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第319話 開戦

 天使とカラーの監視部隊が編成されてから暫く経過したある日、大きな動きがあった。何隻もの船が移動を開始し、沢山の人が移動した事を確認したのだ。それと同時に大量の食糧も運ばれ、始まる事が予想された。


「こんな時に自分の動かせる味方がいないとは・・・。」


 トヒラががっくりと肩を落としているのをダンダイルが慰めていて、お婆さん姿のエルフィンとオリビアとトーマスが相談に乗っている。

 その相談の内容は、誰が勝つのか?

 というより、誰が勝つのが良いのか?

 という事だ。


「一番有力なのがリテルテ公ですね。情報からしても余裕で勝つでしょうが・・・。」

「正道騎士団に残られると少し困るな。」

「貧乏貴族が勝ち残るのが一番良いのでしょうけど・・・。」


 少ない情報と記憶を巡らせて、三人が話し合っている。

 魔王国としては敵にならないのなら誰が勝っても良いのだが、ワンゴに利用されて傀儡国家になっても困る。そうでなくともワンゴの部下がどこに居るのか分からないので、こちらの情報が筒抜けではないかという疑惑もある。


「知られて困るような情報と言えば魔女関係とドラゴン関係だが、世界樹様が居るおかげで注目されていないからな。」

「魔女と関わりたい人なんてなかなかいないですからね。ドラゴンなんて特に。」

「正確にはハーフドラゴンだけど、彼女達も知られたいワケじゃないでしょう?」


 最近のフーリンは隠しているような感じはしない。

 移動にはドラゴン姿だし、太郎を叱る時のオーラを隠そうともしない。

 もう一人のエンカの方は、完全に太郎に頼る気満々で、生活能力はあったはずなのに、今ではだらけた生活をしている。孤児達にひそかな人気があるというのは、清楚感たっぷりのおねーさんで、うどんとは違った優しさが有るらしい。


「まさか、ドラゴンが来たりしませんよね?」


 ココで生活するようになったトヒラは、毎日マギと一緒にスーの指導で訓練をしていて、ピュールとも試合をしたが、手加減された上に一太刀も当てられず、かなり凹んでいた。ピュールの方もスーと何度もやり合っているらしく、腕を上げていたのだ。


「グレッグと良い勝負になるくらいじゃないとまだまだですねー。」


 と、スーに言われてプライドも粉々である。

 戦闘能力としては将軍の中でも上位だったのに、この村に居ると自分の無力さで毎日枕を濡らしているのだ。

 その所為か、マギとは仲が良くなり、デュラハーンのファリスが来ると、この三人で仲良く筋力トレーニングをしている。

 当り前だが、この二人なら同時に相手をしても余裕で勝てるが、全く嬉しくない。


「そんなにフットワークが軽いドラゴンなんてピュールくらいじゃない?」

「軽く来られても困る。」


 ダンダイルがそう言うと、突然ピュールがやってきて、血相を変えているのだから、嫌な予感しかしない。

 扉を開く時に壊すのはドラゴンの流儀か?


「おい、太郎はいるか?!」

「畑に居るが・・・何があったのだ?」

「ファングールが来るんだよ!」


 誰の名前かなんて、ココで知っている者はおらず、慌てて出て良くピュールの背中を見詰めながら予想する。


「まさかドラゴン・・・?」





 マナと子供達で、畑で収穫をしている。収穫した穀物はエルフ達が大きな籠に入れて次々と運んで行く。

 そんな中、ナナハルが一人空を睨みつけていて、マナが急に太郎の頭を叩いた。


「ん?」

「なんかヤバいのが来るわ!」

「え?」

「おい、太郎!」

「なんだ、ピュールじゃないか。」

「そっちではないぞ。」

「え?」

「あっち!」


 マナが空を指さすと、太郎はその方向を見るが、全く見えない。


「おとーさん、なんかくるよ。」


 子供達の視力が凄い。


「お、おおお・・・?!」

「お前、なんで喜んでるんだ?」

「だってドラゴンってかっこいいじゃん・・・。」

「お前なあ・・・。」


 カッコいいと言われて少し照れているピュールは、ナナハルに頭を叩かれている。


「そんな事より説明せい。」

「ああ、あれはエンカの父親だ。」

「へーっ。」

「あのな、無茶苦茶強いんだぞ、こんな村簡単に・・・滅ばないか。」


 勝手に解決しないでくれないかな。

 って、父親という事は純血のドラゴンなんだ・・・。


「という事はあやつの問題じゃな。」

「呼ばなくても来るでしょ。」


 案の定やって来たが、空を確認すると太郎に飛び付いてきた。


「たたっ、たたたたったたた・・・っ。」


 助けて欲しそうだな。

 どうしよう?


「どうせ太郎のところ来るわよ、あいつ。」

「パパ、大丈夫?」

「いきなり炎吐いてくるんじゃないなら良いけど。」


 流石にそれは無いようで、太郎の視力でもはっきり分かるぐらいまで来ると、人の姿になった。何とも渋いおっさんである。

 子供達がナナハルと俺と半々ずつ分かれて後ろに回ると、エンカが子供達に押し出された事で、おっさんがエンカに歩み寄る。

 エルフ達は太郎が居る事で多少は安心して作業を進め、籠を持って離れて行った。その後に報告に行く者達が走りだしている。

 少し遅れてポチが慌てた様子でやって来たが、ドラゴンが傍に居る所為で太郎に近付けず、ナナハルの方へさみしそうに寄って行って、子供達に慰められている。


「こんな所に居たとはな。」


 威圧感が凄く、周囲の草花の元気がなくなるように萎れていく。

 マナが対抗するように草花を元気にしているが、そのマナの頭を太郎が撫でる。


「お前は我が一族の恥だ。行方不明であれば見逃しておったが、生きているのが分かったのなら、死ぬか?」

「い、いやよ。」


 ちょっと、なんで俺に抱き付くの?

 視線がこちらに向いて、凄い威圧感だ。

 子供達が震えている。

 ナナハルが腕を組んで微動だにしないのは、耐えているからだろうと思う。


「おぬしは何者だ?」

「私の未来の夫よ!」

「違います。」


 とんでもない事を言われたのではっきりと答えると、おっさんは驚いた表情をする。

 それ以前に周りからの視線は凄いし、嫁にする気は有りません。

 アリマセン!


「普人か。」

「で、何の用ヨ?」


 マナに怖いモノなんて無いようだ。


「お前達に用はない。有るのはそこのバカ娘だ。」


 バカって言う人多くない?

 人じゃないのかもしれないけども。


「い、いやよ。」

「ココで勝手に殺し合いして欲しくないんだけど、他でやってくれないかな。」


 エンカが「ちょっと、嘘でしよ?!」って表情をしている。


「いくらハーフとはいえ、人に懐くとはなあ・・・。」

「あら、貴方だってそうじゃない。」


 頭上から声がして、ふんわり降って来たのはフーリンさんだ。

 助かる!


「また小娘か。」


 フーリンさんを小娘って言うと、この人幾つなんだろう・・・?


「気が付いてて、私が来るのを待っていたのでしょう?」

「ま、まあな。」

「太郎の魔力の所為で気が付いてなかったくせに。」


 そうなんだ?

 もちろん、俺も気が付いてませんが。

 後ろを見るとナナハルは気が付いていたようだ。

 あれ?

 皆が遠くから眺めているだけでこっちに来ない。

 来てくれないのかな。

 ダンダイルさんが来ないんだから、そういう事なんだろう。


「おい、そこの小僧。」


 マナにペチッて叩かれた。

 俺?

 小僧って言われるの久しぶりだなあ。


「なんです?」

「お前は何のつもりでここに居るんだ?」

「ココは俺の畑で、住人ですけど。」

「そういう意味ではない。」


 太郎は理解してそう答えたのだ。

 溜息を吐く。


「解ってますよ、ドラゴンの話し合いに口を挟むなって言いたいんでしょう?」

「解っているのなら邪魔をするでない。」


 威圧感が漂って来るが、太郎は平然としていて、そよ風でも浴びているかのような涼しげな表情が更に気に食わない。

 先ずは口頭で脅してくるあたり、話し合いが可能な方なのだろう。

 良くいえば優しいのだ。


「喧嘩するなら他所でやって貰えます?」


 再び威圧感が漂い、フーリンとエンカがその場でガチガチに震えている。

 振り返ると、そこには別人のように見える太郎が、ウンダンヌとシルヴァニードを出現させていた。

 二体の精霊が一人に従っているなど見た事が無い。そもそも、ドラゴンの中でも二体を従えた者は存在しないのだ。


「化け物か?!」

「普人です。」


 こんな普人・・・いや、過去に存在したかもしれないが、知る限りでは初めてだ。

 身体がウズウズする。

 このままでは勝てる気がしないからだ。


「仕方ない、本気を見せてやろう・・・。」


 太郎の目の前で姿が変化していく・・・。


「畑が壊れるんで止めてください。」


 変化が止まった。

 中途半端に。

 とてつもない威圧感に、純血のドラゴンが怯えたのだ。

 信じられない自身の震えに、太郎を睨む事しか出来ない。


「な、なんだ・・・?」

「戦わなければ良いだけの事なんです。」

「太郎様、抑えつけますか?」

「できるの?」

「主ちゃんの魔力なら、よゆーよゆー。」


 変化が強制的に戻され、人の姿になると、立っているだけで動けなくなる。純血のドラゴンを拘束するだけの魔力を放ちつつ、太郎は威圧を消した。


「とりあえず、帰って貰って良いですか?」


 眼力で太郎を威圧しても、既に効果はない。戦う前から負けているのだから。だが、簡単に負けを認めてしまっても他のドラゴンの不興を買ってしまう。彼は純血のドラゴンでありながら普人を愛してしまった事で、一時的ではあるが、ドラゴン達から嫌われ、身を遠くに置く事になったのだ。昔は話し好きの優しいドラゴンだった事など、フーリンや娘のエンカですら知らない。

 そういう意味では話しが好きなエンカは正しく血を引いていると言えるだろう。


「良いか、これだけは言っておく。」

「もったいぶらないで言いなさいよ。」


 マナさん強いですね。

 でも、俺の頭叩く必要ないよね?


「必ずドラゴンが大軍を率いてここに来るぞ。世界樹は危険だ。」

「だいたい知ってます。」

「・・・そうか、世界樹が存在しているくらいだし、わざわざ言う必要もないか。」


 力の抜ける感じがしたので太郎が精霊を引っ込めると、おっさんは緊張をほぐすように息を吐き出した。そして娘をもう一度睨むが、その瞳には迫力がない。


「どうせ、決着付けなきゃいけないから、あんたが伝えてくれても良いけどね。」

「たかが植物のくせに生意気な奴だな。」

「だったら太郎と勝負する?」


 勝手に話を進めないで欲しいなあ・・・。


「・・・お前はその力を持って何をするつもりなんだ?」

「何もしないよ。」


 おっさんは吃驚している。

 特に驚くような事は言っていないつもりだけど、エンカも驚いてる。


「それを信じる者はドラゴンにはいないだろうな・・・。」

「何かするつもりだったら攻撃してると思うけど?」

「・・・ハハ・・・普人程度が言うではないか・・・。」


 もう戦う気力は無くなっていて、何かに諦めたかのような、残念そうだが、どこか優しさを感じる笑みを浮かべた。

 そして何も言わずに飛び去ると、上空でドラゴンの姿に変化し、暫く留まっていたかとおもうと、どこかに向かって飛んで行った。

 ずっと太郎にしがみ付いていたエンカは、ナナハルによって引きはがされてフーリンに渡されるのを、されるがままに受け入れていた。 

 遠くで眺めていただけのダンダイル達が事情を聴こうと歩み寄って来ると、ドラゴンが去って行った方向から天使達がカラーを連れて降ってきた。

 太郎ではなく、ダンダイル達の方に向かって降り立つと、叫ぶような口調で報告した。


「大変です、戦闘が開始されました!」






※追記


■:ファングール


 エンカの父親

 純血のドラゴンで普人の女性に恋をした

 ドラゴンの中ではヒト寄りのほうではあるが

 子供が生まれてからはその事を隠していたがすぐにバレた

 実は話し好き


■:オムニ


 エンカの母

 本当にただの普人

 ドラゴンの子を産んだ所為で娘と一緒に追放された


■:エンカ


 ハーフドラゴン

 今でも死んだ母を慕っている

 「ふ~ん」が口癖

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