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第313話 忘れる

 太郎は充実した生活を送り、毎日が楽しかった。

魔素溜まりの問題も太郎には何も出来ないので、天使達の報告を受けるだけである。何でも知りたがると、余計な権限とか権利とかを与えようとするので、それから逃げる為にも、農業生活に従事しているのだ。

農業に一番協力的なのがエルフ達で、兵士達が非協力的なのではなく、言われなければ自分達の仕事を優先するのだから。

 その兵士達の作業が進み、線路の敷設予定地を見て回っている。どうしても村の中心地を通過してしまうのは仕方がないというか、駅とギルドと宿屋と温泉の複合施設を建設しようと太郎が提案して、反対者なしという事で決定したからだ。


「巨大建築って象徴みたいになるね。」

「マナ様が居るんで、あっちの方が目立ちますけどねー。」


 そりゃそうだ。

 あんなでかい木が目にとまらない訳が無い。


「踏切も作らないとね。」

「踏切・・・ですか?」

「決まったところ以外の通過を禁止して、トロッコの通過を妨げないように、近付いたり線路への侵入を禁止するんだ。」

「適当に跨いじゃダメなんですか?」

「この村では禁止するよ。向こうの駅周辺も禁止にしてもらうつもりだけど。」

「魔物だけじゃなく、盗賊などの略奪行為にも対応するという訳ですね。」

「まあ、うん。」


 トヒラは真剣に考えていて、視察での案内もトヒラがやってくれている。

 というか部署が違うのでは?


「情報の精査の一環ですので。」

「魔よけの魔道具をマリアが沢山作ってくれるって言ってたし、あとはレールの生産かなあ・・・。」


 鋳造技術に問題はない。むしろ圧倒的に施設が足りないので、レールに関してはまだ数が足りない。トレントの木を利用しても良いのだが、今はもう不足気味だ。

 何しろトレントはなかなか枯れないのと、まだまだ元の数には程遠いからだ。


「森も畑も、順調に回復しています。」


 なんでトヒラさんが把握してるのかな?

 森は木を伐り過ぎた所為もあって、広場が出来るぐらいになってしまっている。

 植林もしているが、マナが不思議がっているのだ。

 資源の大切さは皆に覚えて欲しいのだ。

 村もこれ以上大きくするつもりもないしな。


「肉の方がとても少なく感じるくらいです。」

「あ~・・・家畜を殖やさないとならないんだよなあ・・・。」

「魔物肉にも限度が有りますし、カエル肉はあまり人気が有りませんから。」


 カレーの具としてはそれなりに人気のあるカエル肉だが、そのまま別の料理に使うにはレシピが足りない。エカテリーナとエルフ達が料理開発を行っているが、進捗はあまり良くないらしい。なにしろ、元のレシピが良すぎて、それを超える事が出来ないとの事。

 無理して超える必要は無いんだけどね。


「カエル肉ってそんなに量産出来てるの?」

「ケルベロス達の大好物らしくて、繁殖環境を拡大しています。」


 トヒラさん詳しいね。


「村の生産力を換算するにスーだけじゃ無理そうでしたので、こちらで協力いたしました。」

「ケルベロス達って、ポチとかチーズ以外に?」

「たまに他のケルベロスが遊びに来ていますが、区別が付きませんので放置されていますね。」


 まぁ・・・良いけどね。

 収穫量なんて毎日変わるものだし、マナが一人居れば国家レベルの食糧難が片付く。

 とんでもない能力だよね。

 それにしても家畜かあ・・・。

 鶏、牛、豚。馬・・・は個人的に嫌だなあ。モンスターの肉も食べれるのは分かっているけど、家畜には向かないしな。

 他の四つ足とか、爬虫類も有りか・・・。

 犬、猫、兎はなんかもう・・・俺には食べれない。


「もしかしてお金も分かる?」

「それは頑なに拒否されました。」


 ですよねー。

 マナにケチンボ言われてたくらいだし、ちゃんと貯めてくれているだろう。


「みんなのおかげで勝手に収入増えたし、困る事も無いんだけどね。」

「正直、困っていただいた方が・・・。」


 お金を貸して欲しいと頼まれる方が気が楽です。

 とは言えない。


「なに?」

「あ、いえいえ。なんでもないです。それよりトンネル工事はいつ始められるのですか?」

「カールさん達が調査をしてくれてるからその報告待ちかな。」


 魔王国の兵士で、この村に駐屯する兵士達の代表になっているカールだが、警備としての仕事より土木関係の仕事を多く従事するようになっていた。

 街道の整備は順調をはるかに超える勢いで整備されていて、アンサンブルまでならあと数日で完成するそうだ。

 安定した警備のおかげで魔物も少なくなり、平和で、毎日が忙しく、充実している。

 その所為もあって、気が付けば半年くらい経過していた。

 いつの間にか半年である。その事に気付けたのは何故か?

 それは、ジェームスさん達が村にやって来たからだ。


「太郎君、久しぶりだな。」


 フレアリスと、マギも一緒だった。


「こっちの街道はまだ険しいところが有るけど、魔王国に行き易くなるなア。」

「初めて来た時と比べたら、凄い楽ですよね。」

「そうね。」


 ハンハルトからこの村までの街道の整備も進められていて、ハンハルト側はまだまだ魔物が多いらしい。来るついでに何体か狩ったという事で、魔物の肉を持ってきてくれた。宿代替わりらしいが、ジェームスさん達からお金取る気はないよ。


「おやおやー、また遊びに来たんですかー?」

「スーさん!」

「なんです?」

「明日、私の相手をしてください!!」

「なんかやる気満々ですねー?」


 なんで俺を見るんだ?


「太郎は私の相手してくれる?」


 フレアリスの相手を・・・?


「嫌です。」

「だろうなあ。」


 ジェームスさんに笑われるのは分かるケド、スーにも笑われた。

 強さなんて見せびらかすモノじゃないと思うけどね。


「マギは強くなったぞ。」

「ほほー、楽しみですねー。」


 スーもやる気満々だ。


「じゃあ明日の為に武舞台を用意してもらいますかー。」

「その話、乗りましょう!」


 魔王軍の隊長が現れた。


「カールもやります?」

「俺達も鍛えてるし、そろそろ良い感じな大会も欲しかったところだ。トーマスも参加するだろうしな。」


 オリビアの元部下で、銀髪の志士だった事もある男の名前が出ると、カールの部下達の方でも熱気が籠る。


「しかし、準備は大丈夫なのか?」

「いつでも!」


 なんなんだこいつ等。

 みんな脳ミソ筋肉じゃないか・・・筋肉?

 そういえば筋肉魔法が有ったなあ。


「太郎さん?」


 太郎がブツブツと何か呟いている。

 相手はシルバだと思うが、スーには何を言っているか分からない。


「よし、やってみるか。」

「は?・・・え・・・ええぇぇぇぇぇぇ?!」


 太郎の身体がモリモリと大きくなる。

 肩がモリッと。

 ふくらはぎがモリモリッと。

 気持ちわるぃぃぃぃ・・・。


「おお、服が破れないな。」


 デカい。

 当社比3倍だ。


「太郎君・・・それは強化魔法なのか?」

「多分そう。俺、まだ人間だよね?」

「自分の姿は見えてないのか?」

「いや・・・鏡ある?」


 スーがどこからか鏡を・・・ちっさいなそれ。

 いや、スーってこんなに小さかった・・・ワケないよな。

 俺の後ろの影がデカい。


「なんじゃこりゃあ?!」

「強くてもこんな太郎さん嫌です・・・。」


 頭部はそのままだが、腕も足も、身体全体が膨らんでいる。


「なんだこれは、太郎殿なのか?!」

「太郎が化け物に!」


 ゾクゾクと集まってくる。

 恐れずに肩に乗って来たのはポチとマナだ。


「でっかいわねぇ。」


 頭をペシペシされた。

 ポチの尻尾で耳がくすぐったい。


「なんか、俺カッコ悪い?」

「うん!」


 マナの無邪気な返事に俺は身体もろとも委縮した。

 せっかくの筋肉魔法だったんだけどな。


「ただの膨らみ過ぎだろ、調整すればいいじゃないか。」


 確かにそうだ。

 しかし、フレアリスはさっきの姿の方が良いと言う。

 なんでだ。

 強そうというより、純粋に力だけで勝負できそうな相手が傍に居るのを知ってわくわくしたらしい。

 そんなわくわくいらない。

 基本的に土木で使えたら良いと思っているが、確かに戦闘用にもなる。


「実戦で使うならもう少しバランスを考えないと転ばされて終わるわ。」

「浮けば良いじゃない。」


 戦闘中ずっと浮いているとか、それが可能なのは太郎ぐらいの魔力量が有るか、元々浮ける者達である。

 天使と空中戦・・・やりたくないな。

 集まった中の天使達が拒否している。

 どっちの意味だろう?


「まあ、せっかく来てもらって悪いけど最近は忙しくてね。」

「魔素溜まりが大変な事にでもなっているのか?」

「いや、街道整備と鉄道がね。」

「は?」


 価値観の相違である。

 太郎はこの村の事を考えて行動している。

 それが他の国や町に与える影響力も有る程度は考えているが、そもそもが、自分がいなくなってもちゃんと村としてヤッテいけるだけの力を、ココに作り上げているのだ。

 この村の価値が高ければ、誰も破壊しようとは思わない。

 敵を作る事よりも、認めてもらう事の方が大事だと思っているが、最近は武力でどうにかしている気がするので、そうではない方法で解決したい。

 とは言っても、太郎にとっては世界樹の為が根幹に有るので、行動もそっち寄りになる筈だったのだが、どうしても邪魔が入る。

 次に来る邪魔な存在の予想はドラゴンなのだが、対抗する手段が思いつかない。


「なるようになるわよ。」


 マナにそう言われてしまえば、それで済むわけではないが、それで良いような気もする。

 ・・・目的があいまいなのは良くないな。


「大きくなり過ぎても敵を呼ぶし、小さすぎても舐められてしまう・・・。」

「十分デカイと思うんだが?」


 ジェームスの正しい指摘を、太郎は知っていて無視した。

 もちろん、悪意は無いし、大きくなった原因が自分の所為ではないとも思っている。なにしろ、魔王国の兵士の常駐している数が村人よりも多いのだから。


「じゃあ長旅で疲れてるだろうし、今夜は少し良いモノを作ってもらおうかな。」


 村人と兵士の食事のすべてをエカテリーナが対応している訳ではなく、今はエルフ達が担当している。エカテリーナは太郎の家族と関係者に料理を振舞っていて、太郎の家に来る客も参加するので、作る量は意外に多い。


「あの子の作る料理が美味しくて旅が辛いわ。」

「旅どころか他の街での自慢料理を食べても満足できなくて困りますね。」

「食材からして美味いからなあ・・・。」


 三人の感想は、胃袋に直結したらしく、仲良く腹の音を鳴らした。

 太郎はその後も忙しく過ごし、トンネルの開通と魔王国までの線路の敷設と、魔王国とハンハルトを繋ぐ街道の整備が完了した事を記念する式典の前日まで、他国の情勢など、すっかり忘れていた。






太郎君も普通に楽しみたい日々が有るんです。

でも、やっぱ次の事件を期待するのが物語なんですよね・・・w




※追加情報


■:ジェームス


見た目は普人と変わらないが実は狼獣人

ハンハルトではもう英雄なくらい知名度が有る

フレアリスと結婚した


■:フレアリス


鬼人族の女性で頭部に角が二本有る

背が高くて巨乳の戦闘民族

ジェームスと結婚した


■:マギ・エンボス


犬獣人の元勇者

彼氏とは別れた

ジェームスのパーティーメンバーとして常駐

強くはなったがまだスーには勝てない

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