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第318話 こちらの事情

 ダンダイルとトヒラが食事にも手を付けず、深刻な表情で、唸っている。忍び込ませたスパイが殺されたとの情報が送られてきていて、これ以上は送る事が出来なくなった。人的余裕もそうだが、スパイには特殊な能力が幾つも必要で、最も重要なのが逃走能力である。情報収集力として、シルバを利用したい気持ちはあるのだが、どうやって頼めばいいのか分からない。


「まだ天使達の協力が有るので、エルフ国の方の情報は手に入るのですが・・・。」

「太郎君が戦争に協力してくれるかどうか・・・。」


 なんで俺が居るの知ってて声を出して言うかな?


「最後の情報は、ワンゴが現れた。です。」

「計画が順調に進んでいる証拠とみるべきだろうか?」


 ワンゴの名を聞いてスーの耳がピクピクする。

 俺の方はというと、トンネル計画が順調に進んでいて、掘削作業もあと少しというところだ。開通した後にドラゴンの炎でトンネル内部を焼いてもらい、補強工事をする。その後にレールを敷設し、魔王国に繋げる。

 とても壮大な計画で、これが完成すれば、魔法袋に頼ることなく、陸路で物資の大量輸送が可能になるのだから、無視できない大事業である。

 過去にも何度か計画はされていたが、ダリスの町での鉱山トロッコ鉄道を最後に、建設計画は止まってしまっている。村の鉱山トロッコをアンサンブル経由でダリス迄繋げられれば・・・・。

 現在、その建設計画はカールが責任者代行をしていて、本来の責任者はリスミル将軍だった。それがダンダイルの管理下で行われているのは、この村の関係性という問題もあるからだが、建設技術よりも必要な鉄鉱石は殆どがこの村の鉱山から得ているのも理由の一つになっている。


「魔除けの結界を全体に張るのは魔石の消費量的に無理よ~?」


 魔除けとなるアイテムは鈴やお札など、何種類か有るが、マリアが設置するのは魔石消費型で、かなり強力だ。トンネル内部に魔物が入り込まないようにするのと、トンネル出入口に警備を配置するのは決定しているが、森や草原をレールに乗って移動するのに外部からの攻撃にどう対処するか、もしくはレールやルートそのものの安全も守らなければならない。


「邪魔される心配がないから建設は容易なんだがな。」

「邪魔?」


 カールの説明では、天使やエルフもこの建設には反対するだろうし、一部の豪商や利権をむさぼる貴族などが参加できない事業を成功されると、利益が減ってしまう。

 理解した太郎は飽きれたが、元の世界でも似たような事件は沢山あった。特に政治家なんて・・・。


「天使は来るし、エルフは住んでるし、他国も今は敵じゃないから関係ないし、キンダース商会も邪魔をする理由は無いだろう。一番は邪魔される前に完成しちゃえばいいんだが。」

「魔法で穴開けたら土も溢れて大変でしたね。」


 風魔法だとなかなか掘り進めなかったので、一気に水魔法で削り取ろうとしたところ、逆流して土と水で溢れたのだ。水は魔力が途切れれば消えるが掘った土は残っていて、魔法が有っても土砂を運び出すになかなか苦労した。トンネルの周囲にトレントの苗を植えて吸い取って貰う事にしようかと考えていると、マリアが自分の魔法袋の中の土地を広げるのに丁度良いからと半分くらい持って行ったが、それでもかなりの量だ。

 全部持って行ってもらっても構わないのに。


「太郎ちゃんじゃないのだから、制御できる量に限界があるのよ~。」


 笑われてしまったが、後日には綺麗に片付けてくれたのでトレントの苗を植える計画は中止した。


「中止しなくても、レールを守るには良いんじゃないの?」

「トレントって強いんだっけ?」

「動けないけど風魔法は使えるから、太郎ちゃんの命令ならやるんじゃない?」

「監視なら我々にお任せをー!」


 どこからともなく声がすると思ったら、真上からカラー達が降ってきた。

 多いな。


「おかげさまで順調に増えてます。」


 鳥の癖にワルジャウ語が上手い。


「今さ、何羽くらいいるの?」

「えーーーっと・・・。」


 分からないが、少なくとも世界樹全体の1割ぐらいがカラーの棲み処らしい。その世界樹は順調に成長していて、ハンハルトからでも僅かに先端が見えるほどだ。


「監視ぐらいなら任せても良いかな。」

「ハイ!危険が危ない時は直ぐに逃げます。」


 なんだそれ・・・。

 それからはフーリンさんとエンカさんに洞窟内部を焼いてもらい、トンネル第一号が完成した。もちろん、レールの敷設はこれからだが、馬車が二台横に並んでも大丈夫なぐらいの広さと高さが有り、崩壊しにくい安全性を考えると、徒歩で移動するのもアリかもしれない。

 ただし、真っ暗だが。


「この子、面白いこと考えるわね?」

「太郎君よ。」

「あ、うん。太郎君。」


 手伝う代わりにエンカさんは自宅をこの村に移築するつもりで、せっかく建てた家を放置するのは忍びないとの事だ。


「掃除には良い娘を紹介するわ。」

「エカテリーナはダメですよ?」

「スーちゃんに決まってるわ。」


 スーの仕事が増えた瞬間である。

 相手がフーリンだったりエンカだったりしては、断れるはずもない。


「次のトンネルの時もお願いします。」

「甘くて冷たいものを宜しくね。」


 取引材料が甘味になったのであるが、工事責任者にとっては楽なので助かる。その甘味を作るのはどうせ太郎殿がやるのだろうと思っているからだ。


「トレントの苗木が沢山あるのなら植えるのは有りじゃないかしら。」

「流石に苗の数が足りないです。」


 とは言いつつも、今は100本ほどのストックがあり、世界樹の苗木も20本ほど有る。増やすだけならトレントの苗木は楽だが、成長は凄く遅い。そこは太郎が栄養を与えたり、マナの能力で成長促進できるので、コツコツと増やしていく方針に変わりはない。むしろトレントの森の中をトロッコが走る事になった方が安全だろう。

 トレントはもう敵じゃないのだ。

 ただし太郎と一部の者に限るが。




 エルフ国の方の監視は、動きさえ解れば良いという事で天使が増員された。この天使達は魔王国から給料が貰えると知って、希望者が増えたらしい。

 みんな収入減で収入源に悩んていたらしいから、助かるとの事。

 トヒラは複雑な表情をしていたが、ダンダイルがなんとかするだろう。天使達は格下の相手からの命令を、例えお金が貰えたからといってホイホイとやるわけではないから、トヒラはこれから訓練を増やされることになり、最低限でスーのレベルくらいに強くなることが条件となった。

 スーがニヤニヤして舌なめずりしているのは何故だろう?

 優秀な部下が減って、活動にも制限が出てきてしまっている為、トヒラは部隊の再編と、部下の育成の為に、この村に仮本部を設置する事になった。


「兵士の数増え過ぎじゃない?」

「いや、トンネル工事やレールの敷設、あとは一部の植林と中継地点や監視塔、やる事は多いですよ。」


 カールと二人で工事の進捗を確認して周っていて、マナがいない代わりに二人の頭や肩には何匹ものカラーが乗っている。邪魔ではないが糞をしないか心配だ。


「カラーも喋れる鳥なだけあって連絡には困りません。まあ、カラーは本来人に懐かない生き物だったはずなんですけどね。」


 ここのカラー達は直ぐ懐いた気がする。

 多分、マナの所為だ。


「そうなの?」

「敵に懐くようなバカはいませんよ。」


 カラーの返答は、敵じゃなければ誰とでも仲良くなれるという意味が込められている。多分。・・・込められているよな?


「確かに見世物にされたり、高値で取引されたり、番だと奴隷より高額な場合も有りましたね。」

「ココだとのびのび生きていけるんで助かります!」


 そこにトヒラがやってきて太郎に挨拶をする。

 何故かスーとマギも一緒だ。


「あの~・・・。」

「え、どしたの?」

「新しくやって来たドラゴンが家を設置してしまって。」


 ソレはわかるけどドコに?


「それが、丁度良い台が有ると言って武舞台の上に・・・。」


 分かった。

 別の土台を用意しておく。


「太郎殿にしか対応が不可能な案件ですね。」

「・・・めんどくさいなあ。」


 村の区画を一部新しくし、結果、太郎の家の隣に設置された。

 公衆浴場の近くは広場になっているからダメだと言った結果だ。

 そして、エンカの家の屋根に沢山のカラーが集まったのは予想通りである。


「この子達、話し相手に丁度良いわ。」


 見た事の無い花を、作ったばかりの庭で植えていて、その花の種をカラーに与えている。何の花だろうかと聞くと、高山でしか咲かない花らしく、名前は知らないとの事。

 こんな世界だから全ての植物に名前があるとも思えないから仕方ないだろう。ただ、カラー達がすごく美味しいというので、沢山育てて種にした。


「この種を食べると凄い元気が出るんですよ。」

「へー・・・。」


 言葉が喋れるし、見た目だけなら可愛い生き物だ。

 何度か雛を見た事が有るが、成長も早いし、そこそこ長生きする。

 死んだカラーがどうなっているのかはいまだに謎だが、特に興味も無いので気にしない事にしている。

 そんなカラーが監視に向いているというのなら、増えて暇をしているカラー達にも出来る仕事があるだろう。


「我々が天使と共に行動して監視すると・・・?」

「けっこう危ないから、無理だと思うなら断っても良いよ。」


 因みに、この提案は天使からで、カラーと仲の良い天使が連れて行こうとしたことが発端だった。


「もちろん付いて行きますとも!」

「よろこんで~!」


 意外な返答だったので驚いていると、もっと意外な事を教えられた。


「実は我々、大昔に天使達と生活していた事がありまして・・・。」


 ちょっと、なんで天使が驚いてるの。


「そーいわれたら、昔にペットにしてた記憶があるわね。」


 リファエルが覚えていて、昔って言うと何年前だよ。


「封印される前だから・・・。」

「寧ろお前らはなんで知ってるんだ?」


 鳥頭だろ。


「仕えた主人を強い順に覚えていて、子々孫々伝えています。」


 因みに、その順位だと一位が俺だそうだ。


「太郎様が一番に決まってるじゃないですか!」

「で、天使は何番目なの?」

「8番目です!」


 リファエルが凄く悲しい目で俺を見詰めてきた事を忘れたいと思う。

 尚、10番目からは覚えてないそうだ。

 9番目はエルフで、マナが2番目。

 魔女は二人しかいないので、マリアが上でマチルダが下らしい。

 確か魔法の袋の中に移住したカラーもいたよね。


「デュラハーンと一緒に生活していますよ!仕えていないのでフラフラしているだけですけど。」

「そういえばあの猫はいつまでこっちに居るの?」


 猫と呼ばれているが、実際は地上最強の生物と謳われたベヒモスの事で、豊穣の神でもあるから、作物の成長が促進されるという効果があるらしい。

 マナやうどんが居るのでその価値が全く分からないのが残念だ。そして猫のようにゴロゴロと過ごしているだけで何もしていない。太郎が座ってのんびりしていると膝に乗って寝ているのだから、たまにマナと場所争いをしている。


「たろうくーん!」


 清楚感の溢れる女性がやって来たが、リファエルでも少しビビるハーフドラゴンである。太郎の方はというと、かなりめんどくさそうな表情だ。

 何故か知らないけど、この人はすぐに泣きそうな表情になるのだ。


「なによ。」

「何の用かな?ってね。」

「エルフの国の事を知りたいならワンゴに聞けばいいじゃないの。」


 どこで話聞いてたのかな、さっきまでいなかったはずだけど。


「それができるのはエンカさんだけじゃないかな・・・。」

「あなたもできそうだけど?」

「しません。」


 周囲から視線を浴びる。

 出来るけどやらないのと、出来ないのでは雲泥の差だ。


「無理です、出来ません。そもそもワンゴ達と戦う事になりますよ。」

「既に負けない戦力が有りそうだけど・・・。」


 エルフは戦いになったら率先して参加するだろうけど、天使はどうかな?

 魔王軍も参加するだろうし・・・。


「あ・・・。」

「なに?」


 二人目のハーフドラゴンで、ココに住む事になったエンカ。

 もしワンゴと戦う事になったら、どっちに付くんだろう?


「まあ、そんな事にはならないと思うから良いか・・・。」

「その為の監視も有りますので。」


 トヒラがもじもじしながらそう言ったのは、エンカの存在が恐ろしいからで、スーはフーリンで慣れているので平気だった。

 マギ?

 スーの腰を抱きながら後ろで隠れてるよ。

 因みにカラーはそれぞれがエンカの肩と天使の肩に乗っていて、エンカの肩に乗っている方がフフンとしている。俺の肩に乗っているカラーはそれを見てフーヤレヤレとしている。

 なんだこれ?







■:エタ・ポック・リスミル


 猫獣人で魔王国の将軍の一人

 工運省軍の代表

 主に人材募集や補給関係の責任者


■:トヒラ・ナオミ


 猫獣人

 ぺったん娘で低身長

 短髪で金髪

 父親が元冒険者でオオシマノ国出身

 魔王国の将軍の一人

 外務省軍の代表

 外交関係で主に国同士の取引や交渉などを行う

 諜報も得意分野で情報局と言うスパイだらけの部署がある


■:カール・チャライドン


 犬獣人

 元冒険者で女大好き

 とある事がきっかけで冒険者をピタリと止める。

 で、何故か軍人になった

 現在は太郎の村で駐屯する部隊の隊長


■:ダンダイル


 約3000年前の9代目の魔王で1500年ほど統治していた

 歴代で一番優秀な魔王として名を残したが、飽きたので引退した

 現在はフリーの将軍のような地位で、トヒラの上司のような役割をしている

 太郎の村での魔王軍の最高責任者を押しつけられている


■:エンカ


 竜人族の女性

 ハーフドラゴン

 フーリンよりも若い


■:フーリン


 竜人族の女性

 ハーフドラゴン

 普段は人の姿で生活している


■:聖天使リファエル


 ミカエルの母兼父

 ゴリテアに取り込まれてしまって同化した

 リファエルの母親がアル・アリエル・シックスターで聖女の子孫

 太郎に助けられてからは良く村に居る


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