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第310話 動向

 エルフの国の監視の報告は三日に一度から七日に一度になった。戦争準備をしているようだが、三ヶ国とも三つ巴のようになりそうな気配があるという。

国力も戦力も全く違うのにそうなるという事は、誰かが裏で手引きをしている可能性がある。と、太郎がそう言った事で監視対象も変化していった。


「どこかに四つ目の勢力ですか?」

「可能性は有ると思うんだ。」


 監視はトヒラの指導とミカエルの協力でミツメルとニツメルの双子の天使が担当している。監視は得意だが諜報活動は苦手だったので、指導を受けることになったのだ。とは言っても、ほぼ座学だが。

 四つ目の勢力の存在には十分な注意をしていて、今のところその気配は無さそうとの事。このような時に新勢力が現れるとなれば、利用するか、共倒れを狙うか、その両方か、少なくとも、十分な戦力が無ければ知略をめぐらせるしかない。


「気の所為なら良いんだ。面倒な事言って悪いね。」

「いやいや、可能性が有るならばそのような意見は有り難いです。」


 トヒラはいつも忙しくしていて、休んでいるのか不明な女性将軍だ。

 しかし、ダンダイルさんが傍に居ると、笑顔だったり、妙な緊張感が有ったりで、見ていると面白いとナナハルに言われた事が有る。

 俺は別にそこまで面白いとは思わなかったけど。


「暫くは直ぐに変化が現れる事は無いです。特に用意周到が必要な時期ですし、小競り合いが始まっても双方の被害が大きくなる前に退くでしょう。」

「ところで、さ。」

「なんでしょう?」

「それをなんで俺の居るところで会議を開いて報告するの?」

「それは・・・ダンダイル様に聞いてください。」

「いや、将軍でしょ?ダンダイルさんの部下じゃないのに。」

「それはそうなんですけど、色々と知りたいのではないのですか?」

「知りたいけど、細かい報告はいらないよ?」

「では、ダンダイル様と相談しますね。」

「うん、よろしく。」


 立ち去るトヒラを見て、それは報告を止める相談なのか、会議を止める相談なのか、確認するのを失念した事に気が付いたのだった。





 村は順調に回復している。

 そう言うとちょっと変だけど、確かな復興が見られていて、村の中で孤児達が自由に遊べるようになったのは、とてもいい事だと思う。

 でもなんで俺に集まるのこの子達・・・。

 マナでもうどんでももりそばでもなく、畑仕事をする俺の所に子供達が良く来るようになった。


「勉強の一環なんです。」


 と言われると拒否しにくい。

 別に子供が嫌いなわけではないし、邪魔をする訳でもないのだが、特に女の子たちの視線が熱い。

 困っていると抱き付いてくるうどんの方が邪魔なんだよね。

 子供が集まって休憩しているところに自分の子供を連れたナナハルが、箱を持ってやってきた。


「たくさんおるでの。」


 その箱を持っているのはハルオで、ニコニコしながら蓋を開けたのはナナミだ。中身を知っていてわくわくしているのがミツギとハルミだ。


「これは凄い・・・。」


 中身を見て感動した。

 これは羊羹だ。

 

「材料が貴重だし、持ち運びも大変だったが、今はハンハルトから買えるようになったでの。」

「ハンハルトから荷物が届いてるの?」

「マリアが運んできた。」


 やっぱりまだ魔法袋が無いと無理だよね。

 街道だって在るって分かる程度で整備されていないはずだし。


「なんでもものすごい勢いで道を切り開いているらしいが。」


 話をしているとまだ来ていなかった子供が集合していて、トーマスが腕を引っ張られながらやってくる。一緒に牛の世話をしていたのか。

 孤児院の子供と合わせると30人くらいいる。

 足りる?


「本来なら贅沢は敵と言いたいところじゃが、アホみたいにテングサを持ち込んで来てな・・・、餡子と砂糖が有れば作れると言ったら、小豆は無理だけどテングサならあるとかなんとか。」

「小豆は何処から?」

「ガーデンブルクからじゃ。わらわの地元ならどっちも手に入るんだが、少し遠いでの。」

「砂糖なんて有ったっけ?」

「サトウキビは無かったがビートとか言う植物から採れると言われて、世界樹がアホみたいに作っておった。」


 アホ多くない?


「ビートって砂糖大根の事かなあ?砂糖の原料ってサトウキビだと思ってたよ。」

「わらわも知らん。だから作り方はマリアから教えてもらったのじゃ。」

「へ~・・・。」

「まあ、甘い植物なら何からでも砂糖が作れるとも言っておったが。」

「魔女の知識なのかな?」

「さあの、それならば蜂蜜でも代用できるはずじゃ。まあ、そんな無駄遣いは流石にせんがな。」


 ナナハルは会話しながら羊羹を切り分けている。皿にのせると、一人ずつ順番に受け取っている。先に食べようとする子供に他の子供が止めていた。

 太郎も食べようとしていたなんて言えない。


「この四角くて黒いのはなんだ?」

「羊羹だって、凄く甘いっておねーちゃんが言ってた。」


 子供の言うおねーちゃんが誰のことかはわからないが、多分エカテリーナの事だろう。作る時に味見はしているだろうし、ナナハルの作る料理を手伝わない訳が無い。


「腹持ちも良くて保存食にもなる。これだけ食べると流石に飽きるが。」

「ほほー・・・。」


 羊羹に刺さっている小さな竹串を使って最初に食べるのは太郎だ。

 俺が食べないとみんな食べないってなんかやだなあ。


「・・・これは懐かしい・・・。」


 思わずホロリと涙が出る。

 感動の食感と甘さだ。

 ナナハルがにっこりとして太郎の横に座る。


「今度は栗も入れようか?」

「それも良いね。」モグモグ


 太郎が食べたのを見てみんなも一斉に食べる。

 美味しい、美味しいと、子供達は夢中で食べていた。


「材料は有る、作り方なら孤児院の職員にも教えたから、これから定期的に作られるじゃろ。」


 太郎の心配を先回りして説明したナナハルも、羊羹を口にする。久しぶりに目の前で食べる所を見ていたが、その動作は優雅で美しい。


「砂糖を絞った後で太郎の甘味も絞ろうか?」


 周囲に聞こえないように耳元で言うからドキッとする。

 何度も経験したからと言っても、美人に言われるとドキドキするモノだ。

 これはマナやスーには真似出来ない妖艶さだろう。


「太郎殿。」

「んっ、ぐっ・・・な、なに。」


 急に呼ばれたので咽喉に詰まらせたが、それは太郎が悪い。


「この村の食糧事情が異常なのは分かったのだが、これを知られると他の国に狙われたり商人にごねられたりしないのですか?」

「既に経験済みだよ。」

「そうでしたか、なるほど。」

「この羊羹なら作って売ったらすごいことになりそうだね。」

「普通に貴族のお茶会に出しても恥ずかしくないと思いますよ。」

「流通ルートとか商売とか、面倒だから他人任せだけどね。」

「それは器が広いですな。」

「はは、ただの面倒くさがりだよ。」

「面倒事を他人に任せるのは信頼に繋がる。お主も上に立ちたいのなら覚えておけ。」

「勉強します。」


 真面目なトーマスは、何故か俺の子供達にそこそこ人気が有る。孤児院の子供達は少し近寄りにくそうにしているが、俺の子供だけあってそういうのは気にしないらしい。

 俺の・・・所為なの?

 大人気となった羊羹は村で大量生産が決定したのは言うまでもない。





「ギデオンが捕まっただと?!」


 子分の報告に、声が大きくなる。


「魔王国で牢屋に閉じ込められていて、なんでも魔女の道具で拘束されているらしいです。」

「そいつは運が悪かったな。俺の時にそうならなくて良かった。」


 不味い肉を不味そうに食べる男は、思案を巡らす。


「ギデオンがいなくなるとドラゴンがやってくるかもしれん。」

「なんで分かるんです?」

「純潔のドラゴンと会話ができる生身のやつはギデオンくらいしか知らん。わざわざあの村に行ったぐらいだから、色々と吹き込まれているだろ。奴は自分の考えしか認めないが、自分より強い奴からの意見は受け入れるからな。」


 ・・・そういう情けない男だ。

 とは、口に出さない。


「それで、もう一つの報告は?」

「はい、リテルテという元貴族から裏ギルドを通じて依頼が来ています。」

「リテルテ?」

「エルフの国の生き残りです。」

「ああ・・・その話、まだ有ったのか。」

「もう13回目ですよ。成功したら最高司令官の地位も与えると言っています。」

「その話に乗るのは無理だな。」

「では無視を?」

「乗ると返事を出して放置しろ。俺達はここにはいられん。もう少し北上する。」

「寒くなりますね。」

「古い知り合いの村が有る。そこでしばらく身を潜めるとする。」

「情報過疎地ですけど良いんですか?」

「今年の冬だけだ。」


 ・・・多分な。

 とは、やはり口にしない。

 慎重になり過ぎている気もするが、ゴリテアの事件を知って、今は慎重にならざるを得ないと、ワンゴは悔しくも認めることにした。

 あの鈴木太郎という男を。


「仕方ねぇ、やっぱりあのハーフドラゴンを頼るか。」

「俺は、アイツが苦手です。」

「安心しろ。俺も苦手だ。だが、奴はドラゴンを頼れねぇ。俺への貸しも有るし、勇者の謎も解けねぇし、世界樹にだって近づけねぇ。」

「フーリンに負けたって話でしたね。」

「そうさ、俺達にしてみりゃ、ドラゴンどころか、ハーフドラゴンだって敵にしたくはねぇ。そして、もっと敵にしたくねぇ男が現れたって訳だ。」

「鈴木太郎ですか?」

「あいつはあの村に居るだけで敵も味方も増やしやがる。いや、味方の方が多いかな。だが、エルフ国次第で大戦争になるだろうな。」

「それって早くても100年くらい必要じゃないですかね?」

「・・・どうかな?」


 最近は歴史の流れが異様に早い気がする。

 世界樹の消滅で停滞していた筈の歴史が目まぐるしくなった。

 そして、あの世界樹が元の姿に戻ろうとしている。

 勇者も、魔女も、聖女すら巻き込んでいくあの男・・・。


「キンダース商会の大元が魔女だったのにも驚いたが、魔女が二人に増えていたのも驚いたしな。」

「魔女は最後の一人を残して、滅んだってやつでしたっけ?」

「アンナ見え見えの芝居で数を誤魔化せると思うかねぇ・・・。」


 過去のマチルダは他の魔女を捜す為に、あちこちで魔女の存在を匂わせていたのだった。まるで効果も無く、各地の情報が手に入るワンゴには分かっていたのかもしれない。


「そういや、お前には最後まで話して無かったな。」

「へ?」

「俺達が盗賊なんてやっている理由だよ。幹部になったんなら教えておく必要が有るからな。」

「え、俺なんかで良いんですか?」

「良いかどうかはお前の今後の働き次第だな。」


 他の子分を置き去りにして、幹部候補の男を連れて地下へ続く階段へ入って行った。





※追加情報


ミツメル 双子の天使

     母親兼父親はアマエルという天使

     姉


ニツメル 双子の天使

     母親兼父親はアマエルという天使

     妹


アマエル 双子の天使を産んだ母親兼父親

     親も子供もふたなり

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