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第314話 楽しみは人それぞれ

 ワンゴがエンカのもとで修業を終わらせた頃、三つの自称エルフ国では小競り合いが始まっていた。大規模な戦闘ではなく、領地の確保と、敵兵力の調査が主な理由で、死者が出ない程度で双方が引いていく。

その三つの国に対して、ギンギールを本拠地として豪商が現れた。

豊富な資金と、どこからか持ち込まれる物資は謎に満ちていたが、偽物は一つもなく、堅い商売と、乗せ過ぎない適度な値上げで、確実に資金を増やし、他の商人からの介入を防ぐために商人自体も買収した。

最も警戒されていたキンダース商会は、遠すぎて、現地に商会を建てる前に謎の豪商に先手を打たれ、ギンギールに基盤を築く事が出来ず、早々に撤退した。


「鉄鉱、魔石、食糧・・・それに奴隷まで。あいつはどうやって集めているんだ?」


 まるで魔法のように次々と現れる物資。

 それは、魔法ではなく、魔法袋の中から取り出されたもので、その魔法袋の制作者は作った事を覚えていない。

 無制限に物が入る袋など、世界の均衡を破壊する以外の何物でもないのだから。


「リテルテ公がどこかの商人と手を組んでいる。」

「我々もどこからか資金を集めないと負けてしまうぞ。」

「しかし、負けてしまっては、あんな奴にエルフ国を良いようにされてしまう。」


 そんな彼らのもとにも現れたのだ。


「資金を貸してくれるだけでなく、物資の援助に人員も・・・?」

「他国の傭兵に頼るのも癪だが、負けるのもな・・・。」


 そうなると、頼らざるをえない。

 こうして少しずつ彼等に侵食して行き、半年も経たずに最初の目的を達成していた。元手頼りの無茶な商売もしたが、現在では十分に回収していて、キンダースからも購入して物資と奴隷を取り寄せている。


 それらの事をキンダース商会から直接報告を受けたのではなく、マチルダを経由して、太郎の目の前で情報交換しているのだ。


「キンダースの資金力で負けたのですか?」

「えぇ、ギンギールに運んだ後に、商人ごと買収されて手が出せなくなったと。」

「どこの商人だろう?」

「ギンギールより先に国や街が在ったとしましても、情報収集は難しく・・・。」


 トヒラがションボリしている。

 世界全体を把握する情報網などこの世界に存在しない。魔女の作ったギルドの中にある通信システムも、紙一枚を転送する事しか出来ない。コピーするのではなく、転送してしまうので、元の紙に書かれた文面も併せて、何枚も書かなければならないのだから、ギルド職員は指にタコが出来ているのが普通だった。


「それで、均衡は保たれているのかね?」

「三ヶ国の力関係的にはリテルテが一番なのは変わりませんが、残りの二国が戦闘に関して協力をし、このままだと対リテルテで同盟を結ぶかもしれません。」

「入れ知恵をしてるんだろうね。」

「太郎君は、何故そう思うんだね?」

「可能な限り戦争を長引かせて疲弊したところを狙ってるんだと思います。」


 トヒラがだらしがなく口を開いて太郎を見詰めている。

 そういう可能性も考慮に入れてはいたが、何故、ちょっと聞いただけでそこまで発想できるのか、驚きを隠せないからだ。


「太郎殿は・・・本当は幾つなんです?」

「え、そんなに凄い事言ったつもりはないけどなあ・・・。可能性を指摘しただけだし。」

「太郎君に元老院は不要だな。」

「太郎さんが一人で元老院ですよねー。」

「うむ。」


 太郎は意外な高評価で視線を集めていて、恥ずかしくも有り、困っていた。





 スーとマギが模擬戦闘をしている。

 もうココに来て何回目か分からないが、マギはまだ一度も勝てないらしい。周りの兵士からも応援されているが、あと一歩届かない。

 模擬用の木剣を弾き飛ばされて、マギが両手を床に付けた。


「マギに負けるようでは困りますからねー。」


 スーの目標がワンゴに勝つ事というのは、スーとの付き合いが長い者ならそれなりに知られている。そのスーに天使達が挑むが、これが意外にも良い勝負で、戦績としてはスーの勝率が4割ほど。


「猫獣人に負けるなんて・・・鍛え直さないとな。」


 ミカエルがブツブツと言っているところから他の天使達が逃げていく。エルフ達も戦闘にはかなり自信が有ったが、スーが相手となると腰が引けるらしい。

 タイマンでの強さがこれほどだったとは、太郎もビックリである。

 何となくいつも肝心なところで負けているイメージが有るが、それは相手が悪いだけなのだ。


「スーって強いね。」


 たまたま太郎の傍で観戦していたのがトヒラだったらしく、そのトヒラは挑む魔王軍兵士の半分が負けているのを溜息をついて見ている。


「言いたくは有りませんが、戦力としては将軍級ですよ。」


 天使を相手に引く事も無く挑めるだけでも一般兵士では勝てるはずもない。


「それにしても楽しそうだなあ。」

「太郎君も参加すればいいじゃないか。」


 こちらも観戦しているジェームスの発言だ。


「たまに試したくなる時が有るには有るんだけど・・・。」


 ジェームスが笑顔に。


「ミカエルが目を光らせて見詰めてくるから嫌なんだよなぁ。」


 ジェームスが渋笑に。


「私もやりたいわ。」


 スーの活躍に心を躍らせている女性が。


「スーじゃ相手にならないでしょ?」

「実戦なら負けないけどルールの有る模擬戦闘は、なかなか全力で戦えないのよ。」

「フレアリスさんの場合、全力だと武舞台を壊しちゃいますもんね。」

「そうね。」


 ただ、連戦しているスーはダメージよりも疲労が多く、20人以上を相手にした後に挑むのは勝っても嬉しくはない。そのダメージも全くない訳ではなく、回復魔法の使える天使に治療してもらっている。


「じゃあ、私が相手してあげる。」


 その声は、何故か真上から聞こえた・・・。






 魔力コントロールの強化と基本的魔法力の底上げに成功したワンゴは、翌日に帰る事を告げると、寂しそうに引き留められた。


「どうせ暇なんでしょう?」

「まぁ・・・俺がいなくても部下がやっているから、暇っちゃア暇だが、やりたい事はあるんでな。」

「やりたい事なんて、私には無いから。」

「暇つぶしになるかどうかわからんが、気になるなら世界樹でも見に行けば良いじゃないか。」

「燃やされた世界樹が復活ねぇ・・・、確かに気になる話題だけど、目立つ行動をして狙われるのも嫌だわ。」

「あの村ならたいして目立たないんじゃないかな。」

「なぜかしら?」

「もっと目立つ男がいるからな。本人は至って目立つつもりは無いみたいだが・・・。それが無駄だという事にも気が付いているだろう。」

「確かに世界樹が在るのなら私でも目立たなさそうでしょうけど、フーリンも遊びに来るのでしょう?」

「情報だと、そうらしいな。」


 ワンゴも全てを自分で確認している訳ではなく、世界中に散らばっている部下からの報告によって情報を得ているに過ぎない。しかも、今はその情報すら入ってこないので、過去の情報だ。


「あなた達も居なくなる事だし、久しぶりに遊びに行くのも有りかしらね?」

「それは俺の決める事じゃないな。」

「そうねぇ・・・。」


 下界の話題は殆どがワンゴからのモノで、フーリンも滅多に遊びに来ないから、殆どを万年雪に囲まれた山荘で過ごしている。

 見付けられたり、狙われたりすると面倒なのだ。

 そう、私達のような半端な存在を嫌うドラゴンの一族に・・・。


「フーリンは寂しがり屋だからなあ・・・。」


 それは彼女しか知らない事実かもしれない。


「フーリンと知り合いなのは秘密なのに、そんなに簡単に言ってしまって良いのか?」

「あなたは特別・・・と言う訳でもないわ。ココで隠し事をする意味もないでしょう?あなただって盗賊だし。そのボスだし。」

「そう言われるとそうだなあ。ただ、俺は隠している訳ではないがな。色々と知られてはいるが・・・知られると困るトコロは隠すぞ。」

「あなたはお酒を呑むと喋り過ぎるのがね。」

「気兼ねなく呑める場所は少ないからな。ココだと、ついつい気が緩むんだ。」

「あなたは変な人ねぇ。」

「それは否定できねぇなア。」


 エンカは何かを笑いながら、何かを残念そうに見つめる。

 笑っているのは、自由にあちこちへと旅をするワンゴが羨ましいのと、見詰めているのは、蜂蜜の入っていた瓶だ。

 ワンゴが依頼の品とは別に用意したもので、甘いものを食べる機会の少ないエンカは、その蜂蜜の虜になっていた。


「キラービーの蜂蜜も、その村には有るのよね?」

「あるぜ。住人達ならタダて食べられる。」

「へ~・・・。」


 実際には村の全員が自由に食べられるわけでもなく、ある日突然朝食に振舞われる事が何度が有ったという事だけ。どうやって採っているのかまでは分からない。そして魔王国でも何度か売られていた事が有るくらいだ。

 まさかその店の経営者がフーリンだったという事までは知らない。

 通常の蜂蜜なら他でも売られているし、ハンハルトでなら何時でも買える。しかし、キラービーの蜂蜜となると・・・。


「深窓の令嬢も卒業したらどうだ?」


 ワンゴの話を聞くと、どこかに行きたいと呟くエンカは、ワンゴの話だけでは満足できなくなっている。ワンゴは元々誘い出したくて通っている訳ではなく、この場所を見付けたのも偶然だったが、竜人族というドラゴンと普人のハーフに気に入られた事に気が付いていて、たまに冗談のように外に出る事を促している。


「そうやっていつも私を惑わせるのね。」

「もうココの生活も飽きただろ。」

「・・・。」


 彼女が真面目に考え込んだのでワンゴは言葉を残さずそのまま席を立ち、寝室へと向かった。残された方は暖炉の薪が燃え尽きるまで悩んでいて、何もなければ直ぐ帰れるだけの能力が有るのと、長く住んでいて愛着のある家と母の墓は放置するつもりもない。その決断する頃には夜が明けていた。

 翌朝にワンゴ達を見送り、ワンゴがわざとらしく忘れて行った少し大きめのリュックを寝室で見付けると、そこに着替えだけを詰め込んで家を出た。彼女にとって移動は苦ではなく、目的地もはっきりしていて、今まで抑えてきた好奇心は、時代の変化という流れに巻き込まれていくのだった。







@後書き


ちょっとだけのんびり


ちょっとだけね

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