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第29話 遭遇

 道は更に歩き難くなり、靴を履いていても足の裏が痛い。舗装のされていない砂利道を歩くのは久しぶりだ。それはスーも同じのようで足の裏を気にしている。


「他に道が無いし、元々、旅人が通る道じゃないですしねー。」


 スーの言う通り、町を出発してから擦れ違う人は無い。マナが魔物の気配を感じているが、近くに寄ってこないので無視している。


「マナはその探知能力が常に発動しているわけじゃないよな?」

「基本的に使う事の無い能力だったから。」

「相手の強さとか魔物の種類とかは分からないか?」

「生命力の異常に強いやつならマナの流れがちょっと乱れるからわかるかな。魔物の種類までは分からないけど。」

「近くにどのくらいいるか分かる?」

「数?・・・んー数えきれないくらい何かがいるわね。というか、鳥が多いから当り前だと思うけど。それに、ここはちょっとマナが弱いかなー。」

「ああ、自然の力が勝っているって事?」

「そうそう。こればっかりはしょうがない事なのよねー」


 ともかく、突然襲われる心配が無ければ、ただのピクニックと変わらない。視界の悪さの所為で景色を楽しむことも無いので、ただ歩くだけだ。時間が経つと少し薄暗くなってきた。修行のおかげて簡単には疲れにくくなったが、地味に緩やかな上り坂が続くと、流石に疲れてくる。疲れていないのはマナだけだ。

 更に進むと立て看板が有った。近くに農村が有るらしいが、目的地へ行くのには寄り道になってしまうので今回は諦めた。一気に山を登ると視界が開ける。


「なにこれすごーい。」


 マナが感嘆を漏らす。すごい。絶景だ。眼下に広がる景色の中には小さくなった王都が見える。他にもいくつか点在している町や村が見え、川の流れも、雲の流れも、よく見える。それに、大きな鳥が・・・ちょっと大きすぎる何かが飛んでいる。


「あ・・・あれドラゴン。」


 そんなに簡単に発見されてしまうモノなのか。


「流石に遠すぎて向こうは気が付いていないみたいね。」

「私もここからじゃ何が何だか・・・。」

「こっちに来ないよな?」

「王都の方には飛ばない筈です。フーリン様の話だとドラゴンは独自の領域とかは持っていないんですけど、特定の棲家はいくつか在って、もっと北の方・・・あっちの山の向こうにいるらしいです。」


 スーの指差す方向は連山があり、ここから見ても解るぐらいの雪が見える。そうとう標高が高いという事だ。魔物との遭遇は避けられない事もあるだろうが、流石にドラゴンは避けて通りたい。スーの話ではフーリン以外の竜人族と出会った事が有るとの事だが、特に好戦的ではなかったようだ。戦わなくて済むならその方がいい。


 出会わないと言えば、あれほど多くいた勇者の話は出てこなかった。立ち寄った町の宿屋の酒場で情報収集したが、依頼自体がだいぶ減ったらしい。流石ダンダイルさんだな。とはいえ、勇者の総数も不明だし、存在自体が珍しいこともあって、元々そんなに簡単に会える存在ではない事と、ドラゴンのような巨大な体躯が有る訳でもないから、それほど目立たないらしい。魔王国周辺で勇者が多く現れたことが謎だったのだから。


「勇者もそうなんだけど、魔女も気になるのよね。あいつら何を企んでいるのやら。」


 勇者は目的の邪魔さえしなければ敵対する存在ではないので、脅威と思っていない人もいる。だが魔女は違う。魔女は魔女以外の存在を嫌っている。だから魔女が勇者を影で操っているのではないかと言う噂まで流れている。むろん証拠などは一切ない。


「何か近くにいるぞ。」


 ポチが突然言った言葉にマナが驚く。先ほどとは違って森を抜けた山の中腹辺りを歩く一行が周囲に目を配る。マナが気が付かなかったという事は・・・。


「気配を消せるって事は自然の力に同化してるのね・・・何者かしら?」

「この辺りでそんな事をするって言うとエルフですかねー。」

「エルフの縄張りって事は無いよな?」

「その可能性は否定できないですねー。何しろ殆ど人が通らない道ですし、それなのに意外と道が荒れていないですから。」

「一族の住んでいた場所はまだ先だよね?」

「まだまだずっと先です。その途中にもう一つ農村が有るはずですけど、ダンダイル様の話だと200年くらい前に確認したときは有ったというだけで、その話もダンダイル様が直接見たわけではないみたいですし。」

 

 エルフと出会ったからと言って戦闘になる理由は無いが、相手の方がどういう理由で攻撃してくるかは分からない。警戒心を強めながらしばらく進むと、再び木々が覆い繁るその中へと道は続く。そこへ近づくと、無数の飛来物に襲われた。地面に突き刺さったそれを見ると矢が何本もある。直接狙ってこなかったのは警告だろう。ポチが唸り声を出したが、俺が止めた。俺達の先頭にいるスーの前に出て声を上げる。


「この先に進みたいんだ。通してくれないか。」


 返答は矢が一本飛んできて、俺の足元に刺さる。拒否という意味なのは解るが、直ぐに諦めきれず、視線を森に向けたままスーに確認する。


「ここを通らない道は有るか?」

「あるともないとも言えないですねー。この森に入りさえしなければ襲われないと思いますけど、どう見てもこの森結構大きいですし。」


 山を迂回する事になるとかなりの労力だ。風魔法で飛んでいくのも無理だし。それ以前に他の魔物に発見されて撃ち落される可能性が高そうだ。まだドラゴンに見つけられたくはないしな。


「森の中なら無理矢理通れない事も無いけど。」

「マジで?」

「植物を有効に使えば私達の周囲を草や葉っぱで守らせながら。」


 あの草が一気に伸びるやつか。確かに可能っぽいけど、それだと無駄に敵対関係に成ってしまう。何とかできないモノか。出来れば交渉で何とかしたい。


「森に潜んでるのはエルフだと思うけど、それが8人くらいいるわね。」


 あまり悩んでいる時間が無い・・・訳でもなく、相手が攻撃してこないなら、堂々とここで野営する手段もあるか。敵対心が無いことも強調しておきたい。


「うわー、大胆なこと考えますねー。でも相手を疲れさせるとか、交渉するつもりなら、有効かもしれませんねー。相手が引き上げるはずもないですし。ただし仲間を多く呼び寄せられてしまう危険もありますが。」

「エルフって好戦的なのか?」

「来る者を極端に拒むことは有りますけど、向こうから攻めてくることは殆どありませんね。特に領域を守ることが重要みたいです。ただ、私の個人的意見になりますが、監視がちょっと多い気がします。もしかしたら子供を育てているのかもしれません。」

「昔、エルフの戦争で国が滅んだことも有ったみたいだけど知らないわよね?」

「エルフ同士の戦争なんてあったんですか?」

「私が太郎の世界に行った頃より、500年位前かな。魔女に狙われたのがきっかけだったような話だったけど、最終的には内乱だったから。」

「うへー、歴史でマナ様にはかないませんねー。」


 マナの昔は何年前からなんだろう・・・と、言う疑問は置いといて、エルフは寿命が長い為あまり子供を産まないそうだ。だからこそ子供は子孫繁栄の宝だ。そのエルフが出産や育児を特に大切にするから、他種族との交流を避けるようになる。敵としてではなく子供を守るための行動だから、説得する事も可能なような気はするが。

 それとは別に、もう一つの問題も有った。


「そろそろ夕方も近いですし、森の中を歩くのは危険です。」

「どっちにしてもこの辺りで野宿だよね。」


 森を目の前にして、その手前で簡易コテージを用意する。変な目で見られるのも嫌なので木に隠れたところでコソコソと袋から取り出す。暗くなる前に組み立てると、向こうに見えるように火を(おこ)す。見えないと余計な警戒を生みそうだ。


「あいつら何やってるんだ・・・?」

「飯の準備だろうさ。俺も腹減って来たなあ。」

「何言ってるの、ちゃんと監視しなさい。やっと隠れられる森を見つけたのにまた追い出されるなんて嫌よ。」

「もちろんだ。」

「しかし・・・あれケルベロスだよな?」

「えぇ、あんなのに入られたら・・・。」

「なんか良い匂いがするぞ。」

「・・・誰か交代してくれる奴らを呼んでくるか。」


 向こうとこちらでは温度差がある。それは今を楽しんでいるかどうかという違いだ。ちょっと豪華にして余裕を見せようと思ったけど、スーに睨まれたのでやめた。


「ケチンボー。」

「ケチンボー。」

「ケチンボー。」

「ひ、酷いですよー。私は今後の事も心配してるんですよー?」


 俺が笑う、マナも笑う。ポチもつられるとスーも笑う。俺達にとって敵ではないので、襲われるという事が念頭に全くないわけではないが、相手にとって敵だと思われているのなら、この行動を不思議に思っている事だろう。

 ポチが食事を終えて寝はじめたので、背もたれにすると、背もたれが最初に小声で話しかけてきた。


「奴ら数が増えたぞ。」

「5人くらい来たわね。」

「交代するんでしょうか?」


 俺は無言で火を見つめる。このまま全員で寝るわけにはいかないので・・・いや、本気で寝てみるか。流石にスーに反対された。ポチは寝ているようで本気で眠っていない。少なくとも相手に信用してもらう必要がある。話の通じる相手なら出来る限り戦いたくない。ここからだと暗さもあって、エルフ達の姿は見えないが、かなり警戒されている事が窺える。エルフ達の方から攻撃をしてくる様子はないようなので、余裕があるフリをしておく。正直なところ、力でねじ伏せるのは好みではないが、必要な場合もあるだろう。しかし、なんて言うか、俺ってこんなに自信家だったかなあ?


「明日の朝もこのままだったらどうするの?」

「もう一度話しかけてみるさ。」

「だめだったら?」

「また考えるさ。」


 目的地までの迂回路が分からないのだから、このまま進みたい。スーと今後のルートを確認すると、山が多いのも解る。迂回するのなら早い方がいいが、進めるかどうかすら分からないのだから、正規ルートを目指す方がいいに決まっている。あまり長期化するのも困るが、今はここで耐えるしかないのかな。他に方法が有ればいいのだけど。


 星空の綺麗な夜。どちらにも大きな動きは無い。5人来たことで5人減ったようだが、やはり見張りを交代したのだろう。まだちゃんとしたエルフの姿を見ていないから、見てみたい気もする。よくよく考えればこれが新しい出会いに繋がるかもしれない。これからはもっと沢山の、いろいろな人、いろいろな種族、いろいろな魔物に出会う事になるのだろうから、折角だから楽しみたい。こんにちは、死ね。ってのは辛いし嫌だ。

 さて、どうしたモノかと考えると眠くなった。自分に力と自信を付けるとこうも心に余裕というか、変わるのだろうか。マナの影響も俺をいろんな意味で強くしてくれたと思う。向こうでもいろいろと考えているのだろうか?動きは殆ど無い。袋から薪を出して今夜は寝てしまおう。どうせダメなときはどんなに頑張ったってダメなんだから。






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