゃん。」

「そりゃーそーだが、一応な。」


 オリビアが後ろで頷いている。

 とても力強く。


「弟子にも弟子が出来てな、ダンダイル様の許可を取ろうとしたら、おめーにも言っとけって言われたからよ。」

「そういうもんなのかなあ?」

「そういうモノじゃよ。いい加減慣れるのじゃ。」

「お、おぅ・・・。」 


 予定を計画し、列車が戻ってくるのがいつになるのかまだ不明だが、出発すればその日のうちに到着する。問題は積載物があるかないかで、村に戻ってくるときに積むモノが殆ど無いというのが問題になっているようだ。


「運行に必要な物は全部ここから出てるんでしょ?」

「ああ、村で十分揃う。」

「向こうに行くと面白いもんが見れるらしいがな。」


 面白いモノって何だろう?





 数日後、魔力列車には太郎以下いつものメンバーと、グルさんにマリアに、オリビア達エルフも同乗した。積載物は大量の穀物で、ナナハルが苦労して完成させた酒類も大量にある。

 駅に到着する前から、車窓から面白いモノが見えた。


「鉄道建設ハンタイ!」


 数百人くらいは居るのだろうか、男達が列車に向かって叫んでいる。


「あれって商人?」

「そうだ。便利なモノが出来ると困る連中が徒党を組んで暴れてるってよ。」

「徒党なんだ?」

「そりゃ、おめー、線路に向けて石を投げ込んでくるからな。」


 石が飛んできたが列車には当たらない。

 マリアが考案した、魔法陣による物理防御が機能しているとの事。


「無駄なのに頑張るわねぇ~。」

「こんなに飛んでくるのに当たりませんねー。見事に明後日の方向へ・・・あっ!」

「ん?」

「反対側に居る人達に当たったみたいですねー。」

「あんまり面白くないね。」

「無駄な努力を見ていると少しホッとするもんだが?」


 グルさんの笑いには蔑む要素がふんだんに盛り込まれている。


「お前達はマネしなくて良いからな。」


 珍しく太郎が子供達に教育すると、しっかりとした返事が返ってくるが、スーとナナハルに笑われた。


「そんなバカな事をするように育てておらん。」


 確かに!


「あーゆーのってさ、取り締まらないの?」

「一度取り締まったところ、余計に増えたそうだ。」

「なるほどね。」


 注目が集まった事に効果が有ると踏んだんだろう。

 ま、どうせ、あんなのは9割以上が雇われだろうけど。


「う゛~・・・。」


 メリッサに会うために一緒に行動しているエカテリーナの声だ。

 メリッサが会いたがっているという事でいつものように居残りをしようとしていたのを連れて来たのだが・・・。


「大丈夫?」


 エカテリーナの顔が青い。

 乗りなれない所為で車酔いの様になっていて、元気がなく、太郎の膝に頭を乗せている。頭を撫でられていても、嬉しいが辛い。


「車酔いかな。」

「馬車でも酔う人がいましたねー。」

「ほら、これ食べなさい。」


 マナが髪の毛を抜くように引っ張ると葉っぱが出てきた。

 スーが吃驚しているが、エカテリーナは差し出されたモノを確認する事無く素直にむしゃむしゃと・・・。


「ああああ・・・。」

「あれ、気持ち悪いのが消えました。」

「そういや、酔い止めだったね。」

「ねー。」


 エカテリーナは列車が止まるまで、太郎の膝に頭を乗せて撫でられる事に至福を覚え、太郎からは見えないがエカテリーナはニコニコしていた。







■:魔力列車


 鉄道の機関部の名称

 魔石を燃料に稼働している

 以前に蒸気機関車は存在していたが、殆どが破壊されていて設計図も国家機密に

 魔力列車の設計と製造はマリアとマチルダとグルの三名によるもの

 製造設計図はマリアが保管している

 現在は村からアンサンブルの間だけ繋がっている

 人工魔石を使っている

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