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第322話 志を同じく・・・?

 リテルテ公は今日も不機嫌だった。

理由は簡単だ。

戦果を上げていないからである。


「エッセン伯領で採れた作物です。」


 それでも不機嫌が消えたのは、エッセン伯領の作物は良質で、肉もワインも高級品の殆どはエッセン伯領で作られているからだ。今回は特権によって接収したので金を支払う必要はなく、特に高級品が送られてきたことで、フォー・リーの下がりっぱなしの評価も多少は回復したようだった。


「暫く楽しめそうだな。」


 コックに命じて今夜はパーティを開く事にし、戦争を主導する国の国王には見えない。最前線からの報告で裏切り者の候補に名が挙がっているのがエッセン伯だったとしても、興味が無いのである。

 何しろ負けると思っていないのだから。




 こちらは苦労して次の戦いに挑む準備を始めたフォー・リーは、裏切り者はそれなりに存在していると考えていたが、明らかな敵対行為に出るとは考えていなかった。それはリテルテ公の国力と軍事力に勝てるはずもなく、最終的にゲリラ戦になるだろうと予想していたのである。

 戦力に差が有るのだから、正攻法で戦うとは思えず、最初の戦いでも敵の城の見える所まで進撃していて、力圧しで勝つ予定だったのだ。

 そもそも、負けるなんて予定にない。


「予定より日数が掛かったが、今度は大丈夫だよな?」


 などと、不安の所為で呟いていて、その声を部下に聞かれてしまっている。


「指揮官。そろそろ進撃を開始しますか?」

「そうしよう。」


 不安を投げ棄てるような態度を見せ、進撃を開始したのだが、この頃、既にオリビア達は手紙の差出人と合流していて、リア・ロッテ・エッセンとミシェル・ボビンズは驚きを飛び越えて地面におでこを何度も擦り付けたのだ。


「エルフの始祖が存在しているなんて知らなかった。」





 オリビアが苦笑いしたのは、このエルフの始祖はそこまで横柄な態度を見せず、最初はオリビアに付き従う部下程度にしか見られていなかったのである。

 更に、元魔王として有名なダンダイルも姿を見せ、表情が歪んでいた。


「私とこのトヒラは見ているだけで手は出さない。」


 いつも以上に直立不動で部下らしさを見せるトヒラは、魔王国の将軍である身分を証明するようなモノは一切所持しておらず、見た目は一般冒険者と変わらない服装をしている。そしてもうひとつ。


「この国だけではないが、監視させてもらっている。」


 監視と言われるとスパイを疑うのが普通だろう。

 周囲を見渡すものが幾人かいるようなので説明を続ける。


「天使が監視している。」


 天使というと、エルフ達にもあまり良いイメージが無い。

 それ以前にあまり会った人はいないようだ。

 呼び寄せる訳にもいかないので、これは説明だけで済ませる。

 もちろん参戦しないし手伝いもしない。


「それで、お二人はどうして来たのです?」

「過去のエルフ国とは交流が殆ど無かったからな、可能なら敵対する事無く友誼を結びたいと考えている。」


 エルフはその高潔さというより、傲慢さの方が有名で、他種族に嫌われている。純血主義も有って、他種族を見下す風潮があるのだ。


「国交では無いのですか?」

「権限が無い。」


 公式に交渉するのでは無いので確約も出来ないが、友達になら成れるとの意見は、特に奇をてらっている訳ではない。


「戦争中なのに?」

「勝っても負けても安定した関係が続けられると予想してのことだ。もちろん、勝ってくれるのが一番良いが、援助は期待しないでもらいたい。」


 ダンダイルの考えとしては、負けた方が関係を作りやすいが、その後もエルフ国は安定する事無く争いは続く事になる。勝った時もエルフ国と魔王国という国交としての関係を作らず、人として交流したいと考えていて、先ずはエルフのイメージの悪さを払拭するところから始めなければならない。

 そもそも、鈴木太郎と出会わなければこの考えすら生まれる事は無かったと、ダンダイルは思っていて、それが良かったのかどうか判断されるのは今後数百年は掛かるだろう。魔物も人も、良い魔物も居れば悪い人も居る。当り前の事だが、それを当たり前と考えるには長く生きた経験が邪魔をしていた。


「敵が来たらみんな吹飛ばせばいいのよ。」

「ふ、吹飛ばすのですか?」

「太郎ちゃんなら可能よね。」

「そうですけど、期待はダメですよ。」

「わかってるわよぉ。」


 この過激な人が本当にエルフの始祖なのかという疑問よりも、みんな吹飛ばすという発想が理解できない。

 ・・・可能な人が居るの?


「リテルテの軍が数日後には再び攻めてくるので、籠城してゴーレムによる防御に徹底しようと考えていたのですが・・・。」

「オリビアとトーマスで100人ぐらい相手に出来るわよね?」

「まあ・・・そのくらいでしたら。」


 銀髪の志士は一人で100人は相手にしても勝つと言われていた時代が有った。もちろん過大広告の結果だろうが、正道騎士団よりも強く、反乱と裏切りが無ければ、銀髪の志士だけで反乱を収める事も可能だっただろう。


「正道騎士団も強いと言われていますがそれ以上なのは事実だったんですね・・・。」

「直接戦った事は無いので知らないな。」


 ダンダイルとトヒラはエルフ達の会話に口を挟む事は無く、その後の戦術会議についても黙って見ていた。一人で約50人を相手に出来る者が30名も居るとなれば、それだけで自軍の一個大隊に匹敵する戦力である。

 計画は大幅に変更された。





「どういう事だ、なんだこれは?!」

「あんな化け物が居るなんて聞いてませんよ!」

「おれだって知らんわ!」


 リテルテ軍の兵士達は、文字通り吹飛ばされていた。

 それも一度に数十人が吹飛ばされて出来た空間に、とてつもなく強いモノが数十人突撃してくる。

 近付く前に吹飛ばされていて、何も出来ない。

 左右からはゴーレムの集団が数百体現れ、広い草原で数にモノを言わせて有利に戦う筈だったのに、左右の移動を制限されて真正面からの敵の攻撃を防げないでいる。


「とんでもない魔法使いが居ても、いつかは魔力も尽きる!」


 そう叫んで前線で戦っていた隊長は吹飛ばされ、じわじわと後退していた。


「まだポーションあるの?」

「たくさん作りましたんでまだあります。」

「あの村ではこのポーションも水と同じね。」

「そんな事は無いですが・・・まあ、このくらいの量でしたら一日で作れますね。」


 ポーションと言っているが最高級のポーションで、町で一介の冒険者が買えるような代物ではない。魔力が尽きる前にポーションで回復し、次々と魔法を放つ。

 これをたった一人の魔法によるものだと分かった時、リテルテ軍の精神と、もともと低かった士気は低迷した。


「何で勝てる戦争で負けなきゃならねぇ?!」

「いやだ、俺は逃げるぞ!」

「おい、待てお前ら!」


 上官の命令など既に耳に届かない。

 戦況を見ていたフォー・リーはただ歯ぎしりするだけで、どうにかその場に留まっていたが、崩壊する自軍を見ると、これ以上の被害を抑える為に後退を指示した。

 その後にまだ戦っていない部隊を投入しようと考えたが、士気が低すぎて指示が届かず、後退する仲間を逃走していると見て、次々と戦場を離脱して行った。

 戦闘はたった2時間で決した。





 監視していた天使はダンダイルとトヒラの姿を確認して降りてきた。事情を知らなかったから、きっと太郎殿が手を回したと思っていたのだが、事情が違った。


「ミツメルです。」

「ニツメルです。」

「ほ、ホントに天使達が・・・?」

「参戦していたんですね?」

「俺とトヒラはなにもしていない。彼女達だ。」


 二人の天使がエルフィンの姿を確認すると納得していた。

 一人居れば十分国が崩壊する戦力である。

 もちろん太郎殿が一番だが。


「あなた達の言う太郎殿が凄く気になるのですが?」


 ミシェルとリアの二人も凄く気になるようで、オリビアが苦笑していた。


「少し前のトーマスもそう思っていただろうな。」

「これなら勝てるのでは?」

「リテルテ公の野望は達成させてはならない。ただそれだけだ。」

「寧ろ直接敵の城を攻めた方が早いのではないですか。」

「本拠地の城なら知ってますよ。」

「我々は飛んで行けないからなあ・・・。」


 天使の二人も飛べないモノを運ぶ気はない。

 戦いに参加するのは任務範囲外だというのも有る。


「天使が味方になってくれるのなら勝ったようなモノですけど。」

「流石に戦いませんよ。監視して報告するだけですし。」

「それよりもあんなにあっさり勝ってしまうと激高して敵が全力で攻めて来るんじゃない?」


 ニツメルの指摘はもっともだと思ったが、先ず、それを支える食糧が無い。

 資金が豊富でも、生産力が乏しく、配下の領地からの供給が無くなれば、金もガラクタと変わらない。どんなに金を出されても自分の命の方が惜しいのである。


「ゴリテアと比べればたいしたことないし、城を破壊して終わらせても良いのだけど?リテルテなんて奴がいなくなれば戦争も終わるでしょう?」

「喜ぶ者は確かに多いでしょうけど、自分の地位と命欲しさに無駄な争いが起きて余計に混乱しそうな気がします。」


 つまりは、リテルテ公の配下に居た者達がリテルテ公さえいなくなれば立場を簡単に変える事が予想できるが、だからといって味方になるとは限らず、領土が広い為に統制は届かず、結果的に国としての機能は果たせなくなり、小規模な争いが頻発する無法地帯になりかねないのだ。


「面倒ですけど、ここはじっくりと敵を撃ち減らし、相手の心を折っておくのも必要と思います。正道騎士団も協力はしても我々に従う事は無さそうですし。」

「ん~んっ・・・面倒な話ねぇ・・・。」

「もともとエルフ国を治めていたのではないのですか?」

「あんな面倒なのやる気ないわよ。村でのんびりしてる方が楽しいし。」


 オリビアが苦笑すると、トーマスは困惑した。

 達観しているというより、諦めてるのとも違う、ただ飽きているのだから。


「それにしても強過ぎませんか、昔のエルフってこんなに強かったんですか?」

「戦うしかなかったから嫌でも強くなっただけだ。寧ろこんなに弱くなっている方が心配する。村に居ると自分が強いなんて微塵も思えないしな。」

「どんな村なんですか、それは。」

「村の話で思い出しましたが、魔素溜まりを幾つか確認してます。」

「魔力溜まりもあちこちで発生しているので、凶悪な魔物の出現の可能性も十分に有ります。」


 村の話で何で魔素溜まりが?


「それはそちらの仕事だろう?」

「魔力溜まりは誰かが意図的に作っている可能性も有るので二人だけで行くのは危険なのよ。」

「ミカエルがいるじゃない。」

「そうですね、じゃあ私達は報告に一度帰ります。代わりの監視役もそろそろ来る頃なので。」

「あ~、じゃあ今度来るときにポーションとパンを持ってきてくれない?」


 ぱん?


「良いですよ、お金さえ貰えれば。」


 天使を配達人扱い?!


「どうしたんだ?」

「いや、ちょっと常識が崩壊しただけです。」

「それにしてもポーションは解りますけど、パンは何故?」

「だって戦地の飯って不味いじゃないの。」


 ・・・当り前では?


「みんなパン作るの上手くなりましたよね。」

「村の自慢のパンですもんね。」


 ミシェルとリアの二人は、彼女達の会話の意味が理解できなかった。

 戦争ではなく、まるでピクニックにでも来たのと変わらない会話なのだから・・・。







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