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第328話 変化

 予定よりも遅れた魔力列車が到着すると、完成したばかりの駅のホームに集まった関係者から歓声が上がる。

魔王ドーゴルが参加するほどの大規模で豪華な式典に、本来は参加するべき男はいない。その所為で不機嫌な将軍もいるが、大樽に詰め込まれたキラービーの蜂蜜が各将軍に一樽ずつ届けられると、ある程度の不満は解消された。

当然のように、流通禁止の超高級蜂蜜である。

 殆ど物資輸送用なので客車は少なく、その少ない客車から降りて来たのはダンダイルとトヒラだ。安全性を証明する為に乗ったのだが、速さと乗り心地の良さに、大興奮のトヒラと、その興奮を抑えているが、隠しきれないダンダイルが迎えられる。

 その他に同乗していたのはオリビア達エルフで、残りは兵士である。一般客は一人もいない。鉄道はダリスとザイールまで延ばす予定も告げられ、鉄道建設は国家事業となった。最終的にはハンハルトからコルドーを経由してガーデンブルクまで繋げたいが、現状は不可能と判断されている。だが、リバウッドからと、ハンハルトからの線路が繋がれば、魔王国は商業の中心地となるのは間違いない。


「歴代の魔王が諦めていた事を実現させるなんて、やはり太郎殿は凄いですね。」


 式典が終わった後、現魔王のドーゴルが感嘆まじりにそういった。

 応じたのはダンダイルで、諦めた元魔王の一人である。


「計画は誰にでも出来るんです。問題は実行力。太郎君にはそれが有る。」


 これだけ大規模な事業を始めるとなれば、本来は莫大な資金が必要となるのだが、あの魔力列車の開発費はほとんどゼロに近く、資材に関しても鉄鉱が建設ペースに間に合わなかったくらいで、もっと時間を掛ければ鉱山一つで賄えたかもしれなかった。


「あの鉱山の採掘量というか、資源量で言うと、そろそろ枯渇するもんじゃないですか?」

「責任者の話では、今後100年は問題なく採掘できるという話ですから、ダリスを超えるでしょうな。しかも鉄以外も採れるようです。」

「蜂蜜に穀物に鉱物。とんでもない村です。」

「穀物だけでも大変な事になりますからな。可能なら数百年は永らえて欲しいところだが、太郎殿が普人でなければなぁ・・・。」


 神様から貰った能力についてはマナと太郎しか知らず、知っていればダンダイルは太郎に夢を語ったかもしれない。

 今後の鉄道建設は魔王国が主導して行う事が決定していて、不足するであろう鉄鉱石は高値になりつつある。ダリスの町での採掘量は減っているし、ガーデンブルクから輸入するにもハンハルトから輸入するにも、日数が掛かるからだ。


「まあ、夢のある未来図が描かれてますが、魔物や勇者問題も片付けないとなりませんので、当面は計画が有るという状態になるだけですが。」

「それについては沿線に一定間隔で監視所を設置する事で問題を解決させるつもりだが、魔力列車自体も抗魔力を装備させるとか魔女が言ってましたな・・・。」

「レールにも特殊な魔法が込められていますね。」

「なんというか・・・魔女が敵だった時代がはるか遠い昔のような気がするな。」

「そうですね・・・。」





 盛大な式典なんか出席したくない太郎は子供達を連れ、ピクニック気分で周辺を散策しているが、ポチに乗ったマナが今日は真剣だ。何処に植えるかについて重要だったからではなく、スーとマギが発見した魔素溜まりをマナがあっさりと吸収して消滅させたが、そのままそこに植えると思ったらマナが周りを調べ始めたのだ。

 一緒に付いてきたナナハルが不思議な視線を送る。


「あっさり消滅させたと思ったら、なにをしているのか分からんのう。」


 諦めて太郎に視線を向けると、二人の兎獣人とのんびりしている太郎が居る。

 ナナハルは子供達の母親ではあるが、ククルとルルクにとっては母親代わりだ。他の兎獣人たちが安定しているのと、代わりの監視役を置いてきた事で、久しぶりに父親にべったりしているが、それを叱る者はいない。邪魔もしない。


「綺麗なお花があるねー。」

「摘んでいい?」

「いいよ。」


 花を集めて束にすると俺に渡してくる。二人はどう見ても肉体的に大人の女性であるが、性格はまだまだ子供だ。でも、二人にとっての太郎はただの父親ではなく、母親と同じように性の対象として見ている。純粋な兎獣人にとっては特に異常ではなく、小さな村で少数で生活していれば必然でもあるのだった。特に太郎の子供は優秀で、ナナハルもビックリするほど成長している。

 それでも、今はただの子供だった。太郎はそう思い込む事で心を保っていた。

 ナナミ、ナナヨ、ナナコ、ハルカ、ハルミの5人も太郎の周りに座って楽しそうにしているし、ハルオ、ハルマ、タイチ、ジロウ、ミツギの5人はマナ達とウロウロしている。エカテリーナは今回もお留守番だが、一緒に行っても迷惑をかけてしまうと言って自ら辞退していた。

 スーとマギが戻ってきて、周辺に魔物が居ない事を告げると、ナナハルに問われた。


「わらわが感知できぬ魔物でもおるのか?」

「世界樹様の話だと、湧いてくるのか集まってくるのか分からないそうですー。」

「ああ、そういう事か。」


 ナナハルが納得しているが俺には分からない。

 どうやら原因を調べてるいのには違いないが、魔素が一か所に集まる理由が分からないそうだ。魔素は何処にでも存在しているが、一箇所に集まるには、その中心に何かが有るはず・・・。


「核となるモノが有れば、探すのも楽じゃな。」


 マナの叫び声が聞こえる。

 悲鳴ではない。


「やっと見つけたー・・・。小さすぎるのよ・・・。」

「どれですー?」

「これコレ。」


 マナが指をさしたがスーにもマギにも解らない。

 ポチもさっぱりだ。


「ほう・・・コレがそうか。」


 ナナハルは解ったようで、マナと何やらよく分からない話をし始めた。


「パパー、お腹空いたー。」

「植えるかどうか訊いてきて。」


 子供が駆けて行くと、マナがスカートをたくし上げてポトッと出した。

 そういう出し方やめてくれないかな・・・。


「このコアを世界樹からだに埋めたら吸収しやすく成るんじゃないかな?」

「じゃのぅ・・・。いや、そんな事ができるのか?」

「わかんない!」


 子供達が集まってマナを手伝い、植樹はモノの数分で終わった。コアは世界樹の中に取り込まれたようだが、特に変化もない。


「そんな直ぐには集まらないというか、魔石みたいに固形化しないまま周囲のマナを吸収するから、影響というか、環境の変化が激しいのね。」

「異形の魔物が生まれる原因か・・・。」


 魔物の存在というモノについて考える。

 それは人々の認識によって魔物と呼ばれているだけで、実際の魔物とは違う。ケルベロスやエルフだって、見る人によっては魔物なのだから。


「恐怖を与える魔物じゃなくて、恐怖に怯える魔物かな。」

「怯える?」

「なるほど、恐怖に打ち勝つ為に戦っている精神的な存在に肉体を与え、自分以外の存在を知った時、恐怖の存在を排除しない限り、打ち勝つ事は出来ない。」

「ただの破壊じゃん。」

「恐怖に勝つ為に、強い力を手に入れ、更に強い敵が現れればそれを超える強い力を得る為に破壊を繰り返していく。」

「魔素とはそんなに恐ろしいものであったか。」

「それを魔力としてコントロールできてなかったら、何回滅亡したんだろうね?」

「負のエネルギーが存在しないと正のエネルギーは得られない。魔法を扱えば分かる事じゃが、ココまで強い負の魔素が自然発生しているとなると、天使どもはしっかり仕事をしていたんじゃな。」


 そこで世界樹の能力となる訳だが、マナは今回の様に直接触れない限り吸収する事は出来ない。世界中に自然発生する魔素溜まりを抑える事は不可能だ。


「波動が出て遠ざける事は出来てたんだろ?」

「波動なら今も出てるはずなんだけど、弱いとダメなのかな?」


 現在は答えの無い疑問で、様子を見る事しかできない。太郎が世界樹にとっての美味しい泥水をかけると少し成長する。


「こんな小さなコアが世界中の至る所に存在するって事でいいのかな?」

「しかも移動するから、見付けるのはかなり困難ね。世界中の木が世界樹になれば解決しそうだけど。」

「なかなか無茶な事を言うのぅ。」

「逆に吸い寄せるようになったら世界樹がダメにならない?」


 マナが吃驚して太郎を見詰める。

 数回瞬きしたあとに、笑顔になったのだが、汗が滲み出てきた。


「マナって汗なんか出たの?」

「むりむりむりむりむりむりむり・・・。」


 小さな小さなコアがぽろっと植えた世界樹の苗から出てきた。


「負のエネルギーが凄すぎて無理だったわ。」


 マナがそのコアを拾い上げると握り潰す。


「壊すしかない・・・か。」

「良い案だと思ったんだけどなー。」


 スーが袋から大きなレジャーシートを取り出して子供達を集めている。


「発見次第壊さないと、また魔素溜まりを作ってしまう原因になるんだけど、このコアって世界樹と真逆の性能を持っているわ。」

「負の波動を出しているって認識でいい?」


 マナが頷いた。


「って事はマナの波動で安全地帯を作っておいて、負のマナに溢れた場所を定期的に破壊、それが無理なら魔素を減らす何かをしなきゃならないって事になるんだけど。」

「天使の奴らがどうやって魔素溜まりを消滅させておるかは知らんが、かなり重要な存在じゃったの。見様見真似で魔素溜まりを縮小するぐらいならわらわでも出来るが・・・。」

「根本的な解決は永遠に不可能って事になるんだけど、その辺どうなの?」

「正と負が無くなって中庸に成る事はもう無理ね。なにしろ、私がこの世界に来た時には負の魔素に溢れてたはずだから。」


 世界樹がこの世界に初めて来たのはだいたい85000年前になる。

 正と負の存在は多くの人に知られている訳ではなく、一部で利用される事があるくらいで、これが世界の滅亡と繋がると考える人は存在しないだろう。


「たろーさーん、早くこっち来ないとなくなっちゃいますよー?」


 スーの声で考えが止まる。

 止まってくれて助かったと思った太郎が、珍しくマナを抱き上げて子供達の方へ向かった。何故か、凄く寂しくなった太郎は、ナナハルではなく、マナを選んでいて、それに気が付いたナナハルは少し不満だった。





 無くなるとは思えないほどの大量のパンが有り、肉やソーセージ、サラダにバターにジャム。調味料も忘れてはいない。さらに、ポチが満足できるくらいのカエル肉もある。

 BBQのセットは太郎が出したが、設置は子供でも出来るくらい簡単なので、準備はすぐに済んだ。

 楽しそうに焼いている肉は、父親と母親の喜ぶ姿が見たいのか、子供達が競うように焼いていて、ナナハルの目の前にも焼けた肉が山積みになっていた。

 今日に限っては怒り方も優しく、焼いたのだからちゃんと食べる事も教え、子供達と一緒に食べ始めた。

 マナが残ったモノを皿ごと食べてしまうので、余る事は無くお腹いっぱいになった子供達は、ポチをベッド代わりにして昼寝を始めた。

 それを優しい目で見詰めるのは母親である。


「こんな平和な気分は久しぶりじゃ。」


 スーは太郎の用意した水で洗いものをしていて、マナもそれを手伝っている。それを無言で眺めていたが、急な寒気が来る。


「どうしたの・・・じゃっ?!」


 太郎は意味も分からず哀しみに襲われていた。

 恐怖ではなく、絶望に。

 涙が止まらない。


「わからない・・・けど・・・たまに成るんだ・・・。」

「原因は解っておるのか?」


 太郎の返答はなく、嗚咽を漏らす。

 ガタガタと体を震わせる様子は、ただ心配になるだけではなく、太郎がこのまま存在を消してしまうような錯覚に囚われる。

 抱き寄せて全身で包むと、こんな弱々しい姿を見るのが初めてのナナハルは、自分でも珍しく、助けを求めるように視線を動かした。


「良いよ、そうしてあげて。」


 マナがそう言うと、ナナハルにも分からない悲しみが溢れる。


「おぬしはこんなものを抱えておったんじゃな・・・。」

「そうよー、スゴイデショ?」

「世界樹には敵わん事が解った。」


 ナナハルはマナに頭を撫でられると、強烈な睡魔に襲われ、太郎を抱きしめたまま深い眠りに落ちた。


「・・・私達っていつ帰れるんですか?」

「しらな~い。」






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